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38.拷問部屋

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 男の声で、目が覚めた。
 体が揺れているのがわかるが、自分で動いているのではなかった。地面が揺れているような感覚だった。体を起こそうとしたが、動かない。
「目が覚めたかい?」
 北山の声が左の耳元で聞こえたが、首を動かせない。それに寒い。
「へへへ、目を覚ましてくれないと、こっちが困るんだよ」
 別の男の声。
 朱里の意識が、ゆっくりと浮上していく。自分の置かれている状況が、ようやく把握できた。
 攫われたんだ。
 首を動かし、部屋を見渡した。コンクリートの冷たい壁。部屋の大きさは十メートル四方で、喫茶店かバーのような内装だった。部屋の入り口に木製のドアが見えた。天井には裸電球がぶら下がっていて、部屋全体に不気味な雰囲気が漂っている。
 その部屋の中央で、身体を固定されていた。
 誰かが足に触れた。触るな。そう叫んだつもりだったが、言葉にならなかった。
「スタンガンを押し当てた後、チオペンタールを注射したんだが、ちょっと効き過ぎたらしいな」
「いい女だな。こいつ、処女か?」
「調べたらいいじゃないか」
「俺にわかるわけないだろ。医者なんだから、あんたが調べてくれ」
 体が揺れた。腰を浮かされた。下着を脱がされているとわかった。
「やめて!」
 今度は声になった。
 誰かが、脚を広げた。蹴ろうとしたが、脚が動かない。
「そろそろ、麻酔から完全に覚める時間だ」
 北山の声。もう一人の男の声が聞こえてきた。股間を弄られた。足を動かそうとしたが、動かない。固定されたようだ。
 自由になる頭を持ち上げた。服を脱がされ、全裸で分娩台のような台の上に寝かされている。ベッドの上で万歳をするような格好で両手が拘束されていた。足首も革のベルトで拘束されている。
 何よ、これ。
 固定された体は少しも自由にならない。
 北山が朱里の足元に立ち、台の横にあるハンドルを回し始めた。
 浮き上がっていく足が、視界に入った。固定された両足が、広がりながら浮いていく。
「やめて、やめて!」
 体をよじる。腰もベルトで固定されてある。
 北山と男が朱里の足元に回った。北山が開かれた彼女の足の間に割り込んだ。
 性器に触れられた。
「やめろ、この野郎!」
「処女に間違いないな」
 北山に代わって男が腰をかがめ、間近に朱里の性器を眺めはじめた。そして赤い唇の端を吊り上げ「へへへ」と笑った。その視線には明らかに侮蔑のまなざしが含まれている。男の与える恥辱に、朱里は瞳をきつく閉じた。
 突然、右の乳房を鷲掴みにされた。
「痛い!」
「俺を誰だか知ってるらしいな」
 男がにやりと笑う。
「俺は岩元ってんだ。おまえ、空手やってるんだって? 気も強そうだな」
 岩元は乳房を掴んだ手に思い切り握力を込めた。
「痛い……」
 朱里がきつく眉を寄せる。乳房は敏感な場所だ。力いっぱい握られたら、それこそたまらない。この男は女の体に無知すぎる。
「いい女じゃねえか。それに、いい身体だ。このいやらしい胸も、締りの良さそうなオマンコも、この気の強そうな顔もな。それに、まだ処女じゃねえか。こいつは楽しめそうだぜ」
 なおも力をこめて握りつぶす。男の爪が食い込み、乳房が無様に変形した。
「痛い! やめて!」
 岩元が手を離した。乳房が鈍い痛みを訴えている。今度は朱里の性器に指で触れた。ぴくんと反応する。
「へえ、感じてんのかい?」
 その口調にも限りない侮蔑が混じっていた。
 感じるわけ、ないじゃない。
「これが処女の穴ねぇ。初めて見たぜ」
「前にも一人いたじゃないか」
「ああ、理佳か。あいつも処女だったはずなんだが、あそこをじっくり拝む前に逃げられちまった」
 岩元は指を離して立ち上がり、朱里の横に立った。空手の試合会場で見たことのある陰気そうな顔が覗いていた。
 岩本が朱里の腹を拳で殴った。
「痛っ!」
 朱里の目が苦痛に見開かれる。岩元が何度も何度も容赦の無い力で朱里の腹や腰を殴る。
「あっ! きゃあ! やめてっ!」
 そのたびに堪えようのない短い悲鳴をあげた。骨が軋みをあげる。しばらく嬲りつづけていたが、気が済んだのか岩元がやっと腕を止めた。
 朱里は激しく肩で呼吸をしながら、瞳の端に涙を浮かべ持続する痛みを必死で堪えていた。
「普通の女性ならとっくに泣き叫んでいるところだろうが、さすが根性があるな」
 朱里は固く唇をかみしめて、それに応えなかった。
 そんな彼女を見下ろし鼻先で笑うと、いつの間にか用意されていたサイドテーブルを手元に引き寄せた。そこには手術で使われるようなメスや見たことも無い器具が並んでいた。
 これから手術でも執り行うかのような岩元の様子に、恐怖心が芽生えた。ゴクリと音を立てて口の中の唾を嚥下する。
 岩元はサイドテーブルの上から、四又に分かれたかぎ爪状の刃物のついた、熊手様のものを手に取った。
「これは拷問に使う道具で、猫の爪っていうんだ。使いやすいように持ち手部分はちょっと改良してあるがな」
 岩元が朱里の鼻先にその刃先をちらつかせながら笑った。鈍い刃物の輝きを突きつけられた朱里が、恐怖に顔を引き攣らせる。
「な、何をするつもり……?」
「使ってみれば判るよ、下手な説明しなくても」
 岩元が爪を握って、その鉤爪を朱里の右の乳房の突起に触れさせた。冷たい刃物が敏感な部分に触れたのを感じ、朱里が悲鳴をあげる。
 柔らかくすべらかな乳房の上を、銀の刃物の背がゆっくりと下へ滑ってゆく。柔肌を傷つける事はないが、冷たい恐怖に感触に朱里の肌が粟立つ。
 刃が豊かな胸を下り、やがて胸の付け根の下で留まった。岩元が切っ先を乳房の下にピタリとあてがった。そしてその鋭い刃先を突き刺した。
「あああっ!」
 朱里の口から悲鳴が溢れる。
「この大きなおっぱいを、抉り取ってやろうか?」
「や、やめて……お願い……」
「まあ、もう少し楽しんでからにするか」
 岩元はテーブルに置いていた二つの金属の棒を手に取った。コードがつながっていて、変圧器のような金属の箱につながっている。 
 岩元は二つの棒を接触させた。鋭い音とともに青い火花が飛び散る。朱里は思わず目を閉じた。
 岩元が、朱里の両肩に、二本の金属の棒を押し付けた。
「きゃあああぁあぁ!」
 あまり激痛に朱里が叫ぶ。その様子を満足げに見下ろしながら岩元は「じゃ、もう一回、いきますか」と呟き、今度は左右の乳房に棒を押し付けた。
 再び朱里が絶叫し、体を仰け反らせた。ビクンビクンと身体を波打たせる。さっきの鉤爪で傷つけられた場所を攻められるのは、神経が過敏になっているせいもあり、生まれて初めてのその苦痛は例えようもない。朱里の目の前を、チカチカと火花が飛んだ。
 岩元は、やや焦点を失いかけている朱里の顎を掴んで自分の方を向かせた。涙で霞んだ彼女の目に、この残酷な行為で興奮しきっている岩元の狂った顔が映った。
 岩元は朱里の開かれた足の間に入り、金属の棒を性器にあてがった。
「やめて! お願い!」
「肛門のほうが楽しいぞ」
 黙って様子をみていた北山が言った。「ローションを塗ればスムーズに入るし、電気もよく通る」
「そうかい?」
 岩元が手に持ったポリの容器から金属の棒にローションを垂らしている。そして、ローションを付けた指を、朱里の肛門に入れて揉み解し始めた。
「いやっ、いやっ!」
 必死で腰をよじったが、しっかり固定されていて動かせない。
 岩物が金属の棒の一本を朱里の肛門にあてがい、グッと一気に奥へと押し込んだ。
「あああっ!」
 棒は強引に肛門を押し開き、奥に入ってくる。差し込まれた金属の棒が、腸粘膜の熱を奪っていく。
 岩元がもう一本の棒を、性器に押し付けた。
「いやあああああ!」
 体が大きく仰け反る。
 身体の中でも敏感な箇所に電流が流れたのだ。その苦痛はまさに地獄の苦しみだった。革製の頑丈な拘束具を引き千切らんばかりに暴れ狂い、半分白目を向いて口から泡を吹いて獣じみた叫び声を上げ続けた。
 目を見開き、髪を振り乱し身体をのたうたせながら、叫びを上げて泡を飛ばした。
「いやああ! ああぁあ! 死んじゃう!」
「なら死ねよ、構わねえからよ」
 耳を塞ぎたくなるような無慈悲な言葉。岩元の動きはひるむことは無い。痛みに悶えていた朱里が一旦大きく痙攣して、その首がガクっと折れた。
「おっと」
 岩元が、慌てて体を引いた。
「こいつ、小便漏らしやがったぜ」
 岩元のズボンの一部が濡れていた。痛みのあまり失禁したのだ。勢いよく溢れ出た尿を完全には避け切れなかったようだ。
 岩元は朱里の尿が掛かった部分を一瞥し、そして彼女に軽蔑の視線を送った。
「さあ、楽しくなってきたぞ……」
 岩元が、朱里の両方の乳房を掌で撫でまわした。死んだようにぐったりしていた朱里が、その刺激に反応して、ビクッと身体を痙攣させる。
 容赦のない拷問がこの先際限なく続けられるのだと思い、目から涙が溢れた。
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