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26,感動の歌声

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事前に打ち合わせしていた通り、楽器団の音楽が終わるタイミングでピアノの席についた。
いくつか楽団と合わせて曲を弾いた後、オリジナルメドレーを披露する予定だ。
こんな大舞台で歌うのは初めてなので緊張する。

(よし、がんばろう!)

楽団とのセッションはいつも一人で弾いているだけの私にとっては、とても楽しいものだった。おかげで段々緊張も解れてくる。
そして、結婚式の鉄板のとても好きだった曲を弾き始めた。

聞いたことがない曲調に皆がざわつきはじめる。
そして私が歌い出すと会場は一気に静かになった。

大好きなルークお兄様、アマンダ様といる姿はとても幸せそうだった。その姿を思い出し、心からの祝福を込めて歌い上げた。

全て弾き終えると、新郎新婦のいる方を見て挨拶をする。
「ルークお兄様、本日は本当におめでとうございます。心から祝福致しますわ。これからも宜しくお願い致します。
そしてアマンダお姉様、リフレイン公爵家へようこそ!これから宜しくお願い致しますね。」

そう言い終わると、ルークお兄様が泣きながら抱きついてきた。お父様もフィルお兄様もクリスお兄様もなぜか大号泣している。

溢れんばかりの歓声と拍手が鳴り響いてきた。
皆泣きながら拍手をしてくれている。

え、なんで?なんで泣いてるの??

「感動した!!!」

「ブラボー!!!!!」

「リフレイン家の奇跡だ!奇跡のご令嬢だ!!」

と拍手は暫くやまなかった。

感動してくれたのは嬉しいけど、そんなに泣かなくても…。

泣いて抱き締めるルークお兄様に、

「ルークお兄様、私はいつまでも大好きですよ!」

と言うとますます大号泣。
え、こんなに泣く人だったかな?

「お父様、フィルお兄様にクリスお兄様まで。オーバーですわ。」

「オーバーなものか。素晴らしい曲だったよ!」

いや、そんな。
少し罪悪感があるな…。私はただ知ってる曲を歌っただけだからな。

頼みの綱のマリーをみてもアンナを見ても……やっぱり泣いてる。
えぇー……。

これはどうしたらいいのかしら?

「是非もう一度お願い致します!」
とアンコールの声まで聞こえる。

「詩の才能もあるのか!」

「歌声も透き通っていて素晴らしい!」

「これからが末恐ろしいな。」

「まさかリフレイン家にこんなご令嬢がいるとは!」

と会場から様々な声が聞こえた。
不評ではないようなので安心する。

さっきは嫌な視線を投げかけてきた貴族たちが、好感の視線に変わってきた。

「もう少し弾くかい?」

本当はもっと弾く予定だったけど、ちょっと目立ちすぎだ。幻影魔法で弾いてもいいけど、なんかもう疲れてしまったな。

「いいえ、今日の主役はルークお兄様たちですもの。私は遠慮しておきますわ。」

そんなやりとりをした後、私はハーブハウスの方に向っていた。
慣れないことをしたから緊張して疲れてしまったのだ。まだ12歳の身体なのだからしょうがない。

今度はアンナと一緒に来ている。

「お嬢様、先程の演奏はとても素敵でした。私も感動しちゃいましたよ。」

「会場中大号泣ってなんなのかしらね、ほんとに。なにか悪いことでもした気分よ。」

「みんなあの素晴らしい曲とお嬢様の歌声に感動したのですよ。」

「まぁ嫌われてないだけいいけど。数曲しか弾いてないのに疲れたわ。本当はもっと弾きたかったんだけどね。幻影魔法も使いたかったな。
気分転換にハーブティーでも飲もう?今日は頑張ったからカモミールにしましょうか?」

「わぁっ!私あれ大好きなんですよ!」

「あら調子がいいわね。ふふっ」

「いやいや、そんなことはないですよ。」

「目が泳いでるわよ。」

「え?」

「あははっ!みんなにはナイショだからね!」

アンナとそんな会話をしながらハーブハウスに向かっていると、

「リシェ語も話せるの?」

と話しかけられ、振り返ると先程の少年がいた。
今度は一人ではなく護衛のような人も一緒だ。

「あら、また会ったわね!」

「さっきの演奏、驚いたよ。聞いたこともない曲だったから。」

「ふふっ。そう?」
早くお茶を飲みたいから歩きながら話す。

「もしかしてどこか行くところだった?」

「疲れちゃったからお茶でもしようかと思って。」

「そうなんだ、よかったら僕も一緒にいいかな?」

「うん、いいわよ。」

「えっほんとに?」

「え、どっちなの?」

「いや是非行かせて!」

「ふふっ。なんで食い気味なの?こっちよ。」

いや、別に食い気味というわけでは、、とゴニョゴニョ何かを言っているがスルーだ。

ハーブハウスに着き、ソファに案内する。

「こちらにどうぞ。」

「ここは?すごくいい香りがするね。」

「趣味のハーブハウスなの。ちょっと香りが充満してるわね、換気しよっか。」

いつもなら風魔法でやるが、人前なので普通に窓を開けての換気だ。
私の言葉を聞き、アンナがやってくれる。
この時期なら少し風も入って心地いい。

「ハーブティーは好き?」

「ハーブティーか、あんまり飲んだことないんだよね。」

「そうなの?じゃあ今日のオススメを入れるわね。アンナお願いできる?」

「もちろんです、お嬢様。」

「あ、えっとあの護衛?の方にもお入れしてね。」

「かしこまりました。」

「いえ、私は結構ですよ。」

「ただ立ってるのも疲れるでしょう?いいから座って。この部屋では私がルールよ!」

ここは特別に強固な張っているから、安心なのだ。

「ははっ君って意外と面白いんだね。」

「あら?今なにか面白いところあったかしら?」

「お嬢様は天然ですからね。」

「いつもこんな感じなの?」

「はい、こんな感じのことが多いですね。」

アンナは微笑みながらそう言って、ハーブティーを入れてくれた。アンナの入れるハーブティーはいつも格別だ。

「はい、どうぞ。がんばりましたからね。カモミールティーですよ。」

「ありがとうアンナ。」

ハーブティーの香りを楽しみながらゆっくりと味わうその姿は優雅な淑女そのもので、少年はその姿をじっと見つめていた。

「美味しいわアンナ。アンナもこっちで一緒に飲みましょうよ。ほら、あなたも。」

遠慮する護衛をやや強引に座らせて、みんなでカモミールティーを飲む。

「これは…」

「美味しい…」

「あぁ幸せです~。」

「ふふっ。アンナかわいい。今日はみんなで幸せな気分になりましょう!おめでたい日なのだから。ねぇ、初めて飲んだハーブティーの感想はどうかしら?」

「すごく上品な香りで味わいも奥深いね。とっても美味しいよ。こんな味今まで飲んだことがない。」

「本当ですね。とても美味しい。これはどこで販売されているのですか?」

「これは私が作っているものなの。」

「えっ?手づくりなの?」

「そうなの。バランスが難しいのよ?」

「エリナリーゼ譲は本当にすごいんだね。」

「私はただ好きなことをやっているだけだから、そんなにすごいことなんて何もないわよ?」

「ねぇ、僕と友達になってよ。」

「えっ、友達?」

「僕と友達は嫌?」

「考えてみたら私友達って呼べる人が一人しかいないなって思って。…嬉しいわ。ふふっ」

「じゃあ決まりだね!これからよろしくね、エリィ!」

「こちらこそよろしくね。私はなんと呼べばいいかしら?」

「僕のことはヴィークって呼んでくれたら嬉しいな。」

「わかったわ、よろしくね、ヴィーク。」

こうして私はやっと二人目の友達ができたのだった。
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