友達の彼女

みのりみの

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「内海さん、猫飼ってたんだね。かわいいね。猫ってかんじ。」

残された部屋で俺にひろこは鍋の肉と白菜をたんまりとついでくれて渡してくれた。俺はぼんやりとメガネを外してテーブルの傍に置いた。

ひろこと部屋に2人きり。

内海が気をきかせて出て行った。俺とひろこを2人にさせてあげたいと思ったんだろう。
それを考えるとどこまでも俺に気遣いをしてくれていると思った。

『今から剛くんと帰るから』

春からメールがちょうど入ったけどもう何も考えられなかった。

「ひろこ、ごめん。俺もちょっと用事あったから出るわ。」

俺は立ち上がって鞄を持った。

「え?ケンも?え?え?」

ひろこはビックリしていたけど、俺は急いでリビングを出た。
内海を追いかけなきゃと思った。

「ケン!メガネ、忘れてるー!」

かすかにひろこの声が聞こえたけど俺は勢いよく扉を開けて外に出ていた。エレベーターで降りながら内海に電話をした。出なくて、もう一度かけても出なかった。

マンションの外に出て辺りを見回したけどどこにも内海らしい人がいない。メールをしようとしたら内海から着信が鳴った。

「内海今どこ?」
『あ、六本木。駅の近くです。』
「こないだの、公園で待ってるから。待ち合わせしようよ」
『・・分かりました。』

俺は走ってあの暗い小さな公園へ向かった。
芋洗坂を走って登っていたら、若い女の子に声をかけられた。

「SOULのKENさんですよね?握手してください!」
しまった、と思った。
メガネを置いてきたから何も隠せるものがない。マスクも持ってなかった。

「ありがとう。」

そっと握手をしたらまた別の女の子が寄って来た。
「KENさん、握手してください。応援してます!」
「はい。ありがとう」

やっぱりそんな事をしていたら大学生みたいな男たちも3人で寄ってきた。
俺は丁寧に挨拶をして後ろに見えたタクシーに左手を上げて止めて乗り込んだ。

「すいません。歌舞伎座まで行ってください!」
初老のドライバーはダルそうに頷いて車を走らせた。
タクシーは目と鼻の先の歌舞伎座に差し掛かってその先の公園の前で止めてもらった。このまま内海と中目に移動しようと思った。

タクシーを待たせたまま公園に内海が立っているのが見えた。

「内海!乗って!」

俺がタクシーの扉を開けたところで叫ぶと内海は走って来てタクシーに乗り込んだ。

「運転手さん、すいません。中目黒に向かってください。」

それだけ言うと車内は静まり帰った。内海は無言だった。窓の外は六本木のネオンが輝いて、ゆっくり走り出した。

「本当に猫、飼ってんのかよ。」

「飼ってますよ。2匹。」

内海は窓の外を見ながら、少しの沈黙のあと切り出した。

「なんで。せっかくひろこちゃんと2人になれるのに。あんなチャンスないですよ。なんで出て来たんですか」

俺に視線を合わさず膝に置いた手を見つめながら言った。

「もう、ひろことかいいよ。気にしないでよ。」
「気にしますよ」

内海の言葉が強く出た。

「あんなに大好きなひろこちゃんですよ!ケンさん何してるんですか!好きならそのままでいいじゃないですか!」
「ひろこは好きだけどそんなんじゃなくて」
「ひろこちゃんが好きでしょう!」
「だから内海、聞けよ!」

俺が熱くなったのかタクシーが急ブレーキをかけて止まっていた。その瞬間俺も内海も同じような体勢で身体がバウンドした。

「あんた達うるさいよ!痴話喧嘩は外でやってくれ!降りろ!早く降りろ!!」

初老のドライバーは俺達に怒り出した。

「金はいいから早く降りろ!!」

「・・すいません。」

扉が開いて内海と俺が降りたところで扉は勢いよく閉まって走り去って行った。
俺と内海はただ路上に降ろされ放心状態なのかしばらくその場に立ちつくしていた。

「・・・怒られちゃったじゃん。」
「・・ケンさんがいけないんです。」
「ちげーよ。内海がキレだしたからつい、、ってゆうかここどこ?」

辺りを見渡すと優希の住むタワーマンションがやけに近くに見えるけど、緑がやたら生い茂った場所だった。

「有栖川公園の近くですね。歩きましょうか。」

俺は内海とゆっくり歩き出した。

「メガネ、今日かけてないから通りに出たらケンさんバレますよ。広尾なんて記者がウヨウヨしてるから。」

街頭に照らされた内海は心配気に俺を見た。どんぐりみたいな目をして俺を見つめていた。
俺は左手がゆっくり動いていた。その手は自然と内海の右手を繋いでいた。

「・・・いいよ。」

「・・・」

内海が繋いだ手をじっと見つめた。

「記者がいたら、撮ってもらうよ。この人が僕の心の支えなんですって胸張って言うよ。一緒にピースしてるとこ、撮ってもらおうぜ。」

「・・ケンさんは、大バカ者です。」

「内海は面白いこと好きだろ?俺といたら面白い、と思うよ?」

内海に涙があふれていた。それを左手で目頭を押さえた。

「ケンさん、本当大バカです。売れっ子なんだから、モデルとか女優とかもっと女選んだ方がいいですよ。私はさびれたテレビバカな女ですよ。」

「俺は内海じゃなきゃダメなんだよ。ひろこでもダメなんだよ。どうしても内海がいいんだよ。」

繋いだ小さな手が温かくて、離したくなかった。

「本当ケンさんって大バカ者。」

「大バカ者でいいよ。」

俺達は手を繋いだまま1時間かけて中目黒までの距離を歩いた。

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