ラッキースケベ体質女は待望のスパダリと化学反応を起こす

笑農 久多咲

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ラッキースケベ体質女は待望のスパダリと化学反応を起こす 3

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「先輩!お疲れ様です!」
芹奈がデスクで資料を読んでいると、犬飼が元気いっぱいに声を掛けてきた。時計を見れば定時を過ぎていた。
「お疲れ様。今日は早かったわね」
「はい、今日のノルマは達成したので帰ってきました」
犬飼が入社して半年、研修直後は残業も多かったが、最近は定時に切り上げて帰ることが多い。
「仕事は順調?」
「はい!」
犬飼はニコニコと答えた。
「あの、それでですね、僕先輩にお願いがありまして……」
「お願い?」
「はい!」
犬飼はおもむろに缶コーヒーを取り出した。
「これ、日頃のお礼です。お納めください」
「そんな気にしなくて良いのに。」
ありがとう、と芹奈は笑顔で受け取る。
「あと、これは個人的なものなのですが……」
犬飼は後ろ手に持っていた封筒を差し出す。
「……?」
「開けてみてください」
芹那は言われた通り、中の紙を取り出す。「これは……」
それはホテルビュッフェのチケットだった
「先月オープンしたばかりのところなんですけど、よければ週末、先輩と行きたいなって」
「いやー、んー……」
後輩とプライベートで出掛けるのに少し抵抗を感じた芹奈は困った顔をするが、犬飼は笑顔でたたみかける。
「このビュッフェ企画、前回お世話になったデザイン会社さんが関わってるそうです」
「行く」
即答した。
***
「うわぁ……綺麗……」
目の前に広がる宝石のようなスイーツの数々に、芹奈は思わず感嘆の声を上げた。
「先輩、すごい顔になってます」
「だってこんなの見たことないよ~!」
目を輝かせる芹奈。犬飼は「かわいいなぁ」と頬を緩める。
「あ、写真撮らなきゃ。デザイナーの幡野さんにご報告しよ」
「じゃあ僕が」
犬飼はスマホを取り出し、内装やスイーツなど手早くパシャパシャと写真を撮った。
「綺麗に撮れた?」
「はい、バッチリ」
「ありがと。いい感じに撮れたの、私にも送っといて。じゃあ早速楽しもう!」
そう満足げに頷き、芹奈はウキウキとビュッフェコーナーを巡り始める。
そんな彼女を愛おしげに見送り、犬飼は再度手元のスマホを眺める。
画面には、スイーツを見つめ表情を輝かせる愛しい人の姿。
普段より少しドレスアップした彼女も可愛いなぁと思いながら、犬飼はその画像を壁紙に設定した。

「先輩って、意外と食いしん坊ですよね」
「え?そうかな?」
「美味しいお店の誘いは基本断らないですし」
「食い意地張ってますよどーせ……」
芹奈は苦笑する。
「あ、でも、」
ふいに彼女は言葉を切った。そして何かを思い付いたように、いたずらっぽい笑みを浮かべ、
「やっぱある程度気心しれた人と行くご飯が一番よねぇ~」
なんてわざとらしく言うものだから、
「僕はその"そこそこ親しい間柄の後輩"ですか?」
ついいじわるを言いたくなってしまう。
しかし、芹奈はそんな犬飼の内心に気付かず、あっさりと答える。
「そりゃもちろん!」
その言葉を聞いて、犬飼は内心ホッとする。同時に、心臓が跳ねた。
(……ああ、ダメだな)
犬飼は思う。自分がどんどん欲張りになっていることを。
彼女の特別になりたい、もっと触れたいと。
「……先輩、」
「ん?」
「口元、チョコクリーム付いてます」
「ありゃ」
そういって彼女は口の端を自分の指先で拭い、その指をペロリ、と舐める。
その仕草の艶やかさと、唇の隙間から覗く舌先。犬飼はゾクリとした感覚を覚え内心打ち震えつつ、その魅力と無防備さに思わず釘を刺す。
「こら先輩、お行儀悪い」
「ごめん、目上の人の前では気をつけます」
「目上以外でも、僕以外の人の前でやっちゃダメですよ!」
「オカンか」
犬飼の戯けた調子に、芹奈は笑って言った。
「そういう犬飼くんも、袖。ソース付いちゃってない?」
「え、嘘!・・・やってしまった~」
机いっぱいに並べたスイーツとの距離感を見誤ったのか、袖口にいつの間にかソースを掠めてしまったようだ。
今日のために選んだおろしたてのシャツの、カフスの下に赤い色が撥ねている。
(せっかく決めてきたのに、ダサ・・・)
犬飼がしょんぼりと眉尻を落としていると、
「大丈夫」
と言って、芹奈は彼の手首をスルリと握る。
「ちょっ、先輩!?」
「じっとしてて」
水差しの水で湿らせたハンカチでポンポンと素早く犬飼の袖口を拭い、汚れを落とす。
手の甲に乗っている指先が無造作に皮膚を撫で、それだけで腰が浮きそうになる。
(ああもう、いつも、この人は・・・!)
彼女は無自覚なテクニシャンなのだ。
「これでよし。もうほとんどわからないし、洗濯したら多分大丈夫」
「あ、ありがとうございます……」
「素敵な服だね、似合ってるよ」
芹奈が犬飼を真っ直ぐ見つめ、微笑んで言う。
ストレートな褒め言葉に、犬飼は頬を染める。
「~~~、もう、先輩!そう言うとこですよ!」
「えっ」
「セクハラです!」
「ええっ?!!」
「僕以外の人に絶対やっちゃダメですよ!!」
「え、マジでごめんなさい・・・」
セクハラ、まあ言われてみれば・・・とブツブツ繰り返しながらショックを受けている芹奈を横目に、犬飼は微笑む。
(セクシーで、カッコよくて、優しくて。ああ、やっぱり好きだなぁ)
「先輩、そんなことより早く食べましょ!」
そう言って放心気味の彼女の頬を指で突く。すべすべて柔らかくて、無防備さが愛おしい。
「スキンシップはあかんのでは」
「僕からする分には大丈夫でしょ?先輩が嫌じゃなければ」
「そういうもん?」
「そーいうもんです!早く2周目行きましょ!」
「はいはい」
芹奈は苦笑して、再びスイーツの皿に向き合う。
間もなく明るい表情を取り戻し甘味を頬張る彼女を見ながら、犬飼は考える。
(いつか、この人の隣に立てる日が来るだろうか)
自分よりも年上で、頼りになって、美しい彼女。
きっと彼女は自分のことをまだ"後輩"としか思っていないだろう。
それでもいい。今はまだ"そこそこ親しい間柄の後輩"で構わない。
つい最近までそう思っていた。
けれど、あの男が現われてから、状況は変わった。
突然現れた同期「瀬尾」に、彼女は自分よりも心を許している。たった数週間で。
なりふり構ってなんかいられない。
犬飼はスイーツを咀嚼しながら芹奈の顔を眺める。
その視線に気付くことなく、彼女は幸せそうにスイーツを口に運んでいる。
(先輩は鈍い)
彼女は犬飼の下心を間に受けず、気のいい後輩の誘いとして受け止めている。
(こうやってデートに誘っても分かってないけど、これは逆にチャンスだ)
警戒心の無さは悲しくもあるが、そこにつけ込めば良い。
後輩という美味しい立場を利用して、ガンガン押して、押して、仲を深める。
このまま「気心の知れた同期」なんかにあっさり攫われてしまうなんて、そんなことは絶対に許せない。
(先輩、覚悟していてくださいね?)
犬飼は心の中で宣戦布告した。
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