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ライブ
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ずんとした音が聞こえたと思ったら辺りは真っ暗になった。会場から聞こえる拍手は次第にどんどん大きくなっていく。
派手にドーム内が点灯して曲が始まると一斉に観客が立ち上がった。歓声をも打ち消すかのような音量に人々はステージに釘付けになっていた。
目線の先には真夏の太陽よりも眩しいかのようなライトを浴びて4人はステージにいた。
周りからはメンバーの名前を叫ぶ声がこだまする。
私の目の前の女性は狂ったように春の名前を叫んでいた。もう声が出なくなる寸前まで叫んでいた。
『やってきたぜー!東京ドームー!』
春の叫び声からノリノリで1曲目から飛ばした楽曲。エキシビジョンには眩しそうに目を細めて観客を見る春が映った。
両手を大きく広げてお客さんの歓声を受けている。
ステージから1番遠い場所から私はライブを観た。
広いドームで春は最高の歌声を届ける。
それに沸く観客。
人々を魅了するステージに改めてこれはお遊びでも趣味でもない、彼等の仕事なんだと思った。
春の表情がコロコロ変わる。飛んだり走ったり動く幅も広い。ステージの端から端まで走り上げ観客に手を振ってはライトを浴びている。
セクシーに映ったと思えば時に満面の笑みで盛り上げ、激しく歌い上げ観客を魅了したと思えばバラードではしっとり歌いあげる。
歌声に張りがあってどこまでも伸びる声。
いつものハスキーな声はこんな武器を持っているんだ。
『言われなくてもどこかで意識してるんじゃないかな。』
聖司さんが言っていた。体調管理だってそうだ。
こんなにお客さんが見に来てくれてるのなら、それなりのプレッシャーを持ってやっているはずだ。
言わないだけで、本人は重々分かっている。背負う物の大きさを。
『今から歌う曲は、みなさんの心の中にいる大切な人を思い浮かべて聞いてください。my love』
観客がワーっと一斉に沸くとSOULの中でもかなり初期の曲『my love』を歌い出した。
あの、慶が新宿のカラオケで歌っていた曲だ。
イントロは聖司さんのピアノから優しいメロディが流れる。
会場は聞きながら泣いてる人もいた。
『春くんは本当歌上手いねー!』
社長室でアカペラで春が歌った時、遊井さんが感動していた。人の心を掴んで離さない、そんな歌だった。
春の歌声にドーム全員の気持ちが1つになるかのように聞き入る。
大切な人。
春は、私の事を考えて歌ってくれてるの?
春はどうしたらそんなに人々を魅了するように歌えるの?
そばにいるのに聞きたい事があふれてきた。
『ラストー!行くぜー!』
アンコールではノリノリのハイテンションの曲にメンバー全員巨人軍のシャツを羽織りサインボールを派手に観客に投げる。
会場は盛り上がった。
『スタンドー!いくぞー!』
春がスタンドめがけてボールを投げたけど一向にスタンドにボールは飛ばす、観客は大笑いする。
「HARUさん、かわいーファンになりそう」
隣で美咲がキャーキャーと言う。
ケンとゆうきがバットでボールを打ってくれたお陰でこっちにも球が回ってきそうだ。会場は興奮冷めやらぬままメンバーは手を繋ぎ一礼して手を振った。
真っ暗になって締めた時、勢いよくバン!と花火が散った。
余韻が冷めやらず、人流もすごいだろうと思い美咲としばらく座って待っていると春からメールが来た。
『打ち上げ、美咲ちゃんとおいでよ』
一瞬考えたけど、こんな千秋楽に私が行っても申し訳ないような気分になった。
『地元の子達とご飯食べて帰るから大丈夫。帰ったら電話するね』
私はすぐに返事を打って携帯をカバンに閉まった。
「ひろこがうらやましいわ。あんな素敵な人が彼氏なんて。春さん超かっこいいー!しかも天然なギャップが萌えるわ」
残り少ないペットボトルのお茶を美咲が飲み干した時、下の方に歩達がいるのが分かった。
「あそこにいるの、歩じゃない?やっぱり歩だ!おーい!」
美咲が手を振ると歩は気づいて大きく手を振り、同じ大学だろう男女が団体でこっちに向かって来た。
その中に慶がいるのが分かった。
「あ・・」
どうしよう。脈が早くなってくる。私は咄嗟に上を見上げて見ていないフリをしていた。
「ひろこー!美咲ー!」
歩の後ろから全然知らない友人達もわっと押し寄せて来た。
「安藤ひろこちゃんだー!本物だー!」
「かわいー!なんでそんなに顔小さいんですか!!」
一気に囲まれて賑やかになった。
すると慶が気がつくと私の横に来た。
私は突然すぎて慶を見入ってしまった。
「こないだは、送ってくれてありがとう」
「全然、いいよ」
なんとなく空気に違和感がある。
「慶、こないだあの後、電話くれたでしょ?ごめん、気づかなくて。」
「え?あぁ。」
慶は頷きながら優しそうに笑った。
「眠れなくて。ひろこが起きてたら迎えに行こうかと思ったんだ」
私は鼓動が一気に速くなった。
「・・迎えに来てくれたら、そのあとどうしてたの?」
「真夜中ドライブ!」
「・・・」
その言葉に一瞬、電話に出ていれば、と思ったのが分かった。
動揺していたら慶を呼ぶ声が聞こえた。
「慶ー!」
花柄のワンピースを着た小柄な女の子が笑顔で走ってきた。
「佐奈美!」
その子は胸に大事そうにSOULの写真集を抱えていた。
慶の彼女の「佐奈美ちゃん」だ。満面の笑みで慶だけを見つめていた。小柄で華奢な体型は守りたくなるほど愛らしく私はただその恋人同士の2人を見ているだけだった。
「私、ボールキャッチしたんだよ!」
「おーすげーじゃん!見せて!」
サインボールを慶は手にしてうらやましそうに見ている。
「あ、安藤ひろこちゃん!うわーかわいい!!」
佐奈美ちゃんは私を見るなり大喜びをした。
「私、いつも慶から話し聞いてて会いたいなーって思ってたから嬉しい!本当かわいいー!」
佐奈美ちゃんの胸に抱かれた写真集の表紙は春が冷たい目で私を見ている。
春。
春に、会いたくなる。
「佐奈美、このボールちょうだい」
「ダメー!HARUさんのサインだよ?!触らないでー!!」
当たり前のように、ごくいつもの自然な事のように慶の胸元に手をついてボールを取り返そうとしている。
交際3年。当たり前の事だと思いながら私はやたらその光景を冷静な目で見つめていた。
「ひろこ達、飯食いに行かね?車で来てるから新宿あたりで」
歩が割り込んで来て私と美咲に言った。
「あ、」
行きたいとは思わなかった。今この状況で慶と佐奈美ちゃんとみんなで一緒にご飯なんて食べられなかった。
それを察したのか美咲が先に言った。
「私達、もう帰るのよ。ごめん。次は行くね」
「なんだよーひろこもいたのにー」
歩達は手を振っていなくなった。
一息ついて私は座席に座った。
「美咲、ありがとう」
そうゆうと美咲は私の隣にどかっと座った。
「まさか、と思うけどまた慶を気になってるとか言わないよね?」
「・・そんなこと」
「あるよね?」
美咲は厳しい顔で私を見た。
「ひろこが大阪行った後からあの2人ずっと付き合ってるのよ。もう3年。今更別れる事は絶対ないと思うよ。ひろこは、春さんの方が絶対幸せになれるよ。分かってるよね?」
美咲の目が真剣だった。
派手にドーム内が点灯して曲が始まると一斉に観客が立ち上がった。歓声をも打ち消すかのような音量に人々はステージに釘付けになっていた。
目線の先には真夏の太陽よりも眩しいかのようなライトを浴びて4人はステージにいた。
周りからはメンバーの名前を叫ぶ声がこだまする。
私の目の前の女性は狂ったように春の名前を叫んでいた。もう声が出なくなる寸前まで叫んでいた。
『やってきたぜー!東京ドームー!』
春の叫び声からノリノリで1曲目から飛ばした楽曲。エキシビジョンには眩しそうに目を細めて観客を見る春が映った。
両手を大きく広げてお客さんの歓声を受けている。
ステージから1番遠い場所から私はライブを観た。
広いドームで春は最高の歌声を届ける。
それに沸く観客。
人々を魅了するステージに改めてこれはお遊びでも趣味でもない、彼等の仕事なんだと思った。
春の表情がコロコロ変わる。飛んだり走ったり動く幅も広い。ステージの端から端まで走り上げ観客に手を振ってはライトを浴びている。
セクシーに映ったと思えば時に満面の笑みで盛り上げ、激しく歌い上げ観客を魅了したと思えばバラードではしっとり歌いあげる。
歌声に張りがあってどこまでも伸びる声。
いつものハスキーな声はこんな武器を持っているんだ。
『言われなくてもどこかで意識してるんじゃないかな。』
聖司さんが言っていた。体調管理だってそうだ。
こんなにお客さんが見に来てくれてるのなら、それなりのプレッシャーを持ってやっているはずだ。
言わないだけで、本人は重々分かっている。背負う物の大きさを。
『今から歌う曲は、みなさんの心の中にいる大切な人を思い浮かべて聞いてください。my love』
観客がワーっと一斉に沸くとSOULの中でもかなり初期の曲『my love』を歌い出した。
あの、慶が新宿のカラオケで歌っていた曲だ。
イントロは聖司さんのピアノから優しいメロディが流れる。
会場は聞きながら泣いてる人もいた。
『春くんは本当歌上手いねー!』
社長室でアカペラで春が歌った時、遊井さんが感動していた。人の心を掴んで離さない、そんな歌だった。
春の歌声にドーム全員の気持ちが1つになるかのように聞き入る。
大切な人。
春は、私の事を考えて歌ってくれてるの?
春はどうしたらそんなに人々を魅了するように歌えるの?
そばにいるのに聞きたい事があふれてきた。
『ラストー!行くぜー!』
アンコールではノリノリのハイテンションの曲にメンバー全員巨人軍のシャツを羽織りサインボールを派手に観客に投げる。
会場は盛り上がった。
『スタンドー!いくぞー!』
春がスタンドめがけてボールを投げたけど一向にスタンドにボールは飛ばす、観客は大笑いする。
「HARUさん、かわいーファンになりそう」
隣で美咲がキャーキャーと言う。
ケンとゆうきがバットでボールを打ってくれたお陰でこっちにも球が回ってきそうだ。会場は興奮冷めやらぬままメンバーは手を繋ぎ一礼して手を振った。
真っ暗になって締めた時、勢いよくバン!と花火が散った。
余韻が冷めやらず、人流もすごいだろうと思い美咲としばらく座って待っていると春からメールが来た。
『打ち上げ、美咲ちゃんとおいでよ』
一瞬考えたけど、こんな千秋楽に私が行っても申し訳ないような気分になった。
『地元の子達とご飯食べて帰るから大丈夫。帰ったら電話するね』
私はすぐに返事を打って携帯をカバンに閉まった。
「ひろこがうらやましいわ。あんな素敵な人が彼氏なんて。春さん超かっこいいー!しかも天然なギャップが萌えるわ」
残り少ないペットボトルのお茶を美咲が飲み干した時、下の方に歩達がいるのが分かった。
「あそこにいるの、歩じゃない?やっぱり歩だ!おーい!」
美咲が手を振ると歩は気づいて大きく手を振り、同じ大学だろう男女が団体でこっちに向かって来た。
その中に慶がいるのが分かった。
「あ・・」
どうしよう。脈が早くなってくる。私は咄嗟に上を見上げて見ていないフリをしていた。
「ひろこー!美咲ー!」
歩の後ろから全然知らない友人達もわっと押し寄せて来た。
「安藤ひろこちゃんだー!本物だー!」
「かわいー!なんでそんなに顔小さいんですか!!」
一気に囲まれて賑やかになった。
すると慶が気がつくと私の横に来た。
私は突然すぎて慶を見入ってしまった。
「こないだは、送ってくれてありがとう」
「全然、いいよ」
なんとなく空気に違和感がある。
「慶、こないだあの後、電話くれたでしょ?ごめん、気づかなくて。」
「え?あぁ。」
慶は頷きながら優しそうに笑った。
「眠れなくて。ひろこが起きてたら迎えに行こうかと思ったんだ」
私は鼓動が一気に速くなった。
「・・迎えに来てくれたら、そのあとどうしてたの?」
「真夜中ドライブ!」
「・・・」
その言葉に一瞬、電話に出ていれば、と思ったのが分かった。
動揺していたら慶を呼ぶ声が聞こえた。
「慶ー!」
花柄のワンピースを着た小柄な女の子が笑顔で走ってきた。
「佐奈美!」
その子は胸に大事そうにSOULの写真集を抱えていた。
慶の彼女の「佐奈美ちゃん」だ。満面の笑みで慶だけを見つめていた。小柄で華奢な体型は守りたくなるほど愛らしく私はただその恋人同士の2人を見ているだけだった。
「私、ボールキャッチしたんだよ!」
「おーすげーじゃん!見せて!」
サインボールを慶は手にしてうらやましそうに見ている。
「あ、安藤ひろこちゃん!うわーかわいい!!」
佐奈美ちゃんは私を見るなり大喜びをした。
「私、いつも慶から話し聞いてて会いたいなーって思ってたから嬉しい!本当かわいいー!」
佐奈美ちゃんの胸に抱かれた写真集の表紙は春が冷たい目で私を見ている。
春。
春に、会いたくなる。
「佐奈美、このボールちょうだい」
「ダメー!HARUさんのサインだよ?!触らないでー!!」
当たり前のように、ごくいつもの自然な事のように慶の胸元に手をついてボールを取り返そうとしている。
交際3年。当たり前の事だと思いながら私はやたらその光景を冷静な目で見つめていた。
「ひろこ達、飯食いに行かね?車で来てるから新宿あたりで」
歩が割り込んで来て私と美咲に言った。
「あ、」
行きたいとは思わなかった。今この状況で慶と佐奈美ちゃんとみんなで一緒にご飯なんて食べられなかった。
それを察したのか美咲が先に言った。
「私達、もう帰るのよ。ごめん。次は行くね」
「なんだよーひろこもいたのにー」
歩達は手を振っていなくなった。
一息ついて私は座席に座った。
「美咲、ありがとう」
そうゆうと美咲は私の隣にどかっと座った。
「まさか、と思うけどまた慶を気になってるとか言わないよね?」
「・・そんなこと」
「あるよね?」
美咲は厳しい顔で私を見た。
「ひろこが大阪行った後からあの2人ずっと付き合ってるのよ。もう3年。今更別れる事は絶対ないと思うよ。ひろこは、春さんの方が絶対幸せになれるよ。分かってるよね?」
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