【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸

文字の大きさ
上 下
10 / 37

癒し sideアーヴィン

しおりを挟む
アーヴィン=イブリックは絶好調であった。
件の月の精を手に入れることに成功したからだ。あまりに機嫌が良いのでディランに怪しまれた。

「なんだお前、気持ち悪いな」
「いやー、ようやく恋人になったわ」
「はぁ?! あんな風に騙しといてどうしてそうなった?!」

心底驚いているディランを見ても全くイラつかない。

「知らねぇよ。前の恋人が拒否って二度と顔も見たくないっつって捨てられたんだと」
「はー? めちゃくちゃ美人だって言ってなかったか?」
「美人だよ。超がつくほど可愛い。前の恋人は馬鹿か不能だ」

ディランは訳が分からないといった顔をしていた。

流石のアーヴィンでも、上手く行きすぎている感じはしている。
しかしそれでも、アメジストの宝石に麗しい銀の髪をした至宝を手にしたアーヴィンはそんなのは杞憂か、と思うことにした。

「だいたい、文官コースに紫の眼を持った男なんかいないっつー話だろ? お前それ本当に人間だろうな」
「幽霊がキスできるかよ」

アーヴィンがそう言うと、ディランは肩を竦めた。

「いや、分かった。じゃあその紫の君に会わせろ」
「減る。嫌だ」
「お前そんな執着心強かったか?」
「結婚したら見せてやるよ」
「マジで言ってんのか」

アーヴィンは本気だった。
普通美人を手に入れたら見せびらかしたいのが男の本能だろうが、アーヴィンはもう誰にも盗られたくなかった。
実家に帰って今すぐにも結婚の報告をしたいくらいだった。

「どんだけだよ」
「仕方ない。お前に昨日の俺の恋人の様子を教えてやるよ」

練習相手から恋人に変わり、1週間が経っていた。
いつもの定位置で会うティムは友人を見る目から恋人に向ける微笑みに変化していて、アーヴィンは心から神に感謝し続けていた。

アーヴィンの中で、ティムの可愛さは毎日更新し続けていた。

「んっ……ん、ぁ……ん! ふっ……」

練習のキスように優しいだけでなく、深く官能を呼び起こすように、ティムの弱い口内を執拗に責めるキスをする。
頬を染めてビクビクと身体を震わせ、アメジストの瞳を潤ませるティムに、思わずアーヴィンの股間が反応してしまいそうだった。

「っは、あ。ななんで、いつものと違う…っ」
「当たり前だろ。練習じゃなくて恋人のキスなんだから」
「なっ、もう、すぐそうやって!」
「気持ちい?」
「っ!」

バシバシと本で胸を叩かれつつも、アーヴィンはキュン死にしそうだった。

「なんでお前のキスシーンを聞かなきゃならねぇんだよ」
「あーもうヤっていいかな。俺チンコ痛たすぎてしんどい」
「お前の下事情なんか聞いてねぇよ」

思い出すだけでアーヴィンは股間が膨らみそうになるのを耐える。
まるで思春期入りたてのガキのように盛ってしまいそうだった。

ディランはアーヴィンの浮かれように若干呆れつつも、いつもは冷めた様子のアーヴィンが幸せそうならいいか、と思うことにした。

「そういえば聞いたか?クラークってやつが別れたって」
「クラークぅ? 誰だよ」
「誰って、サシャ=ジルヴァールと付き合ってた懐深い紳士だよ」

ディランの言葉でああ、とアーヴィンは思い出す。

「サシャ=ジルヴァールは騎士コースのクラークに不貞を働いた。って曰くが追加されたんだと」
「不貞? あー、なんかビッチっつー話か」

そうそう、とディランが頷く。
アーヴィンにとったら本当にどうでもいい情報だった。
そんな話をするくらいなら、己の惚気を聞いて欲しいとさえ思っていた。

「ま、よく分からんけどな。所詮噂だし」
「あっそ。どうでも良いけど俺の話を聞け」

うげー、と舌を出して嫌がっているディランにティムの可愛さを押し付けるように惚気け続けた。








「アーヴィン、降ろしてよ。もう」

1人用の椅子にアーヴィンが座り、膝の上にティムを載せている。 
アーヴィンはティムの肩口に額を乗せて、ティムの香りと感触を楽しんでいた。
ティムは図書館ばかりにいるせいか、本の匂いがする気がする。

「あー俺の最高の癒しだわ」
「もう、アーヴィンまたそうやって…」

いい加減からかっているとは思わないで欲しいが、最近はティムも笑いながら聞いてくれている姿を見ていると、揶揄ではないと分かっているようだった。

ティムといるとどうしてもすぐに、盛りのついた雄のようにキスしてしまう。
こうやって後ろからなら簡単には唇を堪能することができないようにしている。
その代わりにティムの髪や肩、首、項にキスを落としていく。

「っひゃぁ!」

項の辺りで強く吸い上げるキスをすると、ティムは驚いた声を上げた。

「かわいー反応だな」
「な、なななにしたの?」
「俺のだって印付けた」

赤くなった所有印を見て、アーヴィンは満足そうに微笑む。
ティムは「印?」と全く分かっていなそうな様子で、厄介にも股間を刺激しようとしてくる。

しかし我慢の効かないアーヴィンは、ティムを椅子の上で横抱きにくるりと方向転換させた。
 
「わっ、アー、んっ…んん…っ」
 
アーヴィンはティムの唇を奪うように貪った。ティムの弱い所を責めながら舌を絡ませると、ぴちゃりと水音がする。
ティムを見ると長い銀糸の睫毛が微かに震えていて愛しく見える。
ギュッと服を握ってくる姿も保護欲を誘ってきていて、どうかしてしまいそうだった。

「っは…アーヴィン?」
「はー、卒業したら結婚してくれ」
「結婚?!」

アーヴィンの爆弾発言に、ティムは目を剥いていた。

同性婚も最近は緩くなってきていて、可能である。
子孫繁栄には反しているが、アーヴィンが同性愛者である時点で既に反している。
子孫繁栄についてはどっかの知らない他人に頼むことにする。

「だめ?」
「だ、ダメってことは、ないけど」
「決まり、ちゃんとプロポーズし直すから。俺以外誰も触らせんな」

そう言うと、ティムは恥ずかしそうに耳まで真っ赤な顔を俯かせながら言う。

「アーヴィン以外、触られたことないよ」
「あー!止めて。総動員させてる理性を簡単に切れさせんな! 結婚するまで手は出さないって今決めたのに」
「手を出す?」
「さすがにセックスは分かるだろ?」

あからさまな単語を出すと、ティムの頭からぼふんっと噴火が起きた。
口をパクパクさせてどうにか発言しようとする姿が可愛すぎて、アーヴィンは語彙を失いかける。

「な、んな、なん!」
「結婚したらすぐする、絶対する」
「ば、馬鹿ぁ!」

バシィッと本で胸を叩かれるが、全く痛くなかった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~

紫鶴
BL
早く退職させられたい!! 俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない! はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!! なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。 「ベルちゃん、大好き」 「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」 でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。 ーーー ムーンライトノベルズでも連載中。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

処理中です...