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恋人でいること

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関西限定のひろこが表紙の週刊誌をAmazonで買ったら女優の菊田恵が表紙の関東版が届いた。

山ちゃんはどこで入手したのか関西版のひろこの表紙の方を持っていた。

「なんで菊田恵が表紙なの?」

俺が買いたいのは安藤ひろこが表紙の方だ。買った時はちゃんと関西版で画像もひろこが表紙だったのに。
菊田恵の雑誌をケンに渡してAmazonにアッキーに言って問い合わせてもらったら関西版は完売したと言う。
週刊誌だから重版はない訳で。

ストレートヘアに赤いボディコン。
表紙のひろこは斜めに写っていて、めづらしく結いてない髪とアンニュイな雰囲気が色っぽくて可愛くて。俺はどうしても欲しかった。

「多分プレミアついたかもなー」

山ちゃんは嬉しそうに言う。俺だってほしいのに。
翌日諦めきれなくて、ヤフオクを見たら450円の雑誌が1万円の値がついて取引されててビックリした。



「春!」

新潟に着いて、温泉上がりの浴衣姿のひろこを見てドキっとした。

1ヶ月ぶり。

寝てない上に年末の慌ただしさでヘトヘトに疲れているハズなのに俺はひろこを見たら俄然元気になった。

「どこ見てんのー」

濡れた胸元がまた色っぽくてみんなに会わせたくないとさえ思ってしまう。

宴会場に入ると俺が手を引くひろこを見てスタッフ達は冷やかした。

「あれ?春?女連れ?」
「春ー!そのかわいい子誰だよ?」
「あ!ひろこちゃんだ!大阪放送の!」

当然だ。
みんなの前で女を連れてくるなんて初めての事だからだ。
とりわけ男同士の仕事仲間で彼女がいてもみんな紹介しないしこういった輪に連れてくるような事もしない。

「何?春の彼女?」

「そうだよ」

ひろこだから俺は連れてきた。みんなに紹介したくて、ひろこが俺の彼女なんだと知ってもらいたくて。

「ひろこって言うんだ。だからみんな手、出さないでね」

一瞬場内はしーんとした。
でも次の瞬間お祝いモードになった。

よく考えたら周りにひろこが彼女だと分かってもらいたかった俺のエゴだったと思う。ひろこを無理矢理連れてきちゃったのかな、なんて罪悪感はあった。


「わ、寒い。やっぱ戻ろう」

浴衣姿でちょっと庭に出たけど寒すぎてすぐ室内に入ると部屋には行儀よく二人分の布団が敷かれていた。

旅館、浴衣、布団、目の前にはひろこ。

旅館を貸切にした手前、みんなウロウロと部屋は行きたい放題。
セックスしたいが今したら野郎ばかりの連中が覗くに決まっている。
俺は心を鬼にして今日はしないと決めた。

「春、今日はありがとう」
「いつになく素直だね」
「また連れて来てほしいから」

そんなひろこの言葉に安堵した。無垢なひろこの笑い顔を見て心が穏やかになるどころかもっともっと好きに歯車がかかりそうになってつい頬をつねった。

まさかひろこはハワイに行くとは思っていないだろう。電気を消してひとつの布団に二人で入ってひろこを抱きしめた。

「残りの休み、予定何かあるの?」
「ないよ。あ、部屋の大掃除かな。」

ギュッと抱きしめてキスをした。

「成人式、どこか行こうよ」
「どこ行くの?」
「ハワイ」

丸2日寝てない自分はやっとひろこを胸に眠れた。
今年初めての睡眠だ。

普通の恋人同士って何をするから恋人になるのだろう。
仕事帰り一緒に帰ったり旅行行ったり買い物行ったり、記念日に外食?お互いの家を行き来して泊まってセックスして。あとは季節のイベントとか?夏は祭りや海行って冬はクリスマスに正月。
今まで彼女が切れる事もなかったのに、恋人って言うのは何をするから恋人、付き合ってるって言われるようになるんだっけ?と、幼稚な事だけどひろこと恋人でいるには周りに付き合ってるんだって思われるには何をすればいいのかずっと俺は考えていた。


「ゆうきオシャレー!そのウェアどこで買ったの?」

「CMやったスポーツメーカーで買ったんだよ。くれなかった。これ社販だよ!?」

「社販はないよな。俺ももらえると思ってたのに。」

ゲレンデに着くと優希と五十嵐とひろこが笑いあっていた。
もうすっかりメンバーやスタッフとも溶け込んでいて、俺はそれは嬉しかった。

「ひろこ、こっち」

「うん」

他の人とどんなに話して盛り上がってても、ひろこは俺が呼ぶとすぐ俺の元に来た。それがたまらなく男心をくすぐった。

「スノボー何年ぶり?」

「最後に行ったの高2だから、3年ぶり!」

手を取り合ってひろこと一緒にリフトに乗った。
どんどん足元が積雪の地面から離れていって、変わる雪景色を2人で見ていた。

「気持ちいいー」

少し目を閉じて冷たい空気を受けて景色を眺めているひろこに、やっぱり旅行っていいなと思いながら。

「セックスとどっちが気持ちいい?」

俺がイタズラに言うとひろこは瞬きをして動揺した顔をしたけどすぐに笑い出した。

「春のエッチ」

その笑った顔がイルカみたいな目をして可愛く笑った。
気がついたらひろこにキスしていた。キスするつもりなんてなかったのに。
ひろこのニット帽が気がついたら風で飛んでいった。
お互いそんな事も気にせずキスしていた。

その時、今までしてきた恋愛と全然違う事に気づいた。

外でキスなんてした事ない。
キスなんて2人だけの密室だけでするものだと思ってた。
こんな落ちたら怖いリフトの上でキスしたくなるとか聞いた事ない。

無意識だった。

それと同時にいつでもキスできるのが恋人なんだと思った。


ひろこはゆっくりゆっくりとS字を描きながら白銀のゲレンデを滑った。

「春、さっきリフトでキスしてたでしょ?」

ゴーグルを装着してる俺に聖司が口を押さえてボソッと言ってきた。

「見てたの?」

「見てたも何も真後ろで、山ちゃんと思いっきり見てたよ」

俺は恥ずかしくなったけど、そんな事はもう気にならなかった。

「ドラマ見てるみたいだった。帽子飛んでってもキスしてて。ちょっとあのシーン見てたら歌できそうだわ」

聖司は目をつぶってメロディを奏でていた。


「俺、ひろこの後滑ろ」

ケンがまた気合いの入った新品のボードでひろこを追いかけた。
人見知りのケンまでもがひろこと溶け込んでいた。

ふもとの方で滑っているひろこが転んだのが遠く見えて俺は追いかけた。

「春!ひどいのよ。ケンが雪を投げるの!」

追いつくとひろこは怒っていた。
転んで雪まみれになったひろこを抱き起こして雪を払った。
雪を被ったひろこはケンに雪を投げられたからか、ベソかいてそうな膨れっ面をしていた。
それが可愛くて、俺は目を細めた。

本当に、俺の彼女なんだよな?
キスもしてるし、身体も知ってるし、こうやって俺のところにいるし。
未だに信じられない自分がいた。

「もっと、人のいないところまで行ってみようよ」

ひろこが立ち上がって気を取り直したのか俺を見て笑った。

「・・うん」

人のいないところまで。どこまでも行くよ。ひろことなら、どこまでも行きたいよ。


ひろこはハワイに行く事は何も触れてこなかった。
多分夢と勘違いしていたのかもしれない。

大阪と東京、離れていても心はつながっている。とは思っても会いたくてもすぐには会えない身分だからこそ、忙しい体を削ってでもひろこと恋人らしくしていたかった。

「着いたら、電話して。」
「うん」

ひろこと別れた後、俺はメールした。
ハワイに行くための4日間もらうために。
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