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66,ヴィークの暴走
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騎士団長のみが許される正装姿のお父様は本当に素敵だ。お父様達にエスコートされて久しぶりに王宮へ行く。
どうやら今日はフォーメーションCらしい。
何なのかしら、本当に。
ちなみに私の隣にお父様とフィルお兄様、前にクリスお兄様、後ろにフレディ、という陣形?である。
会場に入ると一斉に視線を受けた。騎士団長のお父様が登場したからかもしれないが、こういった視線は久しぶりだ。
お父様達と離れて壁の花になろうとすると、ヴィークとカイルが私の元へやって来るのが見えた。
見つかるの早いわと思いつつも、
「ヴィーク!久しぶりね。」
と笑顔で挨拶する。ほらね、もう大丈夫。
「エリィ!会いたかったよ!手紙読んだよ。こっちにいなかったんだって?」
「そうなの、ごめんね。沢山手紙くれてたのに、返せなくて申し訳ないわ。」
「今日のドレスもとても似合っていて綺麗だけど、私が贈りたかったな。エスコートもしたかったな。」
と言うヴィークを愛想笑いでスルーして、一緒にいるカイルに話し掛ける。
「カイルも久しぶりね。」
「久しぶり。元気そうだね。」
「カイルはまた大きくなったわね?」
「鍛えてるからな。」
「頼もしいわね。」
もうペタペタと筋肉を触るようなことはしない。嫌いな女にそんな事されたら気持ち悪いでしょうし。
そう思っていると、ヴィークがいつもよりも色気を放った声で
「ねぇエリィ、話があるんだけど少し時間いいかな?」
と言ってきた。
正直、私はできればあまり話したくない。
そう思い、とっさに断ってしまった。
「ごめんね、お父様の所へ行かないと。後でもいい?」
「うん、じゃあ後で。」
特に行く用事もなかったが、そう言い残した手前お父様の元へ行く。
背中に怖いくらいの視線を感じる。
すっごい見てくるわね。何でそんなに見てくるのかしら。やっぱり私太った?
お父様と目が合うと、こっちにおいでと手で合図をされる。良かった。
「エリィ、紹介しておきたい人がいるんだ。こっちにおいで。」
そしてお父様の隣にいる人を見て、お互い顔を見合わせてしまった。
「エリィ、こちらはベルリンツ王国で騎士団長をしておられるレイノルド殿だよ。レイノルド殿、こちらは私の娘のエリナリーゼです。」
「エリナリーゼ様、レイノルド・アルメリアでございます。以後お見知りおきを。」
何事もなかったように柔らかい笑みを浮かべて紳士の振る舞いをするレイに合わせて、私も同様に挨拶をする。
「レイノルド様、エリナリーゼ・リフレインでございます。こちらこそどうぞ宜しくお願い致します。」
私達が顔を見合わせて笑顔でいると、お父様の顔が少し引きつっている。
「もしかして二人は知り合いなのですか?」
「先日お話したカームリーヒルで助けてくれた方が、こちらのエリナリーゼ様なのです。」
「……そうなの?」
「えぇ、まぁ。偶然だったのだけど。」
「それでも命の恩人であることは間違いありません。」
持ち上げられて気まずいので、アイコンタクトをすると、
「ではまた後ほど。」
と笑顔で言い残し、どこかへ行ってしまった。
「エリィ?」
お父様が何か言いたげな顔をしている。
こんな時は逃げることしかできない。
「えっと……、私ちょっとお花を積みに行って参りますわ。」
会場戻るとお父様は騎士団の皆と話をしているのが見えたので、私は楽器団の方へ向かい演奏が終るタイミングで話しかけた。
「少しよろしいかしら?」
「お弾きになられるのですか?」
「いい?」
「もちろんです!」
「ありがとう。」
弾くのはカームリーヒルで弾いたあの3曲だ。あの地とケイトたちを思い、心を込めて歌う。
弾き終わると会場は歓声と拍手に包まれた。
私は一言、
「騎士の方々に栄光あれ!」
というとますます歓声は大きくなった。
お父様とお兄様は号泣している。
アンコールを求められそうになったので、少し控室で休憩しようと思って柱の脇をすり抜ける。
しかしそこでヴィークに掴まってしまった。しかも手を掴まれている。その瞳には捕食者の光が宿っていてもう逃さない、と言わんばかりだ。
「エリィ、相変わらず素晴しい歌だね。感動したよ。」
「ありがとう、ヴィーク。」
「雰囲気も変わったね。すごく綺麗だよ。」
私を見る優しげな目と、その甘い声で言われるとつい勘違いしてしまいそうになる。
「ごめんね、ヴィーク。ちょっとお花を摘みに行きたいの。手を離してもらっても?」
「あ、ごめんね。引き止めちゃって。」
「いいのよ。またね。」
居心地が悪くて逃げてしまった。
そういえば何か話があると言っていたな。
なんだろう?
その後会場になんとなく戻りずらくなってしまった私は、庭園で夜に浮かぶ月を眺めていた。
「リナ。さっきはびっくりしたよ。まさかリフレイン家のご令嬢なんて思ってなかったから。」
聞き覚えのある、安心する声に振り返る。
「レイまでそういうこと言わないでよ。」
「はは、ごめんね。さっきの歌、素晴しい歌だったよ。」
「あれはカームリーヒルにいて皆と過ごした時間があったからできた歌よ。」
……前世の曲だけども。
少しの沈黙の後、レイは真面目な顔をして私を見つめながら言った。
「ねぇリナ、俺の婚約者にならない?」
思いがけない言葉に固まってしまう。
「え?どういう意味?」
そう言うのと同時に、レイの大きい身体に抱き締められる。
温かくていい香り。優しくて力強い。すごく心地良い。
壊れそうなものを大切に扱うように抱き締める。
この人はこうやって抱き締めてくれる人だ。
髪の毛を撫でられながら、
「愛してる。」
そう言われた途端、全身の血が逆流するかのような興奮を感じた。
しかし、レイの事はそういう目で見ていなかったので戸惑いを隠せない。
「今度は俺がリナを守るよ。」
「レイ、すごく嬉しいわ。ありがとう。
でも婚約者の話は即決はできないわ。少し考えさせてくれる?」
「あぁ。もちろん。」
暫くそうして抱きしめられていた。
私はどうしていいかわからずに、ただされるがままになっていた。
そろそろ会場へ戻ろうと足を向けたその先に、ヴィークが立っていた。
いつからいたのだろう?
「ヴィーク、こんなところでどうしたの?」
「……いや、エリィの帰りが遅いなと思って探しに来たんだ。」
「そうだったの、ごめんね。ちょっと涼んでいたの。」
「そっか。」
気まずい。すっごく気まずい。別に悪いことをしているわけではないのだけれど。
「私はそろそろ帰るわね。お父様たちに挨拶してくるわ。」
「……うん。」
ヴィークは何か言いたそうだっが、私の腰に手を回しているレイに鋭い視線を向けるだけだった。
私はその後お父様に挨拶をして、王宮を後にしようと馬車へ乗り込もうとしていた。
「エリィ!!」
「ヴィーク。そんなに急いでどうしたの?」
「どうしたのって……、後で話があると言ったよね?」
「ごめんなさい、そうだったわね。」
何か切羽詰まった様子だ。ヴィークのこんな様子は珍しい。
今日じゃなければいけないことなのかしら?
「落ち着いたところで話したいんだ。付いてきてくれる?」
そう言われると断れない。というかもう断るすべがない。
王宮の中をどんどん進んでいき、プライベートエリアにくる。
「ちょっと待って?どこに行くの?」
「こっちだよ。」
手を引かれて連れて来られたのは、ヴィークの私室だった。
どうしてわざわざ私室に?一体何の話なの?
動揺する気持ちを抑えて、平静を装う。
「ヴィークの部屋に来るのは久しぶりね。」
「うん、そうだね。」
部屋に入ると彼は距離を詰めてくる。
後ずさりする私。
とうとう壁際に追い込まれてしまう。
「なに?なにか怒っているの?」
こんなヴィークは初めてなので少し怖い。
笑顔だが全く目が笑っていないのだ。
「……エリィ、レイノルド殿とはどういう関係なの?」
「え……何急に?どうしてそんな事を聞くの?」
「さっき抱き合っていただろう?」
やっぱり見ていたのか。でもそれとヴィークにどんな関係があるの?
何も言えずにいると、ヴィークは私を抱き締めてくる。
「エリィ……エリィ。エリィ愛してる。……愛してるんだ。」
……何を言っているの?さすがに混乱するわ。
「…ヴィークはジュエル王女と結婚するのでしょう?」
「……何それ?誰がそんな事を言ったの?」
「誰って……。だって学園ではあんなに親しげだったから。」
「それは……王族の者が留学しているのだから、私が世話をせざるを得なかったんだよ。」
似た言葉のニュアンスを聞いたことがある。
この人は私のこともそう言っていた。
それを思い出したら、スッと何かが冷めていくようだった。
「ヴィーク、とりあえず離してくれる?」
「嫌だ。」
こんなに強引な人だったかしら?
「……痛いわ、離してヴィーク。」
「どうして私から離れようとするの?前は嫌がることなんてなかったのに。」
私を離すそぶりはなく、そう言いながらも髪や顔を撫でる手つきがとても優しい。
「愛してるんだ。お願いだ、エリィ。」
口づけをされそうになって、思わず押し返してしまった。
「なんで……」
ひどくショックを受けているヴィークを見ると、何が本当なのかわからなくなる。
「ヴィークがジュエル王女に、お父様に言われて仕方なく私と仲良くしてるって言っているのを聞いたわ。
あなたははっきりとそう言ってた。友達と思っていたのは私だけだったのよね。」
暫く間をおいた後、
「私は君のことは最初から友達だなんて思えなかったよ。今でも友達になってほしいと言ってしまった事をとても後悔している。」
と言われた。こんなにはっきりと言われるなんて。
胸が苦しい。泣きそうだ。
「……そう。ごめんね……、私といるのは苦痛だったでしょう。」
「私は最初から君のことを愛していたんだ。最初から婚約者になってほしいと言えば良かった。私の妻になってエリィ。お願い。誰よりも愛してる。」
そう言いながら強引に口づけされてしまった。
ヴィークは騎士団にも所属しているし、細く見えるが鍛えているのがよくわかる。力はとても強く私が逃げられるはずもない。
不味い、これは完全に不味いパターンだ。
ヴィークは私を離そうとしないし、どうしたらいい?
かといってヴィーク相手に魔法は使いたくない。
そうこうしている間に私の胸に顔を埋め、胸元にも口づけをしてくる。
止めてほしいと何度行っても止めてくれない。このままだと本当に貞操の危機である。
ドレスを脱がされそうになったので、かなり強く抵抗した。
「お願い、やめてヴィーク!今日は月のものがきていて、体調もあまり良くないのよ。」
「月のもの……?」
「そうよ、だからこれ以上は止めて?お願い。」
さすがにこう言えば止めてくれるわよね?
「私の提案を受け入れてくれるなら止めてあげるよ。」
「提案て?」
「私の妻になって。お願い。」
1日で2人にプロポーズされてしまった。
「即決はできないわ。考えるから。だからもう家に帰して。お願い。」
そう言うと渋々ヴィークは私を離した。
「馬車まで送るよ。」
どうやら今日はフォーメーションCらしい。
何なのかしら、本当に。
ちなみに私の隣にお父様とフィルお兄様、前にクリスお兄様、後ろにフレディ、という陣形?である。
会場に入ると一斉に視線を受けた。騎士団長のお父様が登場したからかもしれないが、こういった視線は久しぶりだ。
お父様達と離れて壁の花になろうとすると、ヴィークとカイルが私の元へやって来るのが見えた。
見つかるの早いわと思いつつも、
「ヴィーク!久しぶりね。」
と笑顔で挨拶する。ほらね、もう大丈夫。
「エリィ!会いたかったよ!手紙読んだよ。こっちにいなかったんだって?」
「そうなの、ごめんね。沢山手紙くれてたのに、返せなくて申し訳ないわ。」
「今日のドレスもとても似合っていて綺麗だけど、私が贈りたかったな。エスコートもしたかったな。」
と言うヴィークを愛想笑いでスルーして、一緒にいるカイルに話し掛ける。
「カイルも久しぶりね。」
「久しぶり。元気そうだね。」
「カイルはまた大きくなったわね?」
「鍛えてるからな。」
「頼もしいわね。」
もうペタペタと筋肉を触るようなことはしない。嫌いな女にそんな事されたら気持ち悪いでしょうし。
そう思っていると、ヴィークがいつもよりも色気を放った声で
「ねぇエリィ、話があるんだけど少し時間いいかな?」
と言ってきた。
正直、私はできればあまり話したくない。
そう思い、とっさに断ってしまった。
「ごめんね、お父様の所へ行かないと。後でもいい?」
「うん、じゃあ後で。」
特に行く用事もなかったが、そう言い残した手前お父様の元へ行く。
背中に怖いくらいの視線を感じる。
すっごい見てくるわね。何でそんなに見てくるのかしら。やっぱり私太った?
お父様と目が合うと、こっちにおいでと手で合図をされる。良かった。
「エリィ、紹介しておきたい人がいるんだ。こっちにおいで。」
そしてお父様の隣にいる人を見て、お互い顔を見合わせてしまった。
「エリィ、こちらはベルリンツ王国で騎士団長をしておられるレイノルド殿だよ。レイノルド殿、こちらは私の娘のエリナリーゼです。」
「エリナリーゼ様、レイノルド・アルメリアでございます。以後お見知りおきを。」
何事もなかったように柔らかい笑みを浮かべて紳士の振る舞いをするレイに合わせて、私も同様に挨拶をする。
「レイノルド様、エリナリーゼ・リフレインでございます。こちらこそどうぞ宜しくお願い致します。」
私達が顔を見合わせて笑顔でいると、お父様の顔が少し引きつっている。
「もしかして二人は知り合いなのですか?」
「先日お話したカームリーヒルで助けてくれた方が、こちらのエリナリーゼ様なのです。」
「……そうなの?」
「えぇ、まぁ。偶然だったのだけど。」
「それでも命の恩人であることは間違いありません。」
持ち上げられて気まずいので、アイコンタクトをすると、
「ではまた後ほど。」
と笑顔で言い残し、どこかへ行ってしまった。
「エリィ?」
お父様が何か言いたげな顔をしている。
こんな時は逃げることしかできない。
「えっと……、私ちょっとお花を積みに行って参りますわ。」
会場戻るとお父様は騎士団の皆と話をしているのが見えたので、私は楽器団の方へ向かい演奏が終るタイミングで話しかけた。
「少しよろしいかしら?」
「お弾きになられるのですか?」
「いい?」
「もちろんです!」
「ありがとう。」
弾くのはカームリーヒルで弾いたあの3曲だ。あの地とケイトたちを思い、心を込めて歌う。
弾き終わると会場は歓声と拍手に包まれた。
私は一言、
「騎士の方々に栄光あれ!」
というとますます歓声は大きくなった。
お父様とお兄様は号泣している。
アンコールを求められそうになったので、少し控室で休憩しようと思って柱の脇をすり抜ける。
しかしそこでヴィークに掴まってしまった。しかも手を掴まれている。その瞳には捕食者の光が宿っていてもう逃さない、と言わんばかりだ。
「エリィ、相変わらず素晴しい歌だね。感動したよ。」
「ありがとう、ヴィーク。」
「雰囲気も変わったね。すごく綺麗だよ。」
私を見る優しげな目と、その甘い声で言われるとつい勘違いしてしまいそうになる。
「ごめんね、ヴィーク。ちょっとお花を摘みに行きたいの。手を離してもらっても?」
「あ、ごめんね。引き止めちゃって。」
「いいのよ。またね。」
居心地が悪くて逃げてしまった。
そういえば何か話があると言っていたな。
なんだろう?
その後会場になんとなく戻りずらくなってしまった私は、庭園で夜に浮かぶ月を眺めていた。
「リナ。さっきはびっくりしたよ。まさかリフレイン家のご令嬢なんて思ってなかったから。」
聞き覚えのある、安心する声に振り返る。
「レイまでそういうこと言わないでよ。」
「はは、ごめんね。さっきの歌、素晴しい歌だったよ。」
「あれはカームリーヒルにいて皆と過ごした時間があったからできた歌よ。」
……前世の曲だけども。
少しの沈黙の後、レイは真面目な顔をして私を見つめながら言った。
「ねぇリナ、俺の婚約者にならない?」
思いがけない言葉に固まってしまう。
「え?どういう意味?」
そう言うのと同時に、レイの大きい身体に抱き締められる。
温かくていい香り。優しくて力強い。すごく心地良い。
壊れそうなものを大切に扱うように抱き締める。
この人はこうやって抱き締めてくれる人だ。
髪の毛を撫でられながら、
「愛してる。」
そう言われた途端、全身の血が逆流するかのような興奮を感じた。
しかし、レイの事はそういう目で見ていなかったので戸惑いを隠せない。
「今度は俺がリナを守るよ。」
「レイ、すごく嬉しいわ。ありがとう。
でも婚約者の話は即決はできないわ。少し考えさせてくれる?」
「あぁ。もちろん。」
暫くそうして抱きしめられていた。
私はどうしていいかわからずに、ただされるがままになっていた。
そろそろ会場へ戻ろうと足を向けたその先に、ヴィークが立っていた。
いつからいたのだろう?
「ヴィーク、こんなところでどうしたの?」
「……いや、エリィの帰りが遅いなと思って探しに来たんだ。」
「そうだったの、ごめんね。ちょっと涼んでいたの。」
「そっか。」
気まずい。すっごく気まずい。別に悪いことをしているわけではないのだけれど。
「私はそろそろ帰るわね。お父様たちに挨拶してくるわ。」
「……うん。」
ヴィークは何か言いたそうだっが、私の腰に手を回しているレイに鋭い視線を向けるだけだった。
私はその後お父様に挨拶をして、王宮を後にしようと馬車へ乗り込もうとしていた。
「エリィ!!」
「ヴィーク。そんなに急いでどうしたの?」
「どうしたのって……、後で話があると言ったよね?」
「ごめんなさい、そうだったわね。」
何か切羽詰まった様子だ。ヴィークのこんな様子は珍しい。
今日じゃなければいけないことなのかしら?
「落ち着いたところで話したいんだ。付いてきてくれる?」
そう言われると断れない。というかもう断るすべがない。
王宮の中をどんどん進んでいき、プライベートエリアにくる。
「ちょっと待って?どこに行くの?」
「こっちだよ。」
手を引かれて連れて来られたのは、ヴィークの私室だった。
どうしてわざわざ私室に?一体何の話なの?
動揺する気持ちを抑えて、平静を装う。
「ヴィークの部屋に来るのは久しぶりね。」
「うん、そうだね。」
部屋に入ると彼は距離を詰めてくる。
後ずさりする私。
とうとう壁際に追い込まれてしまう。
「なに?なにか怒っているの?」
こんなヴィークは初めてなので少し怖い。
笑顔だが全く目が笑っていないのだ。
「……エリィ、レイノルド殿とはどういう関係なの?」
「え……何急に?どうしてそんな事を聞くの?」
「さっき抱き合っていただろう?」
やっぱり見ていたのか。でもそれとヴィークにどんな関係があるの?
何も言えずにいると、ヴィークは私を抱き締めてくる。
「エリィ……エリィ。エリィ愛してる。……愛してるんだ。」
……何を言っているの?さすがに混乱するわ。
「…ヴィークはジュエル王女と結婚するのでしょう?」
「……何それ?誰がそんな事を言ったの?」
「誰って……。だって学園ではあんなに親しげだったから。」
「それは……王族の者が留学しているのだから、私が世話をせざるを得なかったんだよ。」
似た言葉のニュアンスを聞いたことがある。
この人は私のこともそう言っていた。
それを思い出したら、スッと何かが冷めていくようだった。
「ヴィーク、とりあえず離してくれる?」
「嫌だ。」
こんなに強引な人だったかしら?
「……痛いわ、離してヴィーク。」
「どうして私から離れようとするの?前は嫌がることなんてなかったのに。」
私を離すそぶりはなく、そう言いながらも髪や顔を撫でる手つきがとても優しい。
「愛してるんだ。お願いだ、エリィ。」
口づけをされそうになって、思わず押し返してしまった。
「なんで……」
ひどくショックを受けているヴィークを見ると、何が本当なのかわからなくなる。
「ヴィークがジュエル王女に、お父様に言われて仕方なく私と仲良くしてるって言っているのを聞いたわ。
あなたははっきりとそう言ってた。友達と思っていたのは私だけだったのよね。」
暫く間をおいた後、
「私は君のことは最初から友達だなんて思えなかったよ。今でも友達になってほしいと言ってしまった事をとても後悔している。」
と言われた。こんなにはっきりと言われるなんて。
胸が苦しい。泣きそうだ。
「……そう。ごめんね……、私といるのは苦痛だったでしょう。」
「私は最初から君のことを愛していたんだ。最初から婚約者になってほしいと言えば良かった。私の妻になってエリィ。お願い。誰よりも愛してる。」
そう言いながら強引に口づけされてしまった。
ヴィークは騎士団にも所属しているし、細く見えるが鍛えているのがよくわかる。力はとても強く私が逃げられるはずもない。
不味い、これは完全に不味いパターンだ。
ヴィークは私を離そうとしないし、どうしたらいい?
かといってヴィーク相手に魔法は使いたくない。
そうこうしている間に私の胸に顔を埋め、胸元にも口づけをしてくる。
止めてほしいと何度行っても止めてくれない。このままだと本当に貞操の危機である。
ドレスを脱がされそうになったので、かなり強く抵抗した。
「お願い、やめてヴィーク!今日は月のものがきていて、体調もあまり良くないのよ。」
「月のもの……?」
「そうよ、だからこれ以上は止めて?お願い。」
さすがにこう言えば止めてくれるわよね?
「私の提案を受け入れてくれるなら止めてあげるよ。」
「提案て?」
「私の妻になって。お願い。」
1日で2人にプロポーズされてしまった。
「即決はできないわ。考えるから。だからもう家に帰して。お願い。」
そう言うと渋々ヴィークは私を離した。
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