Beloved

みのりみの

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夏祭り

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はじめてデートした時にお酒の勢いでわーっとなってそのままホテルにでも行っておけばよかったんじゃないかと今は思う。
このままズルズルと気持ちを引きずるよりも。

それを美咲に言ったらひろこはただセックスしたいだけ?したらしたでその後連絡なかったらただのヤリモクでムカつくよ。と言われた。

身体だけの関係の方がよっぽど楽なんじゃないかと思えたけど、相手にはただのセフレとしか思われてなくて自分は相手の事を真剣に好きだったら、、
それは地獄。

男が女に優しいのはやらせてくれるから。
狙いを定めて意中の女の子の気をひいてセックスに持ち込んでもいつかは飽きて他所の女を探す。狩猟的。そんなもの。単純よね。その子の裸に飽きちゃうのよ。

じゃあ飽きないようにするには女はどうすればいいの?

セックスで飽きないように、例えばセックスの趣味が合う、SMとかさ。そっちに走る人もいるだろうけどそうゆう人も含めて何かしら絶対切れない双方の心の繋がりしかないでしょ。

じゃあどうやったらずっと心が繋がっていられるのかな。

そこが難しいのよ。恋愛は。

高校生の頃美咲と話した事を思い出した。


「もっとプロ意識持てよ。なんだよこのアザ。目立つぞ」

見た目チンピラ風な遊井さんは怒ると多分すごく怖いと分かっていた。
普段から私に小姑のように言ってくるけど、どこか心では受け止めながらも表面は流して聞いてる風にしていた。
なんでだろう。
親みたいなものだからだろうか。

コーヒーを渡しながら遊井さんは続けてピリピリと私に言う。

「自転車で転んだって、なんでまた自転車?」

「コンシーラーがあるでしょ。大丈夫よ」

遊井さんに小言を言われるのが面倒でやはりサラリとかわしてコーヒーを飲む。

写真集のロケ先がグアムだと聞いてスケジュールに目を通しながら、ワンナイが終わったらちょうど来るグアムロケに心躍るかと思ったけどそうでもなく。

ふとした時に慶とのキスを思い出す。
慶はまだまだ夏休み。
あの日から会えてない。

ワンナイのロケ先がたまたま実家の近くで帰りに遊井さんと車に乗っているとちょうどお祭りだった。
もう夏祭りなんだ。

『今日お祭り行くの?』

美咲にメールをするとすぐに返信は来た。

『行くよー!来るなら今日19時に商店街の喫煙所で待ち合わせね』

慶も来るかな。来るかな。


落ち着かない。



「おーひろこ来れたの?仕事帰り?頭お団子可愛いいー!おつかれ」

「うん。お団子頭だとワンナイ感でるよな。ひろこのファンとかよって来ないか?」

「誰も気づかないってば」

ロケが終わり遊井さんに車で実家で下ろしてもらいそのまま夏祭りに来た。
美咲と歩と大成くんに、こないだクイーブにいた男の子達が3人。

「慶は?来るの?」
「時間あれば来るみたいだけど」

隣で美咲と歩の会話を盗み聞きした。会ったら、なんて言おう。

ちらちら目に入る浴衣の女の子達。
浴衣でも着たいところだけど、気合い入りすぎてるみたいで気恥ずかしかった。

「ひろこ。慶と何かあったの?」

美咲がこそりと聞いて来た。

「うん」
「やっぱりな」
「なんで分かるの?」
「顔が恋してる顔だった」
「いつ?」
「ワンナイみてると。すぐ分かる。フェロモンどろどろ滲み出るような、、」
「人を怪物みたいに言わないで」

串刺しの牛肉を2人で買って頬張った。味が濃くて美味しい。

「やったの?」
「やってない」

美咲と目を合わせてふふふと少し笑いあった。

「女子2人で肉かぶりついて色気もへったくれもないな」 

「!!」

「うわっビックリした。慶。突然現れないでよ!」

私達の後ろに慶は立っていた。
突然現れたので私も言葉が出て来なかった。

「でも、いいな。肉うまそ。俺も買ってこようかな。どこで買った?」

「その十字路にりんご飴あるでしょ。その隣。ひろこ教えてあげなよ」

それだけ言うと美咲は先の方を歩く歩達の集団の方へ行った。

2人になった私は手に持った肉串も進まず慶に何て言おうか言葉を探していたら慶がすぐ私に言った。

「こないだの、怪我、大丈夫だった?」

「うん」

「よかった。」

「慶も顔の怪我治ったね。擦りむいてたから」

「男はそんな傷1つや2つどうでもいいよ。女の子は傷物になったらマズイけど」

人の流れが前より早くてぼさっと立っていた私達はあきらかに通行の邪魔で慶は私の腕を引いてリンゴ飴の方に歩いた。

「慶、牛串売り切れだって。」

「えっええー!」

屋台には売切れと看板が立っていた。

「これ、あげるよ。食べて」
「いいの?サンキュー」

慶は歩きながら私の食べかけの牛串を食べはじめた。
私の食べかけ。
それがやたら距離が縮まっているように勝手に解釈してドキドキしていた。

「リンゴ飴食べる?あ、お祭りっぽくヨーヨーもいいじゃん。ひろこやりなよ」

「あたし、こうゆうの取れた事なくて、慶とってよ」

「何色がいい?」

「赤」

慶は器用にひょいっと取ってくれて、私に赤いヨーヨーを渡してくれた。

「ありがとう!」
「もう8時だよ。お祭り終わるじゃん。どんどん店閉めてるし。買いたいものだけ買っておこうよ」
「じゃあビールとたこ焼き!」

2人でビールとたこ焼きと焼きそばを急いで買ってお祭りの喧騒から離れた静まりかえった神社の境内に座ってビールをあけた。

「この祭りが終わると夏も終わるなーって思うんだよな。昔から」

「夏なんて、あっという間よね」

たこ焼きを食べながら神社から見るお祭りの明かりを見つめていた。

「さっき、すれ違った男達、ワンナイの安藤ひろこがいるって騒いでたよ」

「え?本当?」

「俺、刺されないかな、とかちょっと心配になった」

私は吹き出しそうになった。

「髪の毛、お団子だからバレるんだろうな。いつもTVだとお団子頭だし。なんか決まってるの?イメージ?」

「ワンナイのプロデューサーが面白い人でね。はじめての収録でお団子にしてたらいつか徹子さんみたく冠長寿番組できるかもしれないからって。それ言われてからずっとお団子頭なのよ」

「いいじゃん!ひろこそのまま突っ走れよ!」

「お団子頭で生き残れたらそれはそれで伝説よ」

2人で笑い合うと、いいなと思った。
今は無理でも慶と心が繋がる。
私達にそんな日は来るのだろうか。
遠い未来でもいいから来てほしいよ。

「さっき、商店街の入口で笑子見たよ」
「ええ?」

とっさに気分の悪くなる名前を聞いてげっそりしそうだった。

「クイーブにもあのひろこに殴られてからは来てないけど、次会ったらまた大変そうだよな。」

「笑子、嫌いよ。もうずっと。性悪とはああいう子の事を言うのよ」

「たとえば?」

「人の揚げ足をとったり、嫌味を言ったりやっかんだり。中学の頃とか陰湿なイジメみたいのもしててどんだけ戦ったか。まぁあっちも私と散々戦ってきた訳だから戦闘能力は高いかもだけど、人間的に受け付けないのよ。本当」

「うーん。女もいろいろあるな。ひろこだからか?」

慶はやれやれと言った風に少し笑っていた。

「そういえばなんで笑子の事知ってるの?中学も違うし慶は高校は男子校でしょ?あの子塾も来てないのに。クイーブで知り合ったの?」

「うん。高校の頃かな」

慶は少し遠くを見たと思ったら無口になった。
辺りはザワザワと風が吹いてどこか夏の終わりを感じさせるような風の音だった。慶の髪が風に揺れて顔が見えない。

「俺さ、高校の頃、一度だけ笑子と寝たんだよね」



何?聞こえない。

ううん。ハッキリ聞こえた。

風の音が強くなったけど私にはハッキリと聞こえたんだ。
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