31 / 32
必要な人
しおりを挟む
「内海さん、猫飼ってたんだね。かわいいね。猫ってかんじ。」
残された部屋で俺にひろこは鍋の肉と白菜をたんまりとついでくれて渡してくれた。俺はぼんやりとメガネを外してテーブルの傍に置いた。
ひろこと部屋に2人きり。
内海が気をきかせて出て行った。俺とひろこを2人にさせてあげたいと思ったんだろう。
それを考えるとどこまでも俺に気遣いをしてくれていると思った。
『今から剛くんと帰るから』
春からメールがちょうど入ったけどもう何も考えられなかった。
「ひろこ、ごめん。俺もちょっと用事あったから出るわ。」
俺は立ち上がって鞄を持った。
「え?ケンも?え?え?」
ひろこはビックリしていたけど、俺は急いでリビングを出た。
内海を追いかけなきゃと思った。
「ケン!メガネ、忘れてるー!」
かすかにひろこの声が聞こえたけど俺は勢いよく扉を開けて外に出ていた。エレベーターで降りながら内海に電話をした。出なくて、もう一度かけても出なかった。
マンションの外に出て辺りを見回したけどどこにも内海らしい人がいない。メールをしようとしたら内海から着信が鳴った。
「内海今どこ?」
『あ、六本木。駅の近くです。』
「こないだの、公園で待ってるから。待ち合わせしようよ」
『・・分かりました。』
俺は走ってあの暗い小さな公園へ向かった。
芋洗坂を走って登っていたら、若い女の子に声をかけられた。
「SOULのKENさんですよね?握手してください!」
しまった、と思った。
メガネを置いてきたから何も隠せるものがない。マスクも持ってなかった。
「ありがとう。」
そっと握手をしたらまた別の女の子が寄って来た。
「KENさん、握手してください。応援してます!」
「はい。ありがとう」
やっぱりそんな事をしていたら大学生みたいな男たちも3人で寄ってきた。
俺は丁寧に挨拶をして後ろに見えたタクシーに左手を上げて止めて乗り込んだ。
「すいません。歌舞伎座まで行ってください!」
初老のドライバーはダルそうに頷いて車を走らせた。
タクシーは目と鼻の先の歌舞伎座に差し掛かってその先の公園の前で止めてもらった。このまま内海と中目に移動しようと思った。
タクシーを待たせたまま公園に内海が立っているのが見えた。
「内海!乗って!」
俺がタクシーの扉を開けたところで叫ぶと内海は走って来てタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、すいません。中目黒に向かってください。」
それだけ言うと車内は静まり帰った。内海は無言だった。窓の外は六本木のネオンが輝いて、ゆっくり走り出した。
「本当に猫、飼ってんのかよ。」
「飼ってますよ。2匹。」
内海は窓の外を見ながら、少しの沈黙のあと切り出した。
「なんで。せっかくひろこちゃんと2人になれるのに。あんなチャンスないですよ。なんで出て来たんですか」
俺に視線を合わさず膝に置いた手を見つめながら言った。
「もう、ひろことかいいよ。気にしないでよ。」
「気にしますよ」
内海の言葉が強く出た。
「あんなに大好きなひろこちゃんですよ!ケンさん何してるんですか!好きならそのままでいいじゃないですか!」
「ひろこは好きだけどそんなんじゃなくて」
「ひろこちゃんが好きでしょう!」
「だから内海、聞けよ!」
俺が熱くなったのかタクシーが急ブレーキをかけて止まっていた。その瞬間俺も内海も同じような体勢で身体がバウンドした。
「あんた達うるさいよ!痴話喧嘩は外でやってくれ!降りろ!早く降りろ!!」
初老のドライバーは俺達に怒り出した。
「金はいいから早く降りろ!!」
「・・すいません。」
扉が開いて内海と俺が降りたところで扉は勢いよく閉まって走り去って行った。
俺と内海はただ路上に降ろされ放心状態なのかしばらくその場に立ちつくしていた。
「・・・怒られちゃったじゃん。」
「・・ケンさんがいけないんです。」
「ちげーよ。内海がキレだしたからつい、、ってゆうかここどこ?」
辺りを見渡すと優希の住むタワーマンションがやけに近くに見えるけど、緑がやたら生い茂った場所だった。
「有栖川公園の近くですね。歩きましょうか。」
俺は内海とゆっくり歩き出した。
「メガネ、今日かけてないから通りに出たらケンさんバレますよ。広尾なんて記者がウヨウヨしてるから。」
街頭に照らされた内海は心配気に俺を見た。どんぐりみたいな目をして俺を見つめていた。
俺は左手がゆっくり動いていた。その手は自然と内海の右手を繋いでいた。
「・・・いいよ。」
「・・・」
内海が繋いだ手をじっと見つめた。
「記者がいたら、撮ってもらうよ。この人が僕の心の支えなんですって胸張って言うよ。一緒にピースしてるとこ、撮ってもらおうぜ。」
「・・ケンさんは、大バカ者です。」
「内海は面白いこと好きだろ?俺といたら面白い、と思うよ?」
内海に涙があふれていた。それを左手で目頭を押さえた。
「ケンさん、本当大バカです。売れっ子なんだから、モデルとか女優とかもっと女選んだ方がいいですよ。私はさびれたテレビバカな女ですよ。」
「俺は内海じゃなきゃダメなんだよ。ひろこでもダメなんだよ。どうしても内海がいいんだよ。」
繋いだ小さな手が温かくて、離したくなかった。
「本当ケンさんって大バカ者。」
「大バカ者でいいよ。」
俺達は手を繋いだまま1時間かけて中目黒までの距離を歩いた。
残された部屋で俺にひろこは鍋の肉と白菜をたんまりとついでくれて渡してくれた。俺はぼんやりとメガネを外してテーブルの傍に置いた。
ひろこと部屋に2人きり。
内海が気をきかせて出て行った。俺とひろこを2人にさせてあげたいと思ったんだろう。
それを考えるとどこまでも俺に気遣いをしてくれていると思った。
『今から剛くんと帰るから』
春からメールがちょうど入ったけどもう何も考えられなかった。
「ひろこ、ごめん。俺もちょっと用事あったから出るわ。」
俺は立ち上がって鞄を持った。
「え?ケンも?え?え?」
ひろこはビックリしていたけど、俺は急いでリビングを出た。
内海を追いかけなきゃと思った。
「ケン!メガネ、忘れてるー!」
かすかにひろこの声が聞こえたけど俺は勢いよく扉を開けて外に出ていた。エレベーターで降りながら内海に電話をした。出なくて、もう一度かけても出なかった。
マンションの外に出て辺りを見回したけどどこにも内海らしい人がいない。メールをしようとしたら内海から着信が鳴った。
「内海今どこ?」
『あ、六本木。駅の近くです。』
「こないだの、公園で待ってるから。待ち合わせしようよ」
『・・分かりました。』
俺は走ってあの暗い小さな公園へ向かった。
芋洗坂を走って登っていたら、若い女の子に声をかけられた。
「SOULのKENさんですよね?握手してください!」
しまった、と思った。
メガネを置いてきたから何も隠せるものがない。マスクも持ってなかった。
「ありがとう。」
そっと握手をしたらまた別の女の子が寄って来た。
「KENさん、握手してください。応援してます!」
「はい。ありがとう」
やっぱりそんな事をしていたら大学生みたいな男たちも3人で寄ってきた。
俺は丁寧に挨拶をして後ろに見えたタクシーに左手を上げて止めて乗り込んだ。
「すいません。歌舞伎座まで行ってください!」
初老のドライバーはダルそうに頷いて車を走らせた。
タクシーは目と鼻の先の歌舞伎座に差し掛かってその先の公園の前で止めてもらった。このまま内海と中目に移動しようと思った。
タクシーを待たせたまま公園に内海が立っているのが見えた。
「内海!乗って!」
俺がタクシーの扉を開けたところで叫ぶと内海は走って来てタクシーに乗り込んだ。
「運転手さん、すいません。中目黒に向かってください。」
それだけ言うと車内は静まり帰った。内海は無言だった。窓の外は六本木のネオンが輝いて、ゆっくり走り出した。
「本当に猫、飼ってんのかよ。」
「飼ってますよ。2匹。」
内海は窓の外を見ながら、少しの沈黙のあと切り出した。
「なんで。せっかくひろこちゃんと2人になれるのに。あんなチャンスないですよ。なんで出て来たんですか」
俺に視線を合わさず膝に置いた手を見つめながら言った。
「もう、ひろことかいいよ。気にしないでよ。」
「気にしますよ」
内海の言葉が強く出た。
「あんなに大好きなひろこちゃんですよ!ケンさん何してるんですか!好きならそのままでいいじゃないですか!」
「ひろこは好きだけどそんなんじゃなくて」
「ひろこちゃんが好きでしょう!」
「だから内海、聞けよ!」
俺が熱くなったのかタクシーが急ブレーキをかけて止まっていた。その瞬間俺も内海も同じような体勢で身体がバウンドした。
「あんた達うるさいよ!痴話喧嘩は外でやってくれ!降りろ!早く降りろ!!」
初老のドライバーは俺達に怒り出した。
「金はいいから早く降りろ!!」
「・・すいません。」
扉が開いて内海と俺が降りたところで扉は勢いよく閉まって走り去って行った。
俺と内海はただ路上に降ろされ放心状態なのかしばらくその場に立ちつくしていた。
「・・・怒られちゃったじゃん。」
「・・ケンさんがいけないんです。」
「ちげーよ。内海がキレだしたからつい、、ってゆうかここどこ?」
辺りを見渡すと優希の住むタワーマンションがやけに近くに見えるけど、緑がやたら生い茂った場所だった。
「有栖川公園の近くですね。歩きましょうか。」
俺は内海とゆっくり歩き出した。
「メガネ、今日かけてないから通りに出たらケンさんバレますよ。広尾なんて記者がウヨウヨしてるから。」
街頭に照らされた内海は心配気に俺を見た。どんぐりみたいな目をして俺を見つめていた。
俺は左手がゆっくり動いていた。その手は自然と内海の右手を繋いでいた。
「・・・いいよ。」
「・・・」
内海が繋いだ手をじっと見つめた。
「記者がいたら、撮ってもらうよ。この人が僕の心の支えなんですって胸張って言うよ。一緒にピースしてるとこ、撮ってもらおうぜ。」
「・・ケンさんは、大バカ者です。」
「内海は面白いこと好きだろ?俺といたら面白い、と思うよ?」
内海に涙があふれていた。それを左手で目頭を押さえた。
「ケンさん、本当大バカです。売れっ子なんだから、モデルとか女優とかもっと女選んだ方がいいですよ。私はさびれたテレビバカな女ですよ。」
「俺は内海じゃなきゃダメなんだよ。ひろこでもダメなんだよ。どうしても内海がいいんだよ。」
繋いだ小さな手が温かくて、離したくなかった。
「本当ケンさんって大バカ者。」
「大バカ者でいいよ。」
俺達は手を繋いだまま1時間かけて中目黒までの距離を歩いた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
マネージャーの苦悩
みのりみの
恋愛
芸能事務所所属。
マネージャー歴15年遊井崇はダイヤの原石とも呼べる女の子を渋谷の街中で見つけた。
生意気で世間知らずな子だけど、『世の男が全員好きになるタイプ』だった。
その子にかけてトップまで上り詰めるか。
マネージャーの日々の苦悩の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる