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6,天使の歌声

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その曲は比較的すぐに完成した。なかなかいい感じにアレンジ出来たと思う。
歌詞もその後すぐに完成させた。
この世界や、お母様を想って作ったのだ。私が実際に会った時間は短いけれど、エリナリーゼの記憶にはちゃんと残っている。


あれから、シドの授業の後は密かにグリッドマウンテンへ行き、魔法の練習を行っている。フリーズランスにも慣れてきて鮮やかに氷の矢が魔物を射抜く。出来に納得したところで、新しく勉強中の初級の土魔法の練習に入る。
これは上手く使えたら防御にも使えるので、是非使いこなしたい魔法の一つだ。
空から魔物を見つけて土魔法で倒す、というやり方で数匹倒した頃には魔力量も良い感じに減ってきたので、山頂へと戻る。

目的は魔法の練習なので、空から攻撃して魔物を倒しても山の中には入らないようにしている。死角が多くてどこから魔物が襲ってくるかわからないしね。だから魔石も拾うことはない。
いつもはそうだった。
だが、私はその時見覚えのある薄紫の花が風になびいているのが見えた。
真上に移動して見てみると、ラベンダーのように見える。が確信が持てない。この距離では遠すぎて鑑定魔法ができないのだ。
気配を探るとこの周辺には魔物がいなそうだったので、少し迷ったが降りてみることにした。

少しだけなら大丈夫よね?

魔物がいないか確認しながら慎重に降りる。
降りてすぐに鑑定をしてみると、やはりラベンダーだった。

これは大きな収穫だ。これからここに来る時は何か花を入れられるものを持ってこよう!

かなりテンションの上がった私は、山頂へ戻るとできたばかりの曲を思い切り歌った。誰もいないから気持ちいい。
地面に寝転がり少しばかりの休憩を満喫して、屋敷に戻った。





翌日、私はカゴを持って出掛けた。
不審がる使用人達だったが、シドの訓練で取りに行きたいものがある、と言えば不審そうな顔をしながらも納得してくれた。
ちなみにカゴにはミニマムという縮小化の魔法をかけて、小さくしてある。

門番の騎士さんたちにもこのカゴを見て心配そうに言われてしまった。

「今日は何か取りに行くのかい?あんまり遠くへ行かないようにね。」

この騎士さんたちとはもうすっかり顔馴染みである。


さて、ラベンダーを先に採取するとしよう。
昨日見つけた場所へ行くと、今日も薄紫の花が軽やかに咲き誇っているのをみて頬が緩む。魔物がいないことを確認して慎重に降りる。根本から採取して庭に植生するつもりだ。縮小化の魔法を解除し、カゴに入れていくが思ったより入らない。
でもまた明日来ればいい。むしろその方が楽しみが増える。頬が緩みっぱなしだ。

カゴがいっぱいになるまでラベンダーを採取した後山頂へ向かう。いつものように魔法の練習をした後、思い切り歌を歌う。もう大熱唱だ。気持ちいいし、とてもスッキリするから。ある程度魔力を消費させてから屋敷に帰るというのが日課になっていた。
それが日課になって2週間程経った頃のことだった。

いつものように空に浮きながら大熱唱をしていると後ろに気配を感じた。
振り返ると人影が見える。遠くて顔までは見えないが確かに人だった。
私は一人で大熱唱していたのを見られてとても恥ずかしかったので、咄嗟にカゴを持ち飛翔魔法で逃げてしまった。

うわっ、恥ずかしい!!悪いことをしているわけではないのに、心臓がドキドキだ。


翌日は行くかどうしようか迷ったが、昨日は偶々いただけと考えて行ってみることにした。
恐る恐る山頂へ向かうと、そこには誰もいなくて安心した。ラベンダーを採取し、山頂へ戻るがやはり誰もいないので安心して魔法の練習をする。
休憩中には少しだけ控えめに歌を歌う。どうしたってこの時間は貴重なのだ。





ここグリッドマウンテンには自分よりも少し強い魔物がいる、剣の練習に丁度よい場所だったのでたまに練習に来る。
最近ここに魔石が沢山落ちているということと、ある時間に美しい歌声が聞こえるという話を聞いて久しぶりに来てみたら、昨日は山頂から本当に美しい歌声が聞こえてきたのだ。その透き通るような歌声の主は金髪の少女だった。遠目だったので年はわからないが、同じくらいの年齢だったように思う。
その少女は私達を見ると、カゴを抱えて空を飛びどこかへ行ってしまった。もしかしたら妖精なのかもしれない。驚かせてしまって悪いことをしたかな。

もう一度会えたらいいなと思い、今日また来てみるとその少女は既にいてまた歌を歌っていた。ちょうど日が高くなる時間で、暑いのに少女はその暑さを感じていない程爽やかな雰囲気だ。
よく見ると上には結界のようなものが張ってある。

目が離せなかった。
昨日と同じ歌だと思うが、やはり聞いたことのない歌だ。
少女は気持ちよさそうに歌っていて、その伸びのある澄んだ歌声は本当に心地良い。天使の歌声のようだ。
少し遠くて顔を見ることができないのが残念でならない。
歌い終えるとその少女は昨日と同じカゴを持って王都の方へ向かって飛んでいった。

隣に一緒に隠れていた護衛のケビンを見てみると、あ然とした表情を浮かべている。ケビンもこんな表情をするのだな。

少女が飛び立った後暫く時間を置いてから、山頂付近に隠れていた私達は山頂へ向かった。

「彼女は一体……?」

ケビンのその問に私は天使なのではないだろうか?と答えそうになった。緩やかにウェーブのかかった金色の長い髪、私達に背を向けて歌っている姿に輝くような日の光が差し、本当に天使が君臨したと思ったのだ。
私はその姿と歌声に、魔法がかかったかのように動けなかったのだ。そしてそれはケビンも同じはずだった。

「ここから何を見ていたんだろう?」

少女が見ていた所を見てみるが、特に何もない。
「…何も見えないな?」

「唯一考えられるとすればあの場所ですかね?」
ケビンが指を指した先は壊れた建物のある、今は休憩所としてしか使われていない場所だった。

「違う所じゃないか?」

「…そうですね。」

「調べてくれるか?」

「もちろんです。飛翔魔法を使える者は少ないですからね。比較的早く見つかるかもしれません。」


しかしそれ以降その少女はその場所に姿を見せることはなく、結局どこの誰かもわからなかった。





エリナリーゼは何となく腑に落ちないでいた。
さっきは誰もいないと思ったけど、何か気配を感じた気がしたのだ。魔物の気配ではなかったから、もしかしたら昨日見た人達なのかもしれない。

今日感じた気配もその人達ならば、あそこに行くのは危険だわ。
もしお父様にバレたら心配されるなんてものじゃないもの。

そう思いながら庭に植えたラベンダーを見ていた。
庭師のトミーは最初に持ってきた時は驚いていたが、綺麗に植えてくれていて、今この屋敷には元からあったかのように淡い紫色の花が気持ちよさそうに風に揺られている。挿し木をしているので徐々に増えるだろう。

ラベンダーは充分集まったし、もうあそこに行くのはやめよう。危険な気がするのだ。
仕方ない、また違う所を探そう。
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