マネージャーの苦悩

みのりみの

文字の大きさ
上 下
26 / 36

クリスマスの予定

しおりを挟む
芸能界の大御所タレント「今岡さん」のトーク番組のゲストに呼ばれた。

収録は年末。放送は年始。
この番組に出ればいよいよ売れっ子の各印をもらったも同然だった。俺はまた社長と喜んだ。
そんな喜びの束の間、今度は化粧品メーカーから春発売の新しいブランドのCMが舞い込んできた。

1人の女を渋谷で見つけてきてここまで来た。達成感はあったがひろこの力はまだまだいけるまだいけると正直思っていた。

「アイスは、どうなってるの?」

そんな中、やはりギャラの高さはビール以上のアイスのCMを社長が気にしていた。
こればかりは何かひろこが飛躍するきっかけを持たないと進まない。
社長もそれは一緒に悩んでくれていたが年末年始のスケジュールが埋まり始め、もはや何も見えず不透明なままだった。


ビールのCMはひろこのソロバージョンでの撮影があった。

クライアントは男を誘惑する、いわばセックスしたあとの気怠さをイメージにあげてきた。
一瞬考えたがこれはたまらなく世の男を釘付けにさせると思った。元気いっぱいのCMより話題を誘うハズだ。
肩までずり落ちるように下がったふわふわのニットを着て、少し乱れた髪の毛にセットされひろこは撮影に挑んだ。

「これ、やったあと想定?」
ひろこは絵コンテを何度も何度も見ながらイメージを膨らます。
「そうそう。やったあと想定ね。恥ずかしがると変な風になるからいつものかんじで」
「遊井さんエロイ事考えないでよ!」
ひろこが隣でムスッとして俺を睨んだ。

ふわふわのニットは胸元まで見えてちょっとかがんだらパンツも見えるような短い丈。
「春くんが見たらビックリするくらいいつもと同じかんじで。その方が良いじゃない」
「嫌よ」
「なんで?春くんがCMにヤキモチ焼く方がいいじゃないか。」 
「それは春しか知らないから」

横顔がキリッとした。プロの顔を垣間見た気がした。

数時間かけて何カットも何カットも撮り編集され、そのCMは世に送ればひろこの「やったあと想定」なCMは世間の男達には話題になると絶対的な自信を持った。

後から聞いた話、ひろこの番組ゲスト出演時のあの支倉氏のひろこへの絡みように春くんは観ていたらしく、翌日は機嫌がめちゃくちゃ悪かったと秋元さんから聞いた。
また、前回の支倉くんとひろこの絡んだ恋人同士のようなビールのCMもくっつぎすぎだと怒っていたと言う。

春くんはひろこを誰かに取られたくない、そんな思いが強いのが上回ってひろこが誰かに触られるのも嫌。そんな領域まで来てるんじゃないかと思った。

俺はそろそろ仲直りをしてほしかった。
ひろこも仕事に没頭させたがふとした時はさみしそうにぼんやりとする。

はじめて会ったときの「りょうくん」と幸せにしていた時。
ケイに恋していたグアムでの撮影の時。
大阪での、春くんと2人でまだいたいと言っていた時。

愛する人がいる時に彷彿するひろこのパワーは魅力に直結するんだ。
ひろこの魅力は愛する男がいないと引き出せないんだ。 

ケンくんが愛車紹介のロケに来た次の日。SOULはまたNYへ飛んだ。
クリスマスイブの日には帰国する。
翌25日は毎年恒例のクリスマススペシャルライブ。25日はひろこは朝から晩までスケジュールいっぱいで春くんには会えないだろうけど、クリスマスにひろこは会えるのか、仲直りできるのか、気になっていた。


「今回はドライビール年末スペシャルバージョンとして支倉大介さんと安藤ひろこさんにお越しいただきました」

会見はひろこと支倉氏が共に登場してたくさんのフラッシュを浴びていた。

「お二人のアツイCMが話題ですが」

「付き合ってます」

支倉氏がいつものノリでひろこの肩を抱くと報道陣がどっと笑い合う。

「安藤さん単独のCMも話題ですね。セクシーなかんじで。これはもしかして男性を意識されたのですか?」
「想定でやれと言われました。」
「想定とは?」
「ご想像にお任せします」

誤魔化して笑うひろこにフラッシュが強くなる。CM記者発表でこれだけ記者がくれば上出来だ。

早速のCMオンエアに会場は沸いた。

「もうちょっと」
「飲もうよ」
「もう1回」

ひろこのあたかも誘ってるかのようなふわふわした雰囲気と色っぽさ。
これはやはりギャラが高い分、クオリティも高く話題になる。
ひろこのやった後想定CMは年末には話題になる事間違いなしだった。

「今日、明日はクリスマスですが、お2人のご予定は?」

ひろこはインタビューに静かに仕事です、と答えた。

会見中にNYから帰国したであろう秋元さんからメールが来た。
「仲直りすると思いますよ」と意味深なメールだった。
といっても今日はSOULは生番組。ひろこはこれから内海さんと衣装合わせで遅くなれば夜中に終わる。会えるのは無理かもしれない。

衣装合わせが終わり、ひろこは恒例の衣装へ買い物へ向かいワンピースとコートを内海さんと選んでいた。

「このコート。いいな。」
鮮やかな赤いコートを手に取りひろこは試着していた。
「素敵素敵!今日クリスマスだしいいですね!」
内海さんは笑顔で言う。
「じゃあ、買います。着て帰ろうかな。」
ひろこはお財布からお金を出していた。
ギラギラの派手なシャネルのお財布。きっとこれも春くんに買ってもらったのだろう。

「メリークリスマス!ステキなクリスマスになるといいですね」

内海さんに見送られて俺たちは車に乗り込んだ。

車内のTVを見ると、毎年恒例のクリスマススペシャルライブがやっていた。
ちょうど、支倉氏がド派手な衣装で観客を魅了していた。
ぼんやりとひろこはTVを見つめていた。

「ひろこ、ケーキ買ってやろうか?今日クリスマスだろ?社長にもお金渡されてるんだよ。」

「今日たくさん食べたから。大丈夫」

少し笑う。

ひろこは最近よくこの顔をする。さみしさを隠して笑うんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

甘々に

緋燭
恋愛
初めてなので優しく、時に意地悪されながらゆっくり愛されます。 ハードでアブノーマルだと思います、。 子宮貫通等、リアルでは有り得ない部分も含まれているので、閲覧される場合は自己責任でお願いします。 苦手な方はブラウザバックを。 初投稿です。 小説自体初めて書きましたので、見づらい部分があるかと思いますが、温かい目で見てくださると嬉しいです。 また書きたい話があれば書こうと思いますが、とりあえずはこの作品を一旦完結にしようと思います。 ご覧頂きありがとうございます。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

処理中です...