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やり直す sideサシャ
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サシャ=ジルヴァールはアーヴィンが本当に、こんな魔獣がうろつく辺境に来ているのか分からなくなった。
姿をパタリと見なくなったからだ。
サシャは事務方で、ほとんど事務室に引きこもっているようなものだし、アーヴィンも恐らく討伐やら訓練やらで忙しいのかもしれない。
やっぱり実在するんだな、と思ったのは、アーヴィンの噂がサシャの耳にも入ってきた時だった。
アーヴィン=イブリックはサシャ=ジルヴァールの元彼であり、捨てられたのに寄りを戻しにここまでやってきたという噂が流れていた。
アーヴィンはティムと付き合っていたからサシャを捨てた訳では無いのにな、なんて考えたが、わざわざこんなややこしいことを否定して回るのもおかしな話で止めておいた。
アーヴィンは働き者だという話も耳にした。
たまたま食堂でアーヴィンの話をしていたアーヴィンの同僚がいて、「地味な仕事も、面倒な仕事も率先して行う。困っていたらすぐ手を貸してくれるし、相談にも乗ってくれる良い奴だ」という話をしていた。
サシャはそれを聞いて、なんだか誇らしくなりつつも、アーヴィンは確かに相談に乗ってくれるが嘘もつくぞと言ってやりたくなってしまった。
アーヴィンと再会したのは、あの公開仲直りから2週間が経った時だった。
サシャは定刻通りにエドガー団長の所へ書類を取りに向かっていた。
本来ならばわざわざ書類を取りに行く必要は無いのだが、サシャは勝手に父親像を騎士団長に押し付けており、ちょっとでも役に立ちたいと思っているために団長室へいつも行っている。
上司のコリンにも、「甲斐甲斐しいねぇ」なんて揶揄されるレベルで毎日行っていた。
そしてなぜだかエドガー団長とサシャは恋仲なのではないかと疑う声もあるらしい。
サシャはなぜそんな風に噂をされるのか分からなかった。本当に書類を受け取っているだけである。
そもそもエドガー団長は結婚をしていて、愛妻家である。
団長室をノックすると、部屋の中から返事が聞こえたのでドアを開けるとエドガー団長は執務机の書類をまとめていた。
そして、ドアの近くにはアーヴィンが立っていた。
びっくりしすぎてサシャは思わず後ろに仰け反ってしまった。
「サシャ。あー、ちょっと待っててくれ。今書類を渡す。あああ、渡したいやつがどっかいった」
エドガー団長はサシャの様子には気づいておらず、ガサガサと書類をまとめ続けていた。
アーヴィンと思わず目を合わす状況となり、サシャは目線を泳がせてしまった。
「サシャ、後で話したい」
「あ、後で?」
エドガー団長の前では話をするのは控えたのだろうか。
確かに下っ端同士、団長室で会話をするのは気が引けるというか失礼だ。
しかし、サシャは後でアーヴィンに会わなくてはならないというイベントに怯えた。
「あーサシャ、今日の分はこれだ。いつもすまん」
「いえ。あ、えと、じゃあ私はこれで」
「アーヴィンと話すなら今から行ってこい。コリンには俺から言っとく」
返事をするのが怖くて先延ばしにしようとしたイベントを、エドガー団長は余計な気を遣って開催させようとしてくる。
エドガー団長は公開仲直りを見ているし、サシャとアーヴィンが辺境に来た理由も分かっているからこその配慮だ。
それは分かっているが、今のサシャはまだ気持ちが整理できていないし、その配慮はありがたくなかった。
「団長、失礼しました」
「あ、ちょ…し、失礼しました」
サシャが戸惑っていると、アーヴィンは団長へ挨拶をしてサシャの手を掴んできた。そのまま扉の外へと引っ張られるため、サシャも挨拶をして外に出た。
強引なところは変わらないんだな、と思い出に浸りながらアーヴィンに引っ張られ続けた。
団長室から少し離れた空き部屋に入った。 アーヴィンはよく空き部屋なんかを知っていたな、なんて感心してしまった。
空き部屋と言っても倉庫のような役割で、木箱が多く置かれている。ほんの少しだけ埃っぽいような気もする。
アーヴィンは掴んでいた手を離さないまま、神妙な面持ちで話し始めた。
「エドガー団長とできているというのは、本当か?」
「は」
よもやそんな噂話をアーヴィンが信じているとは思わず、サシャは目を丸くした。
何度も言うがエドガー団長は愛妻家で、ノーマルだ。
サシャは眼中に無いと思われるのに、どうしてこうもみんなホモにするのか。
サシャは驚きつつも、どう返答していいのか考えあぐねていた。
否定すれば良いだけだが、いつもの余裕そうなアーヴィンがどこにもないのだ。
そもそもサシャの初恋を奪った事に関していえば許していない。
アーヴィンの嘘を許していないと同義の様な気もするが、サシャにとっては少し違う。サシャが嘘をつかれたのは、自分の常識知らずが身の内から出ただけである。
しかし、クラークを結果傷つけることになったことは許せないのだ。
サシャはエドガー団長との噂の真偽を聞かれる度に、心底軽蔑した顔で否定することに決めているのだが、少し意趣返しをしたい。
「そうだって言ったら?」
質問に質問で返すのは卑怯だ。
アーヴィンの顔をチラリと見ると、口に手を当ててショックを受けているようだった。
「エドガー団長は、その」
「あのね、私がいくら世間知らずでも不倫はしない」
サシャがそう言うと、アーヴィンはポカンと口を開いた。どうやら本気でサシャの言葉を信じそうになっていたようだった。
少しだけ、溜飲が下がった気になった。
こんなに簡単にアーヴィンが騙されるとは思っていなかった。
しかも一瞬で血の気が引いていったアーヴィンを見たのは初めてだったので、すぐに否定してしまった。
アーヴィンはため息をついてその場にしゃがみ込んだ。サシャの手はまだ握られたままだ。
「サシャの言葉は心臓に悪い」
「みんなそれ聞いてくるから、つい。…ごめんね」
サシャもしゃがみ、アーヴィンと目線を一緒にしてから謝った。
「サシャは、もうここでは1人じゃないんだな。そんな風に冗談が言えるほど、心が落ち着いてる」
アーヴィンの翠眼が少しだけ揺らいでいる。
それなのにアーヴィンはどこか嬉しそうにしていた。
「サシャ。君ともう一度やり直したい」
「そ、れは。前にも聞いた」
「あれは出会い方をやり直したかった。そうじゃなくて」
掴まれた手に力が篭もるのを感じた。痛くはない。久しぶりにアーヴィンの体温を感じる。
サシャの全身が、どこか納得できないまま、歓喜に包まれている。
納得できない。
あんな騙し方をしておいて、あんな目を、言葉を自分にかけておいて、どうしてこんなにサシャを惹き付けてくるのか。
最低な男だと分かっているのに、縋るような瞳に見つめられてサシャの身体は石像のように動けなくなる。
「好きだ。君ともう一度恋人になりたい」
縋るような余裕のない表情で訴えるように伝えてくる彼に、本当は、ふざけないでとかありえないとか、少しは罵倒しても許されると思った。
アーヴィンがサシャを傷つけたのは間違いないし、そのくらいしたって文句を言われる筋合いなどないと思っていた。
けれど、サシャは限界だった。
アーヴィンが居ることを確かに感じるのに、会えないことも。
アーヴィンとこうやって手を触れられないことも。
アーヴィンがくれるキスの心地良さも。
陽の香りがする体温も。
抱きしめてくれる腕の優しい強さも。
もうサシャは知っているのだ。
「……うん、いいよ」
「い、いいのか?」
アーヴィンはまさか良い返事が聞けるとは思っていなかった様子だった。
簡単にサシャから赦したことに、素直に驚いていた。
「その代わりちゃんと責任取って。アーヴィンが私に教えたんだから」
アーヴィンの頬を両手で包む。
サシャはアーヴィンの翠眼に吸い込まれるように唇を重ねた。重ねるだけのキスをして、離れるとアーヴィンは目を丸くしていた。
しかし一拍置いて、サシャの身体を強く抱きしめてきた。
「嘘じゃないよな?!」
「うん、もう嘘は言わないよ」
抱きしめる力が少し弱くなって、サシャの肩口にあったアーヴィンの顔と見つめ合う。
アーヴィンは今にも泣きそうな顔をしていて感極まっているようだった。
嘘はもう言わない。誰かを傷つけるだけだし、サシャは嘘をつく理由もない。
未だ納得いかないこの気持ちも、きっといつか解けて行くのだろうと思う。
「結婚してくれ!」
「え、それはちょっと」
それまでは、アーヴィンが少し調子に乗ったら言い返すくらいは今後もしていくことにする。
姿をパタリと見なくなったからだ。
サシャは事務方で、ほとんど事務室に引きこもっているようなものだし、アーヴィンも恐らく討伐やら訓練やらで忙しいのかもしれない。
やっぱり実在するんだな、と思ったのは、アーヴィンの噂がサシャの耳にも入ってきた時だった。
アーヴィン=イブリックはサシャ=ジルヴァールの元彼であり、捨てられたのに寄りを戻しにここまでやってきたという噂が流れていた。
アーヴィンはティムと付き合っていたからサシャを捨てた訳では無いのにな、なんて考えたが、わざわざこんなややこしいことを否定して回るのもおかしな話で止めておいた。
アーヴィンは働き者だという話も耳にした。
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サシャはそれを聞いて、なんだか誇らしくなりつつも、アーヴィンは確かに相談に乗ってくれるが嘘もつくぞと言ってやりたくなってしまった。
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サシャは定刻通りにエドガー団長の所へ書類を取りに向かっていた。
本来ならばわざわざ書類を取りに行く必要は無いのだが、サシャは勝手に父親像を騎士団長に押し付けており、ちょっとでも役に立ちたいと思っているために団長室へいつも行っている。
上司のコリンにも、「甲斐甲斐しいねぇ」なんて揶揄されるレベルで毎日行っていた。
そしてなぜだかエドガー団長とサシャは恋仲なのではないかと疑う声もあるらしい。
サシャはなぜそんな風に噂をされるのか分からなかった。本当に書類を受け取っているだけである。
そもそもエドガー団長は結婚をしていて、愛妻家である。
団長室をノックすると、部屋の中から返事が聞こえたのでドアを開けるとエドガー団長は執務机の書類をまとめていた。
そして、ドアの近くにはアーヴィンが立っていた。
びっくりしすぎてサシャは思わず後ろに仰け反ってしまった。
「サシャ。あー、ちょっと待っててくれ。今書類を渡す。あああ、渡したいやつがどっかいった」
エドガー団長はサシャの様子には気づいておらず、ガサガサと書類をまとめ続けていた。
アーヴィンと思わず目を合わす状況となり、サシャは目線を泳がせてしまった。
「サシャ、後で話したい」
「あ、後で?」
エドガー団長の前では話をするのは控えたのだろうか。
確かに下っ端同士、団長室で会話をするのは気が引けるというか失礼だ。
しかし、サシャは後でアーヴィンに会わなくてはならないというイベントに怯えた。
「あーサシャ、今日の分はこれだ。いつもすまん」
「いえ。あ、えと、じゃあ私はこれで」
「アーヴィンと話すなら今から行ってこい。コリンには俺から言っとく」
返事をするのが怖くて先延ばしにしようとしたイベントを、エドガー団長は余計な気を遣って開催させようとしてくる。
エドガー団長は公開仲直りを見ているし、サシャとアーヴィンが辺境に来た理由も分かっているからこその配慮だ。
それは分かっているが、今のサシャはまだ気持ちが整理できていないし、その配慮はありがたくなかった。
「団長、失礼しました」
「あ、ちょ…し、失礼しました」
サシャが戸惑っていると、アーヴィンは団長へ挨拶をしてサシャの手を掴んできた。そのまま扉の外へと引っ張られるため、サシャも挨拶をして外に出た。
強引なところは変わらないんだな、と思い出に浸りながらアーヴィンに引っ張られ続けた。
団長室から少し離れた空き部屋に入った。 アーヴィンはよく空き部屋なんかを知っていたな、なんて感心してしまった。
空き部屋と言っても倉庫のような役割で、木箱が多く置かれている。ほんの少しだけ埃っぽいような気もする。
アーヴィンは掴んでいた手を離さないまま、神妙な面持ちで話し始めた。
「エドガー団長とできているというのは、本当か?」
「は」
よもやそんな噂話をアーヴィンが信じているとは思わず、サシャは目を丸くした。
何度も言うがエドガー団長は愛妻家で、ノーマルだ。
サシャは眼中に無いと思われるのに、どうしてこうもみんなホモにするのか。
サシャは驚きつつも、どう返答していいのか考えあぐねていた。
否定すれば良いだけだが、いつもの余裕そうなアーヴィンがどこにもないのだ。
そもそもサシャの初恋を奪った事に関していえば許していない。
アーヴィンの嘘を許していないと同義の様な気もするが、サシャにとっては少し違う。サシャが嘘をつかれたのは、自分の常識知らずが身の内から出ただけである。
しかし、クラークを結果傷つけることになったことは許せないのだ。
サシャはエドガー団長との噂の真偽を聞かれる度に、心底軽蔑した顔で否定することに決めているのだが、少し意趣返しをしたい。
「そうだって言ったら?」
質問に質問で返すのは卑怯だ。
アーヴィンの顔をチラリと見ると、口に手を当ててショックを受けているようだった。
「エドガー団長は、その」
「あのね、私がいくら世間知らずでも不倫はしない」
サシャがそう言うと、アーヴィンはポカンと口を開いた。どうやら本気でサシャの言葉を信じそうになっていたようだった。
少しだけ、溜飲が下がった気になった。
こんなに簡単にアーヴィンが騙されるとは思っていなかった。
しかも一瞬で血の気が引いていったアーヴィンを見たのは初めてだったので、すぐに否定してしまった。
アーヴィンはため息をついてその場にしゃがみ込んだ。サシャの手はまだ握られたままだ。
「サシャの言葉は心臓に悪い」
「みんなそれ聞いてくるから、つい。…ごめんね」
サシャもしゃがみ、アーヴィンと目線を一緒にしてから謝った。
「サシャは、もうここでは1人じゃないんだな。そんな風に冗談が言えるほど、心が落ち着いてる」
アーヴィンの翠眼が少しだけ揺らいでいる。
それなのにアーヴィンはどこか嬉しそうにしていた。
「サシャ。君ともう一度やり直したい」
「そ、れは。前にも聞いた」
「あれは出会い方をやり直したかった。そうじゃなくて」
掴まれた手に力が篭もるのを感じた。痛くはない。久しぶりにアーヴィンの体温を感じる。
サシャの全身が、どこか納得できないまま、歓喜に包まれている。
納得できない。
あんな騙し方をしておいて、あんな目を、言葉を自分にかけておいて、どうしてこんなにサシャを惹き付けてくるのか。
最低な男だと分かっているのに、縋るような瞳に見つめられてサシャの身体は石像のように動けなくなる。
「好きだ。君ともう一度恋人になりたい」
縋るような余裕のない表情で訴えるように伝えてくる彼に、本当は、ふざけないでとかありえないとか、少しは罵倒しても許されると思った。
アーヴィンがサシャを傷つけたのは間違いないし、そのくらいしたって文句を言われる筋合いなどないと思っていた。
けれど、サシャは限界だった。
アーヴィンが居ることを確かに感じるのに、会えないことも。
アーヴィンとこうやって手を触れられないことも。
アーヴィンがくれるキスの心地良さも。
陽の香りがする体温も。
抱きしめてくれる腕の優しい強さも。
もうサシャは知っているのだ。
「……うん、いいよ」
「い、いいのか?」
アーヴィンはまさか良い返事が聞けるとは思っていなかった様子だった。
簡単にサシャから赦したことに、素直に驚いていた。
「その代わりちゃんと責任取って。アーヴィンが私に教えたんだから」
アーヴィンの頬を両手で包む。
サシャはアーヴィンの翠眼に吸い込まれるように唇を重ねた。重ねるだけのキスをして、離れるとアーヴィンは目を丸くしていた。
しかし一拍置いて、サシャの身体を強く抱きしめてきた。
「嘘じゃないよな?!」
「うん、もう嘘は言わないよ」
抱きしめる力が少し弱くなって、サシャの肩口にあったアーヴィンの顔と見つめ合う。
アーヴィンは今にも泣きそうな顔をしていて感極まっているようだった。
嘘はもう言わない。誰かを傷つけるだけだし、サシャは嘘をつく理由もない。
未だ納得いかないこの気持ちも、きっといつか解けて行くのだろうと思う。
「結婚してくれ!」
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