Beloved

みのりみの

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誕生日

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「ひろこにこのワンピあげるよ。着ないから。こーゆーの好きでしょ?誕生日だし」

「ありがとう由佳姉!」

「ひろこ衣装さん来たよー!こないだのワンピ買うんじゃなかったっけ?」

「買う買うー!」

女子校上がりだからか、女の子とワイワイするのは苦手じゃない。
ワンナイメンバーは20名程いるけど仲は良かった。

グラビアアイドルや雑誌モデル。現役レースクイーン。ちょっと女優、くらいのお姉様方でいじめとかあるのかと思ったけどみんな優しかった。
私が最年少という事もあって可愛がられるポジションだからなのかもしれないけど。

「ひろぽん。19歳おめでとう」
「秀光さん!ありがとうございます!」

プロデューサーの秀光さんも、最年少だからなのか私にはいつも気にかけてくれていた。
お気に入りなんだよと遊井さんは言うけど、メンバー全員の事を細かく見ているようなソツのないおじさんだ。

日付変わった8月5日は私の誕生日。
19歳。
なんとも、フワフワした心あらずな状態で迎えた19歳。
原因は分かってる。

『見送れなくてごめん。また会おうよ』

慶からメールが翌日1通届いた。
私は返信していない。
返そうとメールの文面を作っては消して作っては消して。何回しただろう。

また会おうね、また会いたい、またね、

たった一言の返事に戸惑っている自分がいる。
あの夜の事。
急な誘いに車で出掛けて、焼鳥食べてカラオケ行って。一瞬一瞬の慶の表情や仕草も鮮明に覚えてる。
最後、キスしようとしたよね?
頬に触れた手のぬくもりがまだ忘れられない。
キス、したかったな。

特別な夜だった。あの、慶に想いを寄せていた中3の頃の自分ならこんな数年後にデートしてるなんて思ってもみなかったはずだ。

「日付が変わりましてー今日8月5日は安藤ひろこちゃんのお誕生日でーす」
「おめでとーう」

スタジオでは終了最後5分が誕生日の人が尺をもらえる。

司会の芸人2人の間に入り幼少期から高校までの私の写真を公開した時、中学時代の写真がクローズアップされた。

「かわいいねー!この中学時代!モテたでしょ?」

「いや、モテた記憶はないですね」

スタジオではワイワイと盛り上がっていたけど、この写真の頃は慶に恋していた頃だ。

「19歳になったひろこちゃんに質問!好きな男性のタイプは?ズバリ」
「うーん。。なんだろう」

すぐには自分で言葉にできなくて。でも慶の顔しか浮かばない。
高校生の頃は近所の男子校の子と付き合ったり別れたり。
でも、過去の彼氏の顔なんてちっとも出てもこない。

「好きになった人がタイプです」

「おおーこれまた難しいですね!」

そう言ったところで番組は終わった。


「ひろこーおめでとう」
「はい!ひろこにプレゼント!」

楽屋ではケーキが出てきて、私は無邪気に喜んだ。もちろんケーキより、純粋に誕生日をお祝いしてくれる仕事仲間に温かい気持ちになった。

「おめでとー!」

みんなが拍手をしてくれて私は蝋燭を一気に消した。

「あ、TV見て見て!」
「SOULだ!」

みんなの視線の先にあるのは私の後のTVだった。振り返ると深夜の歌番組で男の人達が4人映っていた。

「カッコいーよね!私最近好きなんだ!」

彩子ちゃんがうっとりしながらTVを見ると隣りの空ちゃんも乗っかるようにはしゃいだ。
「カッコよくて歌もいいよね。」
「けっこうヒットしてるよね。そうそうこの曲!」

またもう1人もう1人と次々に話題はTVに映る4人組の話に盛り上がった。

流れるメロディで分かった。カラオケで慶が歌っていた曲だ。

『この歌好きなんだよ!』

イントロから無邪気にはしゃいで気持ちよさそうに歌ってたあの曲だ。

「このボーカル、いいよね。冷たそうだけど笑うと優しそうな顔になるんだよね」
「HARUでしょ?私も好きー!セクシーだよね。」
「いいなー彼女いるのかなぁ。遊びでもいいから1回抱いてほしいわ」

私は空ちゃんのセリフに吹き出して笑った。

「遊びでも1回抱いてほしいなんて、空ちゃん彼氏いるじゃん!」
「でもおっさんだよ。毎回おっさんとやってるんだから。若いイケメンに抱かれたいよ。」
「わたしも。HARUさんなら遊ばれてもいいわ。」
「私もー!おっさん本当嫌いになりそう。でも別れられないし。」

「・・・」

話の流れで分かった。みんなスポンサーがいるんだ。その人と身体の関係があるからTVに出れているんだ。

「ひろこ、バンドとかアイドルグループとか興味あるの?そういう話しないよね。音楽も聞かないし。」

隣にいた麗香姉さんが私を不思議そうな顔で覗いた。

「あんまり。流行りの曲とかも疎いかも。」
「珍しい!興味ないんだ」

その場でみんなが笑い出した。

「案外、ひろこみたいな子にかぎってコテコテのバンドマンなんかと付き合ったりするのよね。」

TVではボーカルがアップで映っていた。透き通るようなグレーがかった髪色にクールな目つき。このハスキーな声で口説かれたら女は皆弱いだろう。
確かにかっこいいけど、私には次元の違う世界の人に変わりない。

「・・絶対ない。」
「でもかっこいいと思うでしょ?」
「かっこいいけど絶対ないでしょ。知り合うきっかけもないし。」
「じゃあもし声掛けられたらどおする?お断り?」
「バンドマンってよく分からないけど彼氏にするなとか言わない?お金なくて女癖悪くて、とか。」

昔美咲からバンドマンと美容師とバーテンダーとは付き合うなという話を聞かされたのを思い出した。モテそうな職業だけに女癖が悪いイメージを勝手に抱いていたからだ。そもそもバンドマンなんて私には未知の世界すぎる訳で到底知り合う事はないのだ。
「じゃあお金持っててイケメンの売れっ子バンドマンならどおする?」
「えええーでも絶対知り合わないよ。」

こんなTVに映るバンドマンよりも一般人の歌う歌の方が良い。

歌っていた慶がじわじわと脳裏をかすめていた。


帰り道に遊井さんと西麻布まで夜中のケーキを食べに行こうとしたら元気よく電話がかかってきた。

『ひろこー!ハピバー!』

電話の相手は幼稚園から中学まで一緒の地元の親友である遠野美咲だった。

「美咲?ありがとう!といってもTV見てくれてたんでしょ?」

『そうなんだけどね。明日土曜だし実家いるでしょ?飲み行こうよ』


美咲の誘いに翌日、衣装さんから買った新しいワンピースに気に入ってるリップグロスを塗って私は美咲の待つクイーブへ向かった。
美咲はまだ地元に住んでいるけど美咲もたまにクイーブに通っているとは知らなかった。

「聞いたよ。歩から」

私は一口飲んだビールを吹き出しそうになった。

「高校時代。女子校なのに男選り好みして遊びまくってたのが一周回ってまた慶?」

「決めつけないでよ!ちょっと、連絡来て再会しただけよ」

しどろもどろに言う私に美咲はお見通しだろう。クスクスと笑う。

「慶、モテるよ。でも最強ひろこにはそんなの関係ないか」

美咲がタバコの火をつけてふぅっと吹き出した。
親友歴15年。
私の人生半分以上知ってる美咲にはもう理解ができていたのかもしれない。

「イケメンで名門大学通って親は金持ち御曹司。その上優しいし。女がほっとくわけないじゃない。歩いてても女がくっついて来るのよ。ここにも女の子連れてよく来てるよ。」

美咲の言う事は理解できる。できているけど。
この場所に慶が来る事を密かに願っている自分がいるんだ。



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