積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと

文字の大きさ
上 下
37 / 78

37,気になる

しおりを挟む
習慣というのは恐ろしいもので、何も予定がなくてもいつもと同じ時間に目が覚める。
時刻は朝の7時前。
夏休みである。

…うん、やることがない。
いや、実際にはやることはあるのだが、今日はなんだか勉強する気が出ない。
シドとの授業もないし、事業の打ち合わせもなければ、ハーブも作り尽くしてしまった。
お父様達は騎士団へ行っていて不在。
何も予定のない休日など久しぶりだ。

よし、今日は採譜をしようかな。時間のある時に、前世で好きだった曲を採譜をしているのだ。
その時によってアレンジが違うのも悪くないけど、ちゃんと楽譜として残しておきたいと思い、始めたことだ。

遮音結界を張り、ピアノを弾き始める。
前世の記憶にこの世界のピアノアレンジを入れたりして、一番良いと思った演奏を譜面に起こしていく。
地味な作業だけど、イメージが具現化するのは達成感があるしとても楽しい。

やっぱり遮音結界を張ると自由に弾けるし、誰にも聞こえないから間違えても恥ずかしくない。
練習する時は結界を張るに限るわね。


「…様、お嬢様。」

気がつくとマリーが軽食を持って来ていた。
え?もうそんな時間?
時計を見ると確かに12時が過ぎている。
我ながらすごい集中力ね。

サンドイッチを食べながらマリーと話していると、フレディが険しい顔をしているのが目に入った。だから怖いんだってば…

「エリナリーゼ様、遮音結界の中に入っても宜しいでしょうか?」

「フレディ。ただ練習しているだけだから危険はないわ。部屋の中なら遮音結界の外でも大丈夫でしょう?」

「しかし、いつ危険があるかもしれませんし」

どうやらフレディはこの中に入りたいらしい。

「大丈夫よ。何かあったらあなたが守ってくれるのでしょう?」

「これだけの結界が重なっているということは、ここが大切な場所であると言っているようなもの。手練の者ならば迷わずここを襲うでしょう。」

まぁそれは私も思っていたわ。対策しているから大丈夫だとは思うけど。
ちなみに私が座っているピアノの席からはバルコニーが見え、そこから侵入されたところで私なら対応できる……はず。そもそも侵入することさえできないと思うけどね。

「結界の中に入る許可をいただけますね?」

フレディは引く気はないらしい。
フレディは私にも音楽にもあまり興味がなさそうだ。単純に護衛のためだろう、と思い許可をすることにした。
過保護か!

まぁ、結界に入ったところで私の視界に入らなければそのうち忘れる。フレディなら気配を消してくれるだろうし。
気にしないことにして、またピアノを再開した。

というかこのフレディってば、本当に魔力量は大丈夫なの?こっちが不安になってしまうわ。



「できたわ!」

我ながら壮大なバラードに仕上がったと思う。
柔らかく切ない序章からはじまり、サビは力強く。2メロはアレンジを加え華やかにして、2サビはより力強く。2回目のサビはダイナミックなアレンジにした。弾きごたえのある一曲に仕上がった。

楽譜を書き終え、納得いく演奏ができた頃にはもう夕方になっていた。

今日はピアノの気分なので、食事の時間までいろんな曲で弾き語りをして遊ぶことにした。
この世界でピアノを頑張ったお蔭で、耳コピのスキルがついたように思う。前世の曲がどんどん思い出されてくる。歌を歌うのはとても楽しい。誰にも気兼ねすることなく過ごせるこの時間はとても貴重だ。

食事の時間がきて、私は上機嫌でやっとピアノの席を立ったのだった。




(フレデリック目線)


私はフレデリック・シャープ。子爵家の三男として生まれ、幼い頃から騎士を志していた。

念願叶い今はリフレイン公爵率いる第一騎士団に在席している。訓練は厳しいものだが有意義な日々を送っていた。
そんなある日、リフレイン団長に呼び出しを受けた。
何かしてしまっただろうか、と緊張しているとご令嬢の専属護衛をしてほしいという依頼だった。

できれば常に視界に入れて危険がないよう用心してほしいとのことだった。
貴族の護衛であれば、室内にいる場合はその扉の外に待機して備えているのが普通なのだが、そうではなく室内で備えよとの事だった。
仮にも男であるのに未婚の令嬢の部屋に入るのはいかがなものだろうか。そんな疑問を投げかけると、私以外に適任がいないとの事だった。
どういう意味なのだろう?

それよりも私は団長直々にこの依頼がきたことに歓喜していた。

リフレイン家のご令嬢といえば社交界には全く姿を見せず、幻の令嬢と言われている。唯一公式の場に姿を見せるのは母君の式典のみ。そこで弾くピアノが感動的とかなんとか。私はピアノにはあまり詳しくないのでその辺はよくわからない。
あとは最近巷で流行っているハンドクリームとやらの考案者らしい、ということだけだ。


初めてエリナリーゼ様にお会いした時は、その美しさに衝撃を受けた。美しさの中にも可愛らしさが残る顔に、小さく華奢な身体は庇護欲をそそられる、それでいて芯の強そうな凛とした雰囲気を持ったご令嬢だった。今まで会った女性の中で間違いなく一番美しかった。

護衛の室内待機については驚かれていたようだったが、受け入れてもらえたようだ。
リフレイン団長はエリナリーゼ様を溺愛しており、エリナリーゼ様もリフレイン団長のことをとても慕っておられる様子。

エリナリーゼ様の部屋は強力な防御結界が張ってあり、部屋の中はひんやりしていてこの夏の暑さを全く感じさせない程快適だった。
魔道具か何かで調節しているのだろうか。高そうだなと考えつつも、この快適な空間にいられてほっとしていた。

護衛初日、エリナリーゼ様はずっと机に向かって勉強をされていた。机には空になったコップが置いてある。
メイドに追加を貰った方がいいのだろうか?
そんなことを思っていると、徐ろにそのコップに水をいれて氷を作り、何事もなかったかのように口に運んでいる。

…え?ちょっと待て。何が起きた?
どういう事だ??魔法か?魔法なのか?しかし魔法をこのように使うのか?
何が起きたのか知りたくて、エリナリーゼ様を鑑定してみる。……がなんと私の鑑定魔法が弾かれたではないか。
…弾かれた?どういうことだ?私は軽く混乱してしまった。

エリナリーゼ様は真剣な表情で勉強をしている。まるで魔法など使っていないかのように。


その日が終了すると私はごっそり魔力が減っていることに気が付いた。
おそらくあの結界の中にいたからだろう。それほど強力な結界だった。一体誰があの結界を張ったのだろう。



護衛二日目、王宮筆頭魔術師のシド様がお見えになった。まさかシド様が魔法の先生だったとは驚きだ。
近づき難い雰囲気の魔術師であるシド様と、なんとも楽しそうに話しているではないか。シド様の笑顔とか初めて見たぞ。

そのシド様とちょっと練習に行ってくるから、といきなり目の前から消えた時は何事かと思った。気配まで消えたので本当に焦った。
まさか転移するなどとは思うはずがないだろう。あの時は本当に冷や汗をかいた。

何食わぬ顔で戻ってきたエリナリーゼ様は少しスッキリした顔をしている。どんな練習をしていたのだろう、とても気になる。
とりあえず、今後は先に言ってもらうようにしなくては。

この後はどうやら部屋にずっとおられるようだ。
それにしてもずっと机に向かっているが、辛くはないのだろうか。私はこんなに長時間勉強することなどなかったので、純粋に尊敬する。
今日も勉強しながら魔法で水と氷を作っている。魔法を使う者からしたらこれは普通のことなのだろうか?

そして今日も私は魔力をごっそり持っていかれてしまった。
そうか、この防御結界も、私の鑑定魔法が弾かれたのも、きっとシド様の魔法なのだな。




護衛三日目、今日のエリナリーゼ様は朝からずっとピアノに向かっておられる。とはいっても遮音結界を張っているので、私に音は聞こえない。
遮音結界はエリナリーゼ様が張られたのか?
ピアノを弾きながら何かを書いているようだ。


エリナリーゼ様の集中力は驚嘆に値する。気がつけばもう昼の時間。メイドが軽食を持ってきて初めて時間に気がついたようだ。
既に5時間くらいピアノに向っている。何を書いているのか気になる。どんな曲を弾いているのだろう。時折激しく鍵盤を叩いている様子だけは分かった。気になる。とても気になる。どうにかして遮音結界の中に入れないだろうか。

私は上手く誘導してなんとか遮音結界の中に入る許可を得ることができた。
邪魔をしないように、窓の外を伺いながら自然に遮音結界の中へ入る。

聞こえてきたのは、流れるような滑らかな心地良い演奏だった。初めて聞く曲だ。
先程から同じメロディをいろいろなアレンジで弾いているようだ。ノートに書いているのは楽譜だろうか?
遮音結界の中に入った私にも気がついていないようだった。邪魔をしては申し訳ないと思い、隠密を使っているのだ。

暫くそうしていると、できた!と嬉しそうな声が聞こえ演奏が始まった。
護衛という仕事も忘れて聞き入ってしまった。
素人の私でも素晴らしい演奏だという事がわかる。

私はもしかしたらとてつもなく貴重な瞬間に立ち会ったのではないだろうか。
感動で身体が震えた。

それ以外にもエリナリーゼ様は聞いたことのない曲をいくつか弾きながら歌を歌われていた。とても楽しそうだ。私の頬も思わず緩む。
いかん、私には護衛という仕事があるというのに。すぐに気を引き締める。

エリナリーゼ様の護衛は油断していると顔が緩んでしまうので、いつも意識して気を張っていなければいけない。
前線とは違う意味で大変な仕事だ。
そして私はその日、魔力切れを起こしてしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...