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65,お父様は力加減ができない?

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約2ヶ月振りに帰ってきた私を、屋敷の皆は暖かく迎え入れてくれた。

「今日はお嬢様の好きなものをご用意させていただきます。何か食べたいものはございますか?」

「うーん、ではローズマリーチキンがいいわ。」

「かしこまりました。」

部屋に戻り、溜まっている手紙を見ていく。
あら?なんかすっごいヴィークから来てるわね。
もう友達ごっこなんてしなくてもいいのに、と冷めた思いで手紙を読んでいく。あの日の事が遠い過去の出来事のようだった。

ほとんどが体調の心配と、来週王宮で開かれるパーティーのドレスを贈りたいという内容だった。
来週のパーティーって騎士団の祝賀パーティーじゃない。そういえば去年もドレスを贈りたがっていたけど、そこに着ていくドレスを贈りたいだなんてどういうつもりなのかしら。
ふぅっとため息を吐きながら、体調は無事回復して元気だということと、ドレスの件は丁重にお断りする旨の手紙を書いた。

あとは、一人ずつ手紙を読み返事を書いていく。

皆なんだかんだ心配してくれていたのね。
それはとても有難いことだわ。
でも私が公爵令嬢でなかったら、こんなに手紙は届かなかったのかしら?

自嘲しながら手紙を読んだり返事を書いたりしていると、あっという間に夕方になりお父様達が帰ってきた。

「おかえりなさい、お父様、お兄様。」

「エリィ!!ただいま。
エリィもおかえり!!よく帰ってきてくれたね。もうずっとカームリーヒルにいるんじゃないかって心配していたんだ。」

「私の家はここですし、お父様やお兄様にも会いたかったですから。」

「エリィ!」

いつになくお父様の抱き締める力が強い。暫く離れている間に力加減忘れちゃったのかしら?

「お父様、苦しいです。」

「あぁごめんね。可愛いエリィ。ちょっと成長したかな?」

「雰囲気も少し変わったね?カームリーヒルに行ったのはいい気分転換になった?」

「えぇ、カームリーヒルはいい街ですし、とても楽しかったです!」

「それはよかった。気分転換になったみたいでなりよりだよ。」

そう言ってとても優しい表情をしているお父様は、

「ちょっと湯浴みをしてこよう。汗臭いとエリィに嫌われてしまうからな。」

と言い残して執事を連れてお部屋へ向かった。


お父様を嫌うはずなんてないのに。今もとてもいい匂いだった。お父様の匂いは大好きなのだ。
というかお父様が大好きなのは以前から変わるはずもない。





久しぶりにお父様との晩餐だ。ルークお兄様とアマンダお姉様もいる。フィルお兄様も一緒だ。

「やっぱりエリィがいると家が明るくなるな。」

「このローズマリーチキンも久しぶりに食べたよ。」

「これはさっきリクエストしてみたのです。」

「とっても美味しいですね。」
というアマンダお姉様は初めて食べるようだ。

「気に入ってもらえたようで嬉しいです。」

「カームリーヒルはどうだった?」

「街も人もとっても素敵でした。また行けたらいいなと思っています。」

「そうだね。それにしてもエリィは2ヶ月前とはえらい変わったね。」

「そうですか?」

「うん、なんか成長したよ。」

お兄様達もその言葉に頷いている。
太ったと言いたいのかしら?と思い、

「沢山食べてましたからね!」

と言ってみる。

「いや、そういうことではなくて。何か吹っ切れた表情になったな。」

「行く前は今にも倒れてしまいそうだったのに、今ではびくともしない芯の強さが伺えるね。」

「そんなに変わったかしら?」

「「うん」」

「とても良い出会いがありましたから。」

そう言うとお父様は柔らかい笑顔になる。

「そうか。出会いは大切にするんだよ。」

「もちろんです。一生の宝物ですわ。」

心からそう思っている。
早くまた会えるといいな。

「よかった。本当にもう大丈夫みたいだね。」

お兄様達は私の事をとても心配してくれていたから、今の私を見て安心したようだった。

「そうだ、休み中ヴィークグラン殿下がどこに行ってるのか教えろとうるさかったぞ。」

突然ヴィークの名前が出てびっくりする。

「黙っていてくれてありがとうございます。」

「喧嘩でもしたのか?」

「いえ、喧嘩などしてないですよ。ただ私が幼かっただけなのです。もう大丈夫ですから。」

「そうか。何かあったら言うんだよ?」

「はい。」

「来週のパーティーはどうする?」

「騎士団の祝賀パーティーに参加しない選択肢などあるはずありませんわ。
そうだ、パーティーでピアノを弾かせてほしいのですがよろしいでしょうか?」

「何か弾いてくれるの?」

とフィルお兄様も前のめりだ。

「カームリーヒルでできた曲があります。祝賀パーティーにも使えそうな曲かと思いまして。」

「また曲を作ったの?エリィは本当にすごいね!」

「エリィちゃんの歌は心に響きますよね。」

「是非聞かせてくれ!」

「もちろんです。」

「では風の魔道具も持っていくとしよう。」

「ありがとうございます。」

来週、といってもあと3日後だ。
多分ヴィークやカイルもいるだろう。うまく笑えるかしら?
それだけが少し不安だった。





食事を終えると、サロンでゆっくりお茶をする。私は迷いなくお父様の隣に座る。
久しぶりに会ったお父様が素敵すぎて辛い。
本当は膝の上に座りたいけど、頑張って隣に座っているのだ。完全なお父様離れはまだまだできそうにない。

お父様は、いつもよりも少しソワソワしている。

「お父様?」

「……いや、エリィは可愛いなと思って。また一段と美しくなったね。」

と優しく微笑むお父様に私も微笑みで返す。

するとフィルお兄様が咳払いをして、何かを言いたそうだ。

「……父上。私から言いましょう。」

そう切り出すと、

「今日、エリィの護衛につけていた騎士が道中に襲撃されたと言って野盗を75人も引き連れて帰ってきたんだけど、何があったのか説明してくれる?」

柔らかい口調で優しく聞いてくるけど、何かを確信しているかのような目線だ。

「そういえば、帰りの途中で野盗に合ったのですが騎士様達が鮮やかに無力化して事なきを得たのです。とても優秀な騎士達でしたわ。」

「何か隠してるよね?」

フィルお兄様の目線に耐えられずにお父様を見ると、髪を優しく撫でてくれる。

「エリィ、よく頑張ったね」

子供をあやすように優しく、慈しみのある瞳に見つめられて私は理解した。お父様は疑っているのではない。確信しているのだ。
嫌われたくないので素直に言うことにしよう。

「どうやったの?」

「睡眠魔法と拘束魔法で無力化させて、縮小魔法で小人化させて箱に入れ、王都の近くで解除しました。」

そう言うと皆目を丸くして驚いていたが、お父様だけは優しい笑みを崩さなかった。

「エリィ、生きて帰ってきてくれてありがとう。」

そう言われて私はなぜだか涙が止まらなかった。

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