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「はい、ではみなさんフリップをいっせいにどうぞ!」
「え?」
福岡のローカル生番組で司会者2人は目が点になった。
『最近気になる人』という質問に俺以外のメンバーが3人とも『安藤ひろこ』と書いていた。
肝心の俺はというと『沖縄の占い師』と書いていた。
「ふざけすぎ!!地方局だからって自由にしていいってわけじゃないぞ!!女の名前を出すな!!ファンの事を考えろ!!」
怒っても怖くないけどアッキーが3人に収録後に怒っていた。
「春じゃなくてなんで3人が書いてるんだ!!」
当の3人は笑いが止まらず大笑いだった。
多分ツアー疲れで鉛筆が転がっても面白かったと思う。
俺もつられて笑っていた。
「てゆーかなんでお前書いてんの?」
「聖司こそ!ケンだってなんでひろなの?」
「俺は山ちゃんを絡めてひろこの事を面白おかしく話そうとしてたんだよ!」
「ちょっと待ってよ。俺だって占い師じゃなくて根本はひろこだよ。」
沖縄から宮崎、長崎、福岡、広島、岡山と順調に俺達のツアーは続いた。
1箇所終わる毎に東京に戻り、新曲のプロモーションと手一杯だった。
あんなに寒かったのにまもなく6月。
ひろことはまた会えない日々が続いた。
俺はなんとなく沖縄の占い師に言われた事がずっと胸の奥に刺さっていた。
罪と償い、女と同化。
みんなに迷惑、というのがやっぱり心にはぐさりと刺さった。
あの、誕生日に無理矢理大阪に行った時もアッキー本人は言わなかったけど、ラジオの収録の時間変更に相当頭を下げていたなんて聞くと俺の知らないところでみんな俺に振り回されていたんだと思うと反省はあった。
幼稚園で習ったことをふと思い出していた。
挨拶をする。人に対して優しく。されて嫌な事はしない。
この3つ。
この3つは大事にしていた事だった。
バンドを結成した時もメンバー全員が同じ幼稚園出身ってのもあって、この3つは4人での決まり事だった。
28歳にもなって幼稚園の決まりも守れないなんて、って思ったけどそれはひろこを好きになった罪であると勝手にひろこのせいにしては毎日ひろこを想っていた。
「お、かわいーじゃん。」
収録に向かう車の中で俺の隣にいるケンが女性誌を見ていた。ずいぶん可愛い子が表紙だな、と思ったらひろこだった。
「俺、それまだ買ってない。見せて。」
女性誌にはひろこの特集が組まれ、10ページに渡ってひろこのファッションページにグラビアにインタビューが掲載されていた。
好きな人のタイプは?の質問には『好きになった人がタイプ』とある。
宝物は?の質問には『時計』。
ハワイで買った赤い服を着て、ネックレスもピアスも靴も俺がプレゼントした物を身につけていた。腕にはお揃いの時計がキラリと存在感を放つ。
俺の色に染まったようなページを目を細めて見ていた。
単純に、嬉しかったんだ。
時計、ピアス、ネックレスはあげた。
次アクセサリーをプレゼントするなら、と考えた。
あとはブレスレットしかない。
最後は指輪だ。
「変な電話があった。」
帰り道、アッキーが車の中で俺に言った。
「前、音楽番組に居合わせた別の番組のプロデューサーが、安藤ひろことおたくの HARUさんは付き合ってますか?って。」
「・・なんて言ったの?」
ウワサがもうずいぶん浸透しているんだなと思った。
「俺は誤魔化したよ。ハッキリ言わなかったけどあっちはもう分かってるんだろうな。安藤ひろこを一晩貸してくれればSOULの番組作りますよって」
「は?なんだよそれ。」
俺は耳を疑ったと同時に怒りが込み上げてきた。
「タチの悪いプロデューサーで有名なんだよ。気にしなくていいけど、よっぽどひろこちゃんのファンなんだろ。以前は遊井さんにもそんな事言ってたらしいぞ。もちろん遊井さんも断ってるけど」
「ありえねーよ。なんだよそいつ。権力使って好きな女と寝るつもりかよ?」
「こんな事、よくある事なんだよ。なんならそうやって自分の女を売ったアーティストも過去にはいたからな。」
「・・・」
ありえない世界だと思ったけどこれが業界なんだと改めて思わされた。
ワンナイだってそうだった。あの番組に出てた子達はみんな権力あるオヤジに抱かれて這い上がってきてるんだ。
ちょうど近所の幼稚園の前を通過した。今日もマリア像は立っている。
『ひろこが東京に戻ってこれますように』
お願い事が彼女になってくれますように、からこれに変わった。
1つお願い事をして1年頼み続けて叶った。
付き合い出してからは『ひろことずっと一緒にいれますように』だったけど、ここ1年は東京に戻ってこれますようにと1年願っている。
そろそろ叶えてよ、と思いながら。
「次は大阪だー!!大阪の皆さん、待っててねー!!」
ラジオで俺はプライベートこそ出さないようにはしているけど大阪のライブには喜び大爆発だった。
待ちに待った大阪公演が始まるからだ。毎日楽しみで仕方なかった。
大阪に行くあかつきには毎晩ひろこのマンションへ行くつもりだった。
「はい、ではFAXが届きました。千葉県にお住まいの春子さんからです。あたしは春さんのファンです。春さんはイルカみたいな子がタイプと以前雑誌で言ってましたが、具体的にどんな子がタイプなのですか?」
「それは好きになった人がタイプです!」
それは安藤ひろこがタイプですと言いたい。
本当は大声で言いたい。
「え?」
福岡のローカル生番組で司会者2人は目が点になった。
『最近気になる人』という質問に俺以外のメンバーが3人とも『安藤ひろこ』と書いていた。
肝心の俺はというと『沖縄の占い師』と書いていた。
「ふざけすぎ!!地方局だからって自由にしていいってわけじゃないぞ!!女の名前を出すな!!ファンの事を考えろ!!」
怒っても怖くないけどアッキーが3人に収録後に怒っていた。
「春じゃなくてなんで3人が書いてるんだ!!」
当の3人は笑いが止まらず大笑いだった。
多分ツアー疲れで鉛筆が転がっても面白かったと思う。
俺もつられて笑っていた。
「てゆーかなんでお前書いてんの?」
「聖司こそ!ケンだってなんでひろなの?」
「俺は山ちゃんを絡めてひろこの事を面白おかしく話そうとしてたんだよ!」
「ちょっと待ってよ。俺だって占い師じゃなくて根本はひろこだよ。」
沖縄から宮崎、長崎、福岡、広島、岡山と順調に俺達のツアーは続いた。
1箇所終わる毎に東京に戻り、新曲のプロモーションと手一杯だった。
あんなに寒かったのにまもなく6月。
ひろことはまた会えない日々が続いた。
俺はなんとなく沖縄の占い師に言われた事がずっと胸の奥に刺さっていた。
罪と償い、女と同化。
みんなに迷惑、というのがやっぱり心にはぐさりと刺さった。
あの、誕生日に無理矢理大阪に行った時もアッキー本人は言わなかったけど、ラジオの収録の時間変更に相当頭を下げていたなんて聞くと俺の知らないところでみんな俺に振り回されていたんだと思うと反省はあった。
幼稚園で習ったことをふと思い出していた。
挨拶をする。人に対して優しく。されて嫌な事はしない。
この3つ。
この3つは大事にしていた事だった。
バンドを結成した時もメンバー全員が同じ幼稚園出身ってのもあって、この3つは4人での決まり事だった。
28歳にもなって幼稚園の決まりも守れないなんて、って思ったけどそれはひろこを好きになった罪であると勝手にひろこのせいにしては毎日ひろこを想っていた。
「お、かわいーじゃん。」
収録に向かう車の中で俺の隣にいるケンが女性誌を見ていた。ずいぶん可愛い子が表紙だな、と思ったらひろこだった。
「俺、それまだ買ってない。見せて。」
女性誌にはひろこの特集が組まれ、10ページに渡ってひろこのファッションページにグラビアにインタビューが掲載されていた。
好きな人のタイプは?の質問には『好きになった人がタイプ』とある。
宝物は?の質問には『時計』。
ハワイで買った赤い服を着て、ネックレスもピアスも靴も俺がプレゼントした物を身につけていた。腕にはお揃いの時計がキラリと存在感を放つ。
俺の色に染まったようなページを目を細めて見ていた。
単純に、嬉しかったんだ。
時計、ピアス、ネックレスはあげた。
次アクセサリーをプレゼントするなら、と考えた。
あとはブレスレットしかない。
最後は指輪だ。
「変な電話があった。」
帰り道、アッキーが車の中で俺に言った。
「前、音楽番組に居合わせた別の番組のプロデューサーが、安藤ひろことおたくの HARUさんは付き合ってますか?って。」
「・・なんて言ったの?」
ウワサがもうずいぶん浸透しているんだなと思った。
「俺は誤魔化したよ。ハッキリ言わなかったけどあっちはもう分かってるんだろうな。安藤ひろこを一晩貸してくれればSOULの番組作りますよって」
「は?なんだよそれ。」
俺は耳を疑ったと同時に怒りが込み上げてきた。
「タチの悪いプロデューサーで有名なんだよ。気にしなくていいけど、よっぽどひろこちゃんのファンなんだろ。以前は遊井さんにもそんな事言ってたらしいぞ。もちろん遊井さんも断ってるけど」
「ありえねーよ。なんだよそいつ。権力使って好きな女と寝るつもりかよ?」
「こんな事、よくある事なんだよ。なんならそうやって自分の女を売ったアーティストも過去にはいたからな。」
「・・・」
ありえない世界だと思ったけどこれが業界なんだと改めて思わされた。
ワンナイだってそうだった。あの番組に出てた子達はみんな権力あるオヤジに抱かれて這い上がってきてるんだ。
ちょうど近所の幼稚園の前を通過した。今日もマリア像は立っている。
『ひろこが東京に戻ってこれますように』
お願い事が彼女になってくれますように、からこれに変わった。
1つお願い事をして1年頼み続けて叶った。
付き合い出してからは『ひろことずっと一緒にいれますように』だったけど、ここ1年は東京に戻ってこれますようにと1年願っている。
そろそろ叶えてよ、と思いながら。
「次は大阪だー!!大阪の皆さん、待っててねー!!」
ラジオで俺はプライベートこそ出さないようにはしているけど大阪のライブには喜び大爆発だった。
待ちに待った大阪公演が始まるからだ。毎日楽しみで仕方なかった。
大阪に行くあかつきには毎晩ひろこのマンションへ行くつもりだった。
「はい、ではFAXが届きました。千葉県にお住まいの春子さんからです。あたしは春さんのファンです。春さんはイルカみたいな子がタイプと以前雑誌で言ってましたが、具体的にどんな子がタイプなのですか?」
「それは好きになった人がタイプです!」
それは安藤ひろこがタイプですと言いたい。
本当は大声で言いたい。
応援ありがとうございます!
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