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70,手柄は誰のもの?

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屋敷に戻るとお父様達はすでに帰ってきていた。

その日の食事の時間は静かだった。
食事の時間が終わったら話そう、と思っているとお父様が、

「そういえば、ブルーワイバーンを討伐した冒険者が今日王都に着いたそうだよ。」

と私を見ながら言ってくる。
これからその件で相談しようと思っていたのに、凄いですよね、なんて間抜けなこと言えないわね。これはどう答えるのが正解なのかしら?と迷った挙げ句、

「ブルーワイバーンは強い魔物なのですか?」

なんて頓珍漢なことを聞いてしまった。

「Aランクは間違いないな。個体によっても差はあるけど、強い魔物であることは間違いないよ。それは未だに魔石化していないことが物語っているね。」

「そうなんですか……」

多分私の顔は引き攣っているんだろうな。

「騎士でもなかなか倒せない魔物なのですよ。」

と言うのはアマンダお姉様。

えっ、本当に?それ倒しちゃったなんて言えなくない?どうしよう……

「魔術師なら倒せるとは思うけど、かなりのレベルがないと難しいだろうな。」

そう言うお父様はじっと私の顔を見てくる。
……もしかして気づいてる?

「不思議なことなんだが、その冒険者達には魔術師はいないんだ。しかし、討伐されたブルーワイバーンは氷漬けにされていたんだ。しかもかなりの魔力で、だ。」

続けられたその言葉に確信した。

お父様やお兄様は私をじっと見てくる。
見つめ合う私とお父様。
お父様がこんな目で私を見るのは珍しい。

「…………」

「何か言うことがあるんじゃないかな?」

「……ごめんなさい。」

「ブルーワイバーンを討伐したのはエリィだね?」

「……私がケイト達に頼んだの。彼らは悪くないわ。何もないわよね?」

「それは大丈夫だよ。それより、何があったのか話してくれる?」

私はカームリーヒルでブルーワイバーンを討伐した時のことを少しずつ話した。
偶然不意打ちをしたから倒せたことを強調しておく。全てを聞き終えた後、

「エリィの魔法ってそんなに凄かったの?!」

「不意打ちにしても一撃で倒すのは無理だよ。」

「飛翔魔法に氷魔法……」

と驚くお兄様達と、

「子供の頃からシド殿が教えてくれたとはいえ、エリィの魔法レベルに達するには並大抵のことではないはずだ。よく何も言わず頑張ってきたね。」

と褒めてくれるお父様。

「エリィは何を目指して魔法を習っているの?」

とクリスお兄様は不思議そうに聞いてくる。

「いざという時の為です。力がなければ誰かを守ることもできませんから。」

「エリィは優しいね。ブルーワイバーンに掴まっているレイノルド殿を見た時は驚いただろう?」

「はい。後悔はしていません。でも、それを隠すことでケイト達に丸投げしてしまったから……。それでケイト達が不利になることは本意ではないのです。」

そう言うと皆頷いてくれた。

「でもどうして他人に丸投げなんてしようとしたの?アイテムボックスがあるなら、ずっと入れておけばよかったのでは?」

「レイを助けた経緯を話すときにブルーワイバーンの事も話したので。それに、アイテムボックスとはいえずっとあの魔物を持っていると思うと気味が悪くなってしまって。」

「ははっ、ブルーワイバーンを倒す実力があるのに気味が悪いって、エリィらしいね。」

「確かにエリィらしい。」

「エリィ、話してくれてありがとう。」

そう言うお父様はいつもの柔らかい笑みを浮かべていた。

「お父様、明日ケイト達とギルドに行って本当のことを話そうと思うのです。お昼に行くことになっているので。」

「そうか。ならば私も一緒に行こう。シド殿も連れて行く。」

「えっ、いいのですか?!」

「エリィの友人にも是非会っておきたいからね。」

「ありがとうございます、お父様。」





翌日は学園を休み、騎士団長のお父様と王宮筆頭魔術師であるシドと共にケイト達の泊まる宿へ向かった。

「ケイト達を呼んでくるわ。少し待っていて下さい。」

わざわざ馬車で来ているというと驚かれてしまったが、一緒にギルドへ向かう。
すぐ近くなのでわざわざ馬車に乗る必要もないんだけどね。

ギルドの中へ入ると一斉にお父様に礼をとる。事前に来ることを知っていたらしいギルドマスターは受付で待っていた。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」

と二階にある応接室に通された。

「ブルーワイバーンの件、確認していただけましたか?」

「あぁ、立派な氷魔法だ。かなりの使い手だな。あれではあのブルーワイバーンでも即死だったでしょう。」

「本当に見事です。素晴しい。あれは芸術ですよ。」

シド、その台詞は何か変態みたいよ?
と突っ込みたいのをぐっと堪える。

「やはりあれは氷魔法ですね?」

「それ以外に何があると言うのです?」

「彼らは氷魔法など使えないはずです。昨日は仲間がいたと言っていたが、やはりそれは嘘で君たちがやったわけではないのだな?」

ギルドマスターはケイト達を睨む。

「いいえ、ギルドマスター。彼らの仲間が討伐したのは間違いありません。」

「あなたは?」

「私はエリナリーゼ・リフレインと申します。この夏カームリーヒルで過ごしていた折、彼らと一時パーティーを組んで活動しておりました。ブルーワイバーンを討伐した時は一人でしたが、彼らが私の信頼できる仲間であることは間違いありません。」

「あなたが倒したというのですか?」

「そうです。」

「……信じられませんな。…では実際に氷魔法を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「そんなことするまでもない。お嬢は私の一番弟子ですよ?私が10年以上手塩にかけて育てている大切なお嬢になんと無礼な!」
不信感を露わにしたギルドマスターに対して、シドが怒り気味だ。

「も、申し訳ございません、シド様。ですが、念の為確認させていただきたいのです。」

「いいのよシド。何をお見せすればよろしいですか?」

「では氷魔法をお願いします。」

私はコップの水を凍らせて見せる。

「素晴しい速さですね、お嬢!また上達したんじゃないですか?」

シドは嬉しそうだ。
最近でこそ褒めてくれることも多くなったが、最初は全く褒めてくれなかったなぁ。

「本当に……氷魔法をしかも無詠唱で……」

「ちなみにお嬢は氷魔法だけでなく、全属性の基本魔法は完璧です。その他にも飛翔魔法や転移魔法の貴重な使い手で、王宮の魔術師になれる程の実力があります。」

隠していた事実をあっさりとバラされて、居心地が悪い私とは逆にシドが得意げにそう言うと、応接室にいる者全員の視線が私に集中した。
お父様も目を見開いて私を見た後、こう続けた。

「…それで、ブルーワイバーンを討伐したのは結局誰ということにしようか?」

再び皆が私を見る。

「誰が倒したかは伏せておく、というのはどうかしら?」

「……どうしてそんなに隠したがるんだ?」

ケイト達は心底不思議そうだ。
しかしお父様たちはその意味をもちろんわかっている。

「ではエリィの提案を汲むとしよう。ということでギルドマスター、後は任せたよ。くれぐれもエリィの名前を出さないようにね。」

「わ……わかりました。」

こうして私はなんとか乗り切ることができたのだった。
ただ、この件がレイの知るところとなって質問攻めにあったのはまた別の話。





「お父様、本当にありがとうございました。」

「いいんだよ。初めてのエリィの我儘だったからね。聞かないわけにはいかないだろう?」

「そうですよ!このくらいは騎士団長がなんとかしてくれますって。お嬢はどーんと構えてればいいんですよ!」

「そうだよ、別に何も変なことしてないんだから。むしろ胸を張った方がいい。」

「ケイト、ありがとう。」

「ほらほらよしよし。」

私とケイトのそんなやり取りをみて、お父様は

「ケイト殿、ありがとう。」

と頭を下げた。

「えっ、いやいやそんな。公爵様に礼を言われることなどは何もしていません。」

「お父様、こちらはスコットとアイザックよ。皆私の大事な友達なの。」

私がケイトとばっかり話しているから、忘れられがちな二人を紹介する。

「スコット、アイザック、こちらが私の大切なお父様よ。」

「皆、カームリーヒルでは娘をありがとう。」

「いえ俺達、特になにもしてないですから。」

「じゃあエリィ、私とシド殿は戻ることにするよ。君達も嫌でなければ屋敷に来ると良い。歓迎するよ。」

お父様は、いつもの柔らかい笑みを浮かべてそう言った。

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