3 / 71
秘密のデート
しおりを挟む
「お腹いっぱいになった?場所変えない?」
たくさん食べた焼き鳥もまだまだ残っているところで慶はさらりとおじさんにお金を払った。
「出よう」
「うん」
立ち上がった時、椅子が膝にぶつかった。
「大丈夫?」
慶が私の左手首を掴んだ。
私は単純なのだろうか。この掴まれた腕にそのまま連れて行かれてもいいと思っている。
お店を出ると賑やかな街並みと電車の走る音がした。
「時間まだ平気?行きたいところあるんだけど、行かない?」
明日はワンナイだけど、なんせ夜からなので時間だけはある。
私はうなずいて慶と夜の街を歩いた。
まとわりつくような暑さの湿気をおびた夜風がなんだか気持ちがよく思えた。
中学生の頃、あんなに大好きだった人と今こうして並んで歩いている事が不思議で、でも時が経つとこうも冷静に大人っぽく肩を並べて歩いてられるのかな、なんて思った。そう。大人。もう大人だ。19歳になるんだから。だからこんなにも冷静に2人で会えているんだ。
新大久保から歌舞伎町にかけて歩くとラブホテル街を通った。
夜はもうすぐ12時をまわるところでチラホラとホテルに入って行くカップルを見かけてきまずくなる。
行きたいところ、ホテル?
もし誘われたら、なんてモヤモヤと考えていたら慶はホテル街を抜けたくらいにあったカラオケ店に入って行った。
「なんか最近カラオケ行ってなくて。久々いい?付き合って」
ラブホテル、なんて想像していたからカラオケに連れて行かれ私は自分がおかしくなって少し笑ってしまった。
「もちろん。」
「何笑ってんの?」
「なんでもない。」
「教えてよ」
「なんでもないよー」
入ってすぐの受付に3人の男性店員が終始私と慶をじろじろと見ていた。
はたからみると、私と慶は恋人同士に見えるのだろうか。友達に見えるのだろうか。
どっちなんだろう。
恋人同士に見られてたら、嬉しい。
一瞬その気持ちがぽっかりと心に浮かんでいた。
心が、ソワソワしてフワフワと足が宙についていない。そしてくすぐったい。そんな気分だ。
個室に入ると慶は曲をさくさくと入れて歌っていた。私も負けじと曲を入れる。
しかし、歌も上手い。
曲も女の子が喜びそうな歌を熟知しているかのようなチョイスだった。
歌っている慶をぼんやり眺めていた。
真っ白いTシャツにネイビーの高そうな生地のハーフパンツ。
洒落たビーチサンダルはロゴさえついていないけど、片方脱いだらプラダだったのが見えた。
机の上に置かれた黒い長財布にポルシェの鍵。
ビジュアルも完璧。
もし連れて行かれたのがラブホテルだったら私はどうしてたんだろうとふと考えた。
「この曲!」
「え?」
「この曲好きなんだよ」
画面を見ると慶はSOULというアーティストの歌を歌っていた。
「SOULって最近聴くようになってから好きでさ、ライブ行きたいなーって」
「ライブかぁ。私、まったく行かないや。慶は行くの?」
「SOULがツアーでもやれば観に行きたいんだけどね。歩とかとも話してたんだよ。ひろこも一緒に行こうよ。曲もかっこいいし。絶対ファンになるよ」
イントロで無邪気にはしゃいでいる横顔を見ていたら心がキューッとたまらない気持ちになった。ドキドキしている。あの、中学の頃大好きだった少年のような笑顔だった。あまりにも私が見つめすぎてたのに気付いたのか慶が私を見た。
暗がりでもなんでだろう。慶の顔がよく分かる。
「さっき、待ち合わせした時ドキッとした」
「え?」
歌い終わって曲の音量が少しずつ小さくなる頃慶はポツリと言った。
「とっさにワンピース似合うとか言ってたけど、もちろんワンピースは似合うけど、こないだも思ってたけど、中学の頃より色っぽくなっててちょっと、ビックリした」
私の目を見て話す。
慶の目からも私も目が離せない。
離せないよ。
「大学の子とか街中で見かける子とかと全然違くて、一瞬気軽に誘ってこんなデートして大丈夫なのかと思った」
「全然。大丈夫よ」
「ひろこは芸能人だよ?」
「私売れっ子じゃないし」
慶が私の横に座ってサワーを一口飲んだ。
「秘密のデートしてるみたいだなって」
「秘密でもないよ。秘密だと、じゃあどんな事するの?」
慶が私を見つめてドキっとした。
でも私も慶を見つめている。
なんでこんなに視線が外せないのだろう。
慶の手がゆっくりと伸びて私の頬に触れた。それがなんだかスローモーションよりゆっくりと。
慶とキスしたい。
ゆっくり目を閉じるかと思ったら外が騒がしくなった。
ドンドンドンドン!
振り返ると女の子達がドアを叩いていた。
するとガチャリとドアが開いた。
「けいー!何してるのー?デート?」
女の子2人が乱入してきたかと思えば私をジロリと舐め回すように見ていた。
「おい!ひろこ!慶と一緒かよ!」
その後からは歩と男友達が4人もいる。
「ちょうど私たちも今来たの。慶SOUL歌ってよー!」
「慶!こんなかわいい子と何してんだよ!」
「あー!!歩が言ってたワンナイの安藤ひろこじゃん!」
さっきとは打って変わってこの友人達の乱入に場は激しく変わった。
慶は女の子に腕を掴まれ歌を歌わせられている。
私は私で歩と男友達に囲まれて握手をしたり電話番号聞かれたり。
一気に全てが面倒になってくる。
慶は女の子と一緒にまたさっきのSOULの曲を歌っていた。
「歩。私帰るから慶に言っておいて」
「ひろこ自分で言えよ!おい慶!慶!」
カラオケの音でかき消されて慶は全然気づかない。
私はカバンを持って逃げるように部屋を出た。空気が薄い。
外に出て呼吸を整えて駅へ向かおうとした。あの場にはいれなかった。じゃなくていたくなかった。それはなんで?と思うと慶と2人でいたかったのに、友達まで入ってきて場を乱された。私はそれが嫌だったんだ。
慶と2人でいたかったからそう思うんだ。
「ひろこ!待てよ!」
息を切らせて追って来たのは歩だった。
「ひろこ、俺まだ酒飲んでないから車で送ろうか?」
「大丈夫。このまま目黒までタクシーで帰るよ。」
慶はあの女の子達に捕まったまま。ちゃんとバイバイとも言えていない。
気にはなったがあの状況がたまらなく嫌だった。私は相当不機嫌な顔をしていたのか、歩が眉毛をハの字にさせて困った顔をしていた。なんだか、イライラしてそれを歩にぶつけているみたいで自分が嫌になってきた。
「こないだの事、慶に呼び出されて謝られたの。それだけだから、うん。もういいんだ。あとでメールしておくよ。」
作り笑顔に見えるだろう。歩はまだ困ったような顔をしている。
「そっか。ちゃんと話せたか。なら良かった。」
「うん。」
歩の困った顔も落ち着きひとつ息を吐いた。
「慶、ひろこに優しかったろ?」
「優しいね。」
「慶は本当モテるんだよ。高校の時もだけど今はもっと。みんなに優しいし男にも優しいし、今いた女の1人もこないだ慶に告って振られても慶は優しくてさ。」
歩は暗に私に忠告とでも言えるような事をやんわり言ってくれているだろうとは思った。
さっきと同じ湿気をおびた夜風が体に当たる。
さっきまではそれが心地よかった。
「歩、ありがとう。帰れるから」
手を振って駅に向かおうとした。
「あいつ、慶!毎週末クイーブ来てっから。俺もいるし、連絡しろよ!」
背中で歩の声を聞きながら。
たくさん食べた焼き鳥もまだまだ残っているところで慶はさらりとおじさんにお金を払った。
「出よう」
「うん」
立ち上がった時、椅子が膝にぶつかった。
「大丈夫?」
慶が私の左手首を掴んだ。
私は単純なのだろうか。この掴まれた腕にそのまま連れて行かれてもいいと思っている。
お店を出ると賑やかな街並みと電車の走る音がした。
「時間まだ平気?行きたいところあるんだけど、行かない?」
明日はワンナイだけど、なんせ夜からなので時間だけはある。
私はうなずいて慶と夜の街を歩いた。
まとわりつくような暑さの湿気をおびた夜風がなんだか気持ちがよく思えた。
中学生の頃、あんなに大好きだった人と今こうして並んで歩いている事が不思議で、でも時が経つとこうも冷静に大人っぽく肩を並べて歩いてられるのかな、なんて思った。そう。大人。もう大人だ。19歳になるんだから。だからこんなにも冷静に2人で会えているんだ。
新大久保から歌舞伎町にかけて歩くとラブホテル街を通った。
夜はもうすぐ12時をまわるところでチラホラとホテルに入って行くカップルを見かけてきまずくなる。
行きたいところ、ホテル?
もし誘われたら、なんてモヤモヤと考えていたら慶はホテル街を抜けたくらいにあったカラオケ店に入って行った。
「なんか最近カラオケ行ってなくて。久々いい?付き合って」
ラブホテル、なんて想像していたからカラオケに連れて行かれ私は自分がおかしくなって少し笑ってしまった。
「もちろん。」
「何笑ってんの?」
「なんでもない。」
「教えてよ」
「なんでもないよー」
入ってすぐの受付に3人の男性店員が終始私と慶をじろじろと見ていた。
はたからみると、私と慶は恋人同士に見えるのだろうか。友達に見えるのだろうか。
どっちなんだろう。
恋人同士に見られてたら、嬉しい。
一瞬その気持ちがぽっかりと心に浮かんでいた。
心が、ソワソワしてフワフワと足が宙についていない。そしてくすぐったい。そんな気分だ。
個室に入ると慶は曲をさくさくと入れて歌っていた。私も負けじと曲を入れる。
しかし、歌も上手い。
曲も女の子が喜びそうな歌を熟知しているかのようなチョイスだった。
歌っている慶をぼんやり眺めていた。
真っ白いTシャツにネイビーの高そうな生地のハーフパンツ。
洒落たビーチサンダルはロゴさえついていないけど、片方脱いだらプラダだったのが見えた。
机の上に置かれた黒い長財布にポルシェの鍵。
ビジュアルも完璧。
もし連れて行かれたのがラブホテルだったら私はどうしてたんだろうとふと考えた。
「この曲!」
「え?」
「この曲好きなんだよ」
画面を見ると慶はSOULというアーティストの歌を歌っていた。
「SOULって最近聴くようになってから好きでさ、ライブ行きたいなーって」
「ライブかぁ。私、まったく行かないや。慶は行くの?」
「SOULがツアーでもやれば観に行きたいんだけどね。歩とかとも話してたんだよ。ひろこも一緒に行こうよ。曲もかっこいいし。絶対ファンになるよ」
イントロで無邪気にはしゃいでいる横顔を見ていたら心がキューッとたまらない気持ちになった。ドキドキしている。あの、中学の頃大好きだった少年のような笑顔だった。あまりにも私が見つめすぎてたのに気付いたのか慶が私を見た。
暗がりでもなんでだろう。慶の顔がよく分かる。
「さっき、待ち合わせした時ドキッとした」
「え?」
歌い終わって曲の音量が少しずつ小さくなる頃慶はポツリと言った。
「とっさにワンピース似合うとか言ってたけど、もちろんワンピースは似合うけど、こないだも思ってたけど、中学の頃より色っぽくなっててちょっと、ビックリした」
私の目を見て話す。
慶の目からも私も目が離せない。
離せないよ。
「大学の子とか街中で見かける子とかと全然違くて、一瞬気軽に誘ってこんなデートして大丈夫なのかと思った」
「全然。大丈夫よ」
「ひろこは芸能人だよ?」
「私売れっ子じゃないし」
慶が私の横に座ってサワーを一口飲んだ。
「秘密のデートしてるみたいだなって」
「秘密でもないよ。秘密だと、じゃあどんな事するの?」
慶が私を見つめてドキっとした。
でも私も慶を見つめている。
なんでこんなに視線が外せないのだろう。
慶の手がゆっくりと伸びて私の頬に触れた。それがなんだかスローモーションよりゆっくりと。
慶とキスしたい。
ゆっくり目を閉じるかと思ったら外が騒がしくなった。
ドンドンドンドン!
振り返ると女の子達がドアを叩いていた。
するとガチャリとドアが開いた。
「けいー!何してるのー?デート?」
女の子2人が乱入してきたかと思えば私をジロリと舐め回すように見ていた。
「おい!ひろこ!慶と一緒かよ!」
その後からは歩と男友達が4人もいる。
「ちょうど私たちも今来たの。慶SOUL歌ってよー!」
「慶!こんなかわいい子と何してんだよ!」
「あー!!歩が言ってたワンナイの安藤ひろこじゃん!」
さっきとは打って変わってこの友人達の乱入に場は激しく変わった。
慶は女の子に腕を掴まれ歌を歌わせられている。
私は私で歩と男友達に囲まれて握手をしたり電話番号聞かれたり。
一気に全てが面倒になってくる。
慶は女の子と一緒にまたさっきのSOULの曲を歌っていた。
「歩。私帰るから慶に言っておいて」
「ひろこ自分で言えよ!おい慶!慶!」
カラオケの音でかき消されて慶は全然気づかない。
私はカバンを持って逃げるように部屋を出た。空気が薄い。
外に出て呼吸を整えて駅へ向かおうとした。あの場にはいれなかった。じゃなくていたくなかった。それはなんで?と思うと慶と2人でいたかったのに、友達まで入ってきて場を乱された。私はそれが嫌だったんだ。
慶と2人でいたかったからそう思うんだ。
「ひろこ!待てよ!」
息を切らせて追って来たのは歩だった。
「ひろこ、俺まだ酒飲んでないから車で送ろうか?」
「大丈夫。このまま目黒までタクシーで帰るよ。」
慶はあの女の子達に捕まったまま。ちゃんとバイバイとも言えていない。
気にはなったがあの状況がたまらなく嫌だった。私は相当不機嫌な顔をしていたのか、歩が眉毛をハの字にさせて困った顔をしていた。なんだか、イライラしてそれを歩にぶつけているみたいで自分が嫌になってきた。
「こないだの事、慶に呼び出されて謝られたの。それだけだから、うん。もういいんだ。あとでメールしておくよ。」
作り笑顔に見えるだろう。歩はまだ困ったような顔をしている。
「そっか。ちゃんと話せたか。なら良かった。」
「うん。」
歩の困った顔も落ち着きひとつ息を吐いた。
「慶、ひろこに優しかったろ?」
「優しいね。」
「慶は本当モテるんだよ。高校の時もだけど今はもっと。みんなに優しいし男にも優しいし、今いた女の1人もこないだ慶に告って振られても慶は優しくてさ。」
歩は暗に私に忠告とでも言えるような事をやんわり言ってくれているだろうとは思った。
さっきと同じ湿気をおびた夜風が体に当たる。
さっきまではそれが心地よかった。
「歩、ありがとう。帰れるから」
手を振って駅に向かおうとした。
「あいつ、慶!毎週末クイーブ来てっから。俺もいるし、連絡しろよ!」
背中で歩の声を聞きながら。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
友達の彼女
みのりみの
恋愛
なんとなく気になっていた子は親友の彼女になった。
近くでその2人を見届けていたいけど、やっぱり彼女に惹かれる。
奪いたくても親友の彼女には手を出せない。
葛藤が続いた男の話。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる