Beloved

みのりみの

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もう1人じゃない

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マンションに帰ると部屋は荷物で散乱していた。

「何これ?」

買ったもので部屋中はあふれてもはや自分の部屋だとは分からないくらいだった。
洋服を大量に買ったのだろう紙袋にスニーカーにサンダル、家電量販店の袋もわんさかとある。そして絵画や本までもが所狭しと置かれていた。

「久々丸一日買い物しちゃったよ。大阪って面白いのな。闇市みたいなところも行っちゃったよ」

彼はニコニコでダイニングテーブルの上にはノートパソコンまで置いてあった。

「あ、これ新しいモデルのだ!いくらしたの?高かったでしょう」

「アップル?俺これしか使えないんだよ」

値段も言わない。
その横にはインスタントカメラとそのフィルムがまた5パックくらい無造作に置いてあった。

「写真撮ろうよ」

フィルムをカチャカチャと入れて2人でたくさん写真を撮った。浮き上がる写真に彼はご機嫌で見ている。

「これ、これも、ひろこかわいいな。持って帰ろ。」
ぴったりくっついて映る2人の写真をテーブルに並べると、恋人みたいだなと思った。

特に気に入って買った物が動物の絵画に海の写真集。
本物だかなんだか分からないプーマの派手な黄緑の健康サンダルを嬉しそうに私に見せては解説をする。

売れっ子ロックバンドのボーカル。

クールな雰囲気でかっこいいけどプライベートは普通の男の人なんだ。

「ひろこの事務所ってスミ・エンターテイメントなんだな。うちの事務所の近くだよ」

買ったばかりのパソコンを立ち上げると私の画像が出てきた。

「まぁ芸能事務所なんて赤坂多いもんな」
「そうだね」

わたしは隣でパソコンを見つめた。
事務所の私のページをクリックした。

「東京で、仕事しないの?」

彼は画面を見ながら言った。
東京で仕事したくても仕事がないんだよ、と言いたいところだったけど自分で認めるのが嫌で何も言えなかった。
自分が落ちたタレントだと分かってはいる。ただ、それを明確に彼に話せないでいた。

「今は、大阪放送に軸を置いてるから大阪の仕事が多いんだ。だからもう1年東京に帰ってないよ」

それは私のプライドでもあったと思う。
有名になったら、東京でのレギュラー番組なんて持てたら自信を持って東京に帰りたいからだ。

『見返すくらいの気持ちでやるんだ!』

慶にフラれた時のどん底にいた時の遊井さんの言葉を胸にここまできたつもりなんだ。

「そっか」

彼は画面を見ながらそれ以上言わなかった。

分かっているんじゃないかと思った。
それ以上は何も聞いてこなかった。

「これ、オッパイ大きいね」

グラビアの画像が出てきて私は瞬時に画面を消した。
「見てたのにー!」
恥ずかしくなってダメダメ見ないで!と慌てる私に彼は笑っていた。


その夜またセックスをした。

「あんっ」

ピリリリリ ピリリリリ

邪魔するように彼の携帯が鳴る

「・・鳴ってる」

「いいよ」

着信はそっちのけで夢中で私の首にキスをする。
手が胸に触れる。
それだけで自分の呼吸が荒くなっているのに気づいて恥ずかしくなる。

身体中にキスされた箇所が熱を持つかのように熱くなる。その度に私が溶けそうになるの、分かっているの?

ピリリリリ ピリリリリ

また携帯が鳴る。今度はなかなか鳴り止まない。

ピリリリリ ピリリリリ

彼はベッドの下に落ちた携帯の電源を切ってまたベッドの下にコロンと置いた。

「電話、でて」

トロンとした彼の顔が妙に色っぽくそのまま、唇にキスをした。

「電話より、ひろこ」

胸がギュッと締め付けられるほどの気持ちになる。

「あっあっっ」

初めてセックスした時よりも昨日のセックスよりもどこかこの人に身体を預けているという意識みたいなものがあった。

『大切にするから』

彼のあの言葉にどれだけの信頼感があったのだろう。
どれだけ、安心感をもらえたのだろう。

「あんっ やっ」

また指で私の中の気持ちの良いところをなぞるように刺激する。

「あっあっ」

彼の指で私の中の濡れた音がする。それがいやらしくて興奮した。
恥ずかしくて顔をまた腕で隠すとまた彼は腕を手で掴んだ。

「感じてる顔、みせて」

かすれた声が色っぽい。

「あっっっ」

彼が私の中に入るとまた気持ちの良いところに彼のものがあたる。

「あんっああんっ」

私の上で動く彼の身体をぼんやりとした意識の中で見ながら彼は私の胸を愛撫する。
それがすごくエッチでたまらなかった。

「ひろこ、ひろこ」

荒い呼吸の中で彼は私を呼ぶ

「すっごい、好き」

私は朦朧とした意識の中で彼を感じなら好きと言われているんだと思った。

「セックス、好きなの、?」
「違くて、ひろこが」

彼が私の中で激しく動いた。
お腹がまたギュッとなるような快楽が走る。

部屋に私の感じる声が響く。

「ひろこが、好き。」



ピンポーンピンポーンピンポーン
ピンポーンピンポーンピンポーン

朝からうるさい音で目が覚めた。
時計は6時だった。

「・・誰?」

ガチャンガチャンと今度はドアをまわす音。そしてドンドン叩く音。 

「誰だろ。なんか、コワイ」

起き上がって玄関の方を見た。

「春は、春はいますよね?」

事の事情が理解できないけど、彼がガバッと起きてTシャツを着はじめた。
つられて急いで私もワンピースを被り玄関へ行きドアをあけるとこないだ収録に来て帰りに挨拶をしていたSOULのマネージャーが立っていた。

「春!やっぱり!!電話に出なさい!!」

おはようも何も言わずにただただ焦った形相でお邪魔しますも何も言わずに家に入って来た。

「アッキー!」

「昨日の夜から電話繋がらないぞ!」

私達の寝起きの姿と乱れたベッドを見てもう何もかも経緯は分かりましたという顔をした。

「大阪に行ったのは分かってたからもしかしてと思って安藤さんのマンションの場所、大阪放送の水野ちゃんから聞いたらやっぱり。春急いで支度して。仕事だから」

「はー?3日休みって言ったじゃん!」

「仕事なんだよ!日程調整したらもうずれずれなんだよ!取材と夜は収録、髪も直すから急いで」

急に事態がせわしくなって私は呆気にとられていた。

「ひろこ、ごめん。うちのマネージャー」

「改めまして。安藤さん、SOULの統括マネージャーをしております秋元です」

急に早口の業界口調で名刺を渡してきた。
日焼けしてちょっとぽっちゃりしてるけど業界人らしいスーツをうまく着こなしていた。

「統括、なので統括はしてますが一応春の担当なんです。宜しくお願いします」

私に律儀に挨拶したと思ったらもうすでに急げ急げとオーバーにせかして玄関の方へ向かっている。

昨日買ったばかりのTシャツにGパンをはいて彼はキャップを手にした。
散々買い物したので部屋が荷物であふれている中、スマホと携帯を手にした時、机の上にあった昨日撮った2人の写真をまた何枚か手にして玄関に向かった。

「は、春!」

私はとっさに彼の名を呼んだ。

彼はゆっくり振り返った。

「これ!気に入ってるんでしょ?」

近くにあった紙袋に昨日買っていた黄緑の健康サンダルと海の写真集を急いで入れて渡した。さすがに絵画は重くて渡せなかった。

「ありがと」

彼は私を見て笑った。

「あ、アップルも!」
「パソコンはひろこんち用。置いといて。使っていいから。」

そう言うと急いでスニーカーを履き出した。

「春!急いで!」

外では秋元さんの声が聞こえる。
振り返って私に手でこっち、と招く。
玄関に駆け寄ると秋元さんが見ていないのを確認して一瞬キスをした。

「連絡するから」

キャップを被って外に出る。 

さっきまで一緒に寝てたのに。

季節が夏から秋に変わるかのような少し冷えた風が部屋に入ってきた。












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