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仕事
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初めてセックスしたのは高校に入って間もなくだった。
私は渋谷にあるカトリック系の女子校に進学した。世間一般には「由緒あるお嬢様学校」ってやつだ。
セーラー服が可憐な上お嬢様学校が持つ独特のその品性や雰囲気に男は弱いものだった。
学校帰りはよく他校の生徒に声をかけられた。そこで声をかけてきた男の子と付き合う事が多かった訳で要は自分がタイプなら交際をしていた。
慶の事を引きずりながら。
だからなのか、その高校3年間で付き合い、身体の関係に発展した男は皆どことなく慶を彷彿させるビジュアルの男の子ばかりだった。
思春期の好奇心、といったところでセックスはしたけれど、そこまで気持ちの良いものだとも思わない事の方が多かった。
私が大人になったのか。
それとも春が年上でセックスが上手なだけなのか。
分からないけど明らかに高校生の頃と身体の感じ方、相手への心の向き合い方が変わっている自分がいた。
美咲に電話して久々に話したら、セックスも良くてなんでも買ってくれてカッコよくて売れっ子アーティストなんだから申し分ないわと言われた。
「ひろこ、しばらく会わないでみたらずいぶん成金になったな」
「え?」
仕事始め、今日はレギュラーの音楽番組の収録に遊井さんは大阪に来てくれた。
ハワイで買ってもらったティファニーのダイヤのピアス。
miumiuの赤いセットアップに新作のブーツ。カバンはプラダ。そして腕にはダイヤ輝くROLEXが光っている。
私は我に返った。
成金。
そりゃそうだ。
「うーん。仕事がさ、CS番組のプロデューサーがずいぶんひろこのファンらしくて安藤ひろこを自分のトーク番組に使いたいとは言ってるんだけど、なんせCSってのがなぁ。地上波ならいいけど」
「CSだとなんでダメなの?」
「有料チャンネルだし、俺はちゃんと地上波で出してもらいたいんだよ」
遊井さんにもそりゃ戦略はあるだろう。
私もこれやりたい、やりたくないはある程度言うけど、大阪での仕事は地道にやっているつもりだ。
「ただ、ちょいちょい聞いてると業界人にひろこのファンっているんだよな。お願いしてみようかな」
「お願いって、身体売ったりとかは私はしないわよ」
「当たり前だ」
遊井さんはタバコに火をつけた。
煙を見ながら、なんだか遊井さんに対して申し訳ない気持ちになってくる。
仕事の依頼が思うように来ない。もう春先の改編期の話だってでてくるハズなのに。CMもだ。次はどこか来るだろう思っても一向に依頼はない。
一生懸命やっても報われていないようなネガティブな想いがでてくる。
ここで卑屈になってはいけないと思っても弱さはでてくる。
「仕事って難しいね。」
私がポツリと言った。
「目の前の事をやって少しずつファンが出てくれば正解なんだから。地道にやるんだ」
遊井さんの言葉を身に染み込ませるかのように私は温かいコーヒーをぐっと飲んだ。
「ところで、ずいぶん日焼けしてひろこどこに行ってたんだ?」
突然違う話題になって私は焦ってコーヒーを咽せて咳き込んだ。
「だっだって、成人式のお休みでしょ?たまの有休みたいなものよ」
私はしどろもどろに言った。そのしどろもどろを見抜いたのか遊井さんの目は鋭くなった。
「有休でプライベート充実させるのはいいが、日焼けはこの仕事ではダメだって何度も言ってるだろ?プロ意識持てよ」
遊井さんは呆れている。
私はすいませーんと言わんばかり横目で流して下を向いた。
「ハッキリ言えよ。彼氏、できたのか?誰なんだ?」
この人には隠せないんだ。もう見抜かれているんだ。私は顔を上げて遊井さんの眼を見つめた。
遊井さんには遅かれ早かれ言わなきゃいけないのは分かっている。誰にも言えない恋だけどこの人にだけは理解しててもらわなきゃならない。
私は上を向いて考えて意を決した。
「SOULのHARUさん」
遊井さんは色眼鏡が外れそうなくらいビックリしていた。
「安藤さん、日焼けですか」
「はい。日焼けです」
「成人して、日焼け。」
「そうです!成人しましたので」
一緒に司会をやっている男性局アナ竹下さんもビックリしたようだ。
冒頭こんなくだりになる。
「日焼けしてても全然かわいいよね。食べちゃいたい」
ゲストのC&Tという2人組は私をネタに盛り上がる。
「日焼けしてるから、食べたら癌になりますよ」
順調な仕事始め。
焼けた水着の跡を見ては春との事を思い出す。
抱かれてた事を思い出すと胸がドキドキする。
仕事が終わると思いもよらぬ連絡が来た。
『今日、6時間会えるかも』
「・・・」
私は携帯を見ながら笑みがこぼれた。
「写真、2人で映ってるのすくないね。」
私が現像したハワイの写真を嬉しそうに見る。
春はゆうきとゆうきのマネージャーの五十嵐さんと新幹線で大阪に来たらしい。
ゆうきと五十嵐さんはホテルに泊まって朝は3人で帰ると言う。
なんでゆうきと春?と思ったけどそんな経緯云々聞く事の余裕がなかった。2人で逢える幸せに前のめりになっていて、とにかく逢える事が貴重な時間だった。
「ひろこの将来の夢はなに?」
お風呂上がりに髪を拭いていると突然聞かれた。
「ナイショ」
「いーじゃんおしえてよ」
「じゃあ春は?」
「音楽史に残るバンドになること」
「ミュージシャンっぽーい」
なかなか乾かそうとしない髪を春がドライヤーを私から奪って乾かしてくれた。
「で、ひろこの夢は?」
「東京で仕事をすること」
ドライヤーの音で聞こえないようだ。
「聞こえないよ」
「東京で仕事をすること」
「聞こえなーいー」
髪が乾いてドライヤーの音を消すとなんだかコントみたいで笑ってしまった。
「東京で仕事をすること」
すると春は私を見つめていた。
「お嫁さん、かと思った」
「いつかは結婚したいよ。」
私を貰ってくれじゃないけど、十分含みを持たせて言った気がする。
「じゃあ俺と結婚して庭付き戸建てに住んで東京でタレントの仕事すればいいじゃん。両方夢が叶って万々歳だな!今でも、いいよ」
ふざけて言う。
春と結婚できたらこれ以上の幸せはないんじゃないかと思う。ただ、自分がこんな半人前では春と結婚なんて到底できないとは分かっている。
「結婚なんて早いじゃん。今結婚したら売名行為になっちゃう」
迷惑はかけられない。
重く考えてほしくないから私も笑顔で返した。
今結婚なんてしたらSOULのHARUは大阪の売れないタレントと結婚したなんて言われてしまう。
私は渋谷にあるカトリック系の女子校に進学した。世間一般には「由緒あるお嬢様学校」ってやつだ。
セーラー服が可憐な上お嬢様学校が持つ独特のその品性や雰囲気に男は弱いものだった。
学校帰りはよく他校の生徒に声をかけられた。そこで声をかけてきた男の子と付き合う事が多かった訳で要は自分がタイプなら交際をしていた。
慶の事を引きずりながら。
だからなのか、その高校3年間で付き合い、身体の関係に発展した男は皆どことなく慶を彷彿させるビジュアルの男の子ばかりだった。
思春期の好奇心、といったところでセックスはしたけれど、そこまで気持ちの良いものだとも思わない事の方が多かった。
私が大人になったのか。
それとも春が年上でセックスが上手なだけなのか。
分からないけど明らかに高校生の頃と身体の感じ方、相手への心の向き合い方が変わっている自分がいた。
美咲に電話して久々に話したら、セックスも良くてなんでも買ってくれてカッコよくて売れっ子アーティストなんだから申し分ないわと言われた。
「ひろこ、しばらく会わないでみたらずいぶん成金になったな」
「え?」
仕事始め、今日はレギュラーの音楽番組の収録に遊井さんは大阪に来てくれた。
ハワイで買ってもらったティファニーのダイヤのピアス。
miumiuの赤いセットアップに新作のブーツ。カバンはプラダ。そして腕にはダイヤ輝くROLEXが光っている。
私は我に返った。
成金。
そりゃそうだ。
「うーん。仕事がさ、CS番組のプロデューサーがずいぶんひろこのファンらしくて安藤ひろこを自分のトーク番組に使いたいとは言ってるんだけど、なんせCSってのがなぁ。地上波ならいいけど」
「CSだとなんでダメなの?」
「有料チャンネルだし、俺はちゃんと地上波で出してもらいたいんだよ」
遊井さんにもそりゃ戦略はあるだろう。
私もこれやりたい、やりたくないはある程度言うけど、大阪での仕事は地道にやっているつもりだ。
「ただ、ちょいちょい聞いてると業界人にひろこのファンっているんだよな。お願いしてみようかな」
「お願いって、身体売ったりとかは私はしないわよ」
「当たり前だ」
遊井さんはタバコに火をつけた。
煙を見ながら、なんだか遊井さんに対して申し訳ない気持ちになってくる。
仕事の依頼が思うように来ない。もう春先の改編期の話だってでてくるハズなのに。CMもだ。次はどこか来るだろう思っても一向に依頼はない。
一生懸命やっても報われていないようなネガティブな想いがでてくる。
ここで卑屈になってはいけないと思っても弱さはでてくる。
「仕事って難しいね。」
私がポツリと言った。
「目の前の事をやって少しずつファンが出てくれば正解なんだから。地道にやるんだ」
遊井さんの言葉を身に染み込ませるかのように私は温かいコーヒーをぐっと飲んだ。
「ところで、ずいぶん日焼けしてひろこどこに行ってたんだ?」
突然違う話題になって私は焦ってコーヒーを咽せて咳き込んだ。
「だっだって、成人式のお休みでしょ?たまの有休みたいなものよ」
私はしどろもどろに言った。そのしどろもどろを見抜いたのか遊井さんの目は鋭くなった。
「有休でプライベート充実させるのはいいが、日焼けはこの仕事ではダメだって何度も言ってるだろ?プロ意識持てよ」
遊井さんは呆れている。
私はすいませーんと言わんばかり横目で流して下を向いた。
「ハッキリ言えよ。彼氏、できたのか?誰なんだ?」
この人には隠せないんだ。もう見抜かれているんだ。私は顔を上げて遊井さんの眼を見つめた。
遊井さんには遅かれ早かれ言わなきゃいけないのは分かっている。誰にも言えない恋だけどこの人にだけは理解しててもらわなきゃならない。
私は上を向いて考えて意を決した。
「SOULのHARUさん」
遊井さんは色眼鏡が外れそうなくらいビックリしていた。
「安藤さん、日焼けですか」
「はい。日焼けです」
「成人して、日焼け。」
「そうです!成人しましたので」
一緒に司会をやっている男性局アナ竹下さんもビックリしたようだ。
冒頭こんなくだりになる。
「日焼けしてても全然かわいいよね。食べちゃいたい」
ゲストのC&Tという2人組は私をネタに盛り上がる。
「日焼けしてるから、食べたら癌になりますよ」
順調な仕事始め。
焼けた水着の跡を見ては春との事を思い出す。
抱かれてた事を思い出すと胸がドキドキする。
仕事が終わると思いもよらぬ連絡が来た。
『今日、6時間会えるかも』
「・・・」
私は携帯を見ながら笑みがこぼれた。
「写真、2人で映ってるのすくないね。」
私が現像したハワイの写真を嬉しそうに見る。
春はゆうきとゆうきのマネージャーの五十嵐さんと新幹線で大阪に来たらしい。
ゆうきと五十嵐さんはホテルに泊まって朝は3人で帰ると言う。
なんでゆうきと春?と思ったけどそんな経緯云々聞く事の余裕がなかった。2人で逢える幸せに前のめりになっていて、とにかく逢える事が貴重な時間だった。
「ひろこの将来の夢はなに?」
お風呂上がりに髪を拭いていると突然聞かれた。
「ナイショ」
「いーじゃんおしえてよ」
「じゃあ春は?」
「音楽史に残るバンドになること」
「ミュージシャンっぽーい」
なかなか乾かそうとしない髪を春がドライヤーを私から奪って乾かしてくれた。
「で、ひろこの夢は?」
「東京で仕事をすること」
ドライヤーの音で聞こえないようだ。
「聞こえないよ」
「東京で仕事をすること」
「聞こえなーいー」
髪が乾いてドライヤーの音を消すとなんだかコントみたいで笑ってしまった。
「東京で仕事をすること」
すると春は私を見つめていた。
「お嫁さん、かと思った」
「いつかは結婚したいよ。」
私を貰ってくれじゃないけど、十分含みを持たせて言った気がする。
「じゃあ俺と結婚して庭付き戸建てに住んで東京でタレントの仕事すればいいじゃん。両方夢が叶って万々歳だな!今でも、いいよ」
ふざけて言う。
春と結婚できたらこれ以上の幸せはないんじゃないかと思う。ただ、自分がこんな半人前では春と結婚なんて到底できないとは分かっている。
「結婚なんて早いじゃん。今結婚したら売名行為になっちゃう」
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