積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと

文字の大きさ
上 下
66 / 78

66,ヴィークの暴走

しおりを挟む
騎士団長のみが許される正装姿のお父様は本当に素敵だ。お父様達にエスコートされて久しぶりに王宮へ行く。
どうやら今日はフォーメーションCらしい。
何なのかしら、本当に。
ちなみに私の隣にお父様とフィルお兄様、前にクリスお兄様、後ろにフレディ、という陣形?である。

会場に入ると一斉に視線を受けた。騎士団長のお父様が登場したからかもしれないが、こういった視線は久しぶりだ。
お父様達と離れて壁の花になろうとすると、ヴィークとカイルが私の元へやって来るのが見えた。
見つかるの早いわと思いつつも、

「ヴィーク!久しぶりね。」

と笑顔で挨拶する。ほらね、もう大丈夫。

「エリィ!会いたかったよ!手紙読んだよ。こっちにいなかったんだって?」

「そうなの、ごめんね。沢山手紙くれてたのに、返せなくて申し訳ないわ。」

「今日のドレスもとても似合っていて綺麗だけど、私が贈りたかったな。エスコートもしたかったな。」

と言うヴィークを愛想笑いでスルーして、一緒にいるカイルに話し掛ける。

「カイルも久しぶりね。」

「久しぶり。元気そうだね。」

「カイルはまた大きくなったわね?」

「鍛えてるからな。」

「頼もしいわね。」

もうペタペタと筋肉を触るようなことはしない。嫌いな女にそんな事されたら気持ち悪いでしょうし。
そう思っていると、ヴィークがいつもよりも色気を放った声で

「ねぇエリィ、話があるんだけど少し時間いいかな?」

と言ってきた。
正直、私はできればあまり話したくない。
そう思い、とっさに断ってしまった。

「ごめんね、お父様の所へ行かないと。後でもいい?」

「うん、じゃあ後で。」

特に行く用事もなかったが、そう言い残した手前お父様の元へ行く。
背中に怖いくらいの視線を感じる。
すっごい見てくるわね。何でそんなに見てくるのかしら。やっぱり私太った?

お父様と目が合うと、こっちにおいでと手で合図をされる。良かった。

「エリィ、紹介しておきたい人がいるんだ。こっちにおいで。」

そしてお父様の隣にいる人を見て、お互い顔を見合わせてしまった。

「エリィ、こちらはベルリンツ王国で騎士団長をしておられるレイノルド殿だよ。レイノルド殿、こちらは私の娘のエリナリーゼです。」

「エリナリーゼ様、レイノルド・アルメリアでございます。以後お見知りおきを。」

何事もなかったように柔らかい笑みを浮かべて紳士の振る舞いをするレイに合わせて、私も同様に挨拶をする。

「レイノルド様、エリナリーゼ・リフレインでございます。こちらこそどうぞ宜しくお願い致します。」

私達が顔を見合わせて笑顔でいると、お父様の顔が少し引きつっている。

「もしかして二人は知り合いなのですか?」

「先日お話したカームリーヒルで助けてくれた方が、こちらのエリナリーゼ様なのです。」

「……そうなの?」

「えぇ、まぁ。偶然だったのだけど。」

「それでも命の恩人であることは間違いありません。」

持ち上げられて気まずいので、アイコンタクトをすると、

「ではまた後ほど。」

と笑顔で言い残し、どこかへ行ってしまった。

「エリィ?」

お父様が何か言いたげな顔をしている。
こんな時は逃げることしかできない。

「えっと……、私ちょっとお花を積みに行って参りますわ。」

会場戻るとお父様は騎士団の皆と話をしているのが見えたので、私は楽器団の方へ向かい演奏が終るタイミングで話しかけた。

「少しよろしいかしら?」

「お弾きになられるのですか?」

「いい?」

「もちろんです!」

「ありがとう。」

弾くのはカームリーヒルで弾いたあの3曲だ。あの地とケイトたちを思い、心を込めて歌う。
弾き終わると会場は歓声と拍手に包まれた。

私は一言、

「騎士の方々に栄光あれ!」

というとますます歓声は大きくなった。

お父様とお兄様は号泣している。
アンコールを求められそうになったので、少し控室で休憩しようと思って柱の脇をすり抜ける。
しかしそこでヴィークに掴まってしまった。しかも手を掴まれている。その瞳には捕食者の光が宿っていてもう逃さない、と言わんばかりだ。

「エリィ、相変わらず素晴しい歌だね。感動したよ。」

「ありがとう、ヴィーク。」

「雰囲気も変わったね。すごく綺麗だよ。」

私を見る優しげな目と、その甘い声で言われるとつい勘違いしてしまいそうになる。

「ごめんね、ヴィーク。ちょっとお花を摘みに行きたいの。手を離してもらっても?」

「あ、ごめんね。引き止めちゃって。」

「いいのよ。またね。」

居心地が悪くて逃げてしまった。
そういえば何か話があると言っていたな。
なんだろう?

その後会場になんとなく戻りずらくなってしまった私は、庭園で夜に浮かぶ月を眺めていた。

「リナ。さっきはびっくりしたよ。まさかリフレイン家のご令嬢なんて思ってなかったから。」

聞き覚えのある、安心する声に振り返る。

「レイまでそういうこと言わないでよ。」

「はは、ごめんね。さっきの歌、素晴しい歌だったよ。」

「あれはカームリーヒルにいて皆と過ごした時間があったからできた歌よ。」

……前世の曲だけども。

少しの沈黙の後、レイは真面目な顔をして私を見つめながら言った。

「ねぇリナ、俺の婚約者にならない?」

思いがけない言葉に固まってしまう。

「え?どういう意味?」

そう言うのと同時に、レイの大きい身体に抱き締められる。
温かくていい香り。優しくて力強い。すごく心地良い。
壊れそうなものを大切に扱うように抱き締める。
この人はこうやって抱き締めてくれる人だ。

髪の毛を撫でられながら、

「愛してる。」

そう言われた途端、全身の血が逆流するかのような興奮を感じた。
しかし、レイの事はそういう目で見ていなかったので戸惑いを隠せない。

「今度は俺がリナを守るよ。」

「レイ、すごく嬉しいわ。ありがとう。
でも婚約者の話は即決はできないわ。少し考えさせてくれる?」

「あぁ。もちろん。」

暫くそうして抱きしめられていた。
私はどうしていいかわからずに、ただされるがままになっていた。
そろそろ会場へ戻ろうと足を向けたその先に、ヴィークが立っていた。
いつからいたのだろう?

「ヴィーク、こんなところでどうしたの?」

「……いや、エリィの帰りが遅いなと思って探しに来たんだ。」

「そうだったの、ごめんね。ちょっと涼んでいたの。」

「そっか。」

気まずい。すっごく気まずい。別に悪いことをしているわけではないのだけれど。

「私はそろそろ帰るわね。お父様たちに挨拶してくるわ。」

「……うん。」

ヴィークは何か言いたそうだっが、私の腰に手を回しているレイに鋭い視線を向けるだけだった。



私はその後お父様に挨拶をして、王宮を後にしようと馬車へ乗り込もうとしていた。

「エリィ!!」

「ヴィーク。そんなに急いでどうしたの?」

「どうしたのって……、後で話があると言ったよね?」

「ごめんなさい、そうだったわね。」

何か切羽詰まった様子だ。ヴィークのこんな様子は珍しい。
今日じゃなければいけないことなのかしら?

「落ち着いたところで話したいんだ。付いてきてくれる?」

そう言われると断れない。というかもう断るすべがない。
王宮の中をどんどん進んでいき、プライベートエリアにくる。

「ちょっと待って?どこに行くの?」

「こっちだよ。」

手を引かれて連れて来られたのは、ヴィークの私室だった。
どうしてわざわざ私室に?一体何の話なの?
動揺する気持ちを抑えて、平静を装う。

「ヴィークの部屋に来るのは久しぶりね。」

「うん、そうだね。」

部屋に入ると彼は距離を詰めてくる。
後ずさりする私。
とうとう壁際に追い込まれてしまう。

「なに?なにか怒っているの?」

こんなヴィークは初めてなので少し怖い。
笑顔だが全く目が笑っていないのだ。

「……エリィ、レイノルド殿とはどういう関係なの?」

「え……何急に?どうしてそんな事を聞くの?」

「さっき抱き合っていただろう?」

やっぱり見ていたのか。でもそれとヴィークにどんな関係があるの?
何も言えずにいると、ヴィークは私を抱き締めてくる。

「エリィ……エリィ。エリィ愛してる。……愛してるんだ。」

……何を言っているの?さすがに混乱するわ。

「…ヴィークはジュエル王女と結婚するのでしょう?」

「……何それ?誰がそんな事を言ったの?」

「誰って……。だって学園ではあんなに親しげだったから。」

「それは……王族の者が留学しているのだから、私が世話をせざるを得なかったんだよ。」

似た言葉のニュアンスを聞いたことがある。
この人は私のこともそう言っていた。
それを思い出したら、スッと何かが冷めていくようだった。

「ヴィーク、とりあえず離してくれる?」

「嫌だ。」

こんなに強引な人だったかしら?

「……痛いわ、離してヴィーク。」

「どうして私から離れようとするの?前は嫌がることなんてなかったのに。」

私を離すそぶりはなく、そう言いながらも髪や顔を撫でる手つきがとても優しい。

「愛してるんだ。お願いだ、エリィ。」

口づけをされそうになって、思わず押し返してしまった。

「なんで……」

ひどくショックを受けているヴィークを見ると、何が本当なのかわからなくなる。

「ヴィークがジュエル王女に、お父様に言われて仕方なく私と仲良くしてるって言っているのを聞いたわ。
あなたははっきりとそう言ってた。友達と思っていたのは私だけだったのよね。」

暫く間をおいた後、

「私は君のことは最初から友達だなんて思えなかったよ。今でも友達になってほしいと言ってしまった事をとても後悔している。」

と言われた。こんなにはっきりと言われるなんて。
胸が苦しい。泣きそうだ。

「……そう。ごめんね……、私といるのは苦痛だったでしょう。」

「私は最初から君のことを愛していたんだ。最初から婚約者になってほしいと言えば良かった。私の妻になってエリィ。お願い。誰よりも愛してる。」

そう言いながら強引に口づけされてしまった。

ヴィークは騎士団にも所属しているし、細く見えるが鍛えているのがよくわかる。力はとても強く私が逃げられるはずもない。
不味い、これは完全に不味いパターンだ。
ヴィークは私を離そうとしないし、どうしたらいい?
かといってヴィーク相手に魔法は使いたくない。

そうこうしている間に私の胸に顔を埋め、胸元にも口づけをしてくる。
止めてほしいと何度行っても止めてくれない。このままだと本当に貞操の危機である。
ドレスを脱がされそうになったので、かなり強く抵抗した。

「お願い、やめてヴィーク!今日は月のものがきていて、体調もあまり良くないのよ。」

「月のもの……?」

「そうよ、だからこれ以上は止めて?お願い。」

さすがにこう言えば止めてくれるわよね?

「私の提案を受け入れてくれるなら止めてあげるよ。」

「提案て?」

「私の妻になって。お願い。」

1日で2人にプロポーズされてしまった。

「即決はできないわ。考えるから。だからもう家に帰して。お願い。」

そう言うと渋々ヴィークは私を離した。

「馬車まで送るよ。」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

処理中です...