友達の彼女

みのりみの

文字の大きさ
上 下
24 / 32

友達らしく

しおりを挟む
内海に話してから、俺は心が軽くなった気がした。心の中のしこりみたいのが、もうずっとズキズキしたりワサワサとなったりしていたけど開き直ったというべきなのだろうか。ひろこの事は結婚しても好きって言う温かい気持ちになれた気がしていた。

「集まってー!ミーティング!」
アッキーが手帳とファイルを片手に全員を呼んだ。
すっかり木曜日以外は春のマンションでミーティングをするようになった。

「新曲のリリースで来週から局の出入り増えるからその確認と、ひろこちゃんの番組。またゲスト出演。」

「また聖司かよ?人気者だな。」

つまらなそうに春が言い放つと訳が違った。

「ケン、行って。呼ばれたから。大丈夫?」

「え?まじで俺?」
「やったー!」

意外にも俺が指名されて呼ばれたと同時に山ちゃんも大喜びだった。以前ひろこにプロデューサーが俺を呼びたいと聞いた事はあったけど、まさか本当に依頼が来るとは思ってもいなかったからだ。
無償に嬉しくて、内海にすぐ報告した。

『良かったじゃないですかー!絶対見ますね!!』

相変わらず、ひろこを好きな俺を内海は見守ってくれていた。メンバーにも話せない事を異性に相談してるってどうかと思うけどその気持ちを理解してくれている内海の存在が心の中でありがたくて仕方なかった。

『あの番組、面白いですよね。面白くしなきゃまた次呼ばれないから面白い事した方がいいですよ』

内海は根っからのテレビ人で、話したりメールしてたり面白いと思う事も多々あった。多分俺達演者側とは違う職種の考え方の異なる話や意見に俺は新鮮さもあった。

『面白い事かぁ。一緒に歌うとかありきたりだもんな。』

『いっそ酔っぱらう、とか。こないだの唯さんみたく、お酒ではっちゃけるってファンも見たいんですよね。』

そんなメールをしていたら背後に誰かいる事に気づいた。

「ケン、誰と真剣にメールしてるの?」

振り返ると春がビールを持ちながら覗いていた。1番見られたくない人に見られた気がして俺はすごい焦って変な声をあげた。

「ただいまー!」

するとひろこが入ってくる声がした。

「ひろおかえりー」

いつも通り優希がひろこを抱きしめ、その後ろで春が笑顔で出迎えた。
俺の焦った様がひろこの登場でそこまでクローズアップされず俺は心を落ち着かせたけど本当はすごくドキドキしていた。
結婚してまでもまだひろこが好きとか自分でも信じられなかった。

「ケンくん、聞いたよね?よろしくね。」
遊井さんがにこやかに俺に声をかけた。
「ケン、番組来てくれるんでしょ?おもしろいんだけどー!楽しみ楽しみ!」

「・・・俺も楽しみだよ。」

体育座りの態勢のまま俺はひろこに普通に言えていた。
今まではこんな返しは多分できなかったけど、多分本当に手に入らない人だと分かったから本能的に素になっていたのかもしれない。

インターフォンが鳴って春が出たらピザを5箱抱えていた。

「あれ?アッキー頼んだっけ?」

「今日ひろことピザ頼んだんですよ。帰りがてら、な。」
「今日はうちの事務所経費です!でもこれで足りるかなぁ。11人分だよ?」

またビールの用意が始まって今宵も宴会が始まった。

「俺イタリアンバジルー!」
向かい側に座る沢村が紙皿に乗せて俺に渡してくれた。
「私もイタリアンバジルがいいな。沢村さん取れますか?」
隣でひろこが俺の紙皿を見て沢村に言うとまた沢村が取ってひろこに笑顔で渡していた。
「ケンも?やっぱりイタリアンバジルだよね。」
「ピザーラはやっぱりイタリアンバジルでしょ」

普通に普通に、ごく普通の慣れ親しんだ友達のようにひろこと話をする。それが嬉しかった。

「俺もイタリアンバジルがいい。沢村、取って」
ひろこの右横で春が沢村に言った。
「春さんシーフードミックスじゃないんですか?もう取ってありますよ」
「俺もイタリアンバジルがいい。」
「春の分もう取ってあるから先にこっち食べなさい」
アッキーが沢村の隣から紙皿を出してきた。
「違う。俺もイタリアンバジルがいい」
だけど春は頑なに拒否している。もう顔が子供のような顔をしていた。

「違うんだよアッキー。ひろこちゃんと同じのがいいんだよな。」

聖司の一言でみんな一斉に笑った。春も笑いを含みながらいーじゃんと横を見ながら口を尖らせて照れていた。

「もう紙皿ないんですよ。」
「あ、沢村さん私取ってくるから」

ひろこが立ち上がってキッチンの奥へ行ってガサガサと紙皿を探していた。

「ひろこ、紙皿こないだたくさん買ったやつ上の棚に移動したんだよ」
「え?上のどこ?」

春も立ち上がってキッチンへ走って行った。
ひろこが右手を伸ばして右上の棚を開けようとすると春がひろこの左肩に手を置いて固いのか右手でひろこの右手に乗せて一緒に開けていた。
側から見ているとぴったりくっつく磁石のように身体を寄せ合っていた。
どのくらいひろこが腕を伸ばせば棚に手が届くのか、春の胸のあたりにいるひろこがどのくらいかがめば春の邪魔にならないのかそれはお互いがあたかもお互いの身体を熟知していなくては分からないような距離感で身体を寄せ合っていた。

「あの2人、ただ2人で棚あけてるだけでなんかエロいよな。」

隣にいる五十嵐がポツリと言った。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

マネージャーの苦悩

みのりみの
恋愛
芸能事務所所属。 マネージャー歴15年遊井崇はダイヤの原石とも呼べる女の子を渋谷の街中で見つけた。 生意気で世間知らずな子だけど、『世の男が全員好きになるタイプ』だった。 その子にかけてトップまで上り詰めるか。 マネージャーの日々の苦悩の物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

君色ロマンス~副社長の甘い恋の罠~

松本ユミ
恋愛
デザイン事務所で働く伊藤香澄は、ひょんなことから副社長の身の回りの世話をするように頼まれて……。 「君に好意を寄せているから付き合いたいってこと」 副社長の低く甘い声が私の鼓膜を震わせ、封じ込めたはずのあなたへの想いがあふれ出す。 真面目OLの恋の行方は?

処理中です...