俺のカノジョに手をだすな!

みのりみの

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遠距離恋愛

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東京に連れ戻され3日あった休みは実質1日だった。
1年は365日もあるのにたった1日は夢のようだった。

「で、安藤ひろこちゃんとはどおだったんだ?泊まってるという事は、まぁ希望通り願ったり叶ったりで、付き合うことになったのか?」

髪を染めてる最中にアッキーが耳元でオヤジくさくニヤニヤと囁いた。
俺は週刊誌を読んでいたけどただぼんやり見ているだけだった。

「春、さっきからページ変わらないもんな。そんな政治のページ読んでるけど読んでないだろ」

俺は雑誌を閉じてアッキーに渡した。

「春ーこれなら見たいだろ?な?」

すると今日発売の週間アサヒの表紙が安藤ひろこだった。俺は我先にとアッキーから奪った。

お団子頭の表紙は真っ赤な胸の開いたワンピース。
中のグラビアはワンピース姿で妖艶に写っていた。
たった3ページしかないグラビアに俺は食い入るように見た。
袋とじのA3のポスターを勝手にゲットして俺は家に飾ろうと思った。

「春おはよー!」
優希がとびきりの笑顔で優希のマネージャーの五十嵐とコーヒー片手に深緑色のパン屋の袋を持って入って来た。その途端俺は立ち上がりそうな勢いになったけど髪を染めてる手前、クロスが邪魔な事に気づいてすぐに座り直した。
そう。俺は優希を待っていた。

「優希、あのさ。」
「何?パンはあげないよ。」

隣に座って俺の好きな店のパンを食べようとしているところでパンなんて目にも入らなかった。

「安藤ひろこの番号教えて。」

優希は俺を見て目を丸くした。

「え?ひろに会えなかったの?会いに行ってたんじゃないの?」

俺は優希にひろこの携帯番号を教えてもらった。
「ひろこ」と打ち、優希の言う番号を入力して電話帳の登録を完了したと同時に、携帯が大事な大事な絶対になくしたくない愛くるしい生き物に変わったかのような気がした。

何も連絡先を交換していなかった事にびっくりした。
それだけ目の前にいる安藤ひろことの時間に心は奪われていたんだ。

これ、彼女になってくれたんだよな?大切にするって言ったし荷物も大量に置いてきたし。これで実は彼氏がいましたは絶対やめてくれ。でももし別れられない長年連れ添った彼氏がいたら…
なんて女々しく思ったりして、疑惑じゃないけど、俺はとにかく先客がいない事を確かめようと思った。電話する前に話す事を考えて一息深呼吸してから電話した。

「ひろこ?」

俺は12時ぴったりに電話をした。

「仕事終わった?」
『うん。』

電話で話してるだけでドキドキした。
本物だよな?とまだ疑ってたりして、本当に夢見心地だった。

「今、家?」
『そうだよ。もう帰って来てるよ』
「ひろこ、かわいいんだから誘われて飲み行ったりしないの?」
『打ち上げとか、偉い人との飲み会はあるよ。しばらくはないけどね。』

やっぱり。

『偉い人』って言うのがひっかかった。
やっぱりどこかヤバイ人が周囲にいるのか。でもそんな事考えててもキリがない訳で俺は聞こうと思った。

「・・俺の前に付き合ってた彼氏っていつ別れたの?」

色々考えて、一発で俺は彼氏であるのと他に男がいない事を確認できるような質問をした。

『前の彼氏は高校3年の時に別れたよ』

俺はこの返事に嬉しさと同時にビックリした。

「え?じゃあ高校卒業してデビューしてから彼氏いなかったの?!」

『うん』

俺はすっごいドキドキしたけどとにかく嬉しかった。デビューしてからの彼氏が俺。たまらなく嬉しかった。

「じゃあ、セックスしたのも高校生以来だったの?」

『そうだよ。』

「!!!!!」

衝撃すぎて俺は電話しながらガッツポーズをした。
やっぱり、おとなしく大阪で働くくらいだからヤバイ人の愛人ではない。身体は売らない子なんだと俺は確信した。

確信したらしたでもっと気持ちが大きくなっているのが分かった。

「じゃあ、よかった?」
『何が?』
「俺と、したこと」

ひろこは大笑いした。

『春ってエッチー!感想言わせる気?』

しばらく笑っていて俺もつられて笑ってしまった。でも聞きたかった。

「感想、聞かせてよ。励みにするから」
『励みって何の励み?』

ひろこはもっと笑い出した。俺も言ってておかしくなってきたけどやっぱり聞きたかった。

「明日からレコーディングなんだよ。頑張ってくるから、その励みにさせてよ。」

ひろこは笑っていたけど、少し落ち着かせて言った。

『ドキドキしたよ』

「・・・」

十分、お腹いっぱいだった。  
すごく幸せでまだ夢を見てるんじゃないかと思った。


「ね、約束して。もう俺以外の人とあーゆうこと、しないで」


束縛なんて、今まで誰にもした事なかったけど、ひろこに対しては独占したい気持ちが強くて、その日から毎日夜12時にかかさず電話をしていた。

「12時」という時間には家にいてもらいたい気持ちと、やっぱり12時過ぎて外で遊んでるのがどうしても嫌でその確認みたいなものだった。
彼女に特に12時には帰宅して!とか強制はしなかったけど、どう思っているだろうと思ってたけどとりわけ素行不良はなくいつも12時には家にいる健全な生活を送っていた。


「アッキー、その名古屋行きは大阪まで行けないの?」
「名古屋だけ」
「名古屋まで行くなら大阪にも寄ろうよ」
「スポンサーが名古屋だから。メーテレと協賛してるし名古屋まで~」
「大阪も!」
「名古屋まで!」

メンバーと、スタッフ全員が俺とアッキーのやりとりにケラケラと傍で笑ってる。

俺はとにかくひろこに会いたくて会いたくてしかたなかった。
自分の部屋には週間アサヒの袋とじポスターや写真を貼って毎日眺めた。
毎日のFAXや電話やメールじゃ足りなかった。
しかしオフのまったくない自分は仕事と絡めて大阪に行く方法ばかり毎日考えていた。

動いてるひろこを見たくてネットで大阪放送のひろこの番組はかかさずに見た。

ちょうどその頃出した新曲は「好き」とか「離したくない」という歌詞がやたらと入っていて、たまらなく俺は精魂込めて歌い続けた。
新曲は初登場2位を記録した。これはもう大台。
1位まであと少し。

「春のひろこちゃんへの想いが2位につながるなんてな。愛の力だわ。」

まわりは本当にびっくりしていた。

2位ときたら次は1位の席を取るより他はなく、聖司の魂の入ったストックからみんなで吟味して1位にふさわしい曲を模索した。

「歌い手はいい恋してないといい曲は歌えないから」

だれかしらが言っていた。
聖司は俺が気持ちを込めて歌えそうな曲を、と毎日歌を作っていた。


「今日ひろこは何してたの?」

『今日雑誌の取材とロケ番組の打合せ。あと衣装で服買ってた』

「どんな服?ひろこはどんなのが好きなの?」

『ワンピース!』

毎日決まって12時に電話して。すぐには会えない距離だから、毎日必ず電話をした。それで納得してた訳ではない。
会いたくて会いたくて想いは募るばかりだった。
会いたい気持ちが募りすぎて、音楽生番組でやたらと歌詞に会いたい会いたいと入ってる歌を熱唱していた。

「いやー今日の春の歌声は魂入ってたな!うんうん!よかったぞ!」

アッキーもメンバーもスタッフもやたらと褒めちぎっていた。当たり前だ。会いたい気持ちが心底こもっているのだから。

「お疲れ様でーす。」

その時、人気女優の芝沢遥と局内ですれ違った。彼女の着ているワンピースがオシャレで可愛くて、ひろこにも着させたいなと思って見つめていた。

「春、芝沢遥に見惚れてたのか?綺麗だよな。」

聖司に横から言われた。

「違う。芝沢遥の着てる服、ひろこに着させたら似合いそうだなーって。あれどこの服だろう。」
「そこかよ!?芝沢遥もかわいいぞ!」
「ひろこのがとんでもなく可愛いよ」

買い物しててもちょっとひろこに似合いそうな服なんか見ちゃうと買ってあげたくなったりして、電気屋へ行けばひろこと撮るための高性能なカメラが欲しくなったり、美味しいものを食べるとひろこと一緒に食べたくて、ある意味狂っていたかもしれない。
毎日何してもひろこのことばかり考えていた。


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