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21,ハンドクリームの完成

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マガン領に滞在する最後の日になった。

「お父様、最後にまた養蜂場へ寄ってもよろしいですか?」

「あぁもちろん。今日で最後だしね。やりたいことはできたのかな?」

「はい、今日完成します!」

昨日作ったハンドクリームは既に夜には固まっていて、問題ないことを確認している。
問題ないどころか香りもよく、肌触りも滑らか。
大成功と言っていいだろう。
今日はそのお披露目をしよう。

そのため今日は朝から上機嫌だ。

養蜂場に着くと、私がいつも使っている場所まで馬車で向かう。

小分けにした保存容器にミツロウが固まっているのを確認し、

「これがここで私の作っていたものですわ。」

と皆に見せてみる。

「これがエリィの作りたかったものなのかな?」

「あの蜂の巣からこれができるのか?」

「これは一体何なのですか??」

「何に使うものなのだろう?」

みんな初めて見るものに戸惑いを隠せていない。

「これは、あるものを作るための材料なのです。」

「これで完成ではないのですか??」

「手間がかかっているんだね。」

「ふふっ。それが楽しいんじゃない!さて、では最後の仕上げをしますね。」

ハンドクリームの材料を出しながら言う。

「それはなに?」

精油の瓶を見てルークお兄様が質問してきた。

「これはローズマリーの精油ですわ。」

「精油?」

そっか、皆には化粧水しか見せてないから知らないのか。

「これは私があの器具で実験的に作っていたものなのです!お父様達にたまにお渡しする化粧水はこの精油を作る際の副産物なのですよ。」

「不思議なものばかり作るね、エリィは。」

お父様は感心しながらも、戸惑いを隠せない表情だ。

「さて、では作っていきますよ!」

ミツロウの分量とオイルの分量はしっかりと測り、容器に入れて湯煎で溶かす。既に完成品を知っているので、ウキウキだ。

「とっても嬉しそうだね、エリィ」

「あぁとても楽しそうだ。」

お父様とお兄様が話しているのが聞こえる。

(ふふっ。だって楽しいんですもの!こんなに楽しいことはないわ!)

ミツロウが完全に溶けたら精油を入れて軽く混ぜれば完全だ。

「これが完全に固まったら完成です!!」

「ほぅ、一体これは何に使うのかな?」
お父様が聞く。

「はい。こちらは昨日、精油の種類を変えて同じように作ったものです。
すでに固まっているのでこれが完成品です。これはハンドクリームです。」

「「「ハンドクリーム?」」」

ハンドクリームを手に塗ってみせる。

「こんなふうに使うのですよ。」

「皆さんも使ってみませんか?」

お父様とルークお兄様の手の甲にハンドクリームを付ける。

「ありがとう。うん、とてもいい香りだね。」

「塗り心地もいいね。伸びもいいし、とてもしっとりする。」

コールマンさんは唖然としながらも、好奇心いっぱいの表情だ。

「これがあの蜂の巣から出来るものなのですか?!」

「そうですよ。ふふっ。
ちなみに今使っていただいたのはラベンダーというハーブの精油を使ったので、切り傷や手荒れに効果があると言われています。リラックス効果もあるんですよ。よかったら使って下さいね。」

そう言いながら、お父様とルーク兄様にキレイに包んだハンドクリームを渡す。
ちゃんと渡す時用にラッピングも用意しておいたのだ。

「おぉ!わざわざ包んでくれたのかい?エリィは本当に可愛いね。」

「もったいなくて使えないよ。」

「ふふっ。保存期間は約2ヶ月なので、使ってもらえると嬉しいです。なるべく日の当たらないところに保管してくださいね。」

そう言いながら、コールマンさんにも渡す。

「是非使ってみて感想を聞かせて貰えると嬉しいです。」

「私にもいただけるのですか?!ありがとうございます。大切に使います。お嬢様はすごい才をお持ちなのですね。さすがでございます。
今後も蜂の巣はお使いになりますか?」

来た時の対応とのあまりの違いに驚いたが、好意的になってくれたのなら何も問題はない。

「えぇ、そうですね。具体的に考えていることはあるのですが、それはまた後日相談させてください。」

「もちろんです。お力になれることがありましたら、是非お声掛け下さい。」

「ありがとう!じゃあまた来るわね!」

「お待ちしてます!」

こうして私達はマガン領を後にした。





馬車の中で私はお父様とお兄様にお礼を言う。

「お父様、お兄様、私のためにここまで付き合ってくれてありがとうございました。」

「いやいや、驚いたよ。エリィがこんなことを考えていたなんて。」

「本当に。変な器具を作らせて何かやってると思ったら次はこれだもんな。エリィの行動は予測できないな。」

「あれ?ルークお兄様、それ貶してますか?」

「いや、褒めてるんだよ。かわいいエリィ。」

「ふふっ。」

本当に家族は私を甘やかしてくれるな。
愛されている実感が私を無意識に笑顔にさせる。

「さっき言っていたが、これは擦り傷などにも効果があるの?」

お父様は騎士団長をしていることもあり外傷効果が気になるようだ。

「あくまでも本の知識ですが、そのようですよ。今日作ったローズマリーにもそのような効果があるようです。」

「ありがとう。エリィが読んでいた植物の本というのはこういう本だったのだな。」

もっと簡単な本だと思っていたのかな?
いろいろ取り寄せてくれているのに知らなかったのかしら。と苦笑いしそうになる。

「はい。とても勉強になりますし、為になりそうな知識ですから。」

「そうか。本当にありがとう。私は嬉しいよ。」

そう言うお父様の顔は穏やかな笑顔で優しい目をして、私を見ている。
その顔を見ると思わず抱きつき、

「私も嬉しいです。」

と頬にキスをする。

「エリィ!」

お父様はとても嬉しそうに私を抱き締めてくれる。

(本当に大好き。)

お父様を堪能していると、

「父上、次は私の番ですよ?」

とお父様から私を奪い、今度はルークお兄様にギュッと抱き締められた。

ルークお兄様も優しく抱き締めてくれる。

幸せだな。こんな日がずっと続けばいいのに。

心からそう思った。
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