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12,魔法の使い道

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あっという間に夏は過ぎてお兄様達は学園へ戻る。
ルークお兄様にはまたすぐに会えるけど、フィルお兄様とクリスお兄様に次に会えるのは一年後だ。

屋敷には私とお父様二人に戻ってしまった。
使用人だけは沢山いるけど。
お父様は仕事で忙しく、一緒にご飯を食べられない事も多い。それどころか帰って来ないことも多い。
そんな時は、ぽっかり穴が開いたように感じてしまう。夜はいつも遮音結界を張り、ピアノを弾くようになった。ピアノを弾いている時は寂しさを忘れられる。
しかしたまに休みをとってくれては存分に甘やかしてくれる、そんな生活に満足していた。


ある日、ルークお兄様が客人を連れて帰ってきた。その客人こそ、マガン領を治めている叔父、アレックス・マガン侯爵その人だ。
叔父様とは初対面だったが、優しそうな雰囲気ながらもなかなかのやり手らしい。
この日は、私の提案した向日葵事業?を詳しく聞きたいということだった。
向日葵畑の観光地化、そして種子収穫のやり方、オイルの作り方を細かくレクチャーした。
そして3日後、ルークお兄様と叔父様は向日葵の種子を少しだけ持って帰ってきた。試しに少し収穫したもののようだ。

「これで良いかな?」

「はい、十分に水分も飛んでいますし、大丈夫だと思います」

そう言いながらも念のため風魔法で完全に水分をとる。種子を清潔な布に入れてしっかりと縛り、容器に入れる。そして圧縮の魔法をかけると、そこから少しずつ黄金色のオイルが抽出される。

「すごい、本当にできたな!これが向日葵オイルなのか?」
「魔法とは、そのように使うものなのだろうか……?」

感動しているルークお兄様と、感心しながらも戸惑いを隠せていない叔父様。魔法はこう使うに決まっているじゃない?

「はい。料理に使ってもよし、化粧品に使ってもよしの優れものです」

「問題はどうやって量産するか…だな」

それからは叔父様とルークお兄様は真剣に話し合っていたので、もう私の出る幕は終わりだと感じ、部屋を退出した。
その年は魔法等を用いて力業でなんとかしたようだったが、翌年以降を見据えて魔道具の作成を始めた、という話を聞いた。
その話を聞いて安心して、私は今自分のやるべきことに意識を向けた。





静かに流れる時の中、私は10歳になっていた。

その日いつものようにシドに魔法の授業を受けていると、お休み中のお父様が練習風景を見ていて、ふと聞いてきた。

「エリィ、実践をしてみたい?」

思いがけない言葉に驚くがこれに関しては即答だ。
以前グリッドマウンテンで人の気配を察知してから、私は一人で外へは出ていない。

「はい!実践してみたいです!!安全な場所があれば是非お願いします!」

食い気味に言うと、お父様とシドに苦笑いされてしまった。

「では少し実践できる場所へ行ってみようか。シド殿、いい場所はあるかな?」

「えぇ、もちろんです」

と打ち合わせをしていたかのようにシドは答える。

「では私に触れていて下さい」

そして私達はシドの転移魔法によって、見知らぬ山岳地帯へ降り立ったのだった。

「ここは…?」

「実家の領地で、私が以前使っていた練習場所です」

目の前に連なる山々はそれぞれに異なる表情を見せている。
今までに見たことのない風景を目に焼き付けるように、じっと見ていた。

「これからはここで授業を行います」

「本当に?!」

「ここならば強い敵の気配もないし、練習には良いかもしれないな。だが、くれぐれも気をつけるんだよ。シド殿、エリィに危険が及ぶようならすぐに戻ってきてほしい」

どうやら事前にお父様とシドの間で話がついているようだった。本当に安全かお父様が確認してからだったのだろう。

こうして、その山岳地帯での授業が始まったのだった。
ここにいる間は常に防御結界を張ることは、絶対条件だ。
そして今まで使えるようになった魔法を総動員して、魔物の弱点を見定めてから一番有効と思われる攻撃をする、というのが最初の課題。

これは鑑定魔法を使えば済むので簡単にクリアできる。
あとは初級魔法に魔力を込めて一撃で仕留めること。相手の強さからどれだけの魔力を込めるかの判断力が必要となる。それに慣れてきたら中級魔法でも同様のことを行う。

魔石を沢山持つために、と新たにアイテムボックスという魔法も教えてもらった。
ほとんどの魔物は息がなくなった瞬間に魔石になるが、高位の魔物は時間をかけて魔石化することもあるようだ。まぁそんな強い魔物と戦うつもりはないけれど。
このアイテムボックスはとても便利だ。
この中では時間が止まっているので、植物を入れても枯れることはなくそのままの姿を保っている。
生きたもの、例えば生きたまま魔物を入れることはできないが、それ以外ならなんでも入る。
もっと早く教えてほしかったよ。



いつも時間ギリギリまでしかここに居ることができないが、偶に時間を過ぎても私と一緒に空を飛び植物を採ってくれることも多くなった。
この山岳地帯には様々な植物が生えている。その中でもローズマリーとカモミール、そしてアロエを見つけることができたのは僥倖だった。
ハンドクリームを作るのには欠かせないから屋敷に持ち帰ってじっくり育てることにしよう。

植物を採取する私の姿を見てシドが何気なく、その植物を育ててどうするのか聞いてきた。

「植物からクリームや化粧水を作るの。楽しそうでしょ?」

そう言うと驚いたような顔になる。

「えっと、お嬢は魔術師になりたいんですよね?」

何を言っているんだろう?そんな事言った記憶はないんだけどな。魔術師は別に目指してない、と言うと心底驚いていたようだった。
何をそんなに驚いているのかしら?と思っていると、

「でも魔法めちゃくちゃ頑張ってるじゃないですか」

あぁ。そういうことか。

「だって魔法が使えるようになるの、とっても楽しいじゃない?」

シドはその私の言葉に衝撃を受けたように固まってしまった。

「魔法が使えるようになってから毎日が楽しいし、シドとの授業が楽しいから」

と言うと、照れたようにはにかむシドの姿を見ることができたのは新鮮だった。


その日食事の席でもお父様にも同じ事を聞かれ、魔術師になりたくて頑張っているわけではないことを説明した。いろいろと逸れていたが、私の目的はハンドクリームを作ることなのである。
魔法を習い始めたきっかけは自分や誰かを守るため。本当に危機が訪れた時に誰かの助けとなるためなのだ。
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