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37、贈る秋②
しおりを挟む慊人の誕生日当日、駅で待ち合わせしていた。少し薄手のセーターにブラウンのチェスターコートを羽織っている姿は、背も高く足も長いこともあって遠目でも近くで見てもモデルのようにしか見えない。
ぶっちゃけ、声をかけにくかった。見蕩れてしまったのもあるが、それだけじゃなく、ナンパされていそうだったからだ。
女性二人に声をかけられている慊人は愛想笑いをしていたが、徐々にめんどくさいと書いてある顔つきに変わった。
「あー…俺待ち合わせ中だから。どっか行ってもらっていい?」
「お友達が来るの?そしたら私達も……」
「恋人が来んの。どっか行ってって言った時点で察して?」
冷たい声で言い放つ慊人。慊人のあんな冷たく凍てついた声は初めて聞いた。
女の子2人ともかなりの美人だ。
これで僕が何事も無かったように慊人の前に出るのはかなり勇気がいる。というか出たくない。
そう思ってどうしようかと思案していると、間の悪いことに慊人の目が僕と合ってしまった。
「波瑠!」
さっきの彼女たちの前では絶対に出さなかった微笑みを見せて僕の名前を呼ぶ。
モデルばりの慊人の微笑む相手が気になる通行人たちが一斉に僕の方に目線を向けてきた。
無数の視線が僕に襲いかかる。
「あ、慊人……! こっち!」
「ええー?そこは『ごめん待った?』ってお決まりのセリフを」
「そんな事いいからっ、ここを早く離れるよ!」
恥ずかしい僕は慊人を引っ張って急いでそこを離れることにした。
改札を入ったところでようやく落ち着いて呼吸を整えた。慊人はもちろん息を切らしていない。
「はぁ……もう!慊人は自分がカッコイイのを自覚して!近くにいた人みんなこっち振り返ってきたよ!」
「別に波瑠以外どうでもいい、波瑠は俺の事カッコイイと思う?」
「…い、言わせないで……」
「今日俺の誕生日だから。言って欲しいなー」
慊人の顔はまるでいたずらした子供のように無邪気だった。
「そんなの、カッコイイに決まってるよ……」
何故か僕が照れながら言うと、慊人は喜色満面の笑みを見せて僕に抱きついてきた。
そのまま僕の首筋にいつものように額を擦り付けてきた。
「はあああぁぁあ……波瑠ううぅ!!」
「慊人っ、分かったからもう行くよ…っ、ねぇ、慊人!もー!」
電車がくる直前まで、慊人は僕を離してくれず周囲の人達から注目されるのだった。
□■□
辿り着いたのはグループ展開している旅館だ。
「ええ? は、波瑠高かったんじゃないか?」
「もう、そればっかり。慊人の指輪ほどじゃないよ」
バイトとかはしてないのでお年玉とかお小遣いの範囲で泊まれる所にした。和の雰囲気がある、綺麗なこじんまりとした宿だった。
「ほら、浴衣あるって。着替えよ…」
ふわりと後ろから抱きしめられる。それと共に慊人のフェロモンが僕の周りにぶわりと纏ってくる。
鼻をヒク、とさせれば慊人は嬉しそうに笑いながら僕の首筋に額をぐりぐりしてくる。
「はー……マジで嬉しい。波瑠と泊まれるなんて…新婚旅行みたい……」
「大袈裟過ぎるよ、もう」
少しくすぐったそうにすると、慊人は顔を上げて後ろを見ている僕と目が合った。
優しく微笑んでいる慊人の瞳に、一瞬だけギラついたものを見つけた。
僕も二人で旅行に来たという事は、そういうことも致すだろうとは予想している。
けど、まだ部屋に着いてから十分も経っていない。
「あ、慊人……待って、まだ、露天風っん!」
僕の顎を抑えて後ろからキスをされる。
このままなあなあで行くと露天風呂に行けなくなりそうだった。
しかし慊人に何度もされたキスですっかり覚え込まされた身体は、快感を直ぐに拾い上げてしまう。
「んっ、んん、……っふ」
たっぷりの唾液を僕に注がれ、飲み込みきれない唾液は口端から卑猥にツー…と垂れていく。
口内も慊人の長く厚い舌で歯列も上顎も舐め上げられ、ピクピクと身体は勝手に反応してしまう。
「…ぷぁ……」
「かわい、蕩けてる」
見上げる慊人はキスを味わうように自身の唇をペロ、と舐める。その姿が扇情的で思わずゾクゾクとしてしまう。
僕はすっかりその気にさせられてしまったのに、慊人は鼻歌を歌いながら「着替えよう」と言ってくる。
「あ、慊人……?」
「戻ってきたら、しようね。まだ時間も早いし、きっと誰も入浴してないだろうから」
「うう……」
まるで慊人が悪魔のように微笑み、僕は渋々浴衣に着替えて露天風呂へ向かうのだった。
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