俺のカノジョに手をだすな!

みのりみの

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約束

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タクシーで俺はひろこを自分のマンションに連れて来た。

記者が張っていたかもしれない。写真を撮られたかもしれない。
そんな不安はもうどうでもよかった。


「こんなにリビング広いの?」

ひろこは入るなりポツリと言った。

赤いコートがやたらと似合っていて、着たままソファーに座っていた。

「赤いコート、似合ってるね」

俺を見て顔が斜めに傾いた。さっきまで泣いてた顔は落ち着いたけど、泣いてたって分かる顔。

「誰に、買ってもらったの?」 

「衣装で、自分で買ったよ」

「また衣装?」

俺はひろこらしくて可愛くて、笑っていた。


ソファーにコートのままお互い座ってる事に気づいて2人でコートを脱いだ。

目の前にひろこがいる。

細い腕には時計がしてあった。
俺をあの潤んだ瞳で見つめていた。

「ひろこ、痩せた?」

そっと頬を触った。

「さっきは重いって言ってたじゃない」

また、泣き出しそうな顔をしていた。
なんだか目の前にいる事がこれ以上ない幸せを感じた。多分ひろこも同じ事を思っているハズだ。当たり前に2人でいた日々がどんなに愛おしかったかを。

今、目の前にひろこがいる。


「ビールのCM、さっき見たよ」

リモコンでTVをつけた。

「あれって、やった後を彷彿させてるんでしょ。男達がエロいってみんな騒いでたよ」

「いつも、私あぁゆう顔してるの?」

俺は吹き出した。

「全然違う」
「やっぱり」

2人で顔を見合わせて笑い合った。
なんらいつもと変わらない雰囲気の中でひろこが俺に抱きついた。


「さみしかった?」



「会いたかった?」


ひろこの言葉に返事ができなかった。いろんな想いが蘇ってきていた。
返事で返せるならとっくに迎えに行ってる。
さみしかったより会いたかったよりもっともっと違う感情だった。

「ひろこはさ、ずっとかわいいままでいてよ」

「ずっと?」

「うん。ずっと」

ひろこが俺を見つめてる。
大好きな瞳。
ひろこの涙を指で拭った。

この先もずっと、永遠にイルカみたいな笑顔が見たいから。

「ずっと俺のかわいいひろこでいてよ」

そっとひろこにキスをした。



ひろこがここにいる。 




手を絡めたまま目が覚めた。
まるで会わなかった日々を埋めるかのようだった。

ひろこはまだ眠っていたけど、やっとひろこに会えたのがやっぱり信じられなくて胸にキスをしたら起きていた。


「私のどこがイルカに似てるの?」

「・・それはね」
「あーやっぱりゆわないで!」

慌てて俺の口をふさいできた。

「なんで?」

「ずーっとわからない方がいいな。ずーっとなんでだろって思ってる方がいいじゃない。人生最大の謎みたいで。大阪の知り合った頃ならまだ聞けたけど、今ならもう知らないままの方がいいな」

「ずーっとって死ぬまで?」

「うん。あ。でも死んだら分かんないからなぁ」

「俺が死ぬ間際に言うよ。」

ずっと2人でいたい。
誰にも邪魔されなくて、2人でいたい。





「この曲。」

「なんかタイトルからして勝負に出てるな。聖司大丈夫か?」

朝からスタジオで来年発表の曲を聖司が持って来た。
渾身の作らしい。

タイトルは  『LOVE SONG』

「1回弾くから。2回目からはケンも優希もイメージで」

俺は歌詞をもらい聖司の音を聞いた。

大切な人と生きていく、幸せに満ちた歌だった。
聖司はこの曲をどんな気持ちでつくったのだろう。

みんなで何時間経ったのだろうか。
少しずつ形ができていくうちに曲の雰囲気かみんなも笑顔になってきた。

「そーいや年始、新潟の旅館とれた?」「また同じとこ貸し切れたよ」

聖司がギターを弾きながら言った。  

「春も来れるだろ?」

ケンに言われた時すっかり恒例の新潟スノボー旅行の話を忘れていてはっとしたけど気持ちは固まっていた。

「ごめん。今回は新潟は辞めておくよ。」

俺はみんなに言うと動きが止まって俺を見た。

「春、ひろこちゃん、だよな?」

「正月はひろこと2人でのんびりしたいんだ」

まだ何も約束してないけど、ひろこといる。
俺はもう心に決めていた。

指輪を渡すんだ。




『遊井さんが5分だけならいいって。衣装前は?』

『楽屋が衣装の近くだから今行くよ』

同じ局内にいると分かって俺達は局内の廊下で待ち合わせをした。
なんで会ってるかはさておいて、ただ昼間も会いたかった。

朝まで一緒にいたのにまたひろこに会える事が嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。

年内、大晦日はひろこが司会の歌番組もあるしひろこに会える。
その日まで、俺はやらなきゃいけない事がある。


角を曲がって走って来たところで笑顔のひろこと思いっきり抱き合った。

「はーーー5分だけ。」
「昼、何食べたの?」
「遊井さんと叙々苑焼肉弁当。」
「ひろこ、いつも肉食べてない?」

そんなちょっとしか話さなかったところで後ろから遊井さんが現れた。

「あ、遊井さん」

とっさに抱きしめていた手を離した。
ひろこはまずいといった顔をしてびっくりしていた。

「すいません。俺収録終わってこれから移動で、ひろこ引き止めちゃって」

「違う。私が会いたかっただけなの!遊井さんごめんなさい。」

すると今度はアッキーが後ろからやってきた。

「あー!ひろこちゃんと遊井さんおつかれさまです!春、もう出るぞ!」

メンバーとマネージャーが全員出てきてみんな俺達を見て笑っていた。
言葉では何も言わなかったけどみんなが笑顔で、とりとめのない安心感みたいなものを感じた。



そんな穏やかな安心感の先に、俺は覚悟を決めていた。



「沢村がパン買ってきてくれたよ。これ、西麻布の好きな店のだよな?頼んだのか?」

アッキーが深緑の袋を俺に渡してくれた。

「そうそう。ありがとう。」

車内で袋を受け取った。

「アッキー、今日の夜スタジオ行くでしょ?その後遊井さんに会いたいんだけど。連絡してもらえる?」



遊井さんに結婚の了承を得るんだ。
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