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2人の曲
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初登場1位を記録したと思ったら、その後リリースした曲もあっさり1位を獲得し、いとも簡単にタイアップがついた。
メンバー4人を取り巻く環境はガラリと変わった。
金が入った。
俺は昔から欲しかったポルシェを1位をとった記念にずっと買うつもりで何度も空き時間に山ちゃんと見に行って決めていた。
「俺も行きたいな」
レコーディングの最中の空き時間になぜか春がフラフラと寄って来て俺について来る事になった。
ディーラーに入るとすぐ展示されてる白いカイエンを春は見ていた。
俺は既に決めていて、営業担当も契約書なり用意してくれていて。納期は先だけどもう嬉しくてたまらなかった。
「春、春ー?どこだ?」
「あ、お連れ様なら今ご契約頂いてますよ」
「え?買うの?」
春はいとも簡単にカイエンを購入した。
展示してあるカイエンはやっぱりカッコよくて、運転席に乗りながら春の契約が終わるのを待っていた。
助手席にはひろこが乗るんだと思うと運転席から助手席の角度とか見たりして俺はどうかしてると思った。
「春、BM気に入ってたのに、しかもこないだ車検通したろ?」
「もういいや。3年乗ったし気分的に。昔の彼女も乗せてたしさ。ひろこには新しい車乗せたいよ。」
俺はこのセリフに名言じみたものを感じた。自分が車好きだからやけに沁みるセリフだった。
ポルシェは簡単に買えたけど、俺たちは以前より忙しくなった。
完全なる『売れる曲』を世に出すための『仕事』となった。
仕事をして、お金を稼ぐ事が大変なのは分かってはいる。売れるまではバイトで生活を繋ぎ苦労はしたからだ。
俺たちの仕事は趣味ではない。仕事だと思い知らされた。
優希が追い詰められるかの如く無口になった。
もともと神経質なところがあって音楽の楽しさを忘れた頃に優希はこの状態になる。
昔から知ってる家族も同然の仲で、誰か1人ピシャリとキツい事を言う奴がいそうなのがメンバーなんだろうけど、聖司は根本的に優しいし、春は天然だし、俺も怒ったりとかはしないこの性格なのか誰も優希に苦言は呈さないけど、優希はかなり追い詰められていた。
「何か、疲れちゃったよ。」
その一言で優希のマネージャーである五十嵐と消えた。翌日もスタジオには来ず五十嵐と2人で別のスタジオで過ごしたそうだ。
春も春で毎日ひろこに0時ぴったりに電話をしていた。
それでも会えないのは相当ストレスだろう。
スタジオの非常階段を出たところで春は珍しくタバコを吸っていた。
俺は無言で隣に座ってタバコを吸った。
春はぼんやりとして黙っていた。
「ひろことずいぶん会ってないよな?3ヶ月4ヶ月くらい?」
すると顔を下にがくりと下げた。
「ひろこさ、会いたいとか会いに来てとか絶対言わないの。強いよな。俺が言いたいくらいだよ。」
俺は全くそんな事は知らなくて意外なひろこの一面をのぞいた気がした。
「ひろこ、8月5日誕生日でさ。もう付き合って1年たつのに、この会えなさ。なんなんだろう。」
タバコを持つ反対の手は喉に良いというユーカリのお茶を持っていた。
タバコを吸って喉を気遣う。春も春で切羽詰まっているんだろうと思っていた。
俺が春に同情したと思ったら展開はガラリと変わった。
8月5日に始発で大阪へ行き、13時の仕事に戻ってくるという。
滞在時間なんて1時間くらいだ。
しかも午前中のラジオ収録の予定を夜にずらし、衣装合わせは同じ身長の澤本に丸投げ。俺はこの男の無理矢理ひろこに会いに行く情熱に圧巻だった。
「春もひろこちゃんに会わなきゃ充電できないんだろうな。」
聖司がスタジオの片隅でひろこが表紙の週刊誌を読んでいた。
表紙のひろこはお団子頭で色っぽい顔をしている。
「これで春が歌えなくなったら、優希もあんなだしSOUL終わっちゃうよ」
聖司の言葉にまたしんみりしたら、8月5日の13時。春は10分遅刻して来た。
着替えてるところを見るとまた背中に傷が無数にあった。
「あ、やったな」
「背中?爪の跡すごい?」
「うん。すごい。今日は引っ掻き傷みたいのがすごい。あー痛そう。」
聖司もやって来てひろこがつけた爪の跡を見ていた。
「あの短時間で・・」
俺と聖司はあんなに春に同情してたのに、ものの1時間でセックスして帰ってくるという行動にもう笑うしかなかった。
でも春の顔はすこぶる明るくて。
「春、本当ずるいよな。ひろこちゃんだよ?」
翌日ギターを調整しながら山ちゃんがボヤいていた。
「俺は春にひろこちゃんが抱かれてるとか想像もしたくない!」
山ちゃん、俺も一緒だよと言いかけそうになった。
「聖司の作ってきた曲、あれまたひろこちゃんと春の歌だよな。」
「あ、winter sky?」
聖司が冬リリースとして真夏に冬の歌を作ってきた。
『winter sky』という曲だった。
「新潟行った時俺の前のリフトに春とひろこちゃん乗っててさ。2人がキスしてるの目の前で見たよ。風でひろこちゃんのニット帽飛んでっちゃったの。それでも気にしないで2人でキスしててさ。見てるこっちはつらかったけど、映画みたいだったよ」
「・・そうなんだ。」
あの、新潟で雪を被ったひろこが思い出された。
2人は相思相愛なんだ。
そんなの、分かってる。
『飛んでった帽子
気にせず夢中で君にキスした雪空の下
ずっと恋人でいたいから』
春がwinter skyをはじめて歌った時、気持ちも入ってかひろこと会ってきたからか声が張ってよく伸びて、気持ちよさそうに歌った。
なんていい曲なんだろうと思った。
メンバー4人を取り巻く環境はガラリと変わった。
金が入った。
俺は昔から欲しかったポルシェを1位をとった記念にずっと買うつもりで何度も空き時間に山ちゃんと見に行って決めていた。
「俺も行きたいな」
レコーディングの最中の空き時間になぜか春がフラフラと寄って来て俺について来る事になった。
ディーラーに入るとすぐ展示されてる白いカイエンを春は見ていた。
俺は既に決めていて、営業担当も契約書なり用意してくれていて。納期は先だけどもう嬉しくてたまらなかった。
「春、春ー?どこだ?」
「あ、お連れ様なら今ご契約頂いてますよ」
「え?買うの?」
春はいとも簡単にカイエンを購入した。
展示してあるカイエンはやっぱりカッコよくて、運転席に乗りながら春の契約が終わるのを待っていた。
助手席にはひろこが乗るんだと思うと運転席から助手席の角度とか見たりして俺はどうかしてると思った。
「春、BM気に入ってたのに、しかもこないだ車検通したろ?」
「もういいや。3年乗ったし気分的に。昔の彼女も乗せてたしさ。ひろこには新しい車乗せたいよ。」
俺はこのセリフに名言じみたものを感じた。自分が車好きだからやけに沁みるセリフだった。
ポルシェは簡単に買えたけど、俺たちは以前より忙しくなった。
完全なる『売れる曲』を世に出すための『仕事』となった。
仕事をして、お金を稼ぐ事が大変なのは分かってはいる。売れるまではバイトで生活を繋ぎ苦労はしたからだ。
俺たちの仕事は趣味ではない。仕事だと思い知らされた。
優希が追い詰められるかの如く無口になった。
もともと神経質なところがあって音楽の楽しさを忘れた頃に優希はこの状態になる。
昔から知ってる家族も同然の仲で、誰か1人ピシャリとキツい事を言う奴がいそうなのがメンバーなんだろうけど、聖司は根本的に優しいし、春は天然だし、俺も怒ったりとかはしないこの性格なのか誰も優希に苦言は呈さないけど、優希はかなり追い詰められていた。
「何か、疲れちゃったよ。」
その一言で優希のマネージャーである五十嵐と消えた。翌日もスタジオには来ず五十嵐と2人で別のスタジオで過ごしたそうだ。
春も春で毎日ひろこに0時ぴったりに電話をしていた。
それでも会えないのは相当ストレスだろう。
スタジオの非常階段を出たところで春は珍しくタバコを吸っていた。
俺は無言で隣に座ってタバコを吸った。
春はぼんやりとして黙っていた。
「ひろことずいぶん会ってないよな?3ヶ月4ヶ月くらい?」
すると顔を下にがくりと下げた。
「ひろこさ、会いたいとか会いに来てとか絶対言わないの。強いよな。俺が言いたいくらいだよ。」
俺は全くそんな事は知らなくて意外なひろこの一面をのぞいた気がした。
「ひろこ、8月5日誕生日でさ。もう付き合って1年たつのに、この会えなさ。なんなんだろう。」
タバコを持つ反対の手は喉に良いというユーカリのお茶を持っていた。
タバコを吸って喉を気遣う。春も春で切羽詰まっているんだろうと思っていた。
俺が春に同情したと思ったら展開はガラリと変わった。
8月5日に始発で大阪へ行き、13時の仕事に戻ってくるという。
滞在時間なんて1時間くらいだ。
しかも午前中のラジオ収録の予定を夜にずらし、衣装合わせは同じ身長の澤本に丸投げ。俺はこの男の無理矢理ひろこに会いに行く情熱に圧巻だった。
「春もひろこちゃんに会わなきゃ充電できないんだろうな。」
聖司がスタジオの片隅でひろこが表紙の週刊誌を読んでいた。
表紙のひろこはお団子頭で色っぽい顔をしている。
「これで春が歌えなくなったら、優希もあんなだしSOUL終わっちゃうよ」
聖司の言葉にまたしんみりしたら、8月5日の13時。春は10分遅刻して来た。
着替えてるところを見るとまた背中に傷が無数にあった。
「あ、やったな」
「背中?爪の跡すごい?」
「うん。すごい。今日は引っ掻き傷みたいのがすごい。あー痛そう。」
聖司もやって来てひろこがつけた爪の跡を見ていた。
「あの短時間で・・」
俺と聖司はあんなに春に同情してたのに、ものの1時間でセックスして帰ってくるという行動にもう笑うしかなかった。
でも春の顔はすこぶる明るくて。
「春、本当ずるいよな。ひろこちゃんだよ?」
翌日ギターを調整しながら山ちゃんがボヤいていた。
「俺は春にひろこちゃんが抱かれてるとか想像もしたくない!」
山ちゃん、俺も一緒だよと言いかけそうになった。
「聖司の作ってきた曲、あれまたひろこちゃんと春の歌だよな。」
「あ、winter sky?」
聖司が冬リリースとして真夏に冬の歌を作ってきた。
『winter sky』という曲だった。
「新潟行った時俺の前のリフトに春とひろこちゃん乗っててさ。2人がキスしてるの目の前で見たよ。風でひろこちゃんのニット帽飛んでっちゃったの。それでも気にしないで2人でキスしててさ。見てるこっちはつらかったけど、映画みたいだったよ」
「・・そうなんだ。」
あの、新潟で雪を被ったひろこが思い出された。
2人は相思相愛なんだ。
そんなの、分かってる。
『飛んでった帽子
気にせず夢中で君にキスした雪空の下
ずっと恋人でいたいから』
春がwinter skyをはじめて歌った時、気持ちも入ってかひろこと会ってきたからか声が張ってよく伸びて、気持ちよさそうに歌った。
なんていい曲なんだろうと思った。
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