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私の彼氏
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「ひろこの言ってた韓国街行ってみようよ」
夕方には大阪を出なくちゃいけない。
昼前にのんびり2人で起きてタクシーで大阪は鶴橋商店街へ向かった。
「ひろこも、して」
マスクを渡されてタクシーの中で私は黙ってマスクをつけた。
春が心配しているだろうマスクを渡した時厳しい顔をした。
それは仕事をする人の顔だと思った。
ぐちゃぐちゃの韓国街は甘い香りとキムチと雑貨のカビのような匂いが混ざりとんでもない異国情緒溢れる場所だった。
「すごいね」
湿気で妙に肌がベタベタする。通路も通れないほど荷物で埋まったところもあった。ちょっと通路が広くなったところで肩を抱かれた。
お互い汗ばんでる肌。
湿気でむせかれるようだ。
日本人がほぼいない事が分かってお互いマスクを外した。
2人で韓国人からパンを買いお茶までもらい韓国人でごった返したフードコートの隅っこに2人並んで席をとった。
「これりんご味?美味しい。」
「これも形違うけどりんごの味がするよ」
どれを食べてもりんごの味。
そんなくだらない事で笑いながら食べた。
「すごいね。ここ。日本じゃないみたい。新大久保も行った事あるけど、韓国人街って本当ある意味不夜城だな」
パンを片手に春は辺りを見渡した。
周りの韓国人は私達のことを見ないし気にしない。
当たり前だけどその心地よさもあった。
「また来たいな」
「へー以外!春嫌だって言うと思った」
「異国情緒溢れてて現実逃避にはいいよ。また来年の今ぐらいがいいな。気候もいいし。来年のこの時期にまた来ようよ」
来年も?
来年も一緒にいれるの?
その一言に涙がどんどんあふれてくるのが分かった。堪えようと思っても涙はたちまち目に浮かんできて止まらなかった。
「どうしたの?!」
私の泣き顔を見た春は横でビックリしていた。すると手で私の涙をそっと触った。
「ごめんごめん。春ごめん」
顔を慌てて手で隠した。泣いてるところなんて見せたくなかった。
「・・泣いた顔初めてみた。もっと見せてよ」
顔をそむけたら春は手で頬を引き寄せた。
「泣く予定なんてなかったのにごめん」
手をおおって涙を拭う私の肩を抱いた。
「じゃあ泣いた理由おしえて」
耳元でそっと囁いた。
「不安ってさみしさに変わるんだなって。東京にまだ戻れないし、東京の春の生活も知らないし。ごめん、言ってる事意味わからないよね」
しばらく沈黙が続いた。
春だって意味が分からないはずだ。
一方的に自分の意見を話してるようでストレスをぶつけてるかのような、そんな自分が嫌だった。
「さみしくなっちゃったの?」
今度は春がテーブルの角にあったティシュを取って涙を拭った。私はそのティッシュを受け取って涙を抑えた。
「PV見て嫉妬したよ。PVのひろこ可愛くて、こんな顔するんだって、そう思ったらPV作ったキルズアウトが羨ましかったよ。正直ね」
春は雑多な風景に目を落として私を見ずに話した。
「この業界、バンド業界なんて特に狭くて心ない噂とか聞いたりするの。ひろこキルズアウトの俊と何かあった?誘われなかった?それってひろこの言うさみしさから?」
「え?」
私は涙が止まり、こないだの俊との事を思い出した。
「打ち上げで終電ギリギリで送ってくれたの。駅まで。その時友達になろうとか彼氏になりたいとか言われたけど彼氏いるからって話して急いで新幹線乗って、でもその日ちょうど共演者から遠距離恋愛してるなら彼氏が浮気してるかもよって言われて悩んじゃってキルズアウトからしてみたらなんて覇気のない人なんだろって思われてるかも」
「送ってもらっただけ?」
「うん。新幹線の終電ギリギリだったし。乗れたからよかったけど」
「・・・」
春はその途端大笑いをした。
「なんでおかしいの?」
「いや、ひろこ俺の事彼氏彼氏言うからかわいくてさ。そっか彼氏かぁ」
春はまだ笑っていた。
笑い事ではなく、私からしてみたら深刻な問題なのだ。
「春はかわいいかわいい言ってくれるけど私はかわいくないよ。春がいるからきっとかわいくいられるのよ。CMだって。春がいたからあんなによく撮れたのよ」
また涙があふれてきそうになる。
そうなの。
私気づいてたんだ。
春がいるから可愛くなれる事。
春に抱かれると魅力的になれる事。
恋をしてると幸せになれる事。
「私は春の彼女じゃなくて、大阪の彼女なの?それとも10人いる彼女のうちの8番目くらい?」
私は春の目を見つめた。
しばらく真剣に見つめ合っていたけど、春は優しそうに少し笑った。
「10人中8番目くらいならキルズアウトのPV出てもなんとも思わないよ」
私の斜めに流れる前髪をちょっとさわった。
ジメジメとした風が入ってきた。ジメジメしてたけど、夏を感じさせるにおいがした。
春は、春は私の事考えてくれてるの?
キルズアウトのPVでて、嫌な気持ちになったの?
混沌と思いがよぎる。
「あたしばっかりいつもドキドキしてバカみたいだよ。手だって、いつも繋ぐだけですごく嬉しいのに」
ティッシュで涙を拭けばメイクが落ちてギトギトしている。こんなボロボロになるまで泣いて、泣いて。
春が私の顔を見ながら頭が横に傾いてどことなく困った顔をしている。かと思えば嬉しそうな顔をした。
「なんて言おうかな。なんて言えばひろこは安心するのかな。俺がひろこに惚れてるの分かってると思ってたのにヒドイよなぁ」
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
「噂で、俊がひろこと打ち上げ中いなくなったとか聞いててさ、ひろこさみしかったとか言うからマジで浮気したのかと正直思った。けど俺の事彼氏彼氏言うからなんか安心した」
「私が浮気したと思ってたの?」
「うん。でもひろこが俊をスルーしてたの分かって安心した。ひろこが俊になびいて取られたら嫌だなって真剣に考えて昨日セックスしてる時子供作ろうかと思った」
「ちょっと!」
私は赤面して春の頭を叩いた。痛い痛いやめてと春は笑ってガードする。
「子供いればひろこ離れていかないじゃん」
「・・でもまだふたりがいいよ」
「俺も。ふたりで、いたいな」
春が一瞬キスをした。
私も気持ちがいっぱいになりキスを仕返した。
「ひろこ、泣いた顔もかわいいな」
「もぉ泣きたくないよ。」
「もう、泣かせないから。ごめんね。ひろこはずっとかわいいままでいてほしいな」
「・・ずっとかわいくいるならずっと春の彼女でいなきゃ」
「お、じゃあずっとかわいくいれるよ。やった」
春は両手で抱きしめてくれてまたキスをした。
周りのひしめき合う韓国人だらけの雑踏の中で人目も気にせずに。
夕方には大阪を出なくちゃいけない。
昼前にのんびり2人で起きてタクシーで大阪は鶴橋商店街へ向かった。
「ひろこも、して」
マスクを渡されてタクシーの中で私は黙ってマスクをつけた。
春が心配しているだろうマスクを渡した時厳しい顔をした。
それは仕事をする人の顔だと思った。
ぐちゃぐちゃの韓国街は甘い香りとキムチと雑貨のカビのような匂いが混ざりとんでもない異国情緒溢れる場所だった。
「すごいね」
湿気で妙に肌がベタベタする。通路も通れないほど荷物で埋まったところもあった。ちょっと通路が広くなったところで肩を抱かれた。
お互い汗ばんでる肌。
湿気でむせかれるようだ。
日本人がほぼいない事が分かってお互いマスクを外した。
2人で韓国人からパンを買いお茶までもらい韓国人でごった返したフードコートの隅っこに2人並んで席をとった。
「これりんご味?美味しい。」
「これも形違うけどりんごの味がするよ」
どれを食べてもりんごの味。
そんなくだらない事で笑いながら食べた。
「すごいね。ここ。日本じゃないみたい。新大久保も行った事あるけど、韓国人街って本当ある意味不夜城だな」
パンを片手に春は辺りを見渡した。
周りの韓国人は私達のことを見ないし気にしない。
当たり前だけどその心地よさもあった。
「また来たいな」
「へー以外!春嫌だって言うと思った」
「異国情緒溢れてて現実逃避にはいいよ。また来年の今ぐらいがいいな。気候もいいし。来年のこの時期にまた来ようよ」
来年も?
来年も一緒にいれるの?
その一言に涙がどんどんあふれてくるのが分かった。堪えようと思っても涙はたちまち目に浮かんできて止まらなかった。
「どうしたの?!」
私の泣き顔を見た春は横でビックリしていた。すると手で私の涙をそっと触った。
「ごめんごめん。春ごめん」
顔を慌てて手で隠した。泣いてるところなんて見せたくなかった。
「・・泣いた顔初めてみた。もっと見せてよ」
顔をそむけたら春は手で頬を引き寄せた。
「泣く予定なんてなかったのにごめん」
手をおおって涙を拭う私の肩を抱いた。
「じゃあ泣いた理由おしえて」
耳元でそっと囁いた。
「不安ってさみしさに変わるんだなって。東京にまだ戻れないし、東京の春の生活も知らないし。ごめん、言ってる事意味わからないよね」
しばらく沈黙が続いた。
春だって意味が分からないはずだ。
一方的に自分の意見を話してるようでストレスをぶつけてるかのような、そんな自分が嫌だった。
「さみしくなっちゃったの?」
今度は春がテーブルの角にあったティシュを取って涙を拭った。私はそのティッシュを受け取って涙を抑えた。
「PV見て嫉妬したよ。PVのひろこ可愛くて、こんな顔するんだって、そう思ったらPV作ったキルズアウトが羨ましかったよ。正直ね」
春は雑多な風景に目を落として私を見ずに話した。
「この業界、バンド業界なんて特に狭くて心ない噂とか聞いたりするの。ひろこキルズアウトの俊と何かあった?誘われなかった?それってひろこの言うさみしさから?」
「え?」
私は涙が止まり、こないだの俊との事を思い出した。
「打ち上げで終電ギリギリで送ってくれたの。駅まで。その時友達になろうとか彼氏になりたいとか言われたけど彼氏いるからって話して急いで新幹線乗って、でもその日ちょうど共演者から遠距離恋愛してるなら彼氏が浮気してるかもよって言われて悩んじゃってキルズアウトからしてみたらなんて覇気のない人なんだろって思われてるかも」
「送ってもらっただけ?」
「うん。新幹線の終電ギリギリだったし。乗れたからよかったけど」
「・・・」
春はその途端大笑いをした。
「なんでおかしいの?」
「いや、ひろこ俺の事彼氏彼氏言うからかわいくてさ。そっか彼氏かぁ」
春はまだ笑っていた。
笑い事ではなく、私からしてみたら深刻な問題なのだ。
「春はかわいいかわいい言ってくれるけど私はかわいくないよ。春がいるからきっとかわいくいられるのよ。CMだって。春がいたからあんなによく撮れたのよ」
また涙があふれてきそうになる。
そうなの。
私気づいてたんだ。
春がいるから可愛くなれる事。
春に抱かれると魅力的になれる事。
恋をしてると幸せになれる事。
「私は春の彼女じゃなくて、大阪の彼女なの?それとも10人いる彼女のうちの8番目くらい?」
私は春の目を見つめた。
しばらく真剣に見つめ合っていたけど、春は優しそうに少し笑った。
「10人中8番目くらいならキルズアウトのPV出てもなんとも思わないよ」
私の斜めに流れる前髪をちょっとさわった。
ジメジメとした風が入ってきた。ジメジメしてたけど、夏を感じさせるにおいがした。
春は、春は私の事考えてくれてるの?
キルズアウトのPVでて、嫌な気持ちになったの?
混沌と思いがよぎる。
「あたしばっかりいつもドキドキしてバカみたいだよ。手だって、いつも繋ぐだけですごく嬉しいのに」
ティッシュで涙を拭けばメイクが落ちてギトギトしている。こんなボロボロになるまで泣いて、泣いて。
春が私の顔を見ながら頭が横に傾いてどことなく困った顔をしている。かと思えば嬉しそうな顔をした。
「なんて言おうかな。なんて言えばひろこは安心するのかな。俺がひろこに惚れてるの分かってると思ってたのにヒドイよなぁ」
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
「噂で、俊がひろこと打ち上げ中いなくなったとか聞いててさ、ひろこさみしかったとか言うからマジで浮気したのかと正直思った。けど俺の事彼氏彼氏言うからなんか安心した」
「私が浮気したと思ってたの?」
「うん。でもひろこが俊をスルーしてたの分かって安心した。ひろこが俊になびいて取られたら嫌だなって真剣に考えて昨日セックスしてる時子供作ろうかと思った」
「ちょっと!」
私は赤面して春の頭を叩いた。痛い痛いやめてと春は笑ってガードする。
「子供いればひろこ離れていかないじゃん」
「・・でもまだふたりがいいよ」
「俺も。ふたりで、いたいな」
春が一瞬キスをした。
私も気持ちがいっぱいになりキスを仕返した。
「ひろこ、泣いた顔もかわいいな」
「もぉ泣きたくないよ。」
「もう、泣かせないから。ごめんね。ひろこはずっとかわいいままでいてほしいな」
「・・ずっとかわいくいるならずっと春の彼女でいなきゃ」
「お、じゃあずっとかわいくいれるよ。やった」
春は両手で抱きしめてくれてまたキスをした。
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