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心と身体
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お肉と野菜のいい香りと焼けてきた音がして私ははとろとろと水を入れた。途端に鍋の中は静かにおさまった。
熱くなった心もこうやって水を入れて煮込めば、落ち着くんだろうかと思いながら。
ずっと慶からの夜中の着信が気になっている。今さら電話くれた?ってさらりと折り返してもいいかもしれない。でも電話ができずにいた。また、私の慶への感情がジワジワとにじんでくるのが怖いんだ。
こんな事を考えてる段階で、私は慶を気にしてる。
ピンポーン
インターフォンの音に解除すると部屋の鍵をガチャリと回す音が聞こえた。私は走って玄関に行くと鍵を手にした春が扉の前で立っていた。
「おかえり!」
また覆いかぶさるように私を抱きしめた。
「セーフ!」
「何?」
「12時、5分前。」
サングラスを外すと染めた髪の染色の香りを漂わせながらキスをした。
「鍵、ケンから受け取った?」
「受け取った。ずるいよ。来てるなら声かけてよ。全然気づかなかった。なんで今日エプロンしてんの?」
珍しいエプロン姿に肩紐を引っ張った。
「遊井さんと、外食飽きて自炊しようって話してたんだけど遊井さん私の手作りは食べないからさ。1人で作ってたんだ。食べる?」
連日春が私の部屋に来てくれる。おかえり、って言葉とか手作りのご飯とか、私はそれで幸せを感じているのだからそれでいいのに。
レザーの鞄をソファーに置いてサングラスや鍵をテーブルに音を立てて置きながら春は目を擦っていた。
「帰り、スタジオで出待ちがすごくて。なんでスタジオバレたんだろ。」
春はリモコンを探しながらまだ目を擦って話している。
「ファンの子、大丈夫?車でついて来る人とかいた?」
「それはアッキーがけっこうスピード出したりしてまいてくれたよ。チャンネル変えてい?」
春はランダムにチャンネルを変えていた。
「ファンの子達に、引っ張られたり抱きつかれたりとかするの?」
「もーもみくちゃ。引っ張られるどころの騒ぎじゃないよ。プレゼントもたくさん貰ったよ。アッキーが持って帰ったけど。」
大阪でのライブの後もたくさんのファンが出待ちしていた。でもスタジオまで突き止めて押しかけるとはよっぽどのファンだろう。
「春は何て言うの?やめてくださいとか言うの?」
「言わないよ。握手したりサインしたりしてるよ。できる限り声掛けられたら答えたり会話もしてるし。」
「・・・」
もみくちゃにされてもファンサービスはしっかりしている事にビックリした。
でも、あの知り合った頃のコンビニでファンに囲まれた時も握手したり丁寧に対応していたのを思い出した。
「ひろこはしないの?」
「私はそんな大人数のファンに会った事ないし。春はすごいファンサービスだね。事務所に言われてるの?」
「何も言われてないよ。ただ自分たちを応援してくれてる子達だからさ。期待には応えてあげたいし」
これは、きっと春の人柄なんだ。
ファンに冷たかったり適当な対応をするアーティストなんて珍しくない。
「じゃあひろこも自分のファンの子に遭遇したらちゃんと握手したりしてあげなよ」
「そうだね」
チャンネルはスポーツニュースを映していて、サッカーのダイジェストの声援を聞きながら春はキッチンに入ってきた。
「何作ったの?」
「お味噌汁!と魚のフライは買った。」
春はお鍋の中を覗き込んだ。
「ひろこの味噌汁は豚汁?肉入りだ。ずいぶんたくさん入れたね。」
「そうだね。豚汁」
「生姜、入れていい?」
「買ってないよ」
「持ってる」
春は鞄から分厚いビニール袋に入った生姜を出してきて包丁で手際よく切って一緒に煮込んだ。
「生姜、好きなの?なんで持ってるの?」
「喉に良いんだよ。五十嵐が色々買ってきてくれんの。味噌、入れていい?出汁入れてある?」
身体が強いんじゃない。
聖司さんも昼間言っていた。自分では言わないけど風邪をひかないように気をつけているんだ。
東京に戻って、春の知らない一面が少しずつ分かるようになっていく。それは嬉しかった。
「なんで遊井さんはひろこの手作りのご飯を食べないの?」
「マネジメント相手に餌付けされてるみたいなのが嫌なんじゃない?多分ポリシーなんだと思うよ。」
「そう考えるとアッキーってポリシーのかけらも何もない男だよな。」
私は秋元さんの話題に出ると今朝の事を思い出して笑ってしまった。
「朝、散々だったよな」
慣れた手つきでお味噌を溶かしながら言う春も思い出して笑っていた。
「すごいタイミングだったよね。あれは伝説になるよ。」
「アッキー、何も言ってなかったよ。ただの寝起きだと思ってたんだろうな。」
私は笑いが止まらなくてまだ笑っていた。
「ひろこ、感じてたね。」
「・・なんで?」
「すごい濡れてきてたもん」
「そーゆう恥ずかしい事、言わないで」
「やっぱり。良かったんでしょ?」
私は顔が赤くなっていたと思う。下を向いて笑いを堪えて誤魔化していた。
「美味しい。」
生姜がゴロゴロ入った豚汁を飲んで私は舌打ちをした。
食べながらTVをつけたらちょうど私の出演したダイヤモンドのCMが流れていた。
「あ、久々見た」
春はお箸を止めてCMを見ていた。
このCMを撮影したのはまだ大阪にいた頃だ。懐かしい気持ちが込み上げてきた。
「ひろこ、可愛いいな。」
さりげなくポツリと言う彼に顔こそ見えないけど、私は目を見開いた。
「どこが可愛いいの?」
「わかんない。わかんないけど、かわいい」
彼氏がかわいいと言ってくれる。そんな一言で彼女というのはまた嬉しくなってまたかわいく見えるようにしなきゃと思う。
そしてセックスしてまた気持ちが高まって。
この環境はすごく女として幸せで大事なんじゃないかとさえ思う。
じゃあ慶は?
慶を気にしてグズグズとモヤモヤとして。
相手は彼女だっている。不毛だ。
私は春に恋していればいいんだ。
「あんっ」
胸を吸う音が聞こえる。昨日もして、今日は朝も夜もセックスしてる。人間の身体って毎日セックスしても大丈夫なものなのだろうか。身体が壊れたりするのだろうか。
なんでこんなに濡れるんだろう。私の身体に吸い付く音だけで、濡れてくるのがよく分かる。
彼の背中を抱きしめた。
「朝、私、すっごい濡れてた」
「・・今も」
私の下半身を触りながら濡れた音がいやらしく聞こえた。その手はやがて私の中に入ってきて、身体の全神経はその手の動きに敏感になってくる。
「あっ あぁっ」
「もっとしていい?」
感じる私の顔を上から見つめながら、左手は胸を優しく愛撫する。
それがすごくエッチな事をしている、と思うと余計自分は感じて声が出ていた。
「春と、すると、すごい濡れちゃう。こんなこと、初めてだよ」
「・・そんな事言うと、もう入れたくなるよ」
「もう、入れて。全部」
ゆっくり私の中に挿入して全部入ったと分かるくらい、深いところまで入ったと思うと吐息まじりの声にならないような声になる。
「あぁっ」
「毎日、ひろこと、したい」
「あっあっああっ」
なんでこんなに気持ちが良いんだろう。
さっきまで毎日セックスしてもいいのか疑問だったのにそんな事がどうでもよくなってくる。
彼の腕に手を絡めて抱きしめた。
汗ばんだお互いの身体の熱を感じながら、また今日も私は感じている。
「やっ あっ あぁっ」
もっとしたいと思ってしまう。
セックスしてる時だけ。
一番幸せを感じるのは春とセックスしてる時だけだ。
熱くなった心もこうやって水を入れて煮込めば、落ち着くんだろうかと思いながら。
ずっと慶からの夜中の着信が気になっている。今さら電話くれた?ってさらりと折り返してもいいかもしれない。でも電話ができずにいた。また、私の慶への感情がジワジワとにじんでくるのが怖いんだ。
こんな事を考えてる段階で、私は慶を気にしてる。
ピンポーン
インターフォンの音に解除すると部屋の鍵をガチャリと回す音が聞こえた。私は走って玄関に行くと鍵を手にした春が扉の前で立っていた。
「おかえり!」
また覆いかぶさるように私を抱きしめた。
「セーフ!」
「何?」
「12時、5分前。」
サングラスを外すと染めた髪の染色の香りを漂わせながらキスをした。
「鍵、ケンから受け取った?」
「受け取った。ずるいよ。来てるなら声かけてよ。全然気づかなかった。なんで今日エプロンしてんの?」
珍しいエプロン姿に肩紐を引っ張った。
「遊井さんと、外食飽きて自炊しようって話してたんだけど遊井さん私の手作りは食べないからさ。1人で作ってたんだ。食べる?」
連日春が私の部屋に来てくれる。おかえり、って言葉とか手作りのご飯とか、私はそれで幸せを感じているのだからそれでいいのに。
レザーの鞄をソファーに置いてサングラスや鍵をテーブルに音を立てて置きながら春は目を擦っていた。
「帰り、スタジオで出待ちがすごくて。なんでスタジオバレたんだろ。」
春はリモコンを探しながらまだ目を擦って話している。
「ファンの子、大丈夫?車でついて来る人とかいた?」
「それはアッキーがけっこうスピード出したりしてまいてくれたよ。チャンネル変えてい?」
春はランダムにチャンネルを変えていた。
「ファンの子達に、引っ張られたり抱きつかれたりとかするの?」
「もーもみくちゃ。引っ張られるどころの騒ぎじゃないよ。プレゼントもたくさん貰ったよ。アッキーが持って帰ったけど。」
大阪でのライブの後もたくさんのファンが出待ちしていた。でもスタジオまで突き止めて押しかけるとはよっぽどのファンだろう。
「春は何て言うの?やめてくださいとか言うの?」
「言わないよ。握手したりサインしたりしてるよ。できる限り声掛けられたら答えたり会話もしてるし。」
「・・・」
もみくちゃにされてもファンサービスはしっかりしている事にビックリした。
でも、あの知り合った頃のコンビニでファンに囲まれた時も握手したり丁寧に対応していたのを思い出した。
「ひろこはしないの?」
「私はそんな大人数のファンに会った事ないし。春はすごいファンサービスだね。事務所に言われてるの?」
「何も言われてないよ。ただ自分たちを応援してくれてる子達だからさ。期待には応えてあげたいし」
これは、きっと春の人柄なんだ。
ファンに冷たかったり適当な対応をするアーティストなんて珍しくない。
「じゃあひろこも自分のファンの子に遭遇したらちゃんと握手したりしてあげなよ」
「そうだね」
チャンネルはスポーツニュースを映していて、サッカーのダイジェストの声援を聞きながら春はキッチンに入ってきた。
「何作ったの?」
「お味噌汁!と魚のフライは買った。」
春はお鍋の中を覗き込んだ。
「ひろこの味噌汁は豚汁?肉入りだ。ずいぶんたくさん入れたね。」
「そうだね。豚汁」
「生姜、入れていい?」
「買ってないよ」
「持ってる」
春は鞄から分厚いビニール袋に入った生姜を出してきて包丁で手際よく切って一緒に煮込んだ。
「生姜、好きなの?なんで持ってるの?」
「喉に良いんだよ。五十嵐が色々買ってきてくれんの。味噌、入れていい?出汁入れてある?」
身体が強いんじゃない。
聖司さんも昼間言っていた。自分では言わないけど風邪をひかないように気をつけているんだ。
東京に戻って、春の知らない一面が少しずつ分かるようになっていく。それは嬉しかった。
「なんで遊井さんはひろこの手作りのご飯を食べないの?」
「マネジメント相手に餌付けされてるみたいなのが嫌なんじゃない?多分ポリシーなんだと思うよ。」
「そう考えるとアッキーってポリシーのかけらも何もない男だよな。」
私は秋元さんの話題に出ると今朝の事を思い出して笑ってしまった。
「朝、散々だったよな」
慣れた手つきでお味噌を溶かしながら言う春も思い出して笑っていた。
「すごいタイミングだったよね。あれは伝説になるよ。」
「アッキー、何も言ってなかったよ。ただの寝起きだと思ってたんだろうな。」
私は笑いが止まらなくてまだ笑っていた。
「ひろこ、感じてたね。」
「・・なんで?」
「すごい濡れてきてたもん」
「そーゆう恥ずかしい事、言わないで」
「やっぱり。良かったんでしょ?」
私は顔が赤くなっていたと思う。下を向いて笑いを堪えて誤魔化していた。
「美味しい。」
生姜がゴロゴロ入った豚汁を飲んで私は舌打ちをした。
食べながらTVをつけたらちょうど私の出演したダイヤモンドのCMが流れていた。
「あ、久々見た」
春はお箸を止めてCMを見ていた。
このCMを撮影したのはまだ大阪にいた頃だ。懐かしい気持ちが込み上げてきた。
「ひろこ、可愛いいな。」
さりげなくポツリと言う彼に顔こそ見えないけど、私は目を見開いた。
「どこが可愛いいの?」
「わかんない。わかんないけど、かわいい」
彼氏がかわいいと言ってくれる。そんな一言で彼女というのはまた嬉しくなってまたかわいく見えるようにしなきゃと思う。
そしてセックスしてまた気持ちが高まって。
この環境はすごく女として幸せで大事なんじゃないかとさえ思う。
じゃあ慶は?
慶を気にしてグズグズとモヤモヤとして。
相手は彼女だっている。不毛だ。
私は春に恋していればいいんだ。
「あんっ」
胸を吸う音が聞こえる。昨日もして、今日は朝も夜もセックスしてる。人間の身体って毎日セックスしても大丈夫なものなのだろうか。身体が壊れたりするのだろうか。
なんでこんなに濡れるんだろう。私の身体に吸い付く音だけで、濡れてくるのがよく分かる。
彼の背中を抱きしめた。
「朝、私、すっごい濡れてた」
「・・今も」
私の下半身を触りながら濡れた音がいやらしく聞こえた。その手はやがて私の中に入ってきて、身体の全神経はその手の動きに敏感になってくる。
「あっ あぁっ」
「もっとしていい?」
感じる私の顔を上から見つめながら、左手は胸を優しく愛撫する。
それがすごくエッチな事をしている、と思うと余計自分は感じて声が出ていた。
「春と、すると、すごい濡れちゃう。こんなこと、初めてだよ」
「・・そんな事言うと、もう入れたくなるよ」
「もう、入れて。全部」
ゆっくり私の中に挿入して全部入ったと分かるくらい、深いところまで入ったと思うと吐息まじりの声にならないような声になる。
「あぁっ」
「毎日、ひろこと、したい」
「あっあっああっ」
なんでこんなに気持ちが良いんだろう。
さっきまで毎日セックスしてもいいのか疑問だったのにそんな事がどうでもよくなってくる。
彼の腕に手を絡めて抱きしめた。
汗ばんだお互いの身体の熱を感じながら、また今日も私は感じている。
「やっ あっ あぁっ」
もっとしたいと思ってしまう。
セックスしてる時だけ。
一番幸せを感じるのは春とセックスしてる時だけだ。
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