54 / 71
2枚の写真
しおりを挟む
「え?」
私は足がすくんだ。
事務所に朝から呼び出され、提示された写真が2枚あった。
1枚目はお台場で春とキスする瞬間の写真だった。ズームで撮ったのかブレてはいるけどハッキリと2人の顔が分かる。ドラマの1シーンのようなキスする瞬間の写真だった。
2枚目は慶と公園で抱き合ってる写真だった。
「・・・」
「2枚ってどうゆう事だよ」
遊井さんは私の向かいに座り怒り寸前のような見た事のない顔をしている。
「・・・」
私がいけない。
全て、私がいけないことだ。
ごめんなさい、と遊井さんに言いたいのに言葉が出てこない。
私は写真に目を落としていたら涙がポタリと写真に垂れた。
もう、どうしていいか分からなかった。
「ひろこ、泣くな」
社長が背後から私の肩を叩いた。
「HARUくんとこと、どうにかして潰すから。」
社長はそのまま私の肩をさすった。
「じゃあこの一般人はどうしますか?」
遊井さんが慶の事を指差した。
「金か、うちの事務所内のネタで潰すか」
私は大人達の話をただ黙って聞くしかなかった。俗に言うバーターってやつをはじめて目の前で叩きつけられた格好だ。
「今日、じゃあHARUくんとこ、行きましょうか」
遊井さんは立ち上がって電話を社長に見せた。
とんでもない事になった。
写真に撮られるのは恐れていたけど、まさか2人分撮られていたとは思いもしなかった。
「HARUくんだけなら超絶スクープだけど、一般人とも撮られたらひろこのイメージはガタ落ちだからな。これ、一般的に見たら理由はあれど二股以外の何者でもないからね。」
「・・ごめん、なさい」
優しく声をかけてくれる社長だけど、もう社長も遊井さんの顔も見れなかった。
「この、一般人は誰だ?地元の友達か?」
遊井さんの言葉に顔を見れず黙って頷いた
けど、多分蚊の鳴くような声で言った。
「有月、慶」
遊井さんは名前を聞いて過去を思い出したのか一瞬動きが止まった。
「この子の電話番号教えて」
私はビックリして遊井さんの顔を見た。
「一般人だから目に帯は入るけど、写真に撮られましたよ、うちの事務所は記事潰すから心配しないでくださいね、って確認しなきゃならない」
「・・そうなの?」
「ひろこは来なくていいから、俺1人で今日会ってくるよ」
一般人の、慶までにも。
自分のした愚かさが今さら後悔しても後悔しきれない。
私はもっと気がかりな事があった。
「春は?春の事務所は並行して慶との記事も知るの?」
遊井さんは険しい顔をした。私の考えるような気の利かせた事はきっとないだろうと思ったけどやはり現実はそうだった。
「これ、セットで来てるから。そのまま春くんにも認知されるよ」
浮気の証拠を突き止められたダサい男の気分になった。
小さい頃、お母さんに言われた言葉が脳裏を霞んだ。
『イケナイコトはしちゃダメよ』
春からの連絡はなかった。
遊井さんと社長2人で春の事務所へ行き、またあちらも秋元さんと社長が出てきて話し合った結果、いとも簡単に春の事務所の別のアーティストが事実婚をしている、という記事に差し替えられるそうで話は落ち着いた、と聞いた。
「でもさ、この写真。すごいステキよね」
事務所に残った事務の女性スタッフが言った。
「ひろこちゃんも春さんもお似合いだから尚更だけど、本当ドラマのワンシーンみたい。記事にされてもいいんじゃないかな。これ言ったら怒られるか。」
私に舌をだしてお茶目に振舞う姿に少し癒されて写真に目を落とした。
春は、どう思っているのだろう。
友達の彼女が自殺未遂して泣いてたから慰めただけ、なんてただの言い訳にしか聞こえないのではないだろうか。
ううん。違う。
私と春の関係に溝ができる事が辛かった。
今まで一度たりとも喧嘩した事はない。
私をいつも大切に優しくしてくれる彼が、どういう事を私に言うのかが怖かった。
仕事にも影響するかのような精神状態になる。自分で起こした事なのだから自分がいけないに変わりはない。
夕方、やっと遊井さんが無言で戻って来た。
「有月慶って子、会ってきたよ」
遊井さんに言われて私は顔を上げた。
「浜田山の、おぼっちゃんだよな。親はあの大手商社の社長だって?ひろこすごい男捕まえてたんだな」
ただただ遊井さんは淡々と私に話した。
「社長とも話したけど、うちの事務所の桐生由香子が引退するんだよ。そのネタとお金払ってチャラ」
「本当に?」
「社長も、金はこれからひろこにもっと稼いでもらうってよ。だからひろこも仕事真面目にしろよ」
「ありがとう。それと、ごめんなさい」
私は遊井さんを見れず下を向いた。事務所にも迷惑をかけ、春の事務所にも迷惑をかけ、こんな佐奈美ちゃんの事で大変な時に慶にも迷惑をかけている。
私、1人の行動のせいで。
遊井さんがコーヒーを目の前に置いてくれた。
「・・双方とも、記事出していいって言ったよ。」
「え?」
私は耳を疑った。
「春くんは出してもいいって言い張ったけど、事務所が許す訳はないのは当然で。もともと何か写真が撮られる前に秋元さんもネタは用意してたらしいぞ。秋元さんも仕事できるよな。まぁ自分のアーティスト守るのに命懸けだからな。有月くんの方も記事だしてもいいですって。」
私は遊井さんの言葉が信じられなかった。
「結論としては、双方引っ込まずだった。ひろことの事を世間に周知していいって事だよ」
「・・・」
「ひろこ、愛されてるんだな」
余計、自分が情けなくなった瞬間だった。私の身勝手のせいで。
「ただ、有月慶の方は一般人だからな。春くんとのスクープは話してないよ。」
遊井さんがタバコに火をつけた。
その時携帯が鳴った。
ピリリリリリ
着信は春からだった。私の顔色で察したのか遊井さんはガタリと立ち上がった。
「出なさい」
そう言うと遊井さんは席をはずした。
私が携帯を出るといつもと違って静かなところから春は電話をしていた。
『ひろこ?』
いつもの大好きなかすれた声。でも違う。私には分かる。トーンが違う。
『今日の夜、会おうよ』
私は携帯を堅く握りしめた。
私は足がすくんだ。
事務所に朝から呼び出され、提示された写真が2枚あった。
1枚目はお台場で春とキスする瞬間の写真だった。ズームで撮ったのかブレてはいるけどハッキリと2人の顔が分かる。ドラマの1シーンのようなキスする瞬間の写真だった。
2枚目は慶と公園で抱き合ってる写真だった。
「・・・」
「2枚ってどうゆう事だよ」
遊井さんは私の向かいに座り怒り寸前のような見た事のない顔をしている。
「・・・」
私がいけない。
全て、私がいけないことだ。
ごめんなさい、と遊井さんに言いたいのに言葉が出てこない。
私は写真に目を落としていたら涙がポタリと写真に垂れた。
もう、どうしていいか分からなかった。
「ひろこ、泣くな」
社長が背後から私の肩を叩いた。
「HARUくんとこと、どうにかして潰すから。」
社長はそのまま私の肩をさすった。
「じゃあこの一般人はどうしますか?」
遊井さんが慶の事を指差した。
「金か、うちの事務所内のネタで潰すか」
私は大人達の話をただ黙って聞くしかなかった。俗に言うバーターってやつをはじめて目の前で叩きつけられた格好だ。
「今日、じゃあHARUくんとこ、行きましょうか」
遊井さんは立ち上がって電話を社長に見せた。
とんでもない事になった。
写真に撮られるのは恐れていたけど、まさか2人分撮られていたとは思いもしなかった。
「HARUくんだけなら超絶スクープだけど、一般人とも撮られたらひろこのイメージはガタ落ちだからな。これ、一般的に見たら理由はあれど二股以外の何者でもないからね。」
「・・ごめん、なさい」
優しく声をかけてくれる社長だけど、もう社長も遊井さんの顔も見れなかった。
「この、一般人は誰だ?地元の友達か?」
遊井さんの言葉に顔を見れず黙って頷いた
けど、多分蚊の鳴くような声で言った。
「有月、慶」
遊井さんは名前を聞いて過去を思い出したのか一瞬動きが止まった。
「この子の電話番号教えて」
私はビックリして遊井さんの顔を見た。
「一般人だから目に帯は入るけど、写真に撮られましたよ、うちの事務所は記事潰すから心配しないでくださいね、って確認しなきゃならない」
「・・そうなの?」
「ひろこは来なくていいから、俺1人で今日会ってくるよ」
一般人の、慶までにも。
自分のした愚かさが今さら後悔しても後悔しきれない。
私はもっと気がかりな事があった。
「春は?春の事務所は並行して慶との記事も知るの?」
遊井さんは険しい顔をした。私の考えるような気の利かせた事はきっとないだろうと思ったけどやはり現実はそうだった。
「これ、セットで来てるから。そのまま春くんにも認知されるよ」
浮気の証拠を突き止められたダサい男の気分になった。
小さい頃、お母さんに言われた言葉が脳裏を霞んだ。
『イケナイコトはしちゃダメよ』
春からの連絡はなかった。
遊井さんと社長2人で春の事務所へ行き、またあちらも秋元さんと社長が出てきて話し合った結果、いとも簡単に春の事務所の別のアーティストが事実婚をしている、という記事に差し替えられるそうで話は落ち着いた、と聞いた。
「でもさ、この写真。すごいステキよね」
事務所に残った事務の女性スタッフが言った。
「ひろこちゃんも春さんもお似合いだから尚更だけど、本当ドラマのワンシーンみたい。記事にされてもいいんじゃないかな。これ言ったら怒られるか。」
私に舌をだしてお茶目に振舞う姿に少し癒されて写真に目を落とした。
春は、どう思っているのだろう。
友達の彼女が自殺未遂して泣いてたから慰めただけ、なんてただの言い訳にしか聞こえないのではないだろうか。
ううん。違う。
私と春の関係に溝ができる事が辛かった。
今まで一度たりとも喧嘩した事はない。
私をいつも大切に優しくしてくれる彼が、どういう事を私に言うのかが怖かった。
仕事にも影響するかのような精神状態になる。自分で起こした事なのだから自分がいけないに変わりはない。
夕方、やっと遊井さんが無言で戻って来た。
「有月慶って子、会ってきたよ」
遊井さんに言われて私は顔を上げた。
「浜田山の、おぼっちゃんだよな。親はあの大手商社の社長だって?ひろこすごい男捕まえてたんだな」
ただただ遊井さんは淡々と私に話した。
「社長とも話したけど、うちの事務所の桐生由香子が引退するんだよ。そのネタとお金払ってチャラ」
「本当に?」
「社長も、金はこれからひろこにもっと稼いでもらうってよ。だからひろこも仕事真面目にしろよ」
「ありがとう。それと、ごめんなさい」
私は遊井さんを見れず下を向いた。事務所にも迷惑をかけ、春の事務所にも迷惑をかけ、こんな佐奈美ちゃんの事で大変な時に慶にも迷惑をかけている。
私、1人の行動のせいで。
遊井さんがコーヒーを目の前に置いてくれた。
「・・双方とも、記事出していいって言ったよ。」
「え?」
私は耳を疑った。
「春くんは出してもいいって言い張ったけど、事務所が許す訳はないのは当然で。もともと何か写真が撮られる前に秋元さんもネタは用意してたらしいぞ。秋元さんも仕事できるよな。まぁ自分のアーティスト守るのに命懸けだからな。有月くんの方も記事だしてもいいですって。」
私は遊井さんの言葉が信じられなかった。
「結論としては、双方引っ込まずだった。ひろことの事を世間に周知していいって事だよ」
「・・・」
「ひろこ、愛されてるんだな」
余計、自分が情けなくなった瞬間だった。私の身勝手のせいで。
「ただ、有月慶の方は一般人だからな。春くんとのスクープは話してないよ。」
遊井さんがタバコに火をつけた。
その時携帯が鳴った。
ピリリリリリ
着信は春からだった。私の顔色で察したのか遊井さんはガタリと立ち上がった。
「出なさい」
そう言うと遊井さんは席をはずした。
私が携帯を出るといつもと違って静かなところから春は電話をしていた。
『ひろこ?』
いつもの大好きなかすれた声。でも違う。私には分かる。トーンが違う。
『今日の夜、会おうよ』
私は携帯を堅く握りしめた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
友達の彼女
みのりみの
恋愛
なんとなく気になっていた子は親友の彼女になった。
近くでその2人を見届けていたいけど、やっぱり彼女に惹かれる。
奪いたくても親友の彼女には手を出せない。
葛藤が続いた男の話。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる