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27.売春クラブと裏社会
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髪を染めピアスをつけた若い男が、地下への階段を下りていった。
革ジャンに金髪。あの男もスカルのメンバーなのだろう。
和哉は地下に伸びる階段を見下ろした。先日と同じ耳障りな音楽が、分厚いドアを通して微かに聞こえてくる。
あれだけの大立ち回りをした。しかも、今回も木刀を持ってきている。このまま階段を下りて店に入るのは殴りこみと同じだ。
ベージュの紙袋の中に手をいれ、中の木刀に指で触れた。
あの女がダイナマイトに来ているかどうか不明だ。それに、待っていても今夜は現れないかもしれない。
先日沙耶が一緒でなければ、あんなトラブルは起こらなかったのに。
仕方ない。ここで待つしかないか。今夜会えなければ、明日また来ればいい。
近くのコンビニの前で、友人を待っている振りをしながら立ち、ダイナマイトの入った雑居ビルを見張った。
三十分待った。その間に、革ジャンに金髪の少年が三人、ダイナマイトへの階段を下りて行った。
中にいるかもしれないが、バーテンと顔を合わせるのはやはりまずい。長期戦になりそうだが、ここで待っていたほうがいいだろう。
コンビニで缶コーヒーでも買ってくるか。ポケットに手を入れ財布を取り出そうとしたとき、黒塗りのワンボックスカーが、雑居ビルの前に停まった。車から男が三人降りてきて、階段を下りていく。男たちの慌てた様子に胸騒ぎがした。
和哉が階段に近づいていく。突然、階下から女の悲鳴が聞こえてきた。
あの女の声だ。
人相の悪い男たちに腕をつかまれた金髪の女が、階段を引き上げられてくる。
レミに間違いない。石田組がスカルのたまり場であるダイナマイトを襲撃したのだ。
やくざ風の男が三人。おそらく石田組。しかし、和哉に迷いはなかった。階段を上りきったところに停めてある黒のワゴン車のドアが開いた。見覚えのある車だとようやくわかった。美登里のマンションを訪れた日の帰り道、和哉たち三人の前に停まったあのワンボックスカーだ。
レミが大声を上げながら抵抗している。周囲に飲食店が並んでいるが、関わりを恐れてか外に出てくるものはいない。
紙袋の中に手を入れ、木刀の柄を握った。脚を踏み出すと同時に紙袋から手を出した。つま先から足を地面に降ろし、そして駆け出した。気配に気づいた男の一人がこちらを向いた。木刀を突き出す。先端が男の喉を捕らえた。動物のような唸り声を上げて男が地面に倒れた。残りの男が身構えた。突き。正面の男の鳩尾に食い込む。男が膝を突いた。
「なんだ、てめえは!」
運転席のドアを開けて、先に中に入っていた男が飛び出してきた。木刀を上段に構える。男は躊躇することなく突進して来た。大柄な男。組みつかれたら面倒だ。
木刀を振り下ろす。男がすばやく額の前で腕を組んだ。男が腕で木刀を受ける。和哉が後ろに下がってすばやく腕を引く。腰を落とした男が足を踏み出すと同時に、和哉が引いた木刀を突き出した。男の鳩尾を突く。男は怯まない。木刀を引くと同時に男の腕が和哉の胸倉を掴んだ。木刀を突き上げる。先端が下から男の顎を強烈に突き上げた。男が仰け反った。地面に倒れている男たちが立ち上がろうとしている。
「こい!」
和哉がレミの腕を掴んで、商店街を目指して駆け出した。
後ろを振り返らなかった。レミの手を引きながら必死で足を動かした。
「ちょっと待って!」
レミが足を止めた。もう走れないといって首を横に振る。男たちが追ってくる気配はない。
「何考えてんのよ」
「助けてやったんじゃないか」
「あいつら、石田組だよ」
「車に連れ込まれたほうがよかったのかい?」
彼女が肩を上下させながら首を横に振った。
人通りの多い通りに出た。連絡を受けた仲間たちが探しているかもしれないが、ここで騒ぎを起こせばさすがに通報される。連中は手を出してこないだろう。
「みんなであんたのことを探していたんだよ」
「悪いのは大勢で女の子に手を出そうとした君たちのほうだ。君だって見ていただけで止めなかった」
「あのクラブがどんなところか知っててきたんでしょ? そんなところに女連れで乗り込んでくるあんたが悪いのよ」
レミが立ち止まってタバコを銜えた。
「吸う?」といって箱を差し出してくる。
「停学になるからいい」と断ると、女が笑った。
「剣道やってたの?」
「ああ。しかし、少し変わった道場に通っていたんで、普通の剣道とは違うんだ」
「突きが得意そうね」
「まあな。突きだけで試合に十連勝したことがある」
彼女がタバコの煙を吐き出した。ようやく落ち着いてきたようだ。
「あれだけ騒いだあとなのに、何しにきたの?」
「君に用があったんだよ。美登里のことを訊こうと思ってね」
レミが、じろっと和哉を見た。
「美登里が追われている本当の理由はなんだ。覚せい剤か?」
「どうしてそんなこと、あんたに喋んないといけないわけ?」
「恩に着せる気はないが、たった今助けてやっただろ。俺が来なかったら、今頃どうなっていた?」
ふん。彼女が吸殻を道路に捨てた。
「美登里のエスはあんたが持ってるんでしょ?」
「ああ」
「やっぱりね。見つかると退学になるわよ」彼女が笑った。面白い冗談だが、和哉には笑えない。
「どこまで知ってるの?」
「本当に何も知らないんだ。ただ、女の子を攫って変態野郎にいたぶらせていることにスカルが関わっているんじゃないかと思っている」
「そうよ」レミが言った。「シンジが石田組と組んで、金持ちの変態相手に女の子をあてがうクラブをつくったの。金持ちの変態のためのクラブよ。変態たちは女の子を好きにできるの。いやらしいことしようが痛めつけようが自由ってわけ。美登里はね、女の子の調達係」
レミがタバコを銜えた。
「美登里は学校でいじめられていたの。施設出だったから。でも、そのころに年少から出てきたシンジと知り合って、エスを捌きだしたの。エスで自分をいじめていた女の子を中毒にして、売春クラブへと流していたのよ。シンジも酷い男よね」
「石田組はどうして美登里を追ってるんだい?」
「美登里はね、少女買春の証拠を盗みだして代議士を脅したの。それで、面子を潰された石田組に追われているの。たぶん、シンジが指示したんだと思う」
話がよく見えない。
「つまり、石田組の上客の破廉恥行為を盗み撮って、その代議士から金を脅し取ろうとしたってことか?」
「知ってるんじゃない? 大きなニュースになったから。川淵って代議士が淫行で捕まったでしょ?」
知っている。女子中学生に淫らな行為をしたとして、代議士が逮捕された事件だ。
「石田組とスカルで少女売春組織をつくって、金持ちのスケベオヤジたちを客にしていたの。現役の女子中高生とやれるって、裏社会じゃ有名なのよ」
嫌な話だ。女子中高生とセックスできる売春組織は、いつの時代も大盛況だ。
「でも、経営者はたしか自殺したんじゃなかったっけ?」
「どうってことないのよ。経営者には組織と関係ない奴を使ってるもん。俗に言う逮捕要員ってやつ。組織の上のことはよく知らないし、もし知ってても、警察に追及される前に自殺に見せかけて殺しちゃうもん」
なんとも非現実的な話だが、そんな世界が本当にあることも知っている。
「それでね、儲けた金を元に政治家や警察の有力者たちを抱きこんで囲っちゃえば、舎弟企業が工事や建設計画を有利に進められるし、市からの発注も受けられるようになるんだって。売春の証拠があげられても揉み消すこともできる。やりたい放題よ」
「それが石田組のシノギなのかい?」
「石田組の舎弟企業は福利厚生施設を持っているけど、その実態は政財界人専用の超高級サロンなのよ。そこで女の子を使って大物の接待をするの。鶴見にあるピースドリームクラブって知ってる?」
「いや。高級サロンなんてところには縁がないんだ」
「美登里はね、いつも可愛い女の子を捕まえてくるのよ。少し前も可愛い女子高生を捕まえてきたわ。街で知り合ったらしいけど、眠剤飲ましてドールにしようとしたら、逃げられちゃったの。誰かが逃がす手引きをしたらしいんだけど、そのとき、見張っていた石田組の組員が殺されたのよ」
ドール。ダイナマイトで沙耶に手をだそうとしたときも、あいつらはドールといっていた。女の子のことを、あいつらはそう呼んでいるらしい。金持ち変態オヤジたちと遊ばせる人形ってわけだ。
「石田組の幹部がその女のことを気に入っていて、今、みんなで探しているところなの。彼女を連れて行ったらシンジを許してくれるって、約束してくれているのよ。それに、その女は組員を殺した犯人を知っているかも知れない。殺された仲間の仇もとらないといけないので、石田組は躍起になってその女を捜しているわ」
「美登里も許してもらえるのかい?」
「上客をひとり台無しにしたから、許してもらえないでしょうね」
レミが、新しいタバコに火をつけた。周囲は大学生風の若者や仕事帰りの会社員、OLで賑わっている。
「その石田組の幹部なんだけど、女の子を拷門するのが趣味なの。女の子を痛めつけて興奮する変態なの。先日、豊商の女の子の死体が見つかった事件、知ってる?」
「ああ」
あのUSBの動画に映っていた女の子だ。
「美登里が連れてきたドールをその幹部が拷問して殺しちゃったの。空手連盟の地方支部の役員でね。少年の健全な肉体と精神を育てあげるなんていってるくせに、やってることは変態丸出し。笑っちゃうわ」
あの殺人動画に映っていたのは、石田組の幹部だったのか。
「実はスカルと石田組は少し揉めていたんだけど、なんとかおさまりそうになっていたの。でも、誰かが幹部の橋本を殺して、それがスカルの仕業だと疑われてまた揉めているの。私がさらわれそうになったのも、私がシンジの居場所を知ってると思われているからよ。スカルのメンバーも拷問されて殺されたわ。ナイフで脚を抉られたり指を切り落とされたりしてね。石田組の報復よ。今は戦争状態」
「美登里を探す上で他に手がかりになりそうなことは?」
「さあ。シンジと一緒にいるはずだけど、誰も連絡が取れないの。でも、あいつなら美登里と連絡が取れるかも」
「あいつって?」
「新しい仲間よ。豊商の江木って奴に仲間にして欲しいと頼んできてスカルに入ったの。江木は自殺したけどね」
「なんて奴だ」
「田中勇作」
「田中勇作?」
「知ってんの?」
「どんな奴だ」
「女みたいに背が低くて細くってなよっとした奴よ」
勇作じゃない。あいつは背丈があって幅も広い。同姓同名か。
「女を調達するから誰と相談すればいいかって聞いてきたので、美登里の連絡先を教えたの。女の管理はシンジの指示で美登里がしていたから、二人は連絡を取り合っていたはずよ」
「そんな弱っちい奴もスカルの仲間になれるのかい?」
「勇作はナイフの使い手なのよ。あいつがスカルに入ったとき、酔わせて裸の写真を撮ろうとしたの。裏切らないようにするための、スカルの儀式よ。でも、あいつ酒を飲もうとしなかったの。それで仲間が無理やり服を脱がそうとしたんだけど、あっという間にやられたの。顔は笑ってたけど、凄みがあった。人の二、三人は殺ってるって顔してた。その腕のよさと度胸を買われて、シンジが仲間にしたの」
レミが一口しか吸っていないタバコの吸殻を地面に落として脚で踏み潰した。
「私はね、美登里とは仲がよかったのよ。同じ施設出だったから。規則が厳しくて、施設にいるときはずっと反発してた。みんな、憂さ晴らしに道をはずれていくのよ。親に大切にされている奴にはこの寂しさはわからないわ。さっさと金をためて、みんな出て行きたがっているのよ」
革ジャンに金髪。あの男もスカルのメンバーなのだろう。
和哉は地下に伸びる階段を見下ろした。先日と同じ耳障りな音楽が、分厚いドアを通して微かに聞こえてくる。
あれだけの大立ち回りをした。しかも、今回も木刀を持ってきている。このまま階段を下りて店に入るのは殴りこみと同じだ。
ベージュの紙袋の中に手をいれ、中の木刀に指で触れた。
あの女がダイナマイトに来ているかどうか不明だ。それに、待っていても今夜は現れないかもしれない。
先日沙耶が一緒でなければ、あんなトラブルは起こらなかったのに。
仕方ない。ここで待つしかないか。今夜会えなければ、明日また来ればいい。
近くのコンビニの前で、友人を待っている振りをしながら立ち、ダイナマイトの入った雑居ビルを見張った。
三十分待った。その間に、革ジャンに金髪の少年が三人、ダイナマイトへの階段を下りて行った。
中にいるかもしれないが、バーテンと顔を合わせるのはやはりまずい。長期戦になりそうだが、ここで待っていたほうがいいだろう。
コンビニで缶コーヒーでも買ってくるか。ポケットに手を入れ財布を取り出そうとしたとき、黒塗りのワンボックスカーが、雑居ビルの前に停まった。車から男が三人降りてきて、階段を下りていく。男たちの慌てた様子に胸騒ぎがした。
和哉が階段に近づいていく。突然、階下から女の悲鳴が聞こえてきた。
あの女の声だ。
人相の悪い男たちに腕をつかまれた金髪の女が、階段を引き上げられてくる。
レミに間違いない。石田組がスカルのたまり場であるダイナマイトを襲撃したのだ。
やくざ風の男が三人。おそらく石田組。しかし、和哉に迷いはなかった。階段を上りきったところに停めてある黒のワゴン車のドアが開いた。見覚えのある車だとようやくわかった。美登里のマンションを訪れた日の帰り道、和哉たち三人の前に停まったあのワンボックスカーだ。
レミが大声を上げながら抵抗している。周囲に飲食店が並んでいるが、関わりを恐れてか外に出てくるものはいない。
紙袋の中に手を入れ、木刀の柄を握った。脚を踏み出すと同時に紙袋から手を出した。つま先から足を地面に降ろし、そして駆け出した。気配に気づいた男の一人がこちらを向いた。木刀を突き出す。先端が男の喉を捕らえた。動物のような唸り声を上げて男が地面に倒れた。残りの男が身構えた。突き。正面の男の鳩尾に食い込む。男が膝を突いた。
「なんだ、てめえは!」
運転席のドアを開けて、先に中に入っていた男が飛び出してきた。木刀を上段に構える。男は躊躇することなく突進して来た。大柄な男。組みつかれたら面倒だ。
木刀を振り下ろす。男がすばやく額の前で腕を組んだ。男が腕で木刀を受ける。和哉が後ろに下がってすばやく腕を引く。腰を落とした男が足を踏み出すと同時に、和哉が引いた木刀を突き出した。男の鳩尾を突く。男は怯まない。木刀を引くと同時に男の腕が和哉の胸倉を掴んだ。木刀を突き上げる。先端が下から男の顎を強烈に突き上げた。男が仰け反った。地面に倒れている男たちが立ち上がろうとしている。
「こい!」
和哉がレミの腕を掴んで、商店街を目指して駆け出した。
後ろを振り返らなかった。レミの手を引きながら必死で足を動かした。
「ちょっと待って!」
レミが足を止めた。もう走れないといって首を横に振る。男たちが追ってくる気配はない。
「何考えてんのよ」
「助けてやったんじゃないか」
「あいつら、石田組だよ」
「車に連れ込まれたほうがよかったのかい?」
彼女が肩を上下させながら首を横に振った。
人通りの多い通りに出た。連絡を受けた仲間たちが探しているかもしれないが、ここで騒ぎを起こせばさすがに通報される。連中は手を出してこないだろう。
「みんなであんたのことを探していたんだよ」
「悪いのは大勢で女の子に手を出そうとした君たちのほうだ。君だって見ていただけで止めなかった」
「あのクラブがどんなところか知っててきたんでしょ? そんなところに女連れで乗り込んでくるあんたが悪いのよ」
レミが立ち止まってタバコを銜えた。
「吸う?」といって箱を差し出してくる。
「停学になるからいい」と断ると、女が笑った。
「剣道やってたの?」
「ああ。しかし、少し変わった道場に通っていたんで、普通の剣道とは違うんだ」
「突きが得意そうね」
「まあな。突きだけで試合に十連勝したことがある」
彼女がタバコの煙を吐き出した。ようやく落ち着いてきたようだ。
「あれだけ騒いだあとなのに、何しにきたの?」
「君に用があったんだよ。美登里のことを訊こうと思ってね」
レミが、じろっと和哉を見た。
「美登里が追われている本当の理由はなんだ。覚せい剤か?」
「どうしてそんなこと、あんたに喋んないといけないわけ?」
「恩に着せる気はないが、たった今助けてやっただろ。俺が来なかったら、今頃どうなっていた?」
ふん。彼女が吸殻を道路に捨てた。
「美登里のエスはあんたが持ってるんでしょ?」
「ああ」
「やっぱりね。見つかると退学になるわよ」彼女が笑った。面白い冗談だが、和哉には笑えない。
「どこまで知ってるの?」
「本当に何も知らないんだ。ただ、女の子を攫って変態野郎にいたぶらせていることにスカルが関わっているんじゃないかと思っている」
「そうよ」レミが言った。「シンジが石田組と組んで、金持ちの変態相手に女の子をあてがうクラブをつくったの。金持ちの変態のためのクラブよ。変態たちは女の子を好きにできるの。いやらしいことしようが痛めつけようが自由ってわけ。美登里はね、女の子の調達係」
レミがタバコを銜えた。
「美登里は学校でいじめられていたの。施設出だったから。でも、そのころに年少から出てきたシンジと知り合って、エスを捌きだしたの。エスで自分をいじめていた女の子を中毒にして、売春クラブへと流していたのよ。シンジも酷い男よね」
「石田組はどうして美登里を追ってるんだい?」
「美登里はね、少女買春の証拠を盗みだして代議士を脅したの。それで、面子を潰された石田組に追われているの。たぶん、シンジが指示したんだと思う」
話がよく見えない。
「つまり、石田組の上客の破廉恥行為を盗み撮って、その代議士から金を脅し取ろうとしたってことか?」
「知ってるんじゃない? 大きなニュースになったから。川淵って代議士が淫行で捕まったでしょ?」
知っている。女子中学生に淫らな行為をしたとして、代議士が逮捕された事件だ。
「石田組とスカルで少女売春組織をつくって、金持ちのスケベオヤジたちを客にしていたの。現役の女子中高生とやれるって、裏社会じゃ有名なのよ」
嫌な話だ。女子中高生とセックスできる売春組織は、いつの時代も大盛況だ。
「でも、経営者はたしか自殺したんじゃなかったっけ?」
「どうってことないのよ。経営者には組織と関係ない奴を使ってるもん。俗に言う逮捕要員ってやつ。組織の上のことはよく知らないし、もし知ってても、警察に追及される前に自殺に見せかけて殺しちゃうもん」
なんとも非現実的な話だが、そんな世界が本当にあることも知っている。
「それでね、儲けた金を元に政治家や警察の有力者たちを抱きこんで囲っちゃえば、舎弟企業が工事や建設計画を有利に進められるし、市からの発注も受けられるようになるんだって。売春の証拠があげられても揉み消すこともできる。やりたい放題よ」
「それが石田組のシノギなのかい?」
「石田組の舎弟企業は福利厚生施設を持っているけど、その実態は政財界人専用の超高級サロンなのよ。そこで女の子を使って大物の接待をするの。鶴見にあるピースドリームクラブって知ってる?」
「いや。高級サロンなんてところには縁がないんだ」
「美登里はね、いつも可愛い女の子を捕まえてくるのよ。少し前も可愛い女子高生を捕まえてきたわ。街で知り合ったらしいけど、眠剤飲ましてドールにしようとしたら、逃げられちゃったの。誰かが逃がす手引きをしたらしいんだけど、そのとき、見張っていた石田組の組員が殺されたのよ」
ドール。ダイナマイトで沙耶に手をだそうとしたときも、あいつらはドールといっていた。女の子のことを、あいつらはそう呼んでいるらしい。金持ち変態オヤジたちと遊ばせる人形ってわけだ。
「石田組の幹部がその女のことを気に入っていて、今、みんなで探しているところなの。彼女を連れて行ったらシンジを許してくれるって、約束してくれているのよ。それに、その女は組員を殺した犯人を知っているかも知れない。殺された仲間の仇もとらないといけないので、石田組は躍起になってその女を捜しているわ」
「美登里も許してもらえるのかい?」
「上客をひとり台無しにしたから、許してもらえないでしょうね」
レミが、新しいタバコに火をつけた。周囲は大学生風の若者や仕事帰りの会社員、OLで賑わっている。
「その石田組の幹部なんだけど、女の子を拷門するのが趣味なの。女の子を痛めつけて興奮する変態なの。先日、豊商の女の子の死体が見つかった事件、知ってる?」
「ああ」
あのUSBの動画に映っていた女の子だ。
「美登里が連れてきたドールをその幹部が拷問して殺しちゃったの。空手連盟の地方支部の役員でね。少年の健全な肉体と精神を育てあげるなんていってるくせに、やってることは変態丸出し。笑っちゃうわ」
あの殺人動画に映っていたのは、石田組の幹部だったのか。
「実はスカルと石田組は少し揉めていたんだけど、なんとかおさまりそうになっていたの。でも、誰かが幹部の橋本を殺して、それがスカルの仕業だと疑われてまた揉めているの。私がさらわれそうになったのも、私がシンジの居場所を知ってると思われているからよ。スカルのメンバーも拷問されて殺されたわ。ナイフで脚を抉られたり指を切り落とされたりしてね。石田組の報復よ。今は戦争状態」
「美登里を探す上で他に手がかりになりそうなことは?」
「さあ。シンジと一緒にいるはずだけど、誰も連絡が取れないの。でも、あいつなら美登里と連絡が取れるかも」
「あいつって?」
「新しい仲間よ。豊商の江木って奴に仲間にして欲しいと頼んできてスカルに入ったの。江木は自殺したけどね」
「なんて奴だ」
「田中勇作」
「田中勇作?」
「知ってんの?」
「どんな奴だ」
「女みたいに背が低くて細くってなよっとした奴よ」
勇作じゃない。あいつは背丈があって幅も広い。同姓同名か。
「女を調達するから誰と相談すればいいかって聞いてきたので、美登里の連絡先を教えたの。女の管理はシンジの指示で美登里がしていたから、二人は連絡を取り合っていたはずよ」
「そんな弱っちい奴もスカルの仲間になれるのかい?」
「勇作はナイフの使い手なのよ。あいつがスカルに入ったとき、酔わせて裸の写真を撮ろうとしたの。裏切らないようにするための、スカルの儀式よ。でも、あいつ酒を飲もうとしなかったの。それで仲間が無理やり服を脱がそうとしたんだけど、あっという間にやられたの。顔は笑ってたけど、凄みがあった。人の二、三人は殺ってるって顔してた。その腕のよさと度胸を買われて、シンジが仲間にしたの」
レミが一口しか吸っていないタバコの吸殻を地面に落として脚で踏み潰した。
「私はね、美登里とは仲がよかったのよ。同じ施設出だったから。規則が厳しくて、施設にいるときはずっと反発してた。みんな、憂さ晴らしに道をはずれていくのよ。親に大切にされている奴にはこの寂しさはわからないわ。さっさと金をためて、みんな出て行きたがっているのよ」
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