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初詣に行きたくて、神宮とか増上寺を考えたけど、人が多いのを考慮して歩いて近所の朝日神社へ行った。
俺はキャップを深々と被り、その横でひろこはマスクで顔の3/2以上が隠れている。
よく考えたら、白昼にひろこと街を歩くのってあの21歳伝説のバースデー以来だと気づいた。
夜中や部屋で会うばかりで、どこか違和感がある昼間のデートに異様に俺は恋人感満載で嬉しくなった。
「何お願いしたの?」
神社を出る時ひろこに聞いた。
「今年は遊井さんに怒られませんようにって。春は?」
「・・ひろことすぐ入籍できますようにって」
「すぐ?!」
多分、ひろこも同じだと思ってる。
結婚して2人でずっと一緒にいれますようにって、お願いした。
その足で欅坂の上にあるハイアットのテラスで遅いランチを食べた。
元旦早々、テラスでランチなんて観光客の外人しかいなくてホッとする。
「お腹いっぱーい。」
切り肉を平らげて、ひろこの指には指輪がキラキラと光った。
さっきから慣れない指輪に何度も何度も手を見てはひろこも落ち着かない様子だった。その姿が微笑ましくてその度に俺は笑顔になった。
1月なのに気持ちの良い空気で寒いけどテラスにかかるヒーターが暖かくてしばらく2人でぼんやりとした。
「直樹さんが東京に来ると必ずここ泊まるんだよ。今度、直樹さんにもひろこ会わせなきゃな」
「直樹さんかぁ。緊張するな。」
「会いたがってたよ」
ひろこはピリッとした顔をしたかと思うと俺を見てニコリと笑った。
風がなんでこんなに気持ちいいのだろう。ひろこも気持ちがよさそうに遠くを見つめていた。
これから家に帰ると毎日ひろこがいてビールが飲めて、まだ地に足が付いてなくて夢見心地だった。
本当にひろこは結婚してくれるのか?信じられなくて信じられなくて。
途中でやっぱりやめようって泣きながら言ってきたりしないか?
俺はそこが急に不安になった。
夜、マンションの隣のスタバでコーヒーを飲みに行った時、ひろこに言った。
「先にアッキーと遊井さんには言っておこうか。お互いの社長には4日の仕事初めの日の10時に言おう」
「分かった」
そうは言ってもひろこは不安気な顔をしていた。
結婚が災いしてファンが離れてひろこの番組も打ち切りになるかもしれない。CMの依頼だってこなくなるかもしれない。
でもこの結婚は世間から白い目に晒されるような不倫ではないし俺もひろこも犯罪なんて犯していない。
「俺とひろこの事だよ。」
普通の結婚なんだ、とひろこには思っていてほしかった。
「俺たち、悪い事なんてしてないんだから。」
マスク越しにひろこはうなずいた。
これからやらなきゃいけない事はあとふたつ。
ひろこが横にいるけど俺はものすごい勢いで考えていた。引越し、そしてひろこと入籍。
「3日、新年会行くんだよね?」
「うん。夕方に出るよ」
3日、お正月休みは最終日だ。
「3日の午前中に引っ越さないか?」
「え?」
ひろこは口をあけたままビックリして戸惑っていた。当たり前だろう。プロポーズしてその翌日には籍を入れようと焦る俺にどうかと思うけどもう止まる余地はなかった。
「早くない?入籍してからと思ってたんだけど。」
「俺引っ越し屋のバイトしてたから分かるんだよ。三ヶ日はバイト連中暇だからすぐ動いてくれるよ。ひろこそんなに荷物ないし、すぐ終わるよ。10人くらい引越し屋のお兄ちゃん呼べば2.3時間で終わるから」
俺はかなり強引だったけど、ひろこの肩を抱いてとりあえず引越しを促した。
もう今からでも役所に婚姻届を持って行きたいくらいの気持ちだった。
「春、そんなにわがままだったっけ?」
「早く新婚ごっこがしたいんだ。」
困った顔をしながらも、ひろこは笑っていた。
「俺のわがまま聞いてくれるんだから、ひろこも言いなよ。結婚式こうしたい、とか新婚旅行ここ行きたい、とかさ。」
両手に持っていたコーヒーを握り締めたまま、ひろこは俺に言った。
「結婚式はしなくていいよ。春のイメージがつくじゃない。会見もしなくていい。書面だけで。新婚旅行はいつか海外に行ければいい。」
俺は意外すぎるビジョンにビックリした。
なんとも淡々と。冷静なのか肝が座っているのか、はたまた興味がないのかは分からないけどこれが22歳の女のセリフとはとうてい思えなかった。
「ずいぶん欲のないひろこだね。わがままつきあってあげるのに」
多分きっと、これがひろこなんだと思った。
家に帰ってからひろこは遊井さんに電話をかけた。
かける時、神妙な顔をしてかすかに手が震えてるような気がした。
遊井さんはもう分かってる話だけど、本人から言われたらそれもまた実感が湧くんだろうなと思うと、遊井さんのあの涙を流した時の顔が浮かんだ。
ひろこが電話をしている間に俺は寝室に移動してアッキーにひとまず報告の電話をしたら無言だった。
『・・・』
「明日の朝、搬入準備して、ひろこはうちに引っ越してくるから。」
『・・・』
「アッキー、俺ひろことすぐ入籍するよ」
『・・・』
沈黙の後、受話器から涙をすする音がした。
「アッキー?泣いてんの?泣くなよ?」
『ごめん。俺、感無量で。そりゃこれからいろいろ不安な事あるけど、2人を間近でずっと見てきたからもう、おめでたいよ』
やる事早すぎ!のんびりでいいじゃないか!!まだクライアントにも言ってないよ!ひろこちゃんと相談したのか?!
いつものテンパるアッキーのもっとテンパってるバージョンに加えそんなセリフを想定して言いくるめるセリフばかり考えていたのに俺は意外なアッキーのリアクションに拍子抜けした。
『ひろこちゃんは?ひろこちゃんの方がこれからすごく大変だと思うぞ。』
アッキーは逆にひろこの方を気にしていた。
「ひろこが売れなくなったら、俺が食わせていけるし。でもそれ以前にひろこ人気はまだまだ継続すると思うんだ。俺の奥さんになる人だよ。安藤ひろこだよ?普通じゃないんだよ。」
アッキーは黙って聞いていた。
「アッキーにも、長い間色々迷惑かけたね。感謝してるよ。あと少しだから。」
『春、ラストランだな。』
俺は面倒みてくれる人がアッキーである事に感謝して電話を切った。
ひろこは遊井さんに報告をしたら割と円満だったと言ってたけど、電話が終わったあと涙目だったのを知っている。
俺はキャップを深々と被り、その横でひろこはマスクで顔の3/2以上が隠れている。
よく考えたら、白昼にひろこと街を歩くのってあの21歳伝説のバースデー以来だと気づいた。
夜中や部屋で会うばかりで、どこか違和感がある昼間のデートに異様に俺は恋人感満載で嬉しくなった。
「何お願いしたの?」
神社を出る時ひろこに聞いた。
「今年は遊井さんに怒られませんようにって。春は?」
「・・ひろことすぐ入籍できますようにって」
「すぐ?!」
多分、ひろこも同じだと思ってる。
結婚して2人でずっと一緒にいれますようにって、お願いした。
その足で欅坂の上にあるハイアットのテラスで遅いランチを食べた。
元旦早々、テラスでランチなんて観光客の外人しかいなくてホッとする。
「お腹いっぱーい。」
切り肉を平らげて、ひろこの指には指輪がキラキラと光った。
さっきから慣れない指輪に何度も何度も手を見てはひろこも落ち着かない様子だった。その姿が微笑ましくてその度に俺は笑顔になった。
1月なのに気持ちの良い空気で寒いけどテラスにかかるヒーターが暖かくてしばらく2人でぼんやりとした。
「直樹さんが東京に来ると必ずここ泊まるんだよ。今度、直樹さんにもひろこ会わせなきゃな」
「直樹さんかぁ。緊張するな。」
「会いたがってたよ」
ひろこはピリッとした顔をしたかと思うと俺を見てニコリと笑った。
風がなんでこんなに気持ちいいのだろう。ひろこも気持ちがよさそうに遠くを見つめていた。
これから家に帰ると毎日ひろこがいてビールが飲めて、まだ地に足が付いてなくて夢見心地だった。
本当にひろこは結婚してくれるのか?信じられなくて信じられなくて。
途中でやっぱりやめようって泣きながら言ってきたりしないか?
俺はそこが急に不安になった。
夜、マンションの隣のスタバでコーヒーを飲みに行った時、ひろこに言った。
「先にアッキーと遊井さんには言っておこうか。お互いの社長には4日の仕事初めの日の10時に言おう」
「分かった」
そうは言ってもひろこは不安気な顔をしていた。
結婚が災いしてファンが離れてひろこの番組も打ち切りになるかもしれない。CMの依頼だってこなくなるかもしれない。
でもこの結婚は世間から白い目に晒されるような不倫ではないし俺もひろこも犯罪なんて犯していない。
「俺とひろこの事だよ。」
普通の結婚なんだ、とひろこには思っていてほしかった。
「俺たち、悪い事なんてしてないんだから。」
マスク越しにひろこはうなずいた。
これからやらなきゃいけない事はあとふたつ。
ひろこが横にいるけど俺はものすごい勢いで考えていた。引越し、そしてひろこと入籍。
「3日、新年会行くんだよね?」
「うん。夕方に出るよ」
3日、お正月休みは最終日だ。
「3日の午前中に引っ越さないか?」
「え?」
ひろこは口をあけたままビックリして戸惑っていた。当たり前だろう。プロポーズしてその翌日には籍を入れようと焦る俺にどうかと思うけどもう止まる余地はなかった。
「早くない?入籍してからと思ってたんだけど。」
「俺引っ越し屋のバイトしてたから分かるんだよ。三ヶ日はバイト連中暇だからすぐ動いてくれるよ。ひろこそんなに荷物ないし、すぐ終わるよ。10人くらい引越し屋のお兄ちゃん呼べば2.3時間で終わるから」
俺はかなり強引だったけど、ひろこの肩を抱いてとりあえず引越しを促した。
もう今からでも役所に婚姻届を持って行きたいくらいの気持ちだった。
「春、そんなにわがままだったっけ?」
「早く新婚ごっこがしたいんだ。」
困った顔をしながらも、ひろこは笑っていた。
「俺のわがまま聞いてくれるんだから、ひろこも言いなよ。結婚式こうしたい、とか新婚旅行ここ行きたい、とかさ。」
両手に持っていたコーヒーを握り締めたまま、ひろこは俺に言った。
「結婚式はしなくていいよ。春のイメージがつくじゃない。会見もしなくていい。書面だけで。新婚旅行はいつか海外に行ければいい。」
俺は意外すぎるビジョンにビックリした。
なんとも淡々と。冷静なのか肝が座っているのか、はたまた興味がないのかは分からないけどこれが22歳の女のセリフとはとうてい思えなかった。
「ずいぶん欲のないひろこだね。わがままつきあってあげるのに」
多分きっと、これがひろこなんだと思った。
家に帰ってからひろこは遊井さんに電話をかけた。
かける時、神妙な顔をしてかすかに手が震えてるような気がした。
遊井さんはもう分かってる話だけど、本人から言われたらそれもまた実感が湧くんだろうなと思うと、遊井さんのあの涙を流した時の顔が浮かんだ。
ひろこが電話をしている間に俺は寝室に移動してアッキーにひとまず報告の電話をしたら無言だった。
『・・・』
「明日の朝、搬入準備して、ひろこはうちに引っ越してくるから。」
『・・・』
「アッキー、俺ひろことすぐ入籍するよ」
『・・・』
沈黙の後、受話器から涙をすする音がした。
「アッキー?泣いてんの?泣くなよ?」
『ごめん。俺、感無量で。そりゃこれからいろいろ不安な事あるけど、2人を間近でずっと見てきたからもう、おめでたいよ』
やる事早すぎ!のんびりでいいじゃないか!!まだクライアントにも言ってないよ!ひろこちゃんと相談したのか?!
いつものテンパるアッキーのもっとテンパってるバージョンに加えそんなセリフを想定して言いくるめるセリフばかり考えていたのに俺は意外なアッキーのリアクションに拍子抜けした。
『ひろこちゃんは?ひろこちゃんの方がこれからすごく大変だと思うぞ。』
アッキーは逆にひろこの方を気にしていた。
「ひろこが売れなくなったら、俺が食わせていけるし。でもそれ以前にひろこ人気はまだまだ継続すると思うんだ。俺の奥さんになる人だよ。安藤ひろこだよ?普通じゃないんだよ。」
アッキーは黙って聞いていた。
「アッキーにも、長い間色々迷惑かけたね。感謝してるよ。あと少しだから。」
『春、ラストランだな。』
俺は面倒みてくれる人がアッキーである事に感謝して電話を切った。
ひろこは遊井さんに報告をしたら割と円満だったと言ってたけど、電話が終わったあと涙目だったのを知っている。
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