上 下
71 / 78

71,長い一日

しおりを挟む
「お父様もああ言ってくれたし、家に遊びにこない?」

「えっ?!」

「見せたいものもあるし!ほら、ちょうど馬車も来てるし。乗って?」

と、ここまで乗ってきた馬車に乗り屋敷へ向かう。ケイト達は少し居心地が悪そうだっけど。

「ここが家……?」

「すごいな、規模が違う。」

戸惑いを隠せないケイト達をハーブハウスに案内する。

「すごくいい香りだ。」

「なんだ、この空間は……」

「優しい世界だな……」

「ふふっ。気に入ってくれた?ここはハーブハウスよ。いつもここでハーブの研究をしてるの。」

「見たことないな、これは何?」

「これで植物から精油を抽出するのよ。実際にやってみましょうか。」

アイテムボックスからユーカリを取り出す。

「これはカームリーヒルの森にあったユーカリというハーブよ。まずこれを綺麗に洗うの。」

「お嬢様、それは私達が。」

「ありがとう。」

控えていたマリーが慣れた手つきで綺麗に洗ってくれる。

「綺麗に洗ったらこのユーカリを乾燥させるの。このまま日の当たる所に置いておくんたけど、もうケイト達には知られちゃったからいいかな。」

そう言いながら、魔法でユーカリの葉を乾燥させる。

「完全に水分が飛んだら準備完了よ!」

「今のは風魔法か?」

「えぇ。これで簡単に乾かすことができるわ。」

鍋にユーカリを入れて精製水を入れ、蓋をしっかり締める。
氷魔法で氷を作成したら、冷却装置に水と氷を入れて魔道コンロに火をつける。

「ほら、水蒸気が出てきたでしょう?これを冷却することで液体にするの。」

そう説明しながら冷却装置に入れる氷をどんどん追加していく。

「へぇ、すごいな。よく考えたな。」

「お嬢様、氷がもうないです。」

そう言われてまた氷魔法で氷を作る。

「……なんかさっきから魔法の使い方が独特だな?」

「え?氷魔法はこのために頑張ってマスターしたのよ?」

「「「本当に言ってる??」」」

「もちろんよ。」

「お嬢様のハーブにかける執念は半端ではないのです。」

なぜかマリーが得意顔だ。

「ほらみて?液体が溜まってきたでしょ?これがフローラルウォーター、上に浮いているのが精油よ。」

みんな興味深そうに見ている。

1時間程蒸留すれば、フローラルウォーターと精油の完成だ。

できたばかりのフローラルに精製水とグリセリンを混ぜてできた化粧水をケイト達に渡す。

「これは化粧水よ。このハーブには抗菌効果もあるの。良かったら使ってみて?」

「いいの?!」

「できれば感想を聞かせてもらえると嬉しいわ。」

「そんなことでよければ!」

ケイトがとても嬉しそうだ。

「ところでリナはなんでこんなにハーブを研究しているの?」

「自分のお店を持ちたいと思っているの。街でハンドクリームとか化粧水も買えるようになったと思うんだけど、知ってるかしら?」

「あぁ、あれな!凄く良くて私も使っているよ。」

「本当?嬉しいわ。あれ、私が作ったものなの。」

「えっ?!本当に??」

「そうなの。今はイーサンの所で販売しているだけだけど、来年には自分のお店を出すつもりよ。そこで出す新しいハーブをいろいろ試していたのよ。」

「そうだったんだ……。だから薬草採取を?」

「えぇ。冒険者登録したおかげで貴重な薬草が沢山採れたからね。あとはいろいろ調べたり、試作品を作ったりして、問題がなければ商品化するつもりよ。」

「そんな事全然知らなかったよ。」

「私も言うのは初めてよ?」

そんなことを話しながらハーブハウスでリラックスしていると、食事の時間になったようだ。

「お嬢様、そろそろお食事のお時間です。ケイト様、スコット様、アイザック様も是非ご一緒に。皆様をお待ちです。」





晩餐室へ行くとお父様はまだ来ていなかった。
フィルお兄様とクリスお兄様がなにやら難しい顔で話をしていたが、私を見るとぱぁっと明るい表情に変わる。

「エリィ!今日も可愛いね。あれ?この香りは初めてかな?」

久しぶりに会ったフィルお兄様は、そう言いながら私の匂いを嗅いでくる。昔から変態気味である。

「フィル兄上、エリィが戸惑ってますよ?こっちにおいでエリィ。客人もいるようだからね」

「クリスお兄様、フィルお兄様、こちらはケイト、スコット、アイザックです。カームリーヒルで仲良くなった友人なのです。」

「おぉ!あなたたちが!エリィをありがとう!」

公爵家の者から礼を言われて恐縮してしまっている。

「いえ、私達はなにも……」

「今日はゆっくりして行ってね。」

「じゃあ客人の皆さんはこちらにお座り下さい。エリィはここだよ。」

「えっ、でもここだとお父様が……」

「エリィ、僕の隣は嫌なの?」

クリスお兄様がやたらと隣の席を勧めてくる。そこへお父様とルークお兄様、アマンダお姉様がやって来た。

「何をしているんだ?」

「あ、いえ何でもありません。ほらエリィこっち!」

と焦りながら言うクリスお兄様に付いていくが、お父様に却下されてしまう。

「エリィはここだよ。」

指定された席はいつも通りお父様の隣だ。
クリスお兄様はあからさまに残念そうだ。フィルお兄様には笑われてしまった。

「さて、ケイト殿、スコット殿、アイザック殿。話は聞いている。君たちがエリィの友人になってくれたこと、心から嬉しく思う。ここにいる間はゆっくりしていってくれ。では乾杯。」

この日は私の魔法の話がメインだった。

「エリィ、シド殿が褒めていたよ。昼間見た氷魔法も見事だったね。」

「ありがとうございます。シドが教えてくれたお陰です。」

「エリィの魔法見てみたかったな。氷魔法なんてすごいじゃないか!」

「僕も氷漬けにされたブルーワイバーンを見たが、まるで彫刻にされた作り物のようだったよ。一撃で仕留めたんだろう?相当魔力を使ったんじゃないのか?」

「9割くらいの魔力を使いましたね。」

「エリィの魔力量で9割とは凄いね。」

「そりゃあブルーワイバーンでも即死だね。」

「そういえば、エリィの魔力量ってどのくらいあるの?」

「うーん、今は25000くらいですね。」

「「「えっ?!」」」

さすがにお父様達も予想以上だったらしい。

「どうやってそんなに増やしたの??」

「6歳の頃から毎日、限界ギリギリまで魔力を使って増やしてました。」

「毎日?!どうやってギリギリまで使いきるの?」

「午前中の魔法の授業と自習で8割使って、残りは寝る前に防御魔法とかで使い切ってましたよ?」

「すごい執念だね…」

「でもそれでどのくらい増えるの?」

「5~10くらいですね。毎日コツコツやれば最低でも一年で2000位は増えます。」

「今でも増やしているの?」

「20000を越えたあたりから毎日はやらなくなりましたが、それでも2.3日に一度はやりますね。ずっと日課にしていたことなので。」

「本当に頑張ったんだね。凄いよエリィ。」

「エリィ、他にはどんな魔法が使えるの?」

「飛翔魔法が得意です。」

「飛翔魔法すごいよな!ねぇ今度僕にも飛翔魔法を使ってみてよ?」

「もちろんです、フィルお兄様。」

「ねぇ、ブルーワイバーンを倒した時君たちもその場にいたの?」

「いえ、私達は話を聞いただけで実際には見ていないのです。」

「そうなんだ?エリィとは少しパーティーを組んでいたんだって?いいなぁ。僕も一緒にエリィと冒険とかしてみたい!」

そんな会話をしながら、楽しく食事の時間を終えたのだった。





「リナは家族に愛されているんだね」

「本当だな、もうみんなエリィが大好きって感じだったじゃないか。」

「いい家族だな」

「皆ありがとう。また会える?」

「あぁ、ここにはもう少しいるつもりだよ。」

「そう、良かったわ。化粧水の意見も聞きたいし!」

「あぁ。次に会った時のためにレポートにでもまとめておくよ!」

「ふふっ。ありがとう!じゃあまたね。気を付けて!」

「あぁ、じゃあまたな!」

ケイト達を乗せた馬車を見送って、長い一日が終わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

処理中です...