俺のカノジョに手をだすな!

みのりみの

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答えあわせ

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「ひろこの言ってた韓国街行ってみようよ」

夕方には大阪を出なくちゃいけない。

朝起きると2人でどこか出掛けて有意義に過ごしたい、普通の恋人みたいに過ごしたい、と妙に思った。

タクシーで大阪は鶴橋商店街へ向かった。

「ひろこも、して」

マスクを渡すとタクシーの中でひろこはすんなりマスクをした。

まだ有名じゃないから、と本人は思っていても目立ちすぎる。
ちょっと可愛い子がいる、と人は見るとあれ?ダイヤモンドのCMの子じゃない?となる。
俺はそれがなにより心配だった。


ぐちゃぐちゃの韓国街は甘い香りとキムチと雑貨のカビのような匂いが混ざりとんでもない異国情緒溢れる場所だった。

「すごいね」

湿気で妙に肌がベタベタする。通路も通れないほど荷物で埋まったところもあった。ちょっと道が広くなったところでひろこの肩を抱いた。

汗ばんでるハズなのにおろした髪のせいかお風呂上がりの香りがした。自分と同じ香りのハズなのにそれが妙に女らしくてドキっとした。

別れたくない。
他の男に持っていかれたくない。
それ以前にずっと2人でいたい。
俺は決定的な事を言われたらどうしようかずっと考えていた。

2人で韓国人からパンを買いお茶までもらい韓国人でごった返したフードコートの隅っこに2人並んで席をとった。

「これりんご味?美味しい。」
「これも形違うけどりんごの味がするよ」

どれを食べても安っぽい人工的なりんごの味。
そんなくだらない事で笑いながら食べた。

「すごいね。ここ。日本じゃないみたいだ。新大久保も行った事ないけど韓国人街ってある意味不夜城だな」

周りの韓国人は俺たちのことを見ない。韓国人しかいないから当たり前だけどその心地よさもあった。

「また来たいな」
「へー以外!春嫌だって言うと思った」
「異国情緒溢れてて現実逃避にはいいよ。また来年の今ぐらいがいいな。気候もいいし。来年のこの時期にまた来ようよ。」

俺はパンを食べながら周りの光景を見ていたけど、ひろこを見たら隣で目に涙をためていた。

俺はびっくりしたけど多分すごく動揺していた。ひろこが泣いた姿は初めてだった。

「ごめんごめん。春ごめん」
「泣いた顔初めてみた。もっと見せてよ」

ひろこは顔をそむけたが俺は手でひろこの頬を引き寄せた。

「泣く予定なんてなかったのにごめん」

手をおおって涙を拭うひろこの肩を抱いた

「じゃあ泣いた理由おしえて」
俺はひろこの耳元で言った。

「不安ってさみしさに変わるんだなって。東京にまだ戻れないし東京の春の生活も知らないし。ごめん、言ってる意味わからないよね」

ついに、この話をする時が来たんだ。さみしくなって俊と何かあったんだ。俺は息を飲んで落ち着かせてからひろこに言った。

「さみしくなっちゃったの?」

隣でティシュで涙を拭っている。絶対俊と何かあったはずだ。泣いているんだ。さみしい、と言ったんだ。さみしさで俊に、、俺は目の前が真っ暗になった。

「PV見て嫉妬したよ。PVのひろこ可愛くて、こんな顔するんだって、そう思ったらPV作った俊が羨ましかったよ。正直ね」

ひろこの顔をもう見れなかった。見たら何も言えなくなる。泣いているなら余計に。俺はこの雑多な風景に目を落とした。

「この業界、バンド業界なんて特に狭くて心ない噂とか聞いたりするの。ひろこは俊と何かあった?誘われなかった?それってひろこの言うさみしさから?」

「え?」

ひろこは涙が止まり、俺は本心を聞いた。ここだけはちゃんと聞いておきたい事だ。俺は心の準備をした。ところがひろこはやっと話がわかったらしくあーあの人ねーと言った。

「打ち上げで終電ギリギリで送ってくれたの。駅まで。その時友達になろうとか彼氏になりたいとか言われたけど彼氏いるからって話して急いで新幹線乗って、でもその日ちょうど共演者から遠距離恋愛してるなら彼氏が浮気してるかもよって言われて悩んじゃってキルズアウトからしてみたらなんて覇気のない人なんだろって思われてるかも」

「送ってもらっただけ?」

「うん。新幹線の終電ギリギリだったし。乗れたからよかったけど」

「・・・」

俺はおかしくて笑ってしまった。

「なんでおかしいの?」

「いや、俺の事彼氏彼氏言うからなんかかわいくてさ。そっか彼氏かぁ」

泣きはらした目で俺を見ている。俺の事を彼氏と言った。

俺は正真正銘ひろこの彼氏なんだ。

「春はかわいいかわいい言ってくれるけど私はかわいくないよ。春がいるからきっとかわいくいられるのよ。CMだって。春がいたからあんなによく撮れたのよ」

また涙が溢れてきそうなのを必死に耐えながらひろこは言った。

「私は春の彼女じゃなくて、大阪の彼女なの?それとも10人いる彼女のうちの8番目くらい?」

ひろこは俺の目をじっと見た。その瞳に俺を問いただす姿勢が見えて俺は妙に安心感がでてきた。

「10人中8番目くらいならキルズアウトみたくPVオファーしてたかもな。俺だってあのPV使いたいくらいだよ。」

真剣な目で俺を見つめた。
涙で潤んだ瞳がいつもより垂れて見える。
俺はその目を見てホッとしていた。

ひろこの少し伸びて斜めにかかる前髪をちょっとさわった。
俺も俺だけどひろこもひろこで俺に不安を抱いていたんだ。
お互いに。

「あたしばっかりいつもドキドキしてバカみたいだよ。手だって、いつも繋ぐだけですごく嬉しいのに」

「なんて言おうかな。なんて言えばひろこは安心するのかな。俺がひろこに惚れてるの分かってると思ってたのにヒドイよなぁ」

まるで、ひとつずつ答え合わせをしているようだ。

大好きな女にこんなにも愛されてるなんて知らずに、俺は本当に幸せなんだ。

「なんでそんなに嬉しそうなの?」

「噂で、俊がひろこと打ち上げ中いなくなったとか聞いててさ、ひろこさみしかったとか言うからマジで浮気したのかと正直思った。けど俺の事彼氏彼氏言うからなんか安心した」  

「私が浮気したと思ってたの?」 

「うん。でもひろこが俊をスルーしてたの分かって安心した。ひろこが俊になびいて取られたら嫌だなって真剣に考えて昨日セックスしてる時子供作ろうかと思った」

ひろこはちょっと!と言って笑って俺を叩いた。 

「子供いればひろこ離れていかないじゃん」

「でもまだまだふたりがいいな」

「俺も。ふたりでいたいな」


俺はひろこにちょっとキスをした。
そしたらひろこは泣きはらした目で俺にキスをし返した。
ひろこのキスは安っぽいりんごの味がした。

「ひろこ、泣いた顔もかわいいな」

「もぉ泣きたくないよ。」

「もう、泣かせないから。ごめんね。ひろこはずっとかわいいままでいてほしいな」

「ずっとかわいくいるならずっと春の彼女でいなきゃ」

「お、じゃあずっとかわいくいれるよ。やった」

俺は両手でひろこを抱きしめてまたキスをした。
韓国人だらけの雑踏の中で人目も気にせずに。

何かあったらゆっくりでいいから、答え合わせをすればいい。

最後の答えがお互い好きでいれば、もうそれで幸せなんだ。

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