【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

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番外編

紹介される side エメ

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約束の時刻になった。
エメ=デュリュイは1人、先に合流する居酒屋に入っていた。

とりあえず会うだけ、と思っていたが実はそんなに気乗りじゃない。

エメはダメ男吸引器と言われようとも、実は結構一途なのである。

そのため、こないだ別れたばかりの彼氏だったナルシスト男もまだ忘れられていない。油断すれば、ナルシストな点以外は嫌いじゃなかったな、なんて思ってしまうくらいにはまだあの地雷に靡いている。

ディランもクラークも別に遅刻ではないが、何も頼まず待ち続けるのも居心地が悪いので、先に柑橘類のサワーを飲み始めていた。

「よお。早ぇな」

ふと、エメの身体に影が覆い見上げると、ディランがいた。その隣には、件のクラークが一緒にいた。

「早く仕事が終わったんだよ。座ったら?」
「ああ。とりあえず注文するか」

そう言って挨拶は無しに、エメの対面に2人は座り、ディランは適当に酒とツマミを頼み、クラークも酒を頼んだ。

なんとなく、ディランは精悍な顔立ちが増した気がする。やはり騎士団で鍛えられているせいなのか。
クラークも遠目で見たくらいでしかなかったが、ディラン同様精悍な顔立ちになっている。地味めな印象しかなかったのに、優しく穏やかなだけでない逞しさも増して良い男になっていた。

エメが選ぶ男はだいたい優しそうで穏やかそうな顔立ちをしている。ディランはそれも知っていたのだ。
何もかもお見通しのディランにムカつくと同時にちょっぴり感謝したくもなった。

やがて注文した酒が先に届いて来ると、ディランの乾杯の合図でグラスを合わせた。

「じゃ、改めて紹介な。こっちがエメ=デュリュイ。文官に居た、まー…サシャと同期だ。んでこっちがクラーク=アクセルソン。見ての通り騎士で俺とアーヴィンの同期だ」

サシャの名前だけ一瞬呼びにくそうにしたが、気を遣い過ぎるのも良くないと思ったのか、そのままディランは続けたようだった。

クラークの方を見てもあまり気にしている様子はなかった。そう見せているだけで、エメには分からないだけかもしれないが。

「よろしく。エメだ」
「クラークだ、よろしく」
「エメは面白いんだぜ?クラーク。こいつはいつも地雷を呼び寄せる才能の持ち主だ」
「おいやめろよディラン」

クラークの誠実さは噂で散々知っている。なんとなくエメのタイプに近いクラークに自分の恋愛遍歴を知られるのは嫌だと感じた。

しかしクラークは、少し興味を持ったようで目をぱちくりさせていた。

「なに? 聞いていいなら聞きたいな」
「良いぞ」
「お前がなんで返事するんだよ、おい」

ディランはニヤニヤとこちらを見ながら説明しだした。

「エメはダメ男吸引器と名高い奴でな。可愛い顔して男をダメにしていくんだ」
「違う!元からダメな奴らだった!」
「既婚者と浮気男は元からだが、粘着ストーカーと緊縛男はエメが作り出しただろ?」
「え、なにそのヤバそうな集団……」

若干引き気味のクラークにエメは慌てて訂正する。

「お、俺は既婚だったことも浮気されてたことも知らなかった!修羅場になって大変だったんだ!」
「そうそう。既婚者も浮気相手もエメに夢中になっちまってな? 離婚するから関係を続けろとか別れてきたから結婚しようとか言い出したんだ」
「それは……凄いな」
「粘着ストーカーは、家にエメの絵画が飾ってあったんだよな?」
「あれが1番ゾッとした……」

粘着ストーカー男に関しては金を持っていた男だったため、エメの絵画を勝手に書かせていたらしい。エメの寝顔をこっそり画家に見せていたと分かった時には本気で背筋が凍った。
別れた時にその絵は燃やしてやった。

「ね、寝顔を勝手に。恐ろしいね」
「んで、緊縛男はエメの泣き顔が見たいってんで覚えたらしい。そしたら異常にハマったらしくてな」
「首絞めようとしてきたから逃げた。性的嗜好までは許そうとしたけど、俺は首絞めの趣味はない!」
「な?やべーだろ? いや。お前の話いつ聞いても飽きねーわ」

ディランは相変わらずニタニタ笑って話しているが、クラークは笑っていいのか分からなくて苦笑していた。

「最近のやつなんかナルシストだったんだろ?」
「丸1日自慢話を何日もされてみろよ。殺意が湧いてくるぞ」
「え、ネタだよね全部」

クラークは信じられなくなったようだ。

「なんで嘘つかなきゃなんねーんだよ。全部ホントだよ」
「エメはダメ男吸引器の名を欲しいままにしてるんだ。すげぇよ。最高だ」
「殺す」
「でもエメは良い奴だぞ。そんなこと言ってまだ最後に付き合ってたナルシストの事嫌いじゃねぇんだろ?」
「う」

ディランは鋭くて本当にムカつく。エメ自身少し惚れっぽいのに、好きになると一途なのを知っているのだ。

「へぇ、健気だね」
「そうそう。健気だぜ? 好きな男の為なら自分のキャパシティが越えるまで付き合っちまうもんなぁ」
「首絞めるまでは緊縛に付き合ったし、絵を描かれる前から本当は気持ち悪かったし、自慢話も1ヶ月我慢した!」
「それは凄いな…」

エメの話で盛り上がり、ディランはゲラゲラと笑っている。本当は紹介したい訳ではなく、ディランがただエメの話題を知らない奴に話したかっただけなのでは、と思わなくもない。

「もう! 俺の事ばっかり!」
「クラークの話が始まると、サシャ=ジルヴァールになるぞ」
「ディラン、ここまで話してくれたのに自分だけ話さないのはフェアじゃないよ」

そう言ってクラークは穏やかに苦笑する。エメはそのクラークを見て酒の力もあるのか少しだけ胸が高鳴った気がした。

「じゃあ聞くけど。サシャ=ジルヴァールのどこが好きだったの?」

遠慮するのも悪い気がするので、とりあえず聞くことにした。そもそもエメの恋愛遍歴は全て明かされてしまったので、このくらい許して欲しい。

「うーん。サシャは綺麗だったのに可愛かったんだよね。スレてないというか、そういう所が」
「へぇ」
「アーヴィンは月の精とかなんかロマンチックなことを言ってやがったな」
「ああ、僕もそう思ったよ。ギャップがあったんだよね。綺麗な所作で本を読んでたのに、話しかけると最初は凄くオドオドしてた」

エメは少し焦った。聞けば聞くほどサシャとエメはタイプが真逆だ。この段階で少しクラークを良いなと思ってきてしまっているのに、マズイと思った。

ディランには悪いが、紹介はエメにとってメリットがあるもので、クラークにはデメリットしかなかったのではないだろうか。心の中でため息をつきたくなる。

「サシャも僕のことを好いてくれたって知った時は本当、月に帰られないようにしなくちゃって思ったよ」
「おげぇ。アーヴィンもお前もなんなの? サシャ=ジルヴァールはロマンチスト製造機だな」
「はは、そうかも。サシャにはそういう魅力があったね」

いや本当、ディランはどうしてエメを紹介したのか。勝とうとは思っていないし、まだ良いな、程度だから良かったものの、好きになってたら一瞬で地雷行き…

「だから、早く忘れたいね。エメも、きっとそうだよね」

クラークの伏せた笑顔が、エメにぶわり、と風を起こし、コトンと何かが落ちるのを感じてしまった。
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