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1位
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ひろことSOULのCM「ファニーダイヤモンド」の解禁は4/1エイプリルフールに日付けがちょうど変わった頃に流れた。
その1発目を見るために俺のマンションでメンバーとマネージャー達も全員で見た。
俺の歌声に乗せてひろこは露出ギリギリまで全身に泡をまとい浴槽の中からダイヤモンドを見つける。
「ズルい女、いい女、美味しい女、かわいい女、ファニーダイヤモンド」
最後のアナウンスにはその動くひろこは見事にはまる。
最後の笑顔はなんとも色っぽい。
本当にこんないい女と俺は付き合っているのか?隣にいてそぐわなくないか?とさえ思った。
セクシーに妖艶に見る人を惹きつける映像は見終わったあと、ほんの15秒のCMに俺達は言葉もでないくらい呆然とした。
「春は、とんでもない子を彼女にしたんだな。」
聖司が横で俺に言った。
「とんでもない?」
「もう、ひろこちゃん以外の子、好きになれないだろ」
聖司はもう変わった別のCMなのにぼんやりとTVから視線をはずさなかった。
ひろこのCMが解禁された記念すべきその日、渋谷はSOULがジャックした。
大画面エキシビション、ストリートに続くフラッグ、街中に新曲が流れた。相当事務所は金をかけた。
『マリア』発売日だ。
CDのジャケットは深いメタリックなネイビーの無地に俺達4人は4分割した枠におさまるようなデザインで、渋谷はその色で埋め尽くされた。
出荷数はいつもより上げた。
毎回毎回、成績表を見るのと同じで売れ行き、ランキング、評価は気にするが今回はいつもと訳が違う。取りに行った。1位という席を。
空気の振動という実態のないものを売るこの業界で実態のないものがどこまでのクオリティでどこまで評価されるのか、俺たちメンバーとスタッフ、事務所関係者もピリピリと緊張が張り詰めた。
プロモーションでメディアに出るとやはりひろこの事は聞かれた。TVでもラジオでも雑誌の取材でも。
『CMの子、安藤ひろこちゃん?かわいいね~まだハタチなんでしょ? HARUさんはお会いしました?』
1人ゲストで参加したラジオ番組でDJが聞いてきた。
『自分達の歌にあんなにかわいい子出てくれるのってやっぱり嬉しいものでしょ?』
『嬉しいですね。』
俺はそれだけであとは口を閉じた。それ以外は一切コメントしなかった。
本当は言いたい。
すっごいかわいいです。
俺の彼女なんです。
だから最高に嬉しいんです。
だから!世の男達、俺のカノジョに手をだすな!
『春、キルズアウトって知ってる?』
ひろこが電話で俺に聞いてきた。
知ってるも何もインディーズ時代にボーカルの俊と声が似てると言われた屈辱があった。ましてや同じビジュアル系で歳は同じだしうちと同じく4人組。
「もうデビューするんだよな。昔は張り合ったけど今はそれぞれの音楽をやるだけだから。キルズアウトがどうしたの?」
まだろくに世にでてないバンドをひろこが知ってるなんて何かあるハズだ。
『キルズアウトのデビューシングルのPVに出ることになったの。しかも撮影今週で名古屋に行くの』
ひろこのCMを見てキルズアウト側がオファーをだしたのか、そこまで分からないがひろこがたくさん世にでるに越したことはない。人気が出て東京に戻れるならそんなありがたい事はない。しかし俺の予感は的中した。
「キルズアウトの俊がCMみてひろこちゃんをPVに起用したいって直々にオファーしたんだって」
ひろこの事になると山ちゃんはどこかしらネタを拾ってくる。
ひろこがキルズアウトのPV収録が終わってすぐその話を出してきた。
「俊とひろこちゃん、2人で消えたらしいよ。」
「は?」
「収録終わって打ち上げで俊といなくなったってウワサ聞いたよ。いいのかよ」
まさか。
信じたくなかった。
ひろこが俊と?
俺はすっごい不機嫌になっていたと思う。
『今日雑誌の取材で私服とか荷物の写真撮るから大荷物だったよ」
「服、どんなの着てったの?」
『ハワイで春が買ってくれたmiumiuの赤い服。あれが一番かわいいし』
ひろこはいたって普通だった。いつも通り仕事が終わればまっすぐ家に帰る毎日。
まさか俊と、なんて考えたくない。
俊との事を聞きたくてたまらないけど収録はどおだった?と言うのも聞けない自分がいた。
ひろこに会いたい。
会いたくて会いたくてしょうがない。
俺の不安と比例してか『マリア』は初の1位を獲得した。しかもその後も3週連続で1位の座を奪わせなかった。
新曲のプロモーションが一息ついた頃、翌日の雑誌の撮影が日程変更になった。
「そ。だから明日の夜の会食までオフだから今日はみんなで1位3週目のお祝いって事で西麻布の焼肉行こうって社長が言ってるから」
「それいーね。うれしーね!」
「アッキー、それはオフとは言わねーよ!」
アッキーの言葉にメンバーもスタッフも盛り上がった。
ついに空いた時間。21時23分の新大阪行きの新幹線終電に乗れば12時前に大阪に着く。行くしかない。
社長達との焼肉でお祝いなんていつでもできる事だ。
俺はひろこに今日終電でそっちに行くと連絡をした。
「春も見るだろ?」
キルズアウトのついに完成したPVをスタジオでみんなで鑑賞する事になった。
同じ業界、とりわけ同じビジュアル系のPVは発売前にどこからともなくこっちにも流れてくる。それをみんなで鑑賞するのはもはやお決まりだった。
俺は正直見たくなかった。
ひろこがライバルバンドのPVに出たんだ。俺だって自分のPVにひろこが出て欲しいくらいなのに。
俊の歌う「birthday」というその曲は俊のハスキーな声がいつもより甘く聞こえる歌声。
ひろこはピンクのふわふわした短い丈のドレスに後ろにバックダンサーを、2人引き連れて踊っていた。
「ひろこちゃん、かわいい」
「すげーいい出来」
「曲とすごいマッチしてんな。プロデューサーって誰?」
俊と絡む事はなく歌の合間合間に踊るひろこの映像。
ひろこのダンスは素人でも踊れるような簡単なものだけど、なぜか肩肘はってなくて一生懸命踊ってます!っていう様子ではなく気の抜けた、よく言えばグルービーなダンスだった。
それがやたらと可愛くて曲にハマっていた。
こんなひろこの顔は見た事なかった。CMで見せた妖艶さとまた違った良さだった。
その完璧すぎる出来に余計俺は不機嫌になった。
「アッキーもう行くよ」
俺はキャップを被ってマスクをして立ち上がった。
21時前だった。
その1発目を見るために俺のマンションでメンバーとマネージャー達も全員で見た。
俺の歌声に乗せてひろこは露出ギリギリまで全身に泡をまとい浴槽の中からダイヤモンドを見つける。
「ズルい女、いい女、美味しい女、かわいい女、ファニーダイヤモンド」
最後のアナウンスにはその動くひろこは見事にはまる。
最後の笑顔はなんとも色っぽい。
本当にこんないい女と俺は付き合っているのか?隣にいてそぐわなくないか?とさえ思った。
セクシーに妖艶に見る人を惹きつける映像は見終わったあと、ほんの15秒のCMに俺達は言葉もでないくらい呆然とした。
「春は、とんでもない子を彼女にしたんだな。」
聖司が横で俺に言った。
「とんでもない?」
「もう、ひろこちゃん以外の子、好きになれないだろ」
聖司はもう変わった別のCMなのにぼんやりとTVから視線をはずさなかった。
ひろこのCMが解禁された記念すべきその日、渋谷はSOULがジャックした。
大画面エキシビション、ストリートに続くフラッグ、街中に新曲が流れた。相当事務所は金をかけた。
『マリア』発売日だ。
CDのジャケットは深いメタリックなネイビーの無地に俺達4人は4分割した枠におさまるようなデザインで、渋谷はその色で埋め尽くされた。
出荷数はいつもより上げた。
毎回毎回、成績表を見るのと同じで売れ行き、ランキング、評価は気にするが今回はいつもと訳が違う。取りに行った。1位という席を。
空気の振動という実態のないものを売るこの業界で実態のないものがどこまでのクオリティでどこまで評価されるのか、俺たちメンバーとスタッフ、事務所関係者もピリピリと緊張が張り詰めた。
プロモーションでメディアに出るとやはりひろこの事は聞かれた。TVでもラジオでも雑誌の取材でも。
『CMの子、安藤ひろこちゃん?かわいいね~まだハタチなんでしょ? HARUさんはお会いしました?』
1人ゲストで参加したラジオ番組でDJが聞いてきた。
『自分達の歌にあんなにかわいい子出てくれるのってやっぱり嬉しいものでしょ?』
『嬉しいですね。』
俺はそれだけであとは口を閉じた。それ以外は一切コメントしなかった。
本当は言いたい。
すっごいかわいいです。
俺の彼女なんです。
だから最高に嬉しいんです。
だから!世の男達、俺のカノジョに手をだすな!
『春、キルズアウトって知ってる?』
ひろこが電話で俺に聞いてきた。
知ってるも何もインディーズ時代にボーカルの俊と声が似てると言われた屈辱があった。ましてや同じビジュアル系で歳は同じだしうちと同じく4人組。
「もうデビューするんだよな。昔は張り合ったけど今はそれぞれの音楽をやるだけだから。キルズアウトがどうしたの?」
まだろくに世にでてないバンドをひろこが知ってるなんて何かあるハズだ。
『キルズアウトのデビューシングルのPVに出ることになったの。しかも撮影今週で名古屋に行くの』
ひろこのCMを見てキルズアウト側がオファーをだしたのか、そこまで分からないがひろこがたくさん世にでるに越したことはない。人気が出て東京に戻れるならそんなありがたい事はない。しかし俺の予感は的中した。
「キルズアウトの俊がCMみてひろこちゃんをPVに起用したいって直々にオファーしたんだって」
ひろこの事になると山ちゃんはどこかしらネタを拾ってくる。
ひろこがキルズアウトのPV収録が終わってすぐその話を出してきた。
「俊とひろこちゃん、2人で消えたらしいよ。」
「は?」
「収録終わって打ち上げで俊といなくなったってウワサ聞いたよ。いいのかよ」
まさか。
信じたくなかった。
ひろこが俊と?
俺はすっごい不機嫌になっていたと思う。
『今日雑誌の取材で私服とか荷物の写真撮るから大荷物だったよ」
「服、どんなの着てったの?」
『ハワイで春が買ってくれたmiumiuの赤い服。あれが一番かわいいし』
ひろこはいたって普通だった。いつも通り仕事が終わればまっすぐ家に帰る毎日。
まさか俊と、なんて考えたくない。
俊との事を聞きたくてたまらないけど収録はどおだった?と言うのも聞けない自分がいた。
ひろこに会いたい。
会いたくて会いたくてしょうがない。
俺の不安と比例してか『マリア』は初の1位を獲得した。しかもその後も3週連続で1位の座を奪わせなかった。
新曲のプロモーションが一息ついた頃、翌日の雑誌の撮影が日程変更になった。
「そ。だから明日の夜の会食までオフだから今日はみんなで1位3週目のお祝いって事で西麻布の焼肉行こうって社長が言ってるから」
「それいーね。うれしーね!」
「アッキー、それはオフとは言わねーよ!」
アッキーの言葉にメンバーもスタッフも盛り上がった。
ついに空いた時間。21時23分の新大阪行きの新幹線終電に乗れば12時前に大阪に着く。行くしかない。
社長達との焼肉でお祝いなんていつでもできる事だ。
俺はひろこに今日終電でそっちに行くと連絡をした。
「春も見るだろ?」
キルズアウトのついに完成したPVをスタジオでみんなで鑑賞する事になった。
同じ業界、とりわけ同じビジュアル系のPVは発売前にどこからともなくこっちにも流れてくる。それをみんなで鑑賞するのはもはやお決まりだった。
俺は正直見たくなかった。
ひろこがライバルバンドのPVに出たんだ。俺だって自分のPVにひろこが出て欲しいくらいなのに。
俊の歌う「birthday」というその曲は俊のハスキーな声がいつもより甘く聞こえる歌声。
ひろこはピンクのふわふわした短い丈のドレスに後ろにバックダンサーを、2人引き連れて踊っていた。
「ひろこちゃん、かわいい」
「すげーいい出来」
「曲とすごいマッチしてんな。プロデューサーって誰?」
俊と絡む事はなく歌の合間合間に踊るひろこの映像。
ひろこのダンスは素人でも踊れるような簡単なものだけど、なぜか肩肘はってなくて一生懸命踊ってます!っていう様子ではなく気の抜けた、よく言えばグルービーなダンスだった。
それがやたらと可愛くて曲にハマっていた。
こんなひろこの顔は見た事なかった。CMで見せた妖艶さとまた違った良さだった。
その完璧すぎる出来に余計俺は不機嫌になった。
「アッキーもう行くよ」
俺はキャップを被ってマスクをして立ち上がった。
21時前だった。
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