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after 桜
桜と夏、終
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「大袈裟だよ。大袈裟」
そういったのは復活した立夏だった。あれから一週間ほど経ち、ようやく面会出来るようになった。母の時は自宅療養に直ぐになったそうだが、立夏の母である斗真さんが全身を調べるように頼んでいたらしい。葉月さんは斗真さんがそれで納得するならやっとけ。後でうるせぇぞ。と立夏に促して渋々検査を受けまくった。
過保護な母親に心底うんざりした立夏だが、俺も検査すべきだとは思うので黙って聞いていた。
「だいたい、Ωになったって言ったって、子供をちゃんと作りたいなら父さんが言うにはαの精液を身体に取り込まなくちゃいけないんでしょ?相手もいないし、無理無理」
立夏は冷めたような口調で言い、ため息をついていた。
「そもそも自分が子供を産む?考えらんない」
「……そーかよ」
少しばかりムスッと返事をしてしまった。その理由は何故か分からない。
「てか、なに?桜がなんで迎えに来たのさ。小学生じゃあるまいし」
「別に。なんとなく」
適当な返事を返すが、立夏は納得出来ない様子だった。一緒に登校するのは小学生ぶりかもしれない。主に俺が遅刻スレスレの登校のせいで。
「……なぁ、お前…香水付けてンのか」
「? 付けてないよ。何も。それよりさぁ……っ!?」
立夏の手首を掴み、軽く引っ張った。けれど突然の事で驚いた立夏は体勢を崩し、俺に寄りかかってくる。そのまま首筋に鼻を寄せ、クン、と嗅ぐ。爽やかな深緑と仄かな甘みの混じった香りが鼻孔を擽る。それは俺にとってかなり好みの香りなのか、一生嗅いでいたいとまで思う。この一瞬でそう思った。
「な、ななななななな、なに?!なになに?!」
咄嗟に項を抑えて身を離される。耳まで真っ赤にした立夏は産まれて初めて見た。
「……なぁ」
「なに?!」
立夏が恥ずかしそうにしている姿をみたせいなのか。それとも立夏から香る芳しい香りを嗅いだからなのか。もしかして両方か。
立夏とは一歳の辺りからずっと一緒にいた。確かに最近は一緒にいることは少なかった。けど本音は、ずっと失いたくないと思ってたからだ。親父のように俺は意思が強い方じゃない。αとβが結ばれたと言っても、きっとβ側は永遠に怯えることになる。いつか来るΩに。俺は立夏にそんな恐怖を与えたくなかった。
だから、立夏とはこのままの関係で良いんだと、そう思っていた。
「運命って言ったら、お前はどうする?」
「……はぁ?! な、ななな、なに言って、何言ってんの?!」
「吃りすぎだ童貞」
ううううるさいうるさい!と叫ぶ立夏。耳どころか頭頂部まで真っ赤だ。
ああ、そうか。これが父の言う、運命か。
どうしようもないほど、焦がれ、欲しくなって、堪らなくなる。ずっとそばにいたい。誰にも近寄らせたくない。母に対してそういう感情が幼い頃から抜けないと言っていた。
今ならその心情が理解出来る。これこそが、運命なのだと。
「……母さんが言ってたな。Ωになったばっかだと、匂いが分かんねぇって」
「な、なんのはな、ひゃい!」
掴んでいた手首をもう一度引き寄せて、立夏を抱きしめる。少しだけ甘みが強くなったのに全くくどくない。心地よい香りが拡がっていく。
「俺のフェロモンを感じるまで手は出さないでいてやるよ」
「はぁ?! な、ななな、なななんのこと!ほんと、なに?!」
嫌なことには嫌だとキッパリ言うはっきりした奴が、こうも吃って焦り続けているって言うことは脈はある。ク、と笑みが零れる。そうだ。コイツはずっと俺しか見てなかったな、と思い出す。
セフレも全て完全に断ち切って、立夏を口説き落とし始めた最初の季節。高二の春の出来事だった。
そういったのは復活した立夏だった。あれから一週間ほど経ち、ようやく面会出来るようになった。母の時は自宅療養に直ぐになったそうだが、立夏の母である斗真さんが全身を調べるように頼んでいたらしい。葉月さんは斗真さんがそれで納得するならやっとけ。後でうるせぇぞ。と立夏に促して渋々検査を受けまくった。
過保護な母親に心底うんざりした立夏だが、俺も検査すべきだとは思うので黙って聞いていた。
「だいたい、Ωになったって言ったって、子供をちゃんと作りたいなら父さんが言うにはαの精液を身体に取り込まなくちゃいけないんでしょ?相手もいないし、無理無理」
立夏は冷めたような口調で言い、ため息をついていた。
「そもそも自分が子供を産む?考えらんない」
「……そーかよ」
少しばかりムスッと返事をしてしまった。その理由は何故か分からない。
「てか、なに?桜がなんで迎えに来たのさ。小学生じゃあるまいし」
「別に。なんとなく」
適当な返事を返すが、立夏は納得出来ない様子だった。一緒に登校するのは小学生ぶりかもしれない。主に俺が遅刻スレスレの登校のせいで。
「……なぁ、お前…香水付けてンのか」
「? 付けてないよ。何も。それよりさぁ……っ!?」
立夏の手首を掴み、軽く引っ張った。けれど突然の事で驚いた立夏は体勢を崩し、俺に寄りかかってくる。そのまま首筋に鼻を寄せ、クン、と嗅ぐ。爽やかな深緑と仄かな甘みの混じった香りが鼻孔を擽る。それは俺にとってかなり好みの香りなのか、一生嗅いでいたいとまで思う。この一瞬でそう思った。
「な、ななななななな、なに?!なになに?!」
咄嗟に項を抑えて身を離される。耳まで真っ赤にした立夏は産まれて初めて見た。
「……なぁ」
「なに?!」
立夏が恥ずかしそうにしている姿をみたせいなのか。それとも立夏から香る芳しい香りを嗅いだからなのか。もしかして両方か。
立夏とは一歳の辺りからずっと一緒にいた。確かに最近は一緒にいることは少なかった。けど本音は、ずっと失いたくないと思ってたからだ。親父のように俺は意思が強い方じゃない。αとβが結ばれたと言っても、きっとβ側は永遠に怯えることになる。いつか来るΩに。俺は立夏にそんな恐怖を与えたくなかった。
だから、立夏とはこのままの関係で良いんだと、そう思っていた。
「運命って言ったら、お前はどうする?」
「……はぁ?! な、ななな、なに言って、何言ってんの?!」
「吃りすぎだ童貞」
ううううるさいうるさい!と叫ぶ立夏。耳どころか頭頂部まで真っ赤だ。
ああ、そうか。これが父の言う、運命か。
どうしようもないほど、焦がれ、欲しくなって、堪らなくなる。ずっとそばにいたい。誰にも近寄らせたくない。母に対してそういう感情が幼い頃から抜けないと言っていた。
今ならその心情が理解出来る。これこそが、運命なのだと。
「……母さんが言ってたな。Ωになったばっかだと、匂いが分かんねぇって」
「な、なんのはな、ひゃい!」
掴んでいた手首をもう一度引き寄せて、立夏を抱きしめる。少しだけ甘みが強くなったのに全くくどくない。心地よい香りが拡がっていく。
「俺のフェロモンを感じるまで手は出さないでいてやるよ」
「はぁ?! な、ななな、なななんのこと!ほんと、なに?!」
嫌なことには嫌だとキッパリ言うはっきりした奴が、こうも吃って焦り続けているって言うことは脈はある。ク、と笑みが零れる。そうだ。コイツはずっと俺しか見てなかったな、と思い出す。
セフレも全て完全に断ち切って、立夏を口説き落とし始めた最初の季節。高二の春の出来事だった。
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