62 / 90
62、神の心と秋の空④
しおりを挟む
ようやく落ち着いた頃、せっかく来たのだから楽しもう、と言われて教室を出た。
そして一連の騒ぎですっかり忘れていた事を思い出した。
「あ、そういえば」
僕の声に慊人は首を傾げた。横に並ぶ慊人の背は高くて少し見上げながら続けた。
「今日弓道部に誘ってくれた、先輩が来ててね。先輩達も友達がこの大学に居るみたいで」
「へぇ。波瑠を弓道部に誘った先輩?」
「そうそう。少し変わってるけど、良い人だよ」
へぇ…と少し暗い声。どうしてなのか尋ねると、「波瑠の出回った写真の中で、その先輩と喜びあってる写真があった」とブスッとしながら答えた。まだ根に持ってたんだ…
「先輩とは何でもないよ。あの先輩はΩだよ。前も言ったでしょ?」
「…分かってる」
特にあの斗真さんと抱きしめあってるシーンは慊人に事細かに聞かれた。嫉妬してくれて嬉しいけど、ちょっと目が怖かった。
「それより波瑠、あれ食べよう」
「なぁに? あ、たこ焼き食べたい」
暫く歩いていると、出店が立ち並ぶ中を歩いていた。いい香りが沢山してお腹が空いていることに気がついた。慊人の所は何をしているのかと聞けば、飲み物販売という手間が殆ど掛からないものだと言う。
「波瑠、熱いからね」
「分かってるよ、もう…」
たこ焼きを買って渡される。慊人が誘ったから、という理由で押し切られたので甘えることにした。
中庭のベンチに座ってたこ焼きを受け取ると、ほんのりと暖かい湯気とソースの香りに食欲が誘われた。「いただきます」、と言ってたこ焼きを箸で割る。火傷が怖いから、邪道だと分かっていても半分にしないと食べられない。
「あ、タコちゃんと入ってる」
「……しかもちゃんと大きいね。すごい」
タコは大振りのもので、二人して驚く。顔を見合わせて、笑った。
「波瑠、一つちょうだい」
「いいよ。はい」
はい、と言って箸を渡そうとするが、慊人はニコニコしたまま箸を受け取らなかった。不思議に思ったが、直ぐに思い当たり、ハッとなった。
まだ、やってないのに恥ずかしくてキョロキョロしてしまう。
まばらに人は居るし、慊人が望むことは絶対に無理だと思って首をブンブンと振った。
「波瑠」
しかし、彼は笑顔で追撃してくる。ずるい。
「ううう……」
膝に置いてあるたこ焼き達を見たり、慊人の方を見ては視線を逸らしたりと落ち着かなくなってしまった。
慊人はまだ笑顔で待っている。顔が良いせいで余計に迫力を感じる。
ギュッと力を込めて箸を握って、決心した。
「あ、あーん……」
半分に割ったタコ入りのたこ焼きを左手を添えながら慊人の口元に持っていく。恥ずかしくて顔がタコよりも熱い。
慊人はゆっっっっくりと口を開けて、頬張る。直ぐに箸を取ろうとするが、慊人が僕の右手を掴んで離さない。なんで、と思ったらそのまま慊人が近づいてくる。いつの間にか箸から口は離れてる。
「んっ!」
唇が触れた。触れただけだが、キスに変わりはない。周囲も一瞬「えっ」という空気を出してこっちを見ている気がする。
かあああぁと更に顔が火照った僕は口元を抑えながら臨界点を超える恥ずかしさで涙目になりながら慊人を見た。
「ご馳走様」
慊人は本当に良い笑顔で言い放った。
「……い、いきなりはズルいよ……!」
怒るに怒れないけど、恨み言だけは言った。
たこ焼きが食べ終わると、色々見て回った。出店だけじゃなくて、キャンパスの案内もしてくれた。途中休みながら回っていると、時間はあっという間で夕方にさしかかろうとしていた。
そろそろ帰ろうかなんて話していた頃だ。
「……げ」
「どうしたの?慊人……っ」
慊人が心底嫌そうな顔をしているので不思議に思って慊人の見ている方角に視線を向けた。
息を飲んだ。
その人物は見覚えがあった。慊人がもうこっちに戻ってきて長い時間経っていたからすっかり忘れていた。
けれど、覚えている。
「ワオ! 久しぶりだね!アキト!やっと見つけたよ!」
「うるせぇ!ダニエル!俺は見つかりたくなかった!」
「やぁ、ハル!こういう時はハジメマシテ、で良いのかな?」
まるで監視しているぞ、と言われているような感覚に陥った。
--------------------
だいぶ期間が空いていた頃に出ていた人物で、慊人が留学していた時の友人、ダニエルです。
読み返すのは大変だと思いますので説明しますと、波瑠が怯えているのは、ダニエルが慊人のお父さんの協力者であると明かされているからです。
そして一連の騒ぎですっかり忘れていた事を思い出した。
「あ、そういえば」
僕の声に慊人は首を傾げた。横に並ぶ慊人の背は高くて少し見上げながら続けた。
「今日弓道部に誘ってくれた、先輩が来ててね。先輩達も友達がこの大学に居るみたいで」
「へぇ。波瑠を弓道部に誘った先輩?」
「そうそう。少し変わってるけど、良い人だよ」
へぇ…と少し暗い声。どうしてなのか尋ねると、「波瑠の出回った写真の中で、その先輩と喜びあってる写真があった」とブスッとしながら答えた。まだ根に持ってたんだ…
「先輩とは何でもないよ。あの先輩はΩだよ。前も言ったでしょ?」
「…分かってる」
特にあの斗真さんと抱きしめあってるシーンは慊人に事細かに聞かれた。嫉妬してくれて嬉しいけど、ちょっと目が怖かった。
「それより波瑠、あれ食べよう」
「なぁに? あ、たこ焼き食べたい」
暫く歩いていると、出店が立ち並ぶ中を歩いていた。いい香りが沢山してお腹が空いていることに気がついた。慊人の所は何をしているのかと聞けば、飲み物販売という手間が殆ど掛からないものだと言う。
「波瑠、熱いからね」
「分かってるよ、もう…」
たこ焼きを買って渡される。慊人が誘ったから、という理由で押し切られたので甘えることにした。
中庭のベンチに座ってたこ焼きを受け取ると、ほんのりと暖かい湯気とソースの香りに食欲が誘われた。「いただきます」、と言ってたこ焼きを箸で割る。火傷が怖いから、邪道だと分かっていても半分にしないと食べられない。
「あ、タコちゃんと入ってる」
「……しかもちゃんと大きいね。すごい」
タコは大振りのもので、二人して驚く。顔を見合わせて、笑った。
「波瑠、一つちょうだい」
「いいよ。はい」
はい、と言って箸を渡そうとするが、慊人はニコニコしたまま箸を受け取らなかった。不思議に思ったが、直ぐに思い当たり、ハッとなった。
まだ、やってないのに恥ずかしくてキョロキョロしてしまう。
まばらに人は居るし、慊人が望むことは絶対に無理だと思って首をブンブンと振った。
「波瑠」
しかし、彼は笑顔で追撃してくる。ずるい。
「ううう……」
膝に置いてあるたこ焼き達を見たり、慊人の方を見ては視線を逸らしたりと落ち着かなくなってしまった。
慊人はまだ笑顔で待っている。顔が良いせいで余計に迫力を感じる。
ギュッと力を込めて箸を握って、決心した。
「あ、あーん……」
半分に割ったタコ入りのたこ焼きを左手を添えながら慊人の口元に持っていく。恥ずかしくて顔がタコよりも熱い。
慊人はゆっっっっくりと口を開けて、頬張る。直ぐに箸を取ろうとするが、慊人が僕の右手を掴んで離さない。なんで、と思ったらそのまま慊人が近づいてくる。いつの間にか箸から口は離れてる。
「んっ!」
唇が触れた。触れただけだが、キスに変わりはない。周囲も一瞬「えっ」という空気を出してこっちを見ている気がする。
かあああぁと更に顔が火照った僕は口元を抑えながら臨界点を超える恥ずかしさで涙目になりながら慊人を見た。
「ご馳走様」
慊人は本当に良い笑顔で言い放った。
「……い、いきなりはズルいよ……!」
怒るに怒れないけど、恨み言だけは言った。
たこ焼きが食べ終わると、色々見て回った。出店だけじゃなくて、キャンパスの案内もしてくれた。途中休みながら回っていると、時間はあっという間で夕方にさしかかろうとしていた。
そろそろ帰ろうかなんて話していた頃だ。
「……げ」
「どうしたの?慊人……っ」
慊人が心底嫌そうな顔をしているので不思議に思って慊人の見ている方角に視線を向けた。
息を飲んだ。
その人物は見覚えがあった。慊人がもうこっちに戻ってきて長い時間経っていたからすっかり忘れていた。
けれど、覚えている。
「ワオ! 久しぶりだね!アキト!やっと見つけたよ!」
「うるせぇ!ダニエル!俺は見つかりたくなかった!」
「やぁ、ハル!こういう時はハジメマシテ、で良いのかな?」
まるで監視しているぞ、と言われているような感覚に陥った。
--------------------
だいぶ期間が空いていた頃に出ていた人物で、慊人が留学していた時の友人、ダニエルです。
読み返すのは大変だと思いますので説明しますと、波瑠が怯えているのは、ダニエルが慊人のお父さんの協力者であると明かされているからです。
0
お気に入りに追加
470
あなたにおすすめの小説
闇を照らす愛
モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。
与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。
どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。
抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
雪を溶かすように
春野ひつじ
BL
人間と獣人の争いが終わった。
和平の条件で人間の国へ人質としていった獣人国の第八王子、薫(ゆき)。そして、薫を助けた人間国の第一王子、悠(はる)。二人の距離は次第に近づいていくが、実は薫が人間国に行くことになったのには理由があった……。
溺愛・甘々です。
*物語の進み方がゆっくりです。エブリスタにも掲載しています
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
嘘の日の言葉を信じてはいけない
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる