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土下座
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「遊井さんに22時にスタジオに来てもらう事になったから。」
アッキーがスタジオの片隅で、みんなが見てないところで俺に言った。
「ありがとう。」
「・・・」
アッキーは俺を見て何か言いたいような表情をしていた。
「はい。今日はバラして。明日も早いから。年末体力勝負だぞ!今日は早寝!酒飲むなよ!」
アッキーの一声でみんなそれぞれスタジオを出る準備を始めた。
最後に荷物を持って出たのは沢村だった。
「沢村、パンありがとう。」
「春さん、ここのパン好きですよね。俺そのパン屋の並びにこないだ引越したんですよ。いつでも買ってきますよ。」
「店の名前もサワムラだよね。」
沢村と何気なく話して笑っていてもアッキーの視線をどことなく感じていた。
扉が分厚い音を立てて閉まってアッキーと2人になった時、静寂があった。
その静寂がやたらいつもは全くない緊張感を醸し出した。
「遊井さんに、何を話すんだ?」
アッキーは五十嵐がまた持ってきてくれたユーカリのお茶をコップに入れてくれていた。
「俺は同席しててもいいのか?」
「・・じゃあ、いてよ。」
遊井さんと2人でもよかったかもしれない。でもここはアッキーにも聞いておいてもらいたい事だった。
「話す事は想像ついてるよ。ひろこちゃんだろ。」
「遊井さんなんだからひろこの事に決まってるじゃん。」
「結婚か?」
「そうだよ。」
迷わない。
俺は即答した。
もう決めた事なんだ。
遊井さんにもひろこの社長にも真っ向からぶつかると決めた。
『男は戦うんだよ!』
『どんなに困難があったって、2人でいるのが幸せなんだから』
剛くんとメグメグの言葉が俺の脳裏に霞んだ。
目の前のアッキーは深いため息をついた。いつものテンションの高い怒り方ではない。もっと静かで淡々と話していた。
「・・勝手な事、するんじゃないよ。相手は安藤ひろこだぞ?そこいらのアイドルとは訳が違うんだぞ?」
「分かってるよ。普通じゃないのも分かってるよ。分かりきってるよ。もうアッキーなら分かるだろ?俺が追い込まれてるの、分かるだろ?もう、ひろこがいないと生きていけないんだよ。ひろこと人生歩みたいんだよ!」
アッキーは俺をじっと見ていた。
目がうっすら涙でも出てきそうになっていた。
その時バタンとドアの開いた音がしてハッとした。
遊井さんがコートを着たまま立っていた。
「お疲れさん。春くん、どうしたの?」
俺はすぐさま遊井さんを前に正座した。
遊井さんの大切なひろこだ。
自分でスカウトしてきて二人三脚でここまでひろこを育ててきて事務所の稼ぎ頭にまでさせた人だ。
でも俺だってひろこが大切だ。
好きで好きで自分を見失うほどだ。
別れた時に思った。
もう、ひろこがいなきゃダメなんだと分かった。
両手で床に手をつこうとした時、一気に両腕が引っ張られたのが分かった。
右腕はアッキーが、左腕は遊井さんが引っ張っていた。
一瞬ギャグかと思ったけど、ギャグでもなんでもない。
「春、もう、もう、やめろよ。」
アッキーの声が涙声だった。
さらに左腕も引っ張られた。
「春くん、やめてよ。やめてやめて。」
遊井さんも左腕を強く引っ張っている。
「お願い、離して、離してください。」
「俺は離さないぞ!」
アッキーは多分泣いていた。俺の腕を必死でつかんでいて、顔が見えないけど泣いていた。
「ねぇ、アッキー離して。遊井さんにちゃんと話したいんだ。」
アッキーの顔が下を向いていてやっぱり見えなかった。
「春くん、聞くから土下座はやめて。土下座しないなら聞くから。」
遊井さんの冷静な言葉に俺は床に座ったまま手をおろした。その横でアッキーも床にぺたりと座った。
「ひろこと、結婚させてください。」
「大切にします。」
「死ぬまで、大切にします」
「ひろこの社長に殴られてもいいです。殴られて結婚できるなら、痛くも痒くもないです。だから、結婚させてください。」
遊井さんは色眼鏡だから目が分からないけど、そのまま俺を見て唖然としているようだった。
突っ立ったまま、しばらく動かなかった。
するとゆっくりと座って俺の顔を見た。
「5年、待てる?」
「・・待てないです」
「何年、待てる?」
何年なんて、もう待てるわけがない。
「待てないです。明日でも明後日にでも結婚したいです。」
遊井さんが眉毛が下がってさみしそうな顔をしていた。
この人なら、きっと俺の気持ちが分かると思った。
ひろこと俺より長い時間を過ごしてきているからだ。
彼女の良さを最初に見つけて育ててきた人だから、ひろこを好きになる苦しさを理解している。
遊井さんは何も言わなかった。
ピリリリリリリリ
間をさすように遊井さんの電話が鳴った。
「ちょっと、待ってね。」
立ち上がって俺とアッキーに背を向けるように扉の方へ歩いて電話をとった。
「はい。遊井です。あ、白部くん?おつかれさま。」
シラベ、で分かった。
兄弟で弟の方。
ひろこの番組のプロデューサーだ。
「あ、そうなの?今?今行った方がいい?局にいるの?」
俺は座った状態でただ黙って聞いていた。
手短かに切って遊井さんは振り返った。
「春くん、ごめん。明日、ここでもう1回会える?夜遅くてもいいから。」
「はい。」
そう言うと遊井さんはすぐに外に出て行った。
静まり帰ったスタジオ内で俺は立ち上がる事ができずに座ったままだった。
隣のアッキーも、腰が抜けたかのようにヘタリと座っていた。
「明日は、遊井さんと2人で話した方がいいんじゃないか?」
「そうだね。」
遊井さんは一晩で何を思うのだろう。
俺はそのまま仰向けで寝転んで天井を見つめた。
アッキーがスタジオの片隅で、みんなが見てないところで俺に言った。
「ありがとう。」
「・・・」
アッキーは俺を見て何か言いたいような表情をしていた。
「はい。今日はバラして。明日も早いから。年末体力勝負だぞ!今日は早寝!酒飲むなよ!」
アッキーの一声でみんなそれぞれスタジオを出る準備を始めた。
最後に荷物を持って出たのは沢村だった。
「沢村、パンありがとう。」
「春さん、ここのパン好きですよね。俺そのパン屋の並びにこないだ引越したんですよ。いつでも買ってきますよ。」
「店の名前もサワムラだよね。」
沢村と何気なく話して笑っていてもアッキーの視線をどことなく感じていた。
扉が分厚い音を立てて閉まってアッキーと2人になった時、静寂があった。
その静寂がやたらいつもは全くない緊張感を醸し出した。
「遊井さんに、何を話すんだ?」
アッキーは五十嵐がまた持ってきてくれたユーカリのお茶をコップに入れてくれていた。
「俺は同席しててもいいのか?」
「・・じゃあ、いてよ。」
遊井さんと2人でもよかったかもしれない。でもここはアッキーにも聞いておいてもらいたい事だった。
「話す事は想像ついてるよ。ひろこちゃんだろ。」
「遊井さんなんだからひろこの事に決まってるじゃん。」
「結婚か?」
「そうだよ。」
迷わない。
俺は即答した。
もう決めた事なんだ。
遊井さんにもひろこの社長にも真っ向からぶつかると決めた。
『男は戦うんだよ!』
『どんなに困難があったって、2人でいるのが幸せなんだから』
剛くんとメグメグの言葉が俺の脳裏に霞んだ。
目の前のアッキーは深いため息をついた。いつものテンションの高い怒り方ではない。もっと静かで淡々と話していた。
「・・勝手な事、するんじゃないよ。相手は安藤ひろこだぞ?そこいらのアイドルとは訳が違うんだぞ?」
「分かってるよ。普通じゃないのも分かってるよ。分かりきってるよ。もうアッキーなら分かるだろ?俺が追い込まれてるの、分かるだろ?もう、ひろこがいないと生きていけないんだよ。ひろこと人生歩みたいんだよ!」
アッキーは俺をじっと見ていた。
目がうっすら涙でも出てきそうになっていた。
その時バタンとドアの開いた音がしてハッとした。
遊井さんがコートを着たまま立っていた。
「お疲れさん。春くん、どうしたの?」
俺はすぐさま遊井さんを前に正座した。
遊井さんの大切なひろこだ。
自分でスカウトしてきて二人三脚でここまでひろこを育ててきて事務所の稼ぎ頭にまでさせた人だ。
でも俺だってひろこが大切だ。
好きで好きで自分を見失うほどだ。
別れた時に思った。
もう、ひろこがいなきゃダメなんだと分かった。
両手で床に手をつこうとした時、一気に両腕が引っ張られたのが分かった。
右腕はアッキーが、左腕は遊井さんが引っ張っていた。
一瞬ギャグかと思ったけど、ギャグでもなんでもない。
「春、もう、もう、やめろよ。」
アッキーの声が涙声だった。
さらに左腕も引っ張られた。
「春くん、やめてよ。やめてやめて。」
遊井さんも左腕を強く引っ張っている。
「お願い、離して、離してください。」
「俺は離さないぞ!」
アッキーは多分泣いていた。俺の腕を必死でつかんでいて、顔が見えないけど泣いていた。
「ねぇ、アッキー離して。遊井さんにちゃんと話したいんだ。」
アッキーの顔が下を向いていてやっぱり見えなかった。
「春くん、聞くから土下座はやめて。土下座しないなら聞くから。」
遊井さんの冷静な言葉に俺は床に座ったまま手をおろした。その横でアッキーも床にぺたりと座った。
「ひろこと、結婚させてください。」
「大切にします。」
「死ぬまで、大切にします」
「ひろこの社長に殴られてもいいです。殴られて結婚できるなら、痛くも痒くもないです。だから、結婚させてください。」
遊井さんは色眼鏡だから目が分からないけど、そのまま俺を見て唖然としているようだった。
突っ立ったまま、しばらく動かなかった。
するとゆっくりと座って俺の顔を見た。
「5年、待てる?」
「・・待てないです」
「何年、待てる?」
何年なんて、もう待てるわけがない。
「待てないです。明日でも明後日にでも結婚したいです。」
遊井さんが眉毛が下がってさみしそうな顔をしていた。
この人なら、きっと俺の気持ちが分かると思った。
ひろこと俺より長い時間を過ごしてきているからだ。
彼女の良さを最初に見つけて育ててきた人だから、ひろこを好きになる苦しさを理解している。
遊井さんは何も言わなかった。
ピリリリリリリリ
間をさすように遊井さんの電話が鳴った。
「ちょっと、待ってね。」
立ち上がって俺とアッキーに背を向けるように扉の方へ歩いて電話をとった。
「はい。遊井です。あ、白部くん?おつかれさま。」
シラベ、で分かった。
兄弟で弟の方。
ひろこの番組のプロデューサーだ。
「あ、そうなの?今?今行った方がいい?局にいるの?」
俺は座った状態でただ黙って聞いていた。
手短かに切って遊井さんは振り返った。
「春くん、ごめん。明日、ここでもう1回会える?夜遅くてもいいから。」
「はい。」
そう言うと遊井さんはすぐに外に出て行った。
静まり帰ったスタジオ内で俺は立ち上がる事ができずに座ったままだった。
隣のアッキーも、腰が抜けたかのようにヘタリと座っていた。
「明日は、遊井さんと2人で話した方がいいんじゃないか?」
「そうだね。」
遊井さんは一晩で何を思うのだろう。
俺はそのまま仰向けで寝転んで天井を見つめた。
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