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62、神の心と秋の空④

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  ようやく落ち着いた頃、せっかく来たのだから楽しもう、と言われて教室を出た。

  そして一連の騒ぎですっかり忘れていた事を思い出した。


「あ、そういえば」


  僕の声に慊人は首を傾げた。横に並ぶ慊人の背は高くて少し見上げながら続けた。


「今日弓道部に誘ってくれた、先輩が来ててね。先輩達も友達がこの大学に居るみたいで」

「へぇ。波瑠を弓道部に誘った先輩?」

「そうそう。少し変わってるけど、良い人だよ」


  へぇ…と少し暗い声。どうしてなのか尋ねると、「波瑠の出回った写真の中で、その先輩と喜びあってる写真があった」とブスッとしながら答えた。まだ根に持ってたんだ…


「先輩とは何でもないよ。あの先輩はΩだよ。前も言ったでしょ?」

「…分かってる」


  特にあの斗真さんと抱きしめあってるシーンは慊人に事細かに聞かれた。嫉妬してくれて嬉しいけど、ちょっと目が怖かった。


「それより波瑠、あれ食べよう」

「なぁに? あ、たこ焼き食べたい」


  暫く歩いていると、出店が立ち並ぶ中を歩いていた。いい香りが沢山してお腹が空いていることに気がついた。慊人の所は何をしているのかと聞けば、飲み物販売という手間が殆ど掛からないものだと言う。


「波瑠、熱いからね」

「分かってるよ、もう…」


  たこ焼きを買って渡される。慊人が誘ったから、という理由で押し切られたので甘えることにした。
  中庭のベンチに座ってたこ焼きを受け取ると、ほんのりと暖かい湯気とソースの香りに食欲が誘われた。「いただきます」、と言ってたこ焼きを箸で割る。火傷が怖いから、邪道だと分かっていても半分にしないと食べられない。


「あ、タコちゃんと入ってる」

「……しかもちゃんと大きいね。すごい」


  タコは大振りのもので、二人して驚く。顔を見合わせて、笑った。


「波瑠、一つちょうだい」

「いいよ。はい」


  はい、と言って箸を渡そうとするが、慊人はニコニコしたまま箸を受け取らなかった。不思議に思ったが、直ぐに思い当たり、ハッとなった。

  まだ、やってないのに恥ずかしくてキョロキョロしてしまう。

  まばらに人は居るし、慊人が望むことは絶対に無理だと思って首をブンブンと振った。


「波瑠」


  しかし、彼は笑顔で追撃してくる。ずるい。


「ううう……」


  膝に置いてあるたこ焼き達を見たり、慊人の方を見ては視線を逸らしたりと落ち着かなくなってしまった。

  慊人はまだ笑顔で待っている。顔が良いせいで余計に迫力を感じる。

  ギュッと力を込めて箸を握って、決心した。


「あ、あーん……」


  半分に割ったタコ入りのたこ焼きを左手を添えながら慊人の口元に持っていく。恥ずかしくて顔がタコよりも熱い。
  慊人はゆっっっっくりと口を開けて、頬張る。直ぐに箸を取ろうとするが、慊人が僕の右手を掴んで離さない。なんで、と思ったらそのまま慊人が近づいてくる。いつの間にか箸から口は離れてる。


「んっ!」


  唇が触れた。触れただけだが、キスに変わりはない。周囲も一瞬「えっ」という空気を出してこっちを見ている気がする。
  かあああぁと更に顔が火照った僕は口元を抑えながら臨界点を超える恥ずかしさで涙目になりながら慊人を見た。


「ご馳走様」


  慊人は本当に良い笑顔で言い放った。


「……い、いきなりはズルいよ……!」


  怒るに怒れないけど、恨み言だけは言った。

  たこ焼きが食べ終わると、色々見て回った。出店だけじゃなくて、キャンパスの案内もしてくれた。途中休みながら回っていると、時間はあっという間で夕方にさしかかろうとしていた。

  そろそろ帰ろうかなんて話していた頃だ。


「……げ」

「どうしたの?慊人……っ」


  慊人が心底嫌そうな顔をしているので不思議に思って慊人の見ている方角に視線を向けた。

  息を飲んだ。

  その人物は見覚えがあった。慊人がもうこっちに戻ってきて長い時間経っていたからすっかり忘れていた。
  けれど、覚えている。


「ワオ! 久しぶりだね!アキト!やっと見つけたよ!」

「うるせぇ!ダニエル!俺は見つかりたくなかった!」

「やぁ、ハル!こういう時はハジメマシテ、で良いのかな?」


  まるで監視しているぞ、と言われているような感覚に陥った。







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だいぶ期間が空いていた頃に出ていた人物で、慊人が留学していた時の友人、ダニエルです。
読み返すのは大変だと思いますので説明しますと、波瑠が怯えているのは、ダニエルが慊人のお父さんの協力者であると明かされているからです。
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