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焦る sideアーヴィン
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アーヴィン=イブリックは焦燥感を抱えずには居られなかった。
中庭でぶつかった、あのアメジストの宝石を携えた瞳に、銀糸のような煌めきを放つ髪、艶めかしい銀糸の長い睫毛、整った目鼻立ちに、白磁のような白い肌をした人物は一向に見つかる気配がなかったからだ。
既に3日である。
騎士の友人たちはもちろん、その辺の文官コースの人間を捕まえては月の精を尋ねた。それはもう百人程は捕まえて聞いた。
しかし、どいつもこいつもそんなやつは知らない。むしろ紹介してくれと言ってくる輩しか現れなかった。
あんな目立つ容姿をしておいて、ここまで消息不明になるのはおかしい。
アーヴィンは虱潰しに探すしかなかった。
中庭に行っても、広大な中庭を探すのには手間がかかった。上階から見下ろして中庭を見ても、銀の髪はどこにも見えなかった。
教室、特別室、ありとあらゆる部屋を探した。けれども姿はなかった。
アーヴィンのその必死な様子にディランもさすがに協力してくれて、ディラン自身も友人関係を尋ねてくれていた。
そして、中庭より広大な、図書館へ来ることになった。 もうここしか思い当たる場所はない。それくらい探し回ったのだ。
アーヴィンは隅の隅まで探した。図書館は広すぎて時間がかかる。お昼休みだけではきっと探しきれないだろう。
そんな風に思っていた矢先のことだった。
窓もない、図書館の端っこのテーブルに突っ伏している銀糸のような髪が見えたのだ。
アーヴィンは我が目を疑った。驚きすぎて思わず叫び出しそうになった。咄嗟に手で口を抑えて叫ばないようにした。人が少ないとはいえ、図書館だ。静かにするのがルールである。
それに、また逃げ出されてしまうかもしれない。それだけはアーヴィンは避けたかった。
「やっと、見つけた」
紛うことなき、あの時見た月の精だった。
アメジストの瞳が見えなくても分かる。
この艶やかな銀糸の髪と睫毛、整った目鼻立ちは明らかにそうだった。
無駄に感動してしまうくらい、アーヴィンは内心喜びで踊っていた。
あの時も思ったが、やはり奇跡なほどに美人だと思った。
本当は起こすのもしのびなく、いっそこのままずっとここに居たい、とも考える。
だがそれではまた名前が聞けない。アーヴィンは鬼の決断をすることに決めた。
「おい、おい!」
「っ!」
ビクリ、と肩が震えたのち、ガバッと音が聞こえるほどの高速で、彼は机から上半身を起こした。
「起こして悪い。聞きたいことがある」
「…!」
「お前、名前なんて言うんだ?」
とにかく名前を知りたかった。
目の前の月の精の名前を呼びたくて仕方がなかった。
しかし、彼はポカン、とした表情のまま固まってしまった。
アーヴィンは訝しげに彼を見た。
「? 名前くらい言えるだろ?」
「ぁ、あの、気味悪くないのか?」
「お前人の話、はぁ。何が気味が悪いんだよ」
「私の目」
「はぁ? 気味悪くない、綺麗で鮮やかなアメジストだろ」
はっきりとそう伝えた。柄にもない。そんなことはアーヴィンが1番わかっていた。
けれど、アーヴィンはイライラもした。
本人ですら貶すことは許さないとアーヴィンの心の奥が伝えてきたのだ。
アーヴィンはドカッと音を立てながら彼の前の席に座った。テーブルを挟んで、ため息をついた。
「はーーー… ほんと、お前誰?」
「誰、とは?」
「いやお前のこと誰も知らないんだよ。そんな目立つ容姿しておいて、誰も知らないってことはないだろ」
目の前の彼は俯いて何やら考え込んでしまった。
だからアーヴィンは自分がずっと思っていた言葉を放った。
「まさか、月の精?」
たっぷりと時間をかけた静寂だった。
彼はまたしてもポカン、と顔を呆けてした。
「ふっ、ふふ、ふ、ははは!」
「な、なんだよ。誰も知らないんだからそう思ってもおかしくねぇよ」
「ふふ、ふは、笑わせないで」
彼は静かだと思ったら、耐えきれないとでも言うように笑いだした。
彼のそんな姿に、アーヴィンの胸が弾むのを感じた。
アーヴィン自身も、自分がまさかこんなロマンチストな言葉を吐く人間だとは思っていなかった。
「なぁ、名前教えてくれよ」
アーヴィンは真っ直ぐ、紫眼の瞳を見つめて真摯に伝えた。
またここで彼を逃せば、次は見つからない、そんな気がしたのだ。
するとまたしても彼は考え込んだ。
しばらくの逡巡ののち、彼は口を開く。
「私はティム。ティム=カンポス」
ティムは微笑んでいた。本当に月の住人かと思うほどの極上の微笑みだった。
そんなティムにアーヴィンも嬉しくなって微笑みで返した。
「ティムな。俺は、アーヴィン=イブリック、よろしくな」
「うん」
そして、握手を交わした。
アーヴィンはもうこの手を離したくないと思った。
中庭でぶつかった、あのアメジストの宝石を携えた瞳に、銀糸のような煌めきを放つ髪、艶めかしい銀糸の長い睫毛、整った目鼻立ちに、白磁のような白い肌をした人物は一向に見つかる気配がなかったからだ。
既に3日である。
騎士の友人たちはもちろん、その辺の文官コースの人間を捕まえては月の精を尋ねた。それはもう百人程は捕まえて聞いた。
しかし、どいつもこいつもそんなやつは知らない。むしろ紹介してくれと言ってくる輩しか現れなかった。
あんな目立つ容姿をしておいて、ここまで消息不明になるのはおかしい。
アーヴィンは虱潰しに探すしかなかった。
中庭に行っても、広大な中庭を探すのには手間がかかった。上階から見下ろして中庭を見ても、銀の髪はどこにも見えなかった。
教室、特別室、ありとあらゆる部屋を探した。けれども姿はなかった。
アーヴィンのその必死な様子にディランもさすがに協力してくれて、ディラン自身も友人関係を尋ねてくれていた。
そして、中庭より広大な、図書館へ来ることになった。 もうここしか思い当たる場所はない。それくらい探し回ったのだ。
アーヴィンは隅の隅まで探した。図書館は広すぎて時間がかかる。お昼休みだけではきっと探しきれないだろう。
そんな風に思っていた矢先のことだった。
窓もない、図書館の端っこのテーブルに突っ伏している銀糸のような髪が見えたのだ。
アーヴィンは我が目を疑った。驚きすぎて思わず叫び出しそうになった。咄嗟に手で口を抑えて叫ばないようにした。人が少ないとはいえ、図書館だ。静かにするのがルールである。
それに、また逃げ出されてしまうかもしれない。それだけはアーヴィンは避けたかった。
「やっと、見つけた」
紛うことなき、あの時見た月の精だった。
アメジストの瞳が見えなくても分かる。
この艶やかな銀糸の髪と睫毛、整った目鼻立ちは明らかにそうだった。
無駄に感動してしまうくらい、アーヴィンは内心喜びで踊っていた。
あの時も思ったが、やはり奇跡なほどに美人だと思った。
本当は起こすのもしのびなく、いっそこのままずっとここに居たい、とも考える。
だがそれではまた名前が聞けない。アーヴィンは鬼の決断をすることに決めた。
「おい、おい!」
「っ!」
ビクリ、と肩が震えたのち、ガバッと音が聞こえるほどの高速で、彼は机から上半身を起こした。
「起こして悪い。聞きたいことがある」
「…!」
「お前、名前なんて言うんだ?」
とにかく名前を知りたかった。
目の前の月の精の名前を呼びたくて仕方がなかった。
しかし、彼はポカン、とした表情のまま固まってしまった。
アーヴィンは訝しげに彼を見た。
「? 名前くらい言えるだろ?」
「ぁ、あの、気味悪くないのか?」
「お前人の話、はぁ。何が気味が悪いんだよ」
「私の目」
「はぁ? 気味悪くない、綺麗で鮮やかなアメジストだろ」
はっきりとそう伝えた。柄にもない。そんなことはアーヴィンが1番わかっていた。
けれど、アーヴィンはイライラもした。
本人ですら貶すことは許さないとアーヴィンの心の奥が伝えてきたのだ。
アーヴィンはドカッと音を立てながら彼の前の席に座った。テーブルを挟んで、ため息をついた。
「はーーー… ほんと、お前誰?」
「誰、とは?」
「いやお前のこと誰も知らないんだよ。そんな目立つ容姿しておいて、誰も知らないってことはないだろ」
目の前の彼は俯いて何やら考え込んでしまった。
だからアーヴィンは自分がずっと思っていた言葉を放った。
「まさか、月の精?」
たっぷりと時間をかけた静寂だった。
彼はまたしてもポカン、と顔を呆けてした。
「ふっ、ふふ、ふ、ははは!」
「な、なんだよ。誰も知らないんだからそう思ってもおかしくねぇよ」
「ふふ、ふは、笑わせないで」
彼は静かだと思ったら、耐えきれないとでも言うように笑いだした。
彼のそんな姿に、アーヴィンの胸が弾むのを感じた。
アーヴィン自身も、自分がまさかこんなロマンチストな言葉を吐く人間だとは思っていなかった。
「なぁ、名前教えてくれよ」
アーヴィンは真っ直ぐ、紫眼の瞳を見つめて真摯に伝えた。
またここで彼を逃せば、次は見つからない、そんな気がしたのだ。
するとまたしても彼は考え込んだ。
しばらくの逡巡ののち、彼は口を開く。
「私はティム。ティム=カンポス」
ティムは微笑んでいた。本当に月の住人かと思うほどの極上の微笑みだった。
そんなティムにアーヴィンも嬉しくなって微笑みで返した。
「ティムな。俺は、アーヴィン=イブリック、よろしくな」
「うん」
そして、握手を交わした。
アーヴィンはもうこの手を離したくないと思った。
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