Beloved

みのりみの

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年末

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TVには歌番組恒例の年末の総集編が流れ年末の慌ただしさを感じる中SOULの4人が映った。

「大阪の鶴橋って韓国街行った事ありますよ」
「韓国街?なんで?でも街に出ると騒がれちゃって大変でしょ?」
「いや、マスク外しても誰にも声かけられませんでしたよ。韓国街いいですよね。」

TVの中の春のトークに少し笑った。

「ひろこさ、年始のひろこの番組なんだけど、視聴率良かった2人ゲストだって」
「2人?」
「支倉さんと聖司くん」
アッハッハと私は笑った。
「ねぇ、あの2人と一緒?あ、でも面白いかも」
もう今日で年内最後。
カウントダウン番組の司会で仕事納め。
ろくに寝れていない、疲れていたり春にも会えなかったけど、どこかテンションは高かった。

お正月は3日、遊井さんに休みを貰った。
気がついたら、東京に戻ってからちゃんとした休みを貰ったのはほんの3日だったと後から気付いてびっくりした。
もちろん春と過ごすつもりだった。

「遊井さん、衣装行ってきてもいい?」
リハ中の休憩にロケ弁も半分食べたところで私は衣装へ走った。
年明けに着るワンピースを買いたかった。
いつもの金髪のスタッフは快く対応してくれた。
「これと、これと、これかわいい!」
ボルドーのワンピースに胡桃ボタンが可愛くて、私は絶対これだと思った。
「これ、miumiuのでちょっと高いですよ。他のは少し安くできるかな」
「全然いいです。これ、買います!」
局の袋にワンピースを3枚入れてもらって私は買い上げた。

昨日歩から連絡が来た。
慶が4日に渡米するらしい。
新年会だけど、お別れ会として3日に地元へ行く事になった。
慶との最後の別れ。
これだけは、絶対に行こうと決めていた。

「安藤さん、宜しくお願いします」
内海さんが打ち合わせ後にまた深々と挨拶に来てくれた。
「年内最後の仕事ですね。お互い、良い仕事納めにしましょうね。」
私は内海さんに頷いた。

カウントダウン歌番組は夕方は18時からの生番組だけあって長丁場の緊張感はあるが大阪での歌番組の司会の時の事を思い出して、なんとも懐かしい気持ちになった。

出しゃばらず、仕切りすぎない。アーティストとしゃべりすぎない。笑顔でいても、そこまで元気よくやらない。
自分なりのセオリーがあった。

遊井さんは片隅で立会いながらも袖に映るTVで紅白を見ていた。流れてくるアーティストを目で追っているのが分かった。

「はい、カウントダウンTVまだまだ続きます。次は支倉大介さんの登場です」
裏でテンション高い男達の声が聞こえた。
あ、来たな、と思った。
「みんなー!年末だー!」
白いフリンジのついたド派手な衣装で支倉さんがスタジオに入ると観客は湧いた。止まらない手拍子と悲鳴のような歓声。
私も局アナの男性と盛り上がる。2曲歌いあげたところでバトンタッチするかのように支倉さんのギターはSOULの曲へ繋いだと思ったらこれまたド派手に4人は入って来た。
急いで来たのか、衣装もそのままなのか、慌てて急いで入って来たスピード感に歓喜の悲鳴は大音量となった。
曲は私の出演したCMソング。
珍しく歌うナンバーにあの頃の思い出が蘇った。
あの、社長室でアカペラで歌った春の歌声に感動した。
彼は歌う人なんだ、と。

人に夢を与えている人なんだ。

「来年も今年もよろしく!」悲鳴のような歓声と盛り上がりで1曲目が終わると春は私の顔をまぶしそうに見た。
私も春を見て拍手をした。

「いやー年末仕事っていいね!楽しい!紅白からまさか来るとは思わなかった!」
春のMCに観客も悲鳴をあげる。
「えー、年明け1発目は2曲同時リリースなんですけど、両方とも、俺たちらしい楽曲になったと思っています。みんながね、愛し合って幸せに、そんな歌です。聞いてください」

打って変わって親しみの感のあるPOPだけど独特なサウンド。いつものクールな眼差しとは打って変わって笑顔で楽しそうに歌う春を筆頭にメンバー全員もどこか1年最後の仕事という事もあるのか達成感に満ちた満足気な表情だった。

「こんないい曲書けるなんてSEIJIさんは天才だな」

隣の局アナはポツリと私の横で言った。

春の歌声に耳を傾けながら今年1年を振り返ると涙が出そうになった。
多分この曲を聞くたびに今日の事を思い出すんだろうな、と思った。

深夜まで続いた番組の帰りテレビ局の地下の駐車場でSOULのメンバーと落ち合った。
春が収録中に一緒に帰ろうと耳元で言った。
手際よく遊井さんや秋元さんにも話を通していたようだ。

「5日からの番組収録が仕事はじめだけど事務所挨拶で4日の10時に迎えに行くからな。」
遊井さんが重い紙袋を3つ私に渡してくれた。
重いな、と思いながら受け取って私は頷いた。
「ひろこ、」
「何?」
「おつかれ」
今年1年の締めだ。どこか遊井さんもいつもと違う表情をしていた。

「遊井さん、来年もよろしくね」
「来年、忙しくなりそうだな」
少し笑って私は手を振ってそのままメンバーの待つバンに向かった。

「おつかれさまー」
「ひろーあけおめー!」
ゆうきがいつものように抱きつく。
五十嵐さんが車のドアを開け私は春と2列目に乗った。

「ひろこ、大荷物だな」

さりげなく言ったと思ったら手を繋いできた。みんなに分からないようにジャケットの下に手を隠している。
これから3日も一緒に過ごせると思うと嬉しさがこみ上げた。




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