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1月の沖縄

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1月の沖縄は半袖までいかなかった。
ちょっと寒いかなくらい。
俺たちは朝10時に到着して関係各所に挨拶周りだった。

昨夜は3時までツアーの確認事項が入り、フラフラで荷造りをし、飛行機の中は俺以外全員が爆睡していた。

『空港着いたら連絡するね。』

ひろこは午後に沖縄入りして1人観光をしてホテルで待つと言う。
ハッキリ言ってこんな挨拶周りはパスしてひろこと観光したい気分だった。

疲れてないと言えば嘘になる。でもやっぱり今日は会えるから嬉しくて飛行機の中では眠れなかった。


「え?なんで?」

「だから、例の占い師が今日全員見させてくれって。」

例の占い師のロケが俺だけ明日、というのが途端にNGをつきつけてきたらしい。

「・・何時に帰れるの?ひろこ待たせちゃうじゃん。」
「22時には終わるから!待て!な!」

早くひろこに会いたいのに、結局占い師のロケを敢行する事になった。

「ケン、タバコちょーだい」
「春、イラついてんなー」

ケンが隣で笑いながらタバコを1本くれた。
もう21時半だった。
怪しい小部屋にメンバー1人とカメラマンやADが数人入り、俺たちは外で長らく待たされた。

『ホテルで待ってるね。』

ずっとひろこを待たせてる。ロケが終わったら猛ダッシュしてタクシーに乗ろうと計画してタクシー乗り場の場所を探したりしてウロウロしていた。

「聖司、遅いね。」
「1人何分かかるんだ?」

まだ聖司しか入ってないのにゆうに1時間半は経過している。すると聖司が小部屋から出てきた。

「聖司!どおだった?!」
ケンと優希がワクワクしながら聖司の元へ駆け寄った。

「いやー。いやいや。すごい。すごいよ。SOULは一生安泰だって。歌もこれからもっと良い曲が作れるって。」

聖司は手を口に覆って洗脳でもされたのかようにぼんやりと、でも嬉しそうに話しだした。

「次、ケンさんお願いしまーす。」
「あ、俺?うわードキドキ!」

今度はケンが入って行った。

「春。いいから待て。落ちついて。ひろこちゃんは逃げないから。」
隣でアッキーがおれの背中を叩く。

ケンもケンでなかなか出てこない。やっと出てきたと思ったらもう22時半をとっくに過ぎていた。

「すいません。先生が今日はもう見えないそうなので、明日お願いできますか?」

俺はローカル局のディレクターの男のセリフを聞いて脱力した。

もう23時になる頃、俺はアッキーと一緒にタクシーに乗り込んだ。
みんなと車で移動すればいいだけなんだけど、とにかく早くひろこに会いたかった。

「俺たちの泊まってるホテルと近いし、朝10時に迎えに行くからな。」
「分かったよ」

半ば聞いてるか聞いてないか分からない状態だった。タクシーがホテルに着くと俺は急いで降りた。

「じゃね。」
「朝10時だぞ!ひろこちゃんによろしくな!」

ホテルの入口である森の中のような道を走った。会いたくて会いたくて。
走り続けるとフロントであろう建物が見えて来て俺はもっと加速した。

急いでキャップをまぶかにかぶってフロントに着くなりすぐ伝えた。

「予約してる小寺です。小寺春臣です。」

沖縄人であろうフロントの男性はゆっくり笑ってコテージの場所を案内してくれた。これがまた遠かった。広大な敷地をほぼ通過するかの如く案内してくれた。
もう0時近かった。

ピンポーン
ピンポーン

ベルを鳴らしても出てこないから、鍵を開けて中に入った。
南国の香りのする白く広い部屋には薄暗い灯りがぽっかりとついたきりでひろこの影は見えなかった。でも水音だけが響いていた。

「ひろこ?」

水音の方へ歩いて行くとリビングを抜けた先に大きな窓が開いていて、庭にはプールがあった。

ひろこが泳いでいた。

持ってた鞄を投げて俺はすぐ外に出た。

しなやかに月明かりの下で泳ぐひろこをぼんやりと見つめていると、クロールを泳ぎきったところで手で顔を拭っていた。

「ひろこ!」

俺に気づいてこっちを見た。

「遅ーい!遅刻!遅刻遅刻遅刻!」


5ヶ月ぶりに会うひろこは何も変わらなかった。
イルカの目をしてとびきりの笑顔になった。

やっと、会えた。

ひろこを触りたくて、スニーカーと靴下だけ脱いで俺もそのままプールに入った。

「水中、鬼ごっこしよっか。」
ひろこが俺を見て挑発的な顔をする。

「何それ?泳ぎながら鬼ごっこ?」
「そう。プール広いし。せーの!」

ドボンと音を立てて潜ってずっと先を泳ぐひろこを目指して泳いだ。水中のライトで、夜でもひろこの薄い腹とキレイに泳ぐ脚が見える。
水着がイルカのような紺色のワンピースなのと、軽々と泳ぐひろこにイルカがダブって見えた。

手の先がもうすぐひろこの足の指に届きそうになる。

届きそう。

届かない。

その繰り返しだった。

この感覚。
今の俺と同じだと思った。

俺がきっと手を離したら簡単に離れていきそうな気がして焦るような感覚。

絶対、ひろこは逃がさない。

そう思った時、俺の手先にひろこの足の指が絡んだ。
そのままぐっと掴んで水中に沈むひろこを捕まえた。

ザバンと勢いのいい音でやっと足がプールに立つと俺とひろこは笑い合った。
ずぶ濡れで、なんだかおかしくて。それだけの事なのに2人で大笑いした。

「最近ジムで泳いでたのに、春の方がやっぱり体力あるね。」

「筋トレ、してんだよ。毎日」

淡いライトの青い光と月の光で、知り合った頃のロイヤルのプールの時の事を思い出した。

月が、あの日もキレイだった。

「今日は、優しい男現れた?」

水に濡れたひろこがキレイ。
月よりキレイだと思った。
なんでこんなに好きなんだろう。
なんで俺ばっかり好きなんだろう。

「遅刻する男は、現れたよ」

笑った顔が見たくて。
いつもいつも見たくて。
もう離れたくなくて。
ずっと一緒にいたくて。

好きになるにもほどかあるとか言うけど、多分この想いはかなりヤバイ重症なんだと思う。


「ね、キスしていい?」

俺が言うと一瞬、色っぽい目をして見つめる。いつもこの瞳に誘われて惑わされる。

「もうキスするの?」
「うん。」

温水で温かくなってるひろこの両肩をおさえた。

「でもキスしたら春はすぐHなことしたくなるんじゃない?」
「うん。すぐするかも。」

ひろこは笑っていた。

ちょっとキスした。またキスしたくなってキスをする。

きつく抱きしめた。

「月がキレイだね」

俺の胸の中でひろこが言った。







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