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鉢合わせ
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『NYから戻りました。明日昼間局で会えませんか?』
秋元さんと昨日の帰りに六本木通りで車ですれ違った。
俺は何も言わなかったけど、ひろこは春くんが乗っていると多分気づいていた。
という事は春くんも気づいていたのだと思うとまた俺の胸はワサワサと騒いだ。
メールを見るかんじだと、NYでまた秋元さんも色々ストレスを溜めて帰ってきたような気はした。
「今日、人多いね」
楽屋に入り、俺は少し気まずい気持ちになった。音楽番組でSOULが来ているからだ。
「今日、音楽番組のスペシャルで人たくさん来てるんだよ」
ひろこは何も言わずスルーした。
何を、どう思っているのだろうか。
「最近、遊井さん局に来るとすぐいなくなるね。」
「え?そうか?」
俺がちょうど楽屋を出る時だった。
「失礼しまーす」
メイクさんが入って来たので挨拶だけして俺は部屋を出て喫煙所へ向かった。
秋元さんを待とうと思った。
「遊井さん!お久しぶりです!」
するとFREES7というロックバンドのマネージャー本橋さんと会った。
「久々!お元気ですか?」
「またそろそろ飲みましょうよ!」
「いいよ!金曜なら遅いけど行けるよ。どお?」
お互いタバコに火をつけると本橋さんは俺に話したい事があるように手招きをした。
「ひろこちゃん、SOULのHARUと、ですよね?」
「・・あ、うん。」
別れたよ!なんて到底言える訳もなく、俺はどうしていいのか分からなかったけど別れたとは言いたくなかった。
ウワサにしたくなかった。
「うちの、直人くんがひろこちゃんのファンで。」
「おー!嬉しいね。ありがとう!」
俺は笑顔で言うと本橋さんのリアクションはちょっと違った。
「ファン、というかガチファン。じゃないもっと。恋愛感情。大丈夫かな?」
「え?そんなに?」
ひろこはモテる。
それはそうだ。あんなにかわいいのだから。
この手の話しはよくあるけど、今回ばかりはちょっと様子が違うのか、とも思った。
「でも、無理だよね?HARUだもんね?別れる予定なんてないよね?」
俺は心が痛くなった。
もう別れたよ、なんて言ったらワワワワーッといろんな男がひろこにめがけて狙って来そうで恐ろしくもあった。
あぁ。だからそれもあるのか。
俺は自分でも安心できる春くんと付き合っててもらいたかったんだ。
「遊井さん!いた!」
喫煙所に血相変えて現れたのは澤本くんだった。
「おつかれ!NY帰りだよね?」
「いいから来てください!」
こんなに澤本くんの焦った顔を見た事なくて俺は喫煙所を出た。
「ひろこちゃん、春と会っちゃって。」
「ええ?」
俺は楽屋へ走って向かおうとしたら秋元さんがいた。
「遊井さん!!」
手を掴まれ、俺は状況が読めずに秋元さんを見た。
「非常階段へ行きましたよ!」
曲がり角を曲がると廊下にはなぜか支倉くん、キルズアウト俊にSOULメンバーとマネージャー達が呆然と立ち尽くしていた。
「ひろこは?ひろこ!」
俺と秋元さんは五十嵐さんの指す非常階段の扉を開けた。
「ひろこ!」
ひろこは階段にうずくまって1人で泣いていた。
「・・・」
「ひろこちゃん、泣かないで。うちの春がごめんね。」
秋元さんはひろこに駆け寄った。
「春はどこ行ったの?」
ひろこは泣きながら下に見える非常階段の出口を指差した。
すると秋元さんは春くんを追いかけに行った。
バタンと大きな音を響かせて扉は閉まって秋元さんはいなくなった。
「・・立てるか?」
ひろこは泣いたままうずくまっていた。
気丈に振る舞って来て、ここへきて春くんと何か話して決定的な事でも言われたのだろうか。
俺は立ち上がらせてヨロヨロとするひろこの肩を抱いて楽屋へ向かった。
「泣いてるの、バレるから下向いてろ」
そう言うと泣くのをピタリとやめて息を止めるように楽屋へ入った。
椅子に座るなり机に被さって動かなくなったと思ったらまた涙をすする音がする。
ここで何を言ってもダメだろうと慰める余地もなく目の前で泣くひろこを見つめていた。
ここで泣くな!なんて俺が言ったところで今から仕事ができる訳ではない。
扉を叩く音がして振り返ると聖司くんが立っていた。
「ひろこちゃん」
ひろこは泣くのを落ち着かせ顔をあげて聖司くんを見つめていた。
聖司くんはひろこの隣に座り泣かないでよと言わんばかりにひろこの肩をさすっていた。
「ちょっと、ひろこちゃんと話していいですか?」
「聖司くん、ごめんね。俺プロデューサーと打ち合わせの時間伸ばせるか聞いてすぐ戻るから」
頷く聖司くんに俺はそっと楽屋を出た。
俺は楽屋を出て白部くんの元へ行こうと思った。
もしかしてだけど、聖司くんもひろこを好きなんじゃないか、とも思えた。
「いや。もう大変でしたよ。出番終わってたからいいけどこれ後だったら春くん穴あけて帰ってたかも。」
「ええー?そんなに?」
その夜NYのお菓子を土産に秋元さんとまた中国居酒屋で飲んだ。
NYはそれはそれは春くんで大変だったそうだ。
「歌っても何しても元気なくて。全然ハートのない声でしか歌えないし。見るに見かねてしっかりしろって説得したんです。したらもう逆ギレでしたよ。」
「ええ?」
「よっぽど、春くんはひろこちゃんが好きなんですよ。許容範囲超えるくらい。そこまで恋愛できるのってある意味、うらやましいですけどね。」
秋元さんは下を向いてため息をした。
よっぽど疲れているのだろうか。時差なのか。今にも眠りこけそうな顔をしていた。
「今日、泣いてたら聖司くんが慰めに来てくれて助かりました。ありがとうございます。言っておいてくださいね。」
「聖司くんはひろこちゃんの事、好きだから。優希くんももちろん好きだけど、ケンくんも、番組ゲストでケンくんだけ出るって言ったら大喜びで。うちはみんなひろこちゃんが好きだから。」
ひろこがモテる。
と聞けば嬉しい。自分の抱えているタレントがモテるのはそれは商売であり嬉しい事だ。
でもこんなにもあっちこっちから好き好き言われて、中にはただのファンの人もいるだろう。でもひろことの現実を本気で願っている人もいる。
もしかしたら、ひろこのモテぶりは世に派手に出始めてから相当ヤバいところまでいってるんじゃないか、と思った。
秋元さんと昨日の帰りに六本木通りで車ですれ違った。
俺は何も言わなかったけど、ひろこは春くんが乗っていると多分気づいていた。
という事は春くんも気づいていたのだと思うとまた俺の胸はワサワサと騒いだ。
メールを見るかんじだと、NYでまた秋元さんも色々ストレスを溜めて帰ってきたような気はした。
「今日、人多いね」
楽屋に入り、俺は少し気まずい気持ちになった。音楽番組でSOULが来ているからだ。
「今日、音楽番組のスペシャルで人たくさん来てるんだよ」
ひろこは何も言わずスルーした。
何を、どう思っているのだろうか。
「最近、遊井さん局に来るとすぐいなくなるね。」
「え?そうか?」
俺がちょうど楽屋を出る時だった。
「失礼しまーす」
メイクさんが入って来たので挨拶だけして俺は部屋を出て喫煙所へ向かった。
秋元さんを待とうと思った。
「遊井さん!お久しぶりです!」
するとFREES7というロックバンドのマネージャー本橋さんと会った。
「久々!お元気ですか?」
「またそろそろ飲みましょうよ!」
「いいよ!金曜なら遅いけど行けるよ。どお?」
お互いタバコに火をつけると本橋さんは俺に話したい事があるように手招きをした。
「ひろこちゃん、SOULのHARUと、ですよね?」
「・・あ、うん。」
別れたよ!なんて到底言える訳もなく、俺はどうしていいのか分からなかったけど別れたとは言いたくなかった。
ウワサにしたくなかった。
「うちの、直人くんがひろこちゃんのファンで。」
「おー!嬉しいね。ありがとう!」
俺は笑顔で言うと本橋さんのリアクションはちょっと違った。
「ファン、というかガチファン。じゃないもっと。恋愛感情。大丈夫かな?」
「え?そんなに?」
ひろこはモテる。
それはそうだ。あんなにかわいいのだから。
この手の話しはよくあるけど、今回ばかりはちょっと様子が違うのか、とも思った。
「でも、無理だよね?HARUだもんね?別れる予定なんてないよね?」
俺は心が痛くなった。
もう別れたよ、なんて言ったらワワワワーッといろんな男がひろこにめがけて狙って来そうで恐ろしくもあった。
あぁ。だからそれもあるのか。
俺は自分でも安心できる春くんと付き合っててもらいたかったんだ。
「遊井さん!いた!」
喫煙所に血相変えて現れたのは澤本くんだった。
「おつかれ!NY帰りだよね?」
「いいから来てください!」
こんなに澤本くんの焦った顔を見た事なくて俺は喫煙所を出た。
「ひろこちゃん、春と会っちゃって。」
「ええ?」
俺は楽屋へ走って向かおうとしたら秋元さんがいた。
「遊井さん!!」
手を掴まれ、俺は状況が読めずに秋元さんを見た。
「非常階段へ行きましたよ!」
曲がり角を曲がると廊下にはなぜか支倉くん、キルズアウト俊にSOULメンバーとマネージャー達が呆然と立ち尽くしていた。
「ひろこは?ひろこ!」
俺と秋元さんは五十嵐さんの指す非常階段の扉を開けた。
「ひろこ!」
ひろこは階段にうずくまって1人で泣いていた。
「・・・」
「ひろこちゃん、泣かないで。うちの春がごめんね。」
秋元さんはひろこに駆け寄った。
「春はどこ行ったの?」
ひろこは泣きながら下に見える非常階段の出口を指差した。
すると秋元さんは春くんを追いかけに行った。
バタンと大きな音を響かせて扉は閉まって秋元さんはいなくなった。
「・・立てるか?」
ひろこは泣いたままうずくまっていた。
気丈に振る舞って来て、ここへきて春くんと何か話して決定的な事でも言われたのだろうか。
俺は立ち上がらせてヨロヨロとするひろこの肩を抱いて楽屋へ向かった。
「泣いてるの、バレるから下向いてろ」
そう言うと泣くのをピタリとやめて息を止めるように楽屋へ入った。
椅子に座るなり机に被さって動かなくなったと思ったらまた涙をすする音がする。
ここで何を言ってもダメだろうと慰める余地もなく目の前で泣くひろこを見つめていた。
ここで泣くな!なんて俺が言ったところで今から仕事ができる訳ではない。
扉を叩く音がして振り返ると聖司くんが立っていた。
「ひろこちゃん」
ひろこは泣くのを落ち着かせ顔をあげて聖司くんを見つめていた。
聖司くんはひろこの隣に座り泣かないでよと言わんばかりにひろこの肩をさすっていた。
「ちょっと、ひろこちゃんと話していいですか?」
「聖司くん、ごめんね。俺プロデューサーと打ち合わせの時間伸ばせるか聞いてすぐ戻るから」
頷く聖司くんに俺はそっと楽屋を出た。
俺は楽屋を出て白部くんの元へ行こうと思った。
もしかしてだけど、聖司くんもひろこを好きなんじゃないか、とも思えた。
「いや。もう大変でしたよ。出番終わってたからいいけどこれ後だったら春くん穴あけて帰ってたかも。」
「ええー?そんなに?」
その夜NYのお菓子を土産に秋元さんとまた中国居酒屋で飲んだ。
NYはそれはそれは春くんで大変だったそうだ。
「歌っても何しても元気なくて。全然ハートのない声でしか歌えないし。見るに見かねてしっかりしろって説得したんです。したらもう逆ギレでしたよ。」
「ええ?」
「よっぽど、春くんはひろこちゃんが好きなんですよ。許容範囲超えるくらい。そこまで恋愛できるのってある意味、うらやましいですけどね。」
秋元さんは下を向いてため息をした。
よっぽど疲れているのだろうか。時差なのか。今にも眠りこけそうな顔をしていた。
「今日、泣いてたら聖司くんが慰めに来てくれて助かりました。ありがとうございます。言っておいてくださいね。」
「聖司くんはひろこちゃんの事、好きだから。優希くんももちろん好きだけど、ケンくんも、番組ゲストでケンくんだけ出るって言ったら大喜びで。うちはみんなひろこちゃんが好きだから。」
ひろこがモテる。
と聞けば嬉しい。自分の抱えているタレントがモテるのはそれは商売であり嬉しい事だ。
でもこんなにもあっちこっちから好き好き言われて、中にはただのファンの人もいるだろう。でもひろことの現実を本気で願っている人もいる。
もしかしたら、ひろこのモテぶりは世に派手に出始めてから相当ヤバいところまでいってるんじゃないか、と思った。
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