1 / 1
永久なる刻
しおりを挟む
ボクの毎朝はキミが靴を鳴らす音から始まった。リボンを足首まで結び、慣らすように床を踏むと、床がキシキシと音を奏でる。蓄音機に手をかけると、細いその指でゼンマイを回す。今日も流れるのはクラシックだ。蓄音機のホーンは、キミが身に纏うチュールスカートのようだ。
「これはチュチュっていうのよ。」
と、そのチュチュなるものの裾を掴んでニッコリと微笑みながら教えてくれたっけ。
ボクはキミのワルツを横目に、珈琲を嗜む。この時間が一日の中で何よりも好きだったりするのだ。
軽快な三拍子が上に向かって吹き抜けて、それはどこまでも続いてくようだった。毎日重ねていくこの音が、ボクらの想い出として日々増えていく。
今日もキミにいつものようにおはようと声をかける。だだっ広いこの部屋を静かに吹き抜けていく風が、カーテンを揺らす。それはキミのワルツに揺れるチュールスカートを思い出させた。
珈琲を口に含みながら、蓄音機に手をかける。ゼンマイをまわし、流れるのはあの日と同じクラシック。
"ジョングブルームン病"
キミが患った病気は、世界のどこを探しても治す方法は見つからないそうだ。
ジョングブルームンとは若い花の意。この病に侵されたものは、歳を取らない。取れないのだ。植物状態のまま、老いることも若やぐことも許されない。あの日から、時計の針はボクだけを追いかけ、キミとの時間を刻々と埋まらないものにしていった。
今日もキミが眠るその横にはあの日と同じ、チュールスカートとボクの朝を彩っていた靴が置いてある。5年という長くも短い月日が経った今でも、キミは急に眠りから覚め踊り出しそうな、そんな気がしてならない。
どうやらキミの美貌も、ボクの想い出もまた、歳を重ねることはいつまでも許されないようだ。
美しく、残酷に、今日もワルツを思い出す。
「これはチュチュっていうのよ。」
と、そのチュチュなるものの裾を掴んでニッコリと微笑みながら教えてくれたっけ。
ボクはキミのワルツを横目に、珈琲を嗜む。この時間が一日の中で何よりも好きだったりするのだ。
軽快な三拍子が上に向かって吹き抜けて、それはどこまでも続いてくようだった。毎日重ねていくこの音が、ボクらの想い出として日々増えていく。
今日もキミにいつものようにおはようと声をかける。だだっ広いこの部屋を静かに吹き抜けていく風が、カーテンを揺らす。それはキミのワルツに揺れるチュールスカートを思い出させた。
珈琲を口に含みながら、蓄音機に手をかける。ゼンマイをまわし、流れるのはあの日と同じクラシック。
"ジョングブルームン病"
キミが患った病気は、世界のどこを探しても治す方法は見つからないそうだ。
ジョングブルームンとは若い花の意。この病に侵されたものは、歳を取らない。取れないのだ。植物状態のまま、老いることも若やぐことも許されない。あの日から、時計の針はボクだけを追いかけ、キミとの時間を刻々と埋まらないものにしていった。
今日もキミが眠るその横にはあの日と同じ、チュールスカートとボクの朝を彩っていた靴が置いてある。5年という長くも短い月日が経った今でも、キミは急に眠りから覚め踊り出しそうな、そんな気がしてならない。
どうやらキミの美貌も、ボクの想い出もまた、歳を重ねることはいつまでも許されないようだ。
美しく、残酷に、今日もワルツを思い出す。
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
浮気を繰り返す彼氏とそれに疲れた私
柊 うたさ
恋愛
付き合って8年、繰り返される浮気と枯れ果てた気持ち。浮気を許すその先に幸せってあるのだろうか。
*ある意味ハッピーエンド…?
*小説家になろうの方でも掲載しています
あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう
まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥
*****
僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。
僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる