Beloved

みのりみの

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2枚の写真

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「え?」

私は足がすくんだ。
事務所に朝から呼び出され、提示された写真が2枚あった。

1枚目はお台場で春とキスする瞬間の写真だった。ズームで撮ったのかブレてはいるけどハッキリと2人の顔が分かる。ドラマの1シーンのようなキスする瞬間の写真だった。

2枚目は慶と公園で抱き合ってる写真だった。

「・・・」

「2枚ってどうゆう事だよ」

遊井さんは私の向かいに座り怒り寸前のような見た事のない顔をしている。

「・・・」

私がいけない。

全て、私がいけないことだ。
ごめんなさい、と遊井さんに言いたいのに言葉が出てこない。

私は写真に目を落としていたら涙がポタリと写真に垂れた。

もう、どうしていいか分からなかった。

「ひろこ、泣くな」

社長が背後から私の肩を叩いた。

「HARUくんとこと、どうにかして潰すから。」

社長はそのまま私の肩をさすった。

「じゃあこの一般人はどうしますか?」

遊井さんが慶の事を指差した。

「金か、うちの事務所内のネタで潰すか」

私は大人達の話をただ黙って聞くしかなかった。俗に言うバーターってやつをはじめて目の前で叩きつけられた格好だ。

「今日、じゃあHARUくんとこ、行きましょうか」

遊井さんは立ち上がって電話を社長に見せた。

とんでもない事になった。

写真に撮られるのは恐れていたけど、まさか2人分撮られていたとは思いもしなかった。

「HARUくんだけなら超絶スクープだけど、一般人とも撮られたらひろこのイメージはガタ落ちだからな。これ、一般的に見たら理由はあれど二股以外の何者でもないからね。」

「・・ごめん、なさい」

優しく声をかけてくれる社長だけど、もう社長も遊井さんの顔も見れなかった。

「この、一般人は誰だ?地元の友達か?」

遊井さんの言葉に顔を見れず黙って頷いた
けど、多分蚊の鳴くような声で言った。

「有月、慶」

遊井さんは名前を聞いて過去を思い出したのか一瞬動きが止まった。

「この子の電話番号教えて」

私はビックリして遊井さんの顔を見た。

「一般人だから目に帯は入るけど、写真に撮られましたよ、うちの事務所は記事潰すから心配しないでくださいね、って確認しなきゃならない」

「・・そうなの?」  

「ひろこは来なくていいから、俺1人で今日会ってくるよ」

一般人の、慶までにも。

自分のした愚かさが今さら後悔しても後悔しきれない。

私はもっと気がかりな事があった。

「春は?春の事務所は並行して慶との記事も知るの?」

遊井さんは険しい顔をした。私の考えるような気の利かせた事はきっとないだろうと思ったけどやはり現実はそうだった。

「これ、セットで来てるから。そのまま春くんにも認知されるよ」

浮気の証拠を突き止められたダサい男の気分になった。

小さい頃、お母さんに言われた言葉が脳裏を霞んだ。

『イケナイコトはしちゃダメよ』


春からの連絡はなかった。
遊井さんと社長2人で春の事務所へ行き、またあちらも秋元さんと社長が出てきて話し合った結果、いとも簡単に春の事務所の別のアーティストが事実婚をしている、という記事に差し替えられるそうで話は落ち着いた、と聞いた。

「でもさ、この写真。すごいステキよね」
事務所に残った事務の女性スタッフが言った。
「ひろこちゃんも春さんもお似合いだから尚更だけど、本当ドラマのワンシーンみたい。記事にされてもいいんじゃないかな。これ言ったら怒られるか。」
私に舌をだしてお茶目に振舞う姿に少し癒されて写真に目を落とした。

春は、どう思っているのだろう。

友達の彼女が自殺未遂して泣いてたから慰めただけ、なんてただの言い訳にしか聞こえないのではないだろうか。
ううん。違う。
私と春の関係に溝ができる事が辛かった。
今まで一度たりとも喧嘩した事はない。
私をいつも大切に優しくしてくれる彼が、どういう事を私に言うのかが怖かった。
仕事にも影響するかのような精神状態になる。自分で起こした事なのだから自分がいけないに変わりはない。


夕方、やっと遊井さんが無言で戻って来た。 

「有月慶って子、会ってきたよ」

遊井さんに言われて私は顔を上げた。

「浜田山の、おぼっちゃんだよな。親はあの大手商社の社長だって?ひろこすごい男捕まえてたんだな」

ただただ遊井さんは淡々と私に話した。

「社長とも話したけど、うちの事務所の桐生由香子が引退するんだよ。そのネタとお金払ってチャラ」

「本当に?」

「社長も、金はこれからひろこにもっと稼いでもらうってよ。だからひろこも仕事真面目にしろよ」

「ありがとう。それと、ごめんなさい」

私は遊井さんを見れず下を向いた。事務所にも迷惑をかけ、春の事務所にも迷惑をかけ、こんな佐奈美ちゃんの事で大変な時に慶にも迷惑をかけている。
私、1人の行動のせいで。
遊井さんがコーヒーを目の前に置いてくれた。

「・・双方とも、記事出していいって言ったよ。」

「え?」 

私は耳を疑った。

「春くんは出してもいいって言い張ったけど、事務所が許す訳はないのは当然で。もともと何か写真が撮られる前に秋元さんもネタは用意してたらしいぞ。秋元さんも仕事できるよな。まぁ自分のアーティスト守るのに命懸けだからな。有月くんの方も記事だしてもいいですって。」

私は遊井さんの言葉が信じられなかった。

「結論としては、双方引っ込まずだった。ひろことの事を世間に周知していいって事だよ」

「・・・」

「ひろこ、愛されてるんだな」

余計、自分が情けなくなった瞬間だった。私の身勝手のせいで。

「ただ、有月慶の方は一般人だからな。春くんとのスクープは話してないよ。」

遊井さんがタバコに火をつけた。

その時携帯が鳴った。
ピリリリリリ

着信は春からだった。私の顔色で察したのか遊井さんはガタリと立ち上がった。

「出なさい」

そう言うと遊井さんは席をはずした。

私が携帯を出るといつもと違って静かなところから春は電話をしていた。

『ひろこ?』

いつもの大好きなかすれた声。でも違う。私には分かる。トーンが違う。

『今日の夜、会おうよ』

私は携帯を堅く握りしめた。
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