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東京進出
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6月に大阪入りをした。
春のテンションは最高潮だった。あの沖縄以来ひろこに会える訳だ。
ドームでのリハーサル中、春が血相を変えて携帯片手に俺達の元に走って来た。
「ひろこが、東京戻ってくるって。」
走ってステージまで来たのか息を切らして、でも顔は満面の笑みだった。
「えええええー!マジ?ひろこ東京戻るの?」
俺もビックリしてデカい声をあげていた。
「せっかくだから、サプライズで1曲お祝いしようか?!」
聖司も大喜びで俺達は笑い合った。
ドーム内でのリハーサル中にサプライズで春のMCにひろこを迎えると泣いていた。
ひろこもついに東京に戻るとなると俺達も嬉しさと喜びは多いにあった。
安藤ひろこに会いたいがために走り続けた春としては感無量だったと思う。
その夜、ホテルで大阪ライブの決起集会とひろこの東京進出のお祝い会をした。
毎回恒例のホテルの地下の部屋に入ると優希とひろこは仲良く話していた。
春がその場にいなくてフリーとなったひろこを優希がまるで独占するかのように手をひいてビールを並べていた。
優希のキャラは本当にうらやましい。なんでいつも抱きついたり手を繋いでも何も言われないし怪しまれないのだろう。
「ケンもやってよー」
優希に言われて俺はビールタワーを作るために並べはじめた。
「ケン、何?作れるの?」
「俺はすごいよ。」
「作って作って」
ひろこが可愛い顔して笑うから、俺は嬉しくなってひとつずつ並べた。
「ケン、気をつけてよー」
ビール缶をひろこから受け取る時、かすかに指が当たった。
「・・・」
ドキッとしてひろこの顔を見れなかった。
その隣で優希はひろこと腕がくっつきそうなくらいの至近距離でビールを箱から出していた。
多分ひろこは俺と指が触れた事なんて何も気にしてない。
当たり前だけど、それがやけにショックだった。
「あ、春!」
部屋に入ってきた春にひろこが名前を呼ぶと笑った。
俺は優希に嫉妬してる場合じゃない。
優希じゃなくて、その上には本命がいるのに。
「はじめまして。幼稚園からひろこと一緒の遠野美咲です」
ひろこの友達がその場に突如現れた。
俺はひろこに女友達がいる事にビックリした。ここまで可愛いと嫉妬嫉妬で女の友達なんて皆無なんじゃないかと思っていた。
「ひろこ、友達いるんじゃん!」
「いるわよ!」
膨れた顔で俺に怒ってきて、またその顔を見るとさらに怒らせたくなったりする。
「あ、ケンにトリートメント持ってきたよ。」
「俺も持って来たよ。」
沖縄での約束を覚えていてくれた。
正直忘れているかな、とも思っていた。春にも言われなかったし半年も前の話だったからだ。
俺はひろこに渡そうと持ってきたけど半年前の約束事を覚えているというのがなんか恥ずかしくて、ひろこが渡してこなかったら渡すのをやめようと思っていた。
甲斐甲斐しく覚えていてくれたひろこにまた好きって感情が増えていく。
増えていくのが困るんだけど、ずっと部屋の片隅にひろこに渡すトリートメントを袋に入れて準備してた俺がいた。
日が経ってホコリを被る袋を見るとまだ会えないんだ、まだ会えないんだと思いながら会える事を心待ちにしていた。
ひろこは鞄から大阪放送の袋に入れて俺に渡してきた。
「使ってもしよかったら、また持ってくるよ」
ひろこにまた会う口実になるならと思っている自分がいる。
「ありがとー!今日早速使ってみる!」
俺はひろこから渡された袋をすぐに鞄に入れた。無意識に鞄の底に、大事に仕舞い込んでいた。
振り返ると今度は聖司がひろこに接近していた。この競争倍率はなんなんだろうと思う。
「じゃあ聖司さんと半分ね。」
「半分も多いよなぁ。これなんでこんなにデカいの?」
やたらとデカい唐揚げをひろこがナイフとフォークで切っていた。
「ひろこちゃん切ってくれるなら僕も食べたい。」
横から嬉しそうに山ちゃんが現れた。俺はまたそのひろこの横へ向かって陣取った。
「ひろこ、俺も食いたい」
「唐揚げ、これすごい大きいよ」
俺と山ちゃんと聖司でひろこが切った唐揚げを食べていたら背後から春が現れた。
「何食べてんの?」
酒の力もあるのかほろ酔いでぼんやり背後から現れた春はひろこの腰にいたって普通に手を回していた。
「唐揚げ、美味しいよ」
するとひろこは切った唐揚げを春の口に運んで食べさせた。
その光景を見て何も言えなかった。
ひろこの腰を自然に手を回せたり、食べさせてもらえる権利は春だけなんだ。
優希や聖司や山ちゃんがどんなにひろこに接近してもそれはなんでもない。
現にこんなにみんなで食べてる唐揚げを、ひろこは春にだけ食べさせた。
ひろこには春なんだ。
また唐揚げを切るひろこに春は隣で唐揚げではなくひろこをじっと見つめていた。
その顔は幼稚園の頃から一緒に過ごしてきた春なのに全く見た事のない顔をしていた。
愛おしくてしょうがない。
そんな顔だった。
春は本当にひろこの事が好きなんだと思った瞬間だった。
春の遠恋もこれで終わり。
これからは東京で毎日でも会える。
会えるけど。
俺もひろこに会いやすくなるのかな、と思っていた。
その夜俺はひろこがくれたトリートメントを使ってみた。
薄いピンク色のパッケージで花の絵が描かれていた。
使ってみたらすごくトロピカルな花の香りで翌日もその香りが1日中続いていた。
そしてその香りが、春がひろこの家から来る時にさせてる香りだと改めて気づいた。
春のテンションは最高潮だった。あの沖縄以来ひろこに会える訳だ。
ドームでのリハーサル中、春が血相を変えて携帯片手に俺達の元に走って来た。
「ひろこが、東京戻ってくるって。」
走ってステージまで来たのか息を切らして、でも顔は満面の笑みだった。
「えええええー!マジ?ひろこ東京戻るの?」
俺もビックリしてデカい声をあげていた。
「せっかくだから、サプライズで1曲お祝いしようか?!」
聖司も大喜びで俺達は笑い合った。
ドーム内でのリハーサル中にサプライズで春のMCにひろこを迎えると泣いていた。
ひろこもついに東京に戻るとなると俺達も嬉しさと喜びは多いにあった。
安藤ひろこに会いたいがために走り続けた春としては感無量だったと思う。
その夜、ホテルで大阪ライブの決起集会とひろこの東京進出のお祝い会をした。
毎回恒例のホテルの地下の部屋に入ると優希とひろこは仲良く話していた。
春がその場にいなくてフリーとなったひろこを優希がまるで独占するかのように手をひいてビールを並べていた。
優希のキャラは本当にうらやましい。なんでいつも抱きついたり手を繋いでも何も言われないし怪しまれないのだろう。
「ケンもやってよー」
優希に言われて俺はビールタワーを作るために並べはじめた。
「ケン、何?作れるの?」
「俺はすごいよ。」
「作って作って」
ひろこが可愛い顔して笑うから、俺は嬉しくなってひとつずつ並べた。
「ケン、気をつけてよー」
ビール缶をひろこから受け取る時、かすかに指が当たった。
「・・・」
ドキッとしてひろこの顔を見れなかった。
その隣で優希はひろこと腕がくっつきそうなくらいの至近距離でビールを箱から出していた。
多分ひろこは俺と指が触れた事なんて何も気にしてない。
当たり前だけど、それがやけにショックだった。
「あ、春!」
部屋に入ってきた春にひろこが名前を呼ぶと笑った。
俺は優希に嫉妬してる場合じゃない。
優希じゃなくて、その上には本命がいるのに。
「はじめまして。幼稚園からひろこと一緒の遠野美咲です」
ひろこの友達がその場に突如現れた。
俺はひろこに女友達がいる事にビックリした。ここまで可愛いと嫉妬嫉妬で女の友達なんて皆無なんじゃないかと思っていた。
「ひろこ、友達いるんじゃん!」
「いるわよ!」
膨れた顔で俺に怒ってきて、またその顔を見るとさらに怒らせたくなったりする。
「あ、ケンにトリートメント持ってきたよ。」
「俺も持って来たよ。」
沖縄での約束を覚えていてくれた。
正直忘れているかな、とも思っていた。春にも言われなかったし半年も前の話だったからだ。
俺はひろこに渡そうと持ってきたけど半年前の約束事を覚えているというのがなんか恥ずかしくて、ひろこが渡してこなかったら渡すのをやめようと思っていた。
甲斐甲斐しく覚えていてくれたひろこにまた好きって感情が増えていく。
増えていくのが困るんだけど、ずっと部屋の片隅にひろこに渡すトリートメントを袋に入れて準備してた俺がいた。
日が経ってホコリを被る袋を見るとまだ会えないんだ、まだ会えないんだと思いながら会える事を心待ちにしていた。
ひろこは鞄から大阪放送の袋に入れて俺に渡してきた。
「使ってもしよかったら、また持ってくるよ」
ひろこにまた会う口実になるならと思っている自分がいる。
「ありがとー!今日早速使ってみる!」
俺はひろこから渡された袋をすぐに鞄に入れた。無意識に鞄の底に、大事に仕舞い込んでいた。
振り返ると今度は聖司がひろこに接近していた。この競争倍率はなんなんだろうと思う。
「じゃあ聖司さんと半分ね。」
「半分も多いよなぁ。これなんでこんなにデカいの?」
やたらとデカい唐揚げをひろこがナイフとフォークで切っていた。
「ひろこちゃん切ってくれるなら僕も食べたい。」
横から嬉しそうに山ちゃんが現れた。俺はまたそのひろこの横へ向かって陣取った。
「ひろこ、俺も食いたい」
「唐揚げ、これすごい大きいよ」
俺と山ちゃんと聖司でひろこが切った唐揚げを食べていたら背後から春が現れた。
「何食べてんの?」
酒の力もあるのかほろ酔いでぼんやり背後から現れた春はひろこの腰にいたって普通に手を回していた。
「唐揚げ、美味しいよ」
するとひろこは切った唐揚げを春の口に運んで食べさせた。
その光景を見て何も言えなかった。
ひろこの腰を自然に手を回せたり、食べさせてもらえる権利は春だけなんだ。
優希や聖司や山ちゃんがどんなにひろこに接近してもそれはなんでもない。
現にこんなにみんなで食べてる唐揚げを、ひろこは春にだけ食べさせた。
ひろこには春なんだ。
また唐揚げを切るひろこに春は隣で唐揚げではなくひろこをじっと見つめていた。
その顔は幼稚園の頃から一緒に過ごしてきた春なのに全く見た事のない顔をしていた。
愛おしくてしょうがない。
そんな顔だった。
春は本当にひろこの事が好きなんだと思った瞬間だった。
春の遠恋もこれで終わり。
これからは東京で毎日でも会える。
会えるけど。
俺もひろこに会いやすくなるのかな、と思っていた。
その夜俺はひろこがくれたトリートメントを使ってみた。
薄いピンク色のパッケージで花の絵が描かれていた。
使ってみたらすごくトロピカルな花の香りで翌日もその香りが1日中続いていた。
そしてその香りが、春がひろこの家から来る時にさせてる香りだと改めて気づいた。
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