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AnotherWorld 2
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人間です、と叫んだタケルを、彼らは胡散臭そうに眺めた。
タケルはへらっと笑って見せた。
彼がそうすると、ただでさえ細い目が完全にニッコリマークのそれになって、親友からは「人畜無害完全究極体」と太鼓判を押していた。
鼻に突くすえた酷い臭いに、表情が歪みそうになるのを必死で耐える。
悪臭は目の前の人間たちからしていた。風呂の習慣がないようだった。
タケルに向けられていた銃口と弓矢が降ろされると、彼らはタケルを乱暴に縄で縛り上げた。
「え?! ちょっと、嘘らろ?!」
食い込むほどに縄をかけられ、そのままズリズリと引きずられる。
「俺をココに喚んだんはあんたらなんか?! なんの用で……!?」
彼らはタケルの話など聞く耳を持っていないようだった。
千切れて地面に落ちた触手を集めだしたりしている。
苛立ちに、タケルはじたばたともがいた。
「はっなしを、聞けぇ!」
ムカつきのまま、足をあばれさせたとき、左足が地面をけった。ドーンという衝撃と一緒に身体が宙を浮く。
いや、タケルの左足が地面を沈めたのだ。
「なっ?!」
浮遊感に続いて巻き上がる小石や砂、衝撃で身体を浮かせる周囲の人間たち、半径五メートルにできたクレーター。
どんっとタケルはクレーターの底に尻もちをついた。
「いってぇ」
尾てい骨にビリビリとした痛みを感じながら、涙の浮かんだ糸目で左足を確認すると、また青い煙が左足から揺らめいていた。
(また、コレ……?!)
タケルが自身の変化に顔をゆがめた時だ。つま先の土がはじけ飛ぶ。
パパパパパパパパッという銃声が響いて地面が雑なハチの巣になっていく。
「撃つな! 撃たないでくれー!」
ここは地獄か――
撃ちぬかれこそしなかったが、タケルが悲鳴をあげ、助けを求めるのを諦めるまで、ボコボコに殴り蹴られた。
口の中が切れて、口内に不快が充満する。
「っちくしょう、なんでこんな目に……」
振り子のように揺られる中、誰にも聞こえないように小さく毒づいた唇から血が流れ落ちていった。
縛られ、長い木の棒に、生贄のように吊るされたタケルを掲げ、人間たちは荒野を歩く。
何らかの目的をもった行軍の行き先は知らされることはなかったが、すぐに目的が何なのかタケルにはわかった。
「おいおいおいおい、嘘だろ」
つまり彼は、ていのいいエサであり囮ということだ。
目の前に現れたのはまたあの触手のモンスターで、うごうごとピンク色の毛を動かして、集団でやってきたエサ達に歓喜している。
「前へー!」
集団の指揮をとっていた男が叫んだ。
タケルを吊るす気の棒をもった人間達が、慎重に集団の前へと進み出ると同時に、うごめく触手相手に弓矢や銃弾が降り注がれる。
「うぁ、ああああ!」
ひゅんひゅんと耳元を過ぎ去っていく弾丸と矢、そして襲ってくる触手に、タケルは血の泡を飛ばしながら叫んだ。
「来るなああああ! 来んな来んな来んなぁああ!!」
がむしゃらに足を振り回す、左足から青い軌跡が走り、タケルを食べようと伸びてきた触手に当たり、蠢く肉がはじけ飛ぶ。
人間たちからは歓声が上がって、彼らは大いに喜んだ。
その日の夜、手当らしいことも一切されず、タケルは荷台の脇に縛られたまま放置された。
触手を狩っていた集団は大きなイグアナ……ファミリー向けのワゴン車並みに大きいイグアナが引いていた、三台の荷台に分かれそれぞれキャンプをはじめている。
タケルはあちこち痛む身体で、彼らのその様子を細い目でぼんやりと眺めていた。
(会話どころか常識が通じん……俺、本当に異世界にきちまったのか……でもこういう場合、大抵チュートリアルあるんじゃねぇの?)
神様でも女神様でも仏様でも、何なら悪魔でもいい、なにかしらの説明が最初にあるはずだ。もしくはなぜか頭の中にすでにことの顛末の理解が入っている。
少なくとも彼が読んできた漫画やアニメはそうだった。
どんなに理不尽なことでも理由がある。
そしてーー
(なぞの神様的存在が現れてチート能力くれるんじゃねーんか……)
左足の異変がソレだというなら、絶対無敵には程遠い。
(せめて、なんかスキル……魔法とか魔力とか、なんかそういう)
最悪でもステータス画面が欲しい。頭の中に賢者の声がこだまするとか、贅沢は言わない。
頭の中でウィンドウを開く想像に全神経を集中させた。
(こい、説明こい、なんかこい)
念じても一向に現れないが。
糸目と揶揄される細い目をぱちぱちとさせても気配もない。
「あー……天の声さーん。出番ですよー、いらっしゃいましたらお返事くださーい」
無駄な呼びかけだった。
(ダメか……)
大きく脱力する。
その時、ドサッと目の前に肉の塊が投げられた。
「メシだ」
肉を投げた、小銃を持った中年はそう言うと、胡散臭そうにタケルを一瞥し、またキャンプの方へと戻っていった。
「……地面、直置きなんですけど」
箸文化じゃなさそうだとは思ったが、皿すらないのか異世界は。
「はぁ~、かぶりつけばいいんだろ、ガブっといけば……うぐっ?!」
縄に巻かれたまま、ミノムシのように動いて肉の前へと顔を近づけると、嗅いだことのない独特な肉の臭いが鼻腔を攻撃してくる。
見た目にも問題があった。
煙を上げた、焼き立てのソレの表面には、髪の毛が焦げたようなチリチリとしたモノが巻き付いているのだ。動物的な毛というには違って見えるそれに、ヒクッと喉が鳴る。
「これ、もしかして……」
違ってくれと祈りながら、タケルは顔をめぐらせ、見てしまった。
少し離れた荷台のキャンプで昼間の触手を切り分けたものが、焚き火で炙られてところを。
瞬間、鳥肌が立つ。
(食うんか?! これ食うん?!)
それぞれのキャンプで、火を囲んで静かに男達が肉にかぶりついている様を、唖然として眺めていると、横からサッと手が伸びてタケルの目の前の肉をかすめ取っていった。
「あっ」
若い女だった。
大きな一枚布で作ったような、胸元や足が露出する服を着た、顔色の悪い女。
彼女はタケルの肉を奪うと、すぐにかぶりつき、そのままスタスタと1番近い荷台キャンプの火へと歩いていった。
残されたタケルを乾風だけがひゅーっと慰める。
「ファ、ファミチキ……食べたい」
結局、一口も食べられず、飲み物も与えられないまま、夜がふけていく。
(ね、寝れねぇ)
痛みもさることながら、パニックと昼間の興奮で頭の中がギンギンと覚醒している。
もしかしたら、今にもタケルの異世界転移冒険譚のチュートリアルが始まるかもしれないと思うと、瞬きすら回数が減っていた、そんな時だ。
火が小さくなったキャンプの方から女の嬌声が聞こえてきた。
瞬間、少年は耳を澄ます。
暗くてよく見えないが、荷台がギシギシと揺れている。
ギシギシ、ギッシギシ、ギシギシアンアン揺れている。
(エッチィことしてる?!!)
以前、親友とこっそりエロ動画を見た。
その時の女のよがり声以上に、媚びて艶かしい生の女の喘ぎ声。
温もりをもった、性の嬌声に、タケルの身体がドクンドクンと脈打つ。
その夜、15才の少年は、一睡もすることは出来なかった。
次の日も、タケルは餌だった。
(結局眠れなかったし、結局異世界冒険イベントも起んなかった)
別のイベントなら起こったが、それはそれ。
何か変わるか、好転するかと思われた明日という今日は、昨日の繰り返しで、タケルは大きな木の棒から吊るされ、触手に襲われている。
飛び交う銃弾と弓矢、うねる触手。
やれやれと怒鳴り散らす足元の人間たちにタケルはとうとうキレた。
「もう嫌だ!! 疲れた!! 知るか!! 勝手にやって……」
もう蹴らない、そう決意して足を振り回すのを一瞬やめたときだ。
タケルが蹴る飛ばすのをやめた触手が、銃を撃っていた人間を五人、槍のように貫いた。
触手は見せつけるように腹を貫通したそれをタケルの目の前に持ってくる。
だらんと人形のようになった人間達がタケルにむく。
「……ッ」
虚ろな洞のように生気を失った目がタケルを責めている。
(くそ、くそくそくそ……)
お前のせいで死んだのだと責める。
「ちくしょうぅぅ!!!」
何人死んだかわからなかった。
気が付いた時にはタケルは吊るされたまま千切れて動かなくなった触手に囲まれていた。
千切れ転がっている触手の端々は赤く染まっていて。
「俺のせいじゃない」
目を閉じても、赤が世界から消えない。
その日の夜、地面に転がされたタケルの目の前に、焼いた触手の塊肉が置かれる。
この肉は何人も殺した肉だ。
あちこちのキャンプでは、平然とコレにかぶりついていて……
「うぇ」
途端、胃液がこみ上げてきて嘔吐する。
「ゲホッ、ゴホッ、う、あ……」
縛られた身体で四つん這いになりながら呻く。
「はぁ、はぁ……イヤだ……」
夜になればまた女の嬌声が聞こえてきて、タケルはまた吐いた。
(もう嫌だ)
祈るように夜を見上げる、赤い月が笑っている気がした。
「くんな、もう……明日くんな、嫌だ、馬鹿野郎」
それでも朝は無常にやってくる。
タケルの体力は限界で、蹴りは当初の威力を失い、昨日よりも大勢が死んだ。
(嫌だ、もうやだ)
木の棒に生贄として吊るされながら、タケルは触手が飛ばした生首を見ながら泣いた。
首だけになったのは、最初の日タケルに焼いた肉を投げ捨てた男だった。
(もう、これ以上、死ぬ思いすんのも、人が死ぬのを見たくない)
異世界に落ちて三日目――
女の嬌声が響く夜。
赤い月がケタケタ笑うその下で、タケルはとうとう投げ落とされた肉にかじりついた。
硬く、繊維質で、歯茎のあいだに挟まりやすく、生臭く酢えた匂いが口の中に充満した酷いものだったが、食べた直後から、生き返っていくように身体に力が湧いてきた。
「ちくしょう!」
頭がおかしくなりそうだ。
「やってやるさ。俺がなんでここに来たかわかんねーけど、やってやる! 死ぬのも、人が死ぬのを見るのもごめんだ!」
Bravo!
それでこそ男の子だ。
さぁ、ここからだ。
デス・パレードの準備はできてるかい?
タケルはへらっと笑って見せた。
彼がそうすると、ただでさえ細い目が完全にニッコリマークのそれになって、親友からは「人畜無害完全究極体」と太鼓判を押していた。
鼻に突くすえた酷い臭いに、表情が歪みそうになるのを必死で耐える。
悪臭は目の前の人間たちからしていた。風呂の習慣がないようだった。
タケルに向けられていた銃口と弓矢が降ろされると、彼らはタケルを乱暴に縄で縛り上げた。
「え?! ちょっと、嘘らろ?!」
食い込むほどに縄をかけられ、そのままズリズリと引きずられる。
「俺をココに喚んだんはあんたらなんか?! なんの用で……!?」
彼らはタケルの話など聞く耳を持っていないようだった。
千切れて地面に落ちた触手を集めだしたりしている。
苛立ちに、タケルはじたばたともがいた。
「はっなしを、聞けぇ!」
ムカつきのまま、足をあばれさせたとき、左足が地面をけった。ドーンという衝撃と一緒に身体が宙を浮く。
いや、タケルの左足が地面を沈めたのだ。
「なっ?!」
浮遊感に続いて巻き上がる小石や砂、衝撃で身体を浮かせる周囲の人間たち、半径五メートルにできたクレーター。
どんっとタケルはクレーターの底に尻もちをついた。
「いってぇ」
尾てい骨にビリビリとした痛みを感じながら、涙の浮かんだ糸目で左足を確認すると、また青い煙が左足から揺らめいていた。
(また、コレ……?!)
タケルが自身の変化に顔をゆがめた時だ。つま先の土がはじけ飛ぶ。
パパパパパパパパッという銃声が響いて地面が雑なハチの巣になっていく。
「撃つな! 撃たないでくれー!」
ここは地獄か――
撃ちぬかれこそしなかったが、タケルが悲鳴をあげ、助けを求めるのを諦めるまで、ボコボコに殴り蹴られた。
口の中が切れて、口内に不快が充満する。
「っちくしょう、なんでこんな目に……」
振り子のように揺られる中、誰にも聞こえないように小さく毒づいた唇から血が流れ落ちていった。
縛られ、長い木の棒に、生贄のように吊るされたタケルを掲げ、人間たちは荒野を歩く。
何らかの目的をもった行軍の行き先は知らされることはなかったが、すぐに目的が何なのかタケルにはわかった。
「おいおいおいおい、嘘だろ」
つまり彼は、ていのいいエサであり囮ということだ。
目の前に現れたのはまたあの触手のモンスターで、うごうごとピンク色の毛を動かして、集団でやってきたエサ達に歓喜している。
「前へー!」
集団の指揮をとっていた男が叫んだ。
タケルを吊るす気の棒をもった人間達が、慎重に集団の前へと進み出ると同時に、うごめく触手相手に弓矢や銃弾が降り注がれる。
「うぁ、ああああ!」
ひゅんひゅんと耳元を過ぎ去っていく弾丸と矢、そして襲ってくる触手に、タケルは血の泡を飛ばしながら叫んだ。
「来るなああああ! 来んな来んな来んなぁああ!!」
がむしゃらに足を振り回す、左足から青い軌跡が走り、タケルを食べようと伸びてきた触手に当たり、蠢く肉がはじけ飛ぶ。
人間たちからは歓声が上がって、彼らは大いに喜んだ。
その日の夜、手当らしいことも一切されず、タケルは荷台の脇に縛られたまま放置された。
触手を狩っていた集団は大きなイグアナ……ファミリー向けのワゴン車並みに大きいイグアナが引いていた、三台の荷台に分かれそれぞれキャンプをはじめている。
タケルはあちこち痛む身体で、彼らのその様子を細い目でぼんやりと眺めていた。
(会話どころか常識が通じん……俺、本当に異世界にきちまったのか……でもこういう場合、大抵チュートリアルあるんじゃねぇの?)
神様でも女神様でも仏様でも、何なら悪魔でもいい、なにかしらの説明が最初にあるはずだ。もしくはなぜか頭の中にすでにことの顛末の理解が入っている。
少なくとも彼が読んできた漫画やアニメはそうだった。
どんなに理不尽なことでも理由がある。
そしてーー
(なぞの神様的存在が現れてチート能力くれるんじゃねーんか……)
左足の異変がソレだというなら、絶対無敵には程遠い。
(せめて、なんかスキル……魔法とか魔力とか、なんかそういう)
最悪でもステータス画面が欲しい。頭の中に賢者の声がこだまするとか、贅沢は言わない。
頭の中でウィンドウを開く想像に全神経を集中させた。
(こい、説明こい、なんかこい)
念じても一向に現れないが。
糸目と揶揄される細い目をぱちぱちとさせても気配もない。
「あー……天の声さーん。出番ですよー、いらっしゃいましたらお返事くださーい」
無駄な呼びかけだった。
(ダメか……)
大きく脱力する。
その時、ドサッと目の前に肉の塊が投げられた。
「メシだ」
肉を投げた、小銃を持った中年はそう言うと、胡散臭そうにタケルを一瞥し、またキャンプの方へと戻っていった。
「……地面、直置きなんですけど」
箸文化じゃなさそうだとは思ったが、皿すらないのか異世界は。
「はぁ~、かぶりつけばいいんだろ、ガブっといけば……うぐっ?!」
縄に巻かれたまま、ミノムシのように動いて肉の前へと顔を近づけると、嗅いだことのない独特な肉の臭いが鼻腔を攻撃してくる。
見た目にも問題があった。
煙を上げた、焼き立てのソレの表面には、髪の毛が焦げたようなチリチリとしたモノが巻き付いているのだ。動物的な毛というには違って見えるそれに、ヒクッと喉が鳴る。
「これ、もしかして……」
違ってくれと祈りながら、タケルは顔をめぐらせ、見てしまった。
少し離れた荷台のキャンプで昼間の触手を切り分けたものが、焚き火で炙られてところを。
瞬間、鳥肌が立つ。
(食うんか?! これ食うん?!)
それぞれのキャンプで、火を囲んで静かに男達が肉にかぶりついている様を、唖然として眺めていると、横からサッと手が伸びてタケルの目の前の肉をかすめ取っていった。
「あっ」
若い女だった。
大きな一枚布で作ったような、胸元や足が露出する服を着た、顔色の悪い女。
彼女はタケルの肉を奪うと、すぐにかぶりつき、そのままスタスタと1番近い荷台キャンプの火へと歩いていった。
残されたタケルを乾風だけがひゅーっと慰める。
「ファ、ファミチキ……食べたい」
結局、一口も食べられず、飲み物も与えられないまま、夜がふけていく。
(ね、寝れねぇ)
痛みもさることながら、パニックと昼間の興奮で頭の中がギンギンと覚醒している。
もしかしたら、今にもタケルの異世界転移冒険譚のチュートリアルが始まるかもしれないと思うと、瞬きすら回数が減っていた、そんな時だ。
火が小さくなったキャンプの方から女の嬌声が聞こえてきた。
瞬間、少年は耳を澄ます。
暗くてよく見えないが、荷台がギシギシと揺れている。
ギシギシ、ギッシギシ、ギシギシアンアン揺れている。
(エッチィことしてる?!!)
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その時の女のよがり声以上に、媚びて艶かしい生の女の喘ぎ声。
温もりをもった、性の嬌声に、タケルの身体がドクンドクンと脈打つ。
その夜、15才の少年は、一睡もすることは出来なかった。
次の日も、タケルは餌だった。
(結局眠れなかったし、結局異世界冒険イベントも起んなかった)
別のイベントなら起こったが、それはそれ。
何か変わるか、好転するかと思われた明日という今日は、昨日の繰り返しで、タケルは大きな木の棒から吊るされ、触手に襲われている。
飛び交う銃弾と弓矢、うねる触手。
やれやれと怒鳴り散らす足元の人間たちにタケルはとうとうキレた。
「もう嫌だ!! 疲れた!! 知るか!! 勝手にやって……」
もう蹴らない、そう決意して足を振り回すのを一瞬やめたときだ。
タケルが蹴る飛ばすのをやめた触手が、銃を撃っていた人間を五人、槍のように貫いた。
触手は見せつけるように腹を貫通したそれをタケルの目の前に持ってくる。
だらんと人形のようになった人間達がタケルにむく。
「……ッ」
虚ろな洞のように生気を失った目がタケルを責めている。
(くそ、くそくそくそ……)
お前のせいで死んだのだと責める。
「ちくしょうぅぅ!!!」
何人死んだかわからなかった。
気が付いた時にはタケルは吊るされたまま千切れて動かなくなった触手に囲まれていた。
千切れ転がっている触手の端々は赤く染まっていて。
「俺のせいじゃない」
目を閉じても、赤が世界から消えない。
その日の夜、地面に転がされたタケルの目の前に、焼いた触手の塊肉が置かれる。
この肉は何人も殺した肉だ。
あちこちのキャンプでは、平然とコレにかぶりついていて……
「うぇ」
途端、胃液がこみ上げてきて嘔吐する。
「ゲホッ、ゴホッ、う、あ……」
縛られた身体で四つん這いになりながら呻く。
「はぁ、はぁ……イヤだ……」
夜になればまた女の嬌声が聞こえてきて、タケルはまた吐いた。
(もう嫌だ)
祈るように夜を見上げる、赤い月が笑っている気がした。
「くんな、もう……明日くんな、嫌だ、馬鹿野郎」
それでも朝は無常にやってくる。
タケルの体力は限界で、蹴りは当初の威力を失い、昨日よりも大勢が死んだ。
(嫌だ、もうやだ)
木の棒に生贄として吊るされながら、タケルは触手が飛ばした生首を見ながら泣いた。
首だけになったのは、最初の日タケルに焼いた肉を投げ捨てた男だった。
(もう、これ以上、死ぬ思いすんのも、人が死ぬのを見たくない)
異世界に落ちて三日目――
女の嬌声が響く夜。
赤い月がケタケタ笑うその下で、タケルはとうとう投げ落とされた肉にかじりついた。
硬く、繊維質で、歯茎のあいだに挟まりやすく、生臭く酢えた匂いが口の中に充満した酷いものだったが、食べた直後から、生き返っていくように身体に力が湧いてきた。
「ちくしょう!」
頭がおかしくなりそうだ。
「やってやるさ。俺がなんでここに来たかわかんねーけど、やってやる! 死ぬのも、人が死ぬのを見るのもごめんだ!」
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