天底ノ箱庭 療養所

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3章 術後経過

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4.
僕の頭を撫でながら、寝るまで傍にいてくれると言った彼の手が止まるのはあっという間だった。
何か他にやりたいことでもあったのかと、少し不安になって目を開けると、彼はソファベッドに座ったままうつらうつらと眠っていた。こんな時間まで夜更かしをしていたという彼も、起きていた時間の長さは僕と変わらないだろう。むしろ、眠くなるのは健康的な証だ。
彼を隣の部屋のベッドまで運ぶべきではと考えたが、それでは寝るまで一緒にいてもらう約束を取り付けたというのに普段と変わらない。自分勝手な話だが、なんだかそれは不服な気持ちになってしまう。
静かに上体を起こして、僕は彼の身体を優しく横に倒してみる。こんな短時間だと言うのに、黄金くんは深い眠りの中にいるようで目を覚ます気配はない。ソファベッドに寝かせ、彼の足をベッドの上に乗せると、僕もその隣で横になる。
眠る彼の肌から少しだけ汗の匂いがした。僕にしか分からない、甘い体臭。彼が寝ているのをいいことに、僕は彼を抱き枕のように抱きしめて目を閉じた。
不意に体調を悪くしていた時に、意図とせずにではあったがオーラルセックスに至ってしまったことを思い出す。
あの時の僕は正気ではなかった。正気ではなかったのだから、もう二度とそんな事態が起こるわけがない。そう思ってはいるが、もう一度できると言われた時に僕は果たして断るだろうか。
それはつまり、彼に恋愛感情を抱いているのかと考える。たびたび考えるのだが、答えは出ていなかった。
生殖本能が僕の狂った性癖のせいでおかしな方向に働いているだけなのか、恋愛対象として慕っているからなのか。誰に聞いたら答えが出るんだろうか。
もし、恋愛感情だとして、黄金くんに伝えたらどんな風に思うんだろう。気持ち悪いのだろうか。
黄金くんを抱きしめていると、彼の高い体温が背中越しに伝わって眠くなる。
ぐちゃぐちゃと思考する頭が次第に鈍り、僕もすぐ眠りについた。
次に目を覚ました時、真っ先に視界に入ってきたのは顔を赤くして複雑そうに目をそらした黄金くんの顔だった。
「よ…よお…」
「…あっ、おはよう」
彼は目覚めてから、僕にしっかりと抱かれていることに気づいたが下手に身動きもとれずにそのまま僕が目を覚ますまで大人しく抱かれていたらしい。
なんだか悪いことをしてしまった気がして僕はすぐに手を離して起き上がる。いつも僕の方が早く目覚めるから、彼より早く起きて離れるつもりだった。思っていたより、僕が爆睡していたようだ。
「な、なんかごめんな?俺、多分ここで寝落ち…したっぽい?」
僕がここに寝かせたことには気づいていないらしく、彼は気恥ずかしそうに頭をかきながら起き上がった。
「いや、君の体温が気持ちよくて、僕もつい君を抱き枕みたいにしてしまった。ごめんね」
こんなに照れた様子の黄金くんを見るのは初めてで、僕もどう反応するべきなのか悩んでしまう。自分の表情筋が硬いのが悩みだったが、こういう時は硬くて良かったと思ってしまう。
「…お昼ご飯にしようか」
立ち上がって僕はキッチンへと向かう。今日のメニューは何にしようかと考えていると、黄金くんが何か思い出したようにリビングテーブルへと駆け寄る。テーブルに置かれた紙袋を手に取ると、それを僕に差し出した。
「これ!楓ちゃんから預かったんだけど…要がかーちゃんに俺でも食べれるやつ頼んでくれたって」
「ああ、そういえば」
黄金くんが前に母のアップルパイを食べようとして倒れたのを思い出して、そんな事故が起きないように頼んだのだった。僕はその紙袋を受け取る。
「お昼だし、食べようか」
袋を持ってキッチンへと向かう。台所で皿を出し、袋に入っていたブルーベリーデニッシュを1個ずつ乗せた。いつものことながら大ぶりでカロリーが高そうだ。
インスタントコーヒーとリンゴジュースを用意していると、黄金くんが隣から機嫌良さそうにデニッシュの皿を持ってリビングへと消える。最近はこうして僕が何か家事をしていると、彼は何を言うでもなく手伝ってくれる。
テーブルに飲み物を持って行くと、久しぶりの焼き菓子に胸を弾ませているのか黄金くんはキラキラと輝いた目でデニッシュを見つめている。
僕は料理はするが、菓子は作らないからあまり上手ではない。そういう意味では、高カロリーとは言え母の菓子を黄金くんにあげるのは正解だったかもしれない。
「要のかーちゃんってパン屋でもやってるの?これとか売り物みてーじゃん!てか売れるって!」
「そうかな」
僕はあまり好きではないという感想を飲み込み、デニッシュに手を付ける。それを見た黄金くんもそそくさと両手を合わせてからデニッシュを手に取ってかじった。
「んー!!冷めてるのにふわふわで、ブルーベリーもほどよく甘くてサイコーかよ!!」
相変わらず食べ物ひとつで豊かな表情と感想をくれる彼は面白い。僕はその様子を見ながら小さく自分のデニッシュをかじった。
「…要のかーちゃんってこんな料理上手いけど、柊のとーちゃんが諦められないくらい美人なの?」
「どうだろう。黄金くんには負けると思うよ」
僕はあまり外見の善し悪しは分からないが、内面や匂いから感じ取れる体内環境に限って言えば、黄金くんのほうがよっぽど綺麗だ。
「……んえ?」
彼は一瞬何を言われたのかわからないといった顔で固まっていたが、だんだん言葉の意味を理解したのかじわじわと顔を赤くさせて下をむく。
「かっ、要って…ちょっとズレてるよなあ?俺なんて綺麗からほど遠いって言うかむしろブス寄りってか…」
黄金くんはもにょもにょとまるでいいわけでもしているような煮え切らない返事を返しながら、落ち着かない様子でリンゴジュースを口に含んだ。
「そうかな。僕は君より綺麗な人に出会ったことはないよ」
砂糖の塊が舌の上で溶けだすのを感じながら、思ったことを正直に話す。
今まで散々隠しごとばかりしていたし、もう1番教えてはいけないことを話してしまったので、僕の口はいつも以上に軽かった。
そもそも自分の正体を知っている血縁者以外の人間なんて、黄金くんがいなかったらガロウズのマスターだけになる。親しい間柄の人に何でも話せるのは、柄にもなく楽しいと感じた。
「君は綺麗だし、とても優しい人だ。一緒に暮らせるのは凄く幸せなんだろうなって最近よく思うよ」
そこまで話してから僕はふと気付く。
これが恋なのかどうか、黄金くんに聞いたら分かるのだろうか。
「…僕は君を恋愛対象として見てるのかな」
「んごふっ!?」
僕の一言に黄金くんは飲んでいたリンゴジュースにむせて咳き込む。ようやく息を整えてから彼は少し上ずった落ち着きのない声で答えた。
「れ、恋愛…?えーっとそれはキスしたいとか…セックスしたいとかそういう…?」
黄金くんの言葉に対して僕は口に手を当て、よく考えてみる。黄金くんとキスしたいと思うのか。性行為を望むのか…。
「…って…ま、まさかなあ!ごめんなセックスは言いすぎだったよなあ~…あはは」
「いや、したいよ」
花屋に薬を打ち込まれていたのは確かにあるだろうが、冷静になっている今でも想像してみれば断る理由どころか、可能であれば進んでしてみたい気持ちが強い。
「ま…まじ?…好き…?俺の事…恋愛的に…?」
僕の言葉に黄金くんの声が明らかに動揺していた。彼の口と口調は半笑いといった表現の似合う状態であったが、あちこちに泳がせる視線と耳まで染まった真っ赤な顔が黄金くんの心情をわかりやすく表している。
これが好意的なものなら嬉しいが、困惑させてしまっていたら申し訳ない。
「でも、君に強要する気はないから。ああ、でも…前は理性が効かなくてごめんね」
前回のことは彼に申し訳ないとは思いつつ、人生で1、2を争う刺激的な経験だった。良い思い出と形容していいなら、迷うことなくそう表現するだろう。
「前ってその…前のやつよな…別に強要されてしたわけじゃねえっていうか…そういやあのときって俺がよくわからん奴に襲われた直後だったよな…まさかとは思うけど…あの時にくらった注射が原因だったり?」
「うん。性欲促進剤みたいなものだったかな…今まで致死毒の類は受けたことあるんだけれど、ああいうものは驚く程効いてしまうみたいで、自分でも驚いたよ」
黄金くんが僕のことを性欲でおかしくなるような人間だと思っていなかったようで、少し安心した。てっきり、とうに幻滅されているものだと思っていた。
「あっ、なるほどだからあんなに色っぽ…辛そうだったのか!」
「色っぽい…?」
聞き間違いでなければ彼がそう言いかけたように思うのだが、あの状態の僕に色っぽさがあったかと言われればないような気がする。どちらかと言えば無様を晒したようで恥ずかしい話だ。
「や、今のはなんというか語弊があるというか…無いというか…いや、ちょっと色っぽいと思ってた…変な意味では…ごめん」
彼は言い訳が苦しそうにうぐぐと下唇を噛みながら、言い訳を考えるが結局何も出てこなかったのか開き直る。
「えと…俺って…告白された感じ…なの…?もしかして、返事待ってた…?」
なんとなく気まずい雰囲気の中先に口を開いたのは黄金くんだった。
告白…ああ、そうか。世間一般的には相手に好意を告げるのは、交際を申し込むことに繋がるんだったっけ。そこまで考えていなかった。
「そういうわけではなかったんだけど、もし僕が君に告白したんだとしたら、お返事をくれるの?」
返事がもらえるなら聞いてみたいには聞いてみたい。彼は女性が好きなようだから、かなり望みは薄い。しかも僕は内臓に欲情する変態で、始末屋だ。普通に考えたらあまり良い人選とは言えないだろう。
それでも、性癖については1度置いておいて、望みがあるのかは知っておきたかった。
「えーっと…俺、同性と付き合うとかは…ちょっと考えたことなくて…」
申し訳なさそうに言葉を詰まらせる彼の返事に僕は落胆するでもなく耳を傾ける。
それはそうだろう。地上での同性愛と地下の同性愛では価値観がまるでちがうんだ。
「…だからちょっと、考えてみてもいいかな…虫のいい話だとは分かってるんだけど、出来れば要が俺の事…その、恋愛的に好きなんだなって意識するような環境で…とか?」
「…意識するような環境?」
考えてくれるというだけで予想外だが、彼の提案にどういう意図と意味があるのかいまいちわからず復唱して聞き返す。黄金くんはさらに言い辛そうに頬をかきながら答える。
「要が嫌じゃなければだけど…お試し恋人っていうか…いや、やっぱ不誠実だよな!やっぱなしで…」
「僕は全然構わないよ」
お試しでも彼が恋人の真似事をしてくれるらしい。それなら僕としては、是非経験してみたい。フラれても、いい思い出にはなるだろう。
「どの程度までのスキンシップを許してもらえるのか聞いてもいい?不快な思いはさせたくないから」
「えっ…!?あ、ああうん…俺、同性と…というか恋人自体出来たことないし、自分でもどこまで出来るとか無理とかわからんし…要がそれでもいいって思ってくれるなら要に一任してもいい…?」
そう言って恥ずかしそうに下を向く黄金くんはしきりに頬の辺りをポリポリとかく。どうやら彼が恥ずかしがったり、気まずくなった時に見せる癖らしい。
こんなに大事なことを全て僕の采配に委ねてくれるというのは、とても信頼されているようで嬉しい。
掻きすぎて頬が少し赤くなっているのを見て、僕は思わず彼の手首を軽く掴んで止める。
「あまり引っ掻くと怪我しちゃうよ」
黄金くんの手を下ろさせると、そのまま引っ掻き跡で赤くなった彼の頬に触れる。引っかかれた熱と、恥ずかしさからくる体温の熱で、随分と火照っていた。
「あ、お、おおおう…ごめん…?」
ますます赤くなる頬と硬直した体で僕の顔を見る黄金くんがとても可愛い。目が丸くて、子猫みたいだ。
本当はこのままキスしたりしてみたいけれど、許可を貰ってすぐはなんだか卑怯な気がするので、もう少し我慢した方がいいのかもしれない。僕は手を引っ込めると、食べかけのデニッシュに再び手をつける。
「食べている時にごめんね。食事終わらせちゃおうか」
「そ、そうだよな!食べよ食べよ!」
ちょっと拍子抜けしたような、挙動を見せつつも彼は元気にデニッシュを大きな一口に頬張って幸せそうに口の端を舐めた。
それから僕らは他愛のない話をしながらデニッシュを食べた。途中までぎこちなくしていた黄金くんも食べ終わる頃にはいつもと変わらない調子に戻って、楽しそうに最近見た映画とか漫画の話をするようになっていた。変わったことと言えば、それらの中に僕がガスマスクと呼ばれていた時の思い出話がまざるようになったくらいか。
「食べ終わったし、片付けをして柊くんにメッセージを送ろうかな」
僕が空いた皿を持って立ち上がると、黄金くんは気付いたように一緒に立ち上がる。
「あ!片付けするする!てかなんというか…柊に連絡とらせてわりいな…」
僕が黄金くんを好きだと言ったせいか、よくやる黄金くんの謝罪からいつもよりも申し訳なさそうなニュアンスが伝わってくる。
「僕が一緒ならいいよ。君が危険な目に合わないように守るから」
「お、おう?ありがと…?」
彼は僕の言葉にきょとんと目を丸くしてからほんのり顔を赤くして目をそらしながら疑問符のついたようなお礼を言った。
そのまま黄金くんはキッチンに姿を消すとシンクでお皿を洗い出す音がして、することがなくなった僕はソファベッドに座って腕時計のメッセージアプリを起動する。
花屋へのメッセージは簡潔に、黄金くんに自分の正体を隠しきれずに話したことと、花屋の父親と僕らの両親の間に起こった確執について説明したこと。金曜日にみんなで会いたいという本題を最後に書き連ねて送信した。
彼も始末屋だから、不規則な生活を送っているだろう。すぐに返事は期待しないほうがいい。
「皿洗いおーわり、要今日は暇なん?」
皿洗いのためにまくっていた服の袖を戻しながら黄金くんが背後から声をかけてきた。
「そうだね、特に用事はないかな」
「じゃあなんか映画でもみる?あ、そういや昨日要が好きだって言ってた映画見たんだけどさー思ってたより過激でびびったわ」
他愛もないような話をしながら黄金くんは僕の隣にひとり分あるかないかのスペースを開けて腰を掛ける。
「好きな映画なんて君に教えたっけ」
僕が好きな映画は地下にしか出回っていないような、無修正の内臓が画面いっぱいに出るグロテスクな映画だ。彼にそんなものを教えたら自分が変態であることを公言するようなものだから、多分教えてはいない気がする。
首を傾げる僕に黄金くんは困ったように笑った。
「要、ガロウズで教えてくれたじゃん。ヒラリアスゲーム!覚えてないの?」
「…ああ」
思わず僕は手をたたく。そう言えばそんなことを言ったな。地上で1番印象に残った映画だったから、地下のラインナップを上げられない状態だと最初に出てきた名前だったんだろう。
「あれは暴力映画なのに、強烈な暴力へのアンチテーゼを表現していて興味深い作品だよね」
「アンチ…?そうなの?」
「うん。暴力で暴力を否定するから、胸が悪くなるような表現が詰められているんだ。地上の人は面白いことを考えるなって感心したよ」
黄金くんは「なるほどなあ…確かにそう聞くと作者側の気持ちもみえるかも」とひとり納得した様子だった。
「んじゃあさ、この中のオススメ教えてよ!今度は地上にない奴がいいな、今日はそれ一緒に見ようぜ!」
積み重ねたDVDの山に近づいて彼は「どれにする?」と笑顔を向ける。
彼に勧められて、尚且つ僕が好きだった映画か。DVDの中から僕は1枚のディスクを取り出す。
「これなんかどうだろう。少し古いんだけど」
取り出したDVDのジャケットを彼に見せる。女性が倒れている美しい写真だが、それだけのものなので彼にはどんな映画か分からないようで首を傾げた。
「ジャンル何?」
「サスペンス…いや、ラブロマンスかな。ジャンル分けが難しい映画なんだ」
僕はそのディスクを再生器に入れる。映し出されたのは汚らしい港町。時代は中世ヨーロッパ。この孤児院にいる少年が主人公だ。
この少年は何も持っていない。友人も、家族も、金も、趣味も、楽しみも。そんな彼には実は一つだけ才能があった。
それは、人の体臭を含む香りを誰よりも正確に嗅ぎ分ける力だ。彼は香りに恋をする。彼が汚い港町から仕事で訪れた都会には沢山の香水が溢れていた。
冴えなくて、要領もなく、住む家もない彼は1人の香水師の元に頼み込んで住み込みで仕事をする。香水師は彼の才能に気付くが、あくまで彼を利用して店を栄えさせるだけ。誰も彼に気をとめたりしないのだ。
そんな生活の中で、主人公はとても美しい香りに出会う。それは、ある少女の匂いだ。
どうしようもなく彼は彼女に恋焦がれるが、彼女に再び会えることはなく時は過ぎる。そこで、彼は思いつくのだ。
他の少女を殺し、香りを抽出させて調合する。忘れることの出来ない、彼女の香りを再現するために。
「僕は、この主人公の気持ちが少し分かるんだ」
変質者的で狂気に満ちているが、彼はただ恋をしているだけ。周囲には到底理解されないだろうけれど、そうすることしか出来ない不自由さ。
僕が人を極力好きになろうとしなかったのは、なんとなく彼のような未来が自分にも待ち受けているような気がするからかもしれない。
「君はもし、こういう性癖の人に出会ったらどう思う?やっぱり気持ち悪いかな」
「え、うーん…そんなに変かな?人それぞれでいいと思うけどな俺は。誰かに迷惑かけてるわけでもねえじゃん」
彼はテレビの画面に映る主人公に感情移入しているのか、じっと画面を見たまま静かに答えた。
「迷惑…」
想うだけなら大丈夫、ということだろうか。
でも、実際伝えたらどう思うんだろう。君は凄くいい匂いがするって。僕の置かれた状態は映画の主人公の状況とそう変わらない。
汚い港町から一転して、華やかな都で主人公は恋に狂って殺人を犯す。5人の罪もない少女を殺し、それを調合して理想の香水を完成させる。嗅いだ者の理性を飛ばして狂わせるほど美しい香り。罪人として捕まり、処刑を待つ彼がその香りをまとうと、誰からも愛されなかった彼はみんなから熱いラブコールを受ける。処刑場は一転し、彼の独壇場だ。
それでも、彼には生まれながらに体臭がなかった。香りしか価値を感じなかった彼に、神様は1番大事なものをくれなかった。
その香水を身につけて愛されたって、それは彼が愛されているわけではない。彼が求めた愛情はどこにもなかったし、恋焦がれた少女もいない。彼は大勢に歓声を浴びながら、初めて自分が孤独だと知って嗚咽する。
映画のラストは、彼が海に身を投げてエンドロールだ。
この映画は、主人公の価値観が飛躍しすぎていて賛否両論で分かれたらしい。それでも僕にとっては映画の中でもこれは特に身近で、1番共感できるラブロマンス映画だ。
「いやあ…殺しちゃうんだな…」
「迷惑かけてるわけでもない」と言った数十分後に画面の中の少年が人を殺すシーンを映し出したとき黄金くんは困ったような苦笑いを見せてそういった。
「そうだね。彼女たちの身内には迷惑をかけていることになる」
エンドロールを見ながら、ふと自分のすぐ隣に置かれた彼の手が視界に入る。僕はそれに自分の手を重ねて、前に彼を花屋から救出した時と同じように握った。
「僕も始末屋だから、彼とあまり変わらないね」
そんな人殺しの手だと思ったら、黄金くんはやっぱり嫌なのだろうか。これで手を振り払われたら、脈はないに等しい。
「ああ…そっか…」
彼はすこし落ち込んだような口調で静かに答える。
「んーでも…俺、聖人君主でもないし自分が一番かわいい人間だからかな。俺の事助けてくれたお前の事は特別とか、思ってる。卑怯かな」
相変わらず困ったように笑っていつものように頬をかく。握られた手を控えめに握り返しながら。
その笑顔に急に僕の胸が締め付けられるような痛み…いや、痛みじゃないな。なんと表現したらいいか分からない。でも、胸に強烈な違和感を感じた。
嬉しいのだけれど、ただ嬉しいのではなくて、数値化するならいつもの嬉しい気持ちの5倍くらい嬉しい。
動悸がする。僕はこんな感情を知らない。どんな顔をしたらいいのか分からなくて、彼の肩に額を乗せてもたれかかる。
「…よかった。君は優しいから、やっぱり嫌われるんじゃないかって心配してた」
手を握ったまま彼の肩に顔を埋める。いつも動かない表情筋が、珍しく笑顔を作っているのが自分でも分かる。
黄金くんはやっぱりいい匂いがする。ずっと傍にいたくなる香りだ。
「えーそう?俺そんな特別優しくないし、特別正義感強いわけでもないし、普通だけどな」
それでも優しいと褒められるのは嬉しいらしく、彼は「ありがと、要だって親切だし優しいよ」と照れくさそうに笑った。
なんだかもうよく分からない感覚が胸を圧迫してて、それが彼の言葉1つ1つで爆発しそうなくらい膨らむ。思わず黄金くんの背中に腕を回して抱きしめる。抱きしめたら少し胸の痛みがへって、代わりにとても満たされるような充足感が僕を包んだ。
「…どうしよう、思ってたよりやっぱり君が好きかもしれない」
僕の言葉に黄金くんはみるみる顔を赤くして苦しそうに顔を歪ませる。
「なんかごめん、弄ぶようなことしてるみたいで…」
このお試し恋人状態の事を指しているのだろうか。
「全然。むしろ、同性なのにチャンスをくれるのは凄いよ」
彼の首に顔を埋める。彼の肌と温もりが気持ちいい。
このごっこ遊びが終わるものだとしたら、今のうちしかこんなことは出来ない。そう考えると、少しだけ寂しくなった。
「僕はあまり、自分のことが好きじゃないんだ。始末屋だって、やりたくて就いた仕事じゃない。特技も趣味も人脈もない。僕はさっきの映画の主人公と何も変わらないよ」
こんなことを黄金くんに話しても何かなるわけではない。困らせるだけだろう。
だけど、一度口をついて出た本音がボロボロと口から流れ出す。もしかしたら、誰かにずっと聞いて欲しかったのかもしれない。
彼はただだまって僕の話に耳を傾けていたが「うーん」と首をひねって僕の背中をぽんぽんと撫でながら答えた。
「俺にはそうは見えないや。要は料理得意だろ、映画もいっぱい知ってるし、俺は要の…親友…あ、や、今は恋人…?的な?」
後半については彼は混乱していたが彼の言葉には迷いは見られない。
「人の命を奪う仕事なんてきっと俺が想像できないくらい辛いだろ。親から継いだ家業ってんなら猶更だ、だからわかるよとか辛いなら辞めたらいいなんて簡単なことは言えない」
背中を撫でていた手が流れるように僕の髪を触り、体重を預けさせるように僕の頭を自身の肩に優しく寄せる。
「それでもよければだけど、吐き出したいことは吐き出しなよ。もう秘密の秘密な仲じゃないんだからさ。友達だろうと恋人だろうと俺は要見捨てたりしねえから」
彼の言葉に僕はただ頷く。
「…本当に優しいね」
こんなことを言っても許してくれる人がいるなんて思わなかった。
いつもルールだとか、評判とか、自分の正体を明かさないようにとか、そんなことばかり気にしていた。話せることがどんどん減る中で、彼は僕らの関係を抜きにしても嫌がらずに話を聞いてくれる。それはとても有難いことだ。
ふと、そんなことを考えていたら、彼の腹筋辺りが小刻みに震えているのがわかった。たぶん僕が彼に甘えてかけていた体重を支えるのが辛くなってきたのかもしれない。
名残惜しいが黄金くんから一度体を離そうと体勢を変えようとしたが、それよりも早く彼の腹筋が限界を迎えて、黄金くんは背中からベッドに倒れこみ支えを失った僕の体も覆いかぶさるように倒れこんだ。
ムクリと両腕で自分の上体を上げる。僕の下で黄金くんは困ったように笑っていた。
「ごめんね、重かったかな」
「いや、貧弱ですまねえ…」
地下に来てから彼はあまり外に出られていない。筋肉が衰えてきているのかもしれない。
筋肉が衰えたら内臓にも良くない。これは早めに彼が外を歩けるような環境にするべきだろう。
「今避けるね」
そう言葉で言いつつ、僕の身体が動かない。微動だにしない僕を彼は不思議そうに見上げている。
僕はもう一度この体勢のまま彼の背中に腕を回して抱きしめる。
ああ、ダメだ。なんだろう。離れたくなさすぎて身体が脳みそについてこない。
「ごめん、もうちょっとこのまま…」
一度知ってしまった、彼に密着している時に発生する充足感。これは中毒性があるらしい。
彼から昔もらった地上のポテトチップスも酷い中毒性があって、身体に悪いと思いながら1日で一缶全て食べ切る魔のお菓子だった。黄金くんはあれより強烈だ。
「お…おう…」
戸惑いつつも受け入れてくれる彼に深く顔をうずめると僅かに汗のにおいがした。緊張しているのか匂いは少しづつ強くなっている。
黄金くんは迷わせていた両手を僕の背中に回し、先ほどと同じようにぽんぽんとあやすように撫でた。
あまりにいい匂いで、彼の汗ばむ肌を舐めてみたいと思ってしまう。今この状態でキスしたりする本物の恋人たちはどんな気持ちになるんだろうか。
でも、さすがに今日ごっこ遊びを始めたばかりなのに、最初から飛ばしすぎたらあっという間に終わってしまうかもしれない。
僕は浅ましい人間だから、楽しいことは長く続けたい。長く続けたら、彼が流されてくれるんじゃないかという期待もなくはない。
離れたくなさすぎる身体を無理やり引き剥がし、僕は勢いよく起き上がる。
「ありがとう。なんか元気になったような気がするよ」
「そう…?ならよかったけど」
唐突な僕の元気アピールはさすがに不自然だったのか、黄金くんは笑顔を浮かべてはいるもののクエッションマークが顔に出ていた。
こうして見ると、やっぱり僕の対人スキルは昔と変わらずに壊滅的なまま成長していない。
エンドロールはとっくに終わり、永遠と繰り返されていたチャプター画面を消す。代わりにテレビをつけ、僕はDVDを再生機から取り出した。
「…もしもだけど」
DVDをジャケットにしまいながら、背後のソファベッドに座っている黄金くんに話しかける。
「あの映画の主人公のフェチズムが内臓だったとしても、君は彼を嫌いになったりしない?」
「内臓…?臓器に恋をするの?」
「そうなるね」
普通の感覚では理解できないだろう。当たり前だ。父や母にすら、あまり声を大にして話すべきではないと言われた性癖なのだから。
「うーんまあもしそのことで、そいつが悩んだり苦しい思いしてるんなら…手を伸ばしてやりたいかな」
映画の代わりに映し出されたテレビの懸賞金のかけられた野良犬が捕獲されたとか、地下都市の一部で一時的停電が起きたとかそんなニュースをぼんやりと眺めながら彼は静かに答えた。
「その彼は始末屋をやっていて、ずっと人を好きなる勇気もなく、殺した相手の内臓を愛でるだけが楽しみだったんだ。自分の腹を開いてみたこともあったけど、自分の内臓にはこれっぽちも魅力を感じない」
立ち上がり、僕は彼に振り返る。
「人の匂いでその人の内臓の状態が分かるなんて変な特技ばっかりだ。でも、ある時に理想の香りに出会って、その人に入れ込んだ。殺害の依頼を受けて、殺さなきゃいけないその人を家に連れ込んで、恋人ごっこなんかしてるよ」
これだけのヒントに、流石に気づいたらしい黄金くんは目を少し見開いて僕を見る。
「それって…要の事?」
「うん」
僕は静かに頷く。
「君と恋人ごっこをしている人は、そんな人だよ」
彼が座っているソファベッドの隣に少し間を空けて座る。
黄金くんの戸惑った視線が僕のことを追いかけて、目が合うと気まずそうに視線を落とすのを見てなんとなく僕も彼から視線をそらした。
「君は花屋に言われてたよね。僕がお腹を開く変態だと。それはしない…って言うと、やったことはあるから嘘になるんだけれど、君にはしようと思わないよ。それだけは弁明しておきたくて」
どこを見ていればいいのか分からなくて、僕は自分の膝の上で組んだ手を見つめる。
隣で彼がどんな顔で、どんな様子なのかはわからない。相手の顔を見てもいいものなのか分からずに僕は俯いたまま、返事を待った。
「…お前がそういうんなら信じるよ」
僕の下がった頭をがしがし力強く、髪をぐちゃぐちゃにかきまわして答えた。
顔をあげると、黄金くんは屈託のない笑顔を見せた。
「…恋人ごっこは続けられそう?」
彼の返事は予想よりもフランクな返事ではあったが、きっと悩んだだろう。それなのに、僕の口から出てきたのが下心のある時に質問で、我ながら自分に失望する。
「ああ、まあ、大丈夫」
照れくさそうに頬をかきながら赤くなる彼を見て僕は思わず笑った。
「そっか。ありがとう。恋人にせよ、友達にせよ、この縁は大事にしないといけないね」
「…ああ、お互いにね!」
今度は彼の方からじゃれるように僕に寄りかかってそのまま膝枕するように寝転がる。何の気なしに見せているのだろうが耳の裏が赤く染まっているのは隠せていない。
「要は?俺と恋人だとどんな感じ?なんかいつもと変わらないような気もするけどさ」
膝の上に彼の頭を乗せ、僕は首を傾げる。
彼の目には僕は平常運転に見えるのか。ちょっと意外だ。さすがに変なことをたくさんしているような気がしていた。
「とてもドキドキするし、キスしたいのとかはまだ我慢してるよ」
そこまで話してから、余計なことまで話した気がして僕は一瞬だけ口をつぐむ。
「…強要する気はないから」
なんとか出てきたフォローが、まるでフォローになっていない。まあ、でも、恋人ごっこする話になった時にセックスしたい話もしたから、下心があるのは彼も知っているだろう。
「そ、それはわかってるよ」
彼は肩を竦めて苦笑いする。それから少し考えるように視線を落として気まずそうに話し出した。
「してみる…?」
「えっ」
「いまキスしたいって言われて…嫌だなとかあんま思わなかったし…」
言い訳のようにブツブツと言葉を漏らしながら黄金くんは少しだけ体を起こして、名前の通り黄金色の夕日のような目で僕を見据えた。
「…じゃあ…」
僕は彼に向き直ると、少し顔を寄せる。どのタイミングで目を閉じるものだっただろう。今まで見てきた映画やドラマのキスシーンを思い出してみるが、今まで興味のないシーンだったので咄嗟に思い出せない。
黄金くんのまつ毛がハッキリと見えるくらい顔を寄せると彼は意を決したように目を閉じた。
こうして見ると普通に彼は可愛い顔をしていると思う。彼は自分のことを不細工寄りだと言っていたけれど、分からないものだ。
僕も目を閉じて彼の唇に自分のものを重ねる。緊張でか柔らかそうに見えていた彼の唇は、見た目に反して固くなっていた。
唇を離してゆっくりと目を開けると黄金くんもゆっくりと瞼を上げたところで自然と目が合った。
「…嫌じゃなかった?」
なんだか気恥ずかしくて、声が小さくなる。
「…うん、普通…いやちょっと心臓バクバク言ってる…要は?」
彼は落ち着かない様子で、しかし冗談めかしく笑みを浮かべる。
「僕は…気持ちよかったよ」
気持ちよかったって表現は果たして正しいのか怪しいが、素直な感想だとそれしか出てこなかった。
「黄金くん、もし良かったら心臓の音…」
聞かせて欲しいと言いかけたところで、突然腕時計から電話の着信音が鳴る。
驚いて僕は思わず黄金くんから離れて立ち上がる。黄金くんも気まずそうに咳払いをしながらそそくさと僕から離れた。
着信画面に表示されたのは「四月一日 柊」のも文字。邪魔されて悔しいような、腹立たしいような行き場のない苛立ちに思わず僕は顔をしかめるが、気を取り直して電話に応答する。
「もしも…」
「おいテメェ!バラしやがったな!ふざけんな、特製肥料を弾に詰めてガトリングで蜂の巣にしてやろうか!」
電話に出るや否や耳がビリビリする声量で怒鳴られ、腕時計が振動する。
「…ガトリングなんて僕らでもなかなか手に入らないと思うよ」
「例えだ!アホか!なんでバラした!マナー知らねえのか!」
「君のことは話していないよ。君のお父さんと、僕の父の関係についてだけ」
そこまで説明すると、電話口で彼の深いため息が聞こえた。
「…で、あの変なヤンキーはなんて?」
「ヤンキーじゃないよ。黄金くんはまた3人で会って話したいって。君のことを知って、その上で友達でいたいんだそうだ」
「はあ~?脳みそあんのかアイツ」
呆れているような、煽っているような声色だったが、僕が黙っていると彼はまた溜息をついた。
「お前って本当にいけ好かねえよな。見た目も実力も全部お前が上で、そんな変な人材を連れてきたりするんだ」
話す機会がまるでなかった花屋の口から、初めて彼が考えていることの鱗片が見えた気がした。
「…僕も君と話すのは少し興味あるよ」
「お断りだね」
即答で彼は棘を吐き出す。
「ただ、まあ…そのど腐れヤンキーがどーーーしてもって言うんなら、顔くらい出してやってもいいよ」
「腐ってないし、ヤンキーじゃないよ」
「ヤンキー」が自分を指していることをなんとなく感じ取っているのか、納得のいかないような顔で首を傾げる黄金くんに僕は小さく頷いて見せる。
「じゃあ、金曜日に前回の定食屋はどうだろう。夜21時くらいに」
「しゃーねえな。遅刻したら肥料打ち込むからな」
吐き捨てるように彼はそう言うと、ぶつりと通話を切った。騒がしい人だ。
「金曜日、柊くん来てくれるって」
「うおマジか!!何かヤンキー呼ばわりされた気がするけどそんなら良かった!」
ニコニコと笑顔で喜ぶ黄金くんが可愛い。黄金くんをヤンキー呼ばわりされたのはちょっと納得がいかないが、約束は取り付けて良かった。
「彼は結構、口が悪いからね。仲良くなるなら、ヤンキー呼びに慣れないといけないかもね」
僕も思わず笑う。でも、花屋がわざわざ出向いてくるのだから、愛称になる日も来るのかもしれない。
そもそも、黄金くんが花屋と何としてでも友達でいたいと言ってくれなかったら、僕も彼の本音をチラとでも見られる日は来なかったかもしれない。
「黄金くんは凄い人だね」
「んお?」
不思議そうに首を傾げる黄金くんに、僕は彼の頭を軽くぽんぽんと撫でた。
「晩御飯にしよう」

恋人ごっこをすると言っても、あれから何か進展があるわけでもなく。むしろキスしたのはあれだけで、黄金くんはどう思っているのかは分からないけれど、意味のないハグを受け入れてもらうことには慣れて、黄金くんも割と慣れたように軽く返してくれるようになった。
「黄金くん、もうすぐ約束の21時だよ」
リビングの椅子に掛けて漫画を読む黄金くんの肩に顎を乗せて、彼の手元を覗き込む。
彼は最近、地下の野良犬が戸籍を偽って人間に成り代わり、財を成して下克上する漫画にハマっているらしく、暇さえあれば夢中で読みふけっている。
「おー、もうそんな時間か。準備しねえと。教えてくれてさんきゅ」
座ったまま僕の頭をぽんぽんと叩くと、彼は立ち上がる。
彼はいつもの上着を着て、この間新しく僕が買ったキャップを被ってから上にフードを被った。
「うなじ隠した?」
「ばっちり!」
「手首は?」
「大丈夫!」
出かける前に恒例化した点呼と指さし確認を終えて、僕らは家を出る。
「なあ、地下の人ってよく分かんねえけどランク分けされてんだよね?」
部屋に鍵をかけていると、黄金くんが何となしに話しかけてくる。
「要ってどれくらいの人なの?俺の事養うの大変じゃない?アレルギーいっぱい持ってるし、お金も持てないしさ…」
鍵を閉めて振り返ると、黄金くんは不安そうに俯いていた。
それは僕も懸念していた。いや、金銭の話ではなく、彼の存在についてだ。
黄金くんは犬でも人間でもない、地上の人間。今はラプラスが彼を見逃してくれているが、見つかればSの耳に入る。そうなれば、彼はどうなるだろう。
「ランクはA5だよ。お金は心配しないで」
「A5…」
聞いておきながら、ランクを聞いてもすぐにどの位置か分からないらしく、黄金くんはブツブツと考え込んでいる。
「家族を養う一般的な男性よりも稼いでるよ。黄金くん1人なんて問題ない」
彼の手を引いて僕は歩き出す。
今日は初めてまともに花屋と話せるかもしれない。もし、情報交換を相手が良しとするなら、黄金くんが安心して地下で暮らせる方法を何か知ってはいないだろうか。
僕と黄金くんが例の定食屋に着くと、そこにはすでに花屋が待機していた。彼は腕時計を確認すると、不愉快そうに顔をしかめた。
「おっそい!遅刻!」
「まだ21時30秒だよ」
「うっせー!遅刻は遅刻だ!額を地面に擦り付けて、俺の靴のつま先しゃぶりながら謝れ!」
会うや否や怒鳴り散らす花屋に、黄金くんはあっけにとられたように固まった。
「よお柊。なんか今日はいつもより元気…?だな?」
黄金くんの言葉に彼は目を細めてじっと見つめる。
「文句でも?俺はずっとこんな調子です~!頭お花畑のど腐れヤンキーはそんなことにも気づけてないんですか?おばかちゃんですね~!」
まだ彼の豹変ぶりに慣れない様子で苦笑いする黄金くんと下品な声色で煽り立てる花屋を見ていて、僕だけがとてもしっくりきていた。
3人で集まった時の三文芝居は居心地が悪かったが、ようやくその芝居も終わったようだ。
「柊くんは演技がとても上手なんだ。こっちが素だと思うよ」
僕の言葉に花屋は腕を組んでフンと鼻を鳴らす。
「ほら、呼んだからにはご馳走しろ。こんなやっすい定食屋で済まさねえで高級フレンチでも奢れよ全く…」
ぶつくさと文句を言いながら花屋がのれんをくぐる。そんな彼をなんだか嬉しそうに眺める黄金くんと僕もその後に続く。
適当なテーブルに座ると、メニューも見ずに花屋は手を上げて店員を呼ぶ。
「牛乳!」
「かしこまりました」
頭を下げて注文を受けた店員が去るのをみとどけ、花屋は2人がけのソファの中央でどっかりとふんぞり返る。
「で、何?なんで呼び出したの?」
「え、なんか柊と要が仲悪いって聞いてたからさ、仲良くできるならしてほしいなっておもって…でもお前ら案外仲いいじゃん!心配して損した!」
柊の態度にすこし慣れてきたのか少し茶化すような口調は黄金くんは指摘する。
僕と花屋はどちらともなくお互いの顔を見合わせ、同じタイミングで黄金くんを見た。
「仲良くないよ」
「お前の目は節穴かあ~?」
言葉は違えどタイミングがぴったりに僕と花屋の声が被る。
これでは本当に仲が良いみたいだ。なんでこんなに被ってしまうんだろう。
「これは仲良しですわ…なんか幼馴染みてえだよ、お前ら」
僕らの様子に声を上げて黄金くんは笑った。
花屋は僕と黄金くんを交互に見ると、不愉快そうに舌打ちをする。僕もそれに同意だが、とりあえず黙っておくことにした。
「でも本当に安心したんだ。話もしてくれなかったらどうしようかなって、だから今日は来てくれてサンキューな!」
彼はブイサインをつくって柊に見せるとメニューを手に取り「何食おっか!」と僕たちにも見えるように広げる。
黄金くんが自身のアレルゲンを気にしながらメニューを選ぶ光景は何度か見てきたことではあるが、いつも不自由そうだと思う。
「これも美味そうだけど、小麦粉使ってるだろうし…こっちは卵がなあ…」
「それなら今度家で似たもの作ってあげるよ」
「マジか!?これも作れるの?要ほんとすげえや、楽しみにしてるな!」
嬉しそうに笑う黄金くんと見つめあうように目を合わせていると、花屋は呆れたように鼻で笑った。
「相変わらず仲良しごっこしてんのかよ。いつか腹裂かれてぶち犯されんぞ」
「要はそんな事しねえって、そうだ!なあ要、今度は柊もさそって家でなんか作らねえ?俺鍋パ今度たこパとかしてみたいんだよね!たこ焼き食えねえけど…」
花屋がさりげなく僕の性癖を暴露していくが、こんなこともあろうかと先に話しておいたおかげで、黄金くんは驚くほど華麗に話題をスルーしていく。
僕が花屋の方を見ると、花屋は何か言いたげに僕を睨んでいたので、僕も思わずほくそ笑む。
「どうせやるなら黄金くんが食べられる鍋にしよう」
「なあ、俺は仲良しごっこしに来たわけじゃないんですけど~?もしもーし」
テーブルに頬杖をついてイライラと声を発する彼に、僕はメニューの1つを指さして遮る。
「僕はサバの味噌煮にするけど、柊くんは?」
「…期間限定、牛カツ定食にポン酢ダレ追加。大盛りで、ついでに牛乳も追加」
せめてもの嫌がらせなのか、彼は呪文のようにメニューを呟く。それに頷き、僕は黄金くんを見る。
「黄金くんは?」
「じゃあ俺は海鮮丼セットで!」
彼の注文を聞いて、僕は手を上げて店員を呼ぶ。僕が注文している間に、花屋はふてくされたような態度で黄金くんに話しかける。
「なあ、お前もう要が変態なの知ってんの?」
「変態ってお前なあ…もうちょっと言い方ってのがさ…」
「じゃあ、お前のケツの純潔奪ったの俺なの知ってる?」
突然のカミングアウトに黄金くんは今まさに飲もうとしていた水を軽く拭き出した。
「はあ~!?きたね!!やめろこの腐れヤンキーが!」
「え?ちょっと…いや、何…ごめん意味がよく…」
かなり動揺しているし困惑もしている黄金くんはテーブルの端に置いてあったティッシュで拭き出した水をそそくさと拭いている。
それにしても自分から暴露するなんて、花屋も何か考えを変えたんだろうか。注文を終えた僕は黙って席に座り直す。
「お前のこと男たちに回させて、1人壁に寄っかかって居眠りしてたお花の似合う可憐な男性覚えてらっしゃらない?その小さい頭じゃ忘れちゃいましたか?」
「でもそれって確か花っ…!!…じゃあ柊って…始末屋…?」
頭の中でピースがつながった黄金くんは思わず大きな声を出しかけるが、慌てて小さな声で柊に聞く。
「おい、気をつけろ。バレたらどう落とし前つける気だ」
「や、だって…つかお前こそこんなとこでケツがどうのとかって言うなよな!思い出させんな!」
黄金くんは少し青い顔で自分のお尻を両手で隠すように覆う。
「あれは酷い事件だったね…」
僕は深くため息をついて水を飲む。
本当に今でも悔やみきれない。彼の美しい内臓に1番に触れたのが、僕でもなく、まして花屋でもない、もうこの世にいない人だなんて怒りをぶつける場所がない。
柊は僕の様子にニヤニヤとした笑みを浮かべ、牛乳をまるでビールのように一気に煽った。
「要が始末屋のルールのことで言えなかった事って…このことだったん?」
「そうだよ。話したら、全部バラしたようなものだからね」
黄金くんの質問に僕は切ない回想から頭を現在に戻す。彼は僕の返答を聞くと大きなため息をついてテーブルに突っ伏した。
「かー!じゃあ俺はまんまと柊に騙されたわけかよ!つか強姦とかひでえだろ、あの後しばらくケツ痛かったわ!」
そう文句は垂れているが、黄金くんは僕がガスマスクだと知ったときと同じように困ったように笑っていた。
それを見た柊は、何かを煽ったりするわけでもなく、むしろ感心したように彼を眺めていた。
「お人好しとお花畑も過ぎれば特技に近いな」
「黄金くんは懐が深いからね」
花屋の意見に僕は頷く。別に嘲る気もないし、むしろ尊敬しているけれど、彼がお人好しなのは否定しようがなかった。
「そんで?そのお人好しど腐れお花畑ヤンキーは俺のことを色々知った上で、この能面野郎と仲良しこよししろって言いに来たって?仲良くして何かいいことあんのかよ」
「え、だってダチは多い方が賑やかだし。誰かを恨むより、ダチと飯食ったり遊びいった方が楽しいだろ?」
それから彼は少し目を伏せて声のトーンを落とす。
「それにお前が要を恨むのはとーちゃんから家業と恨みを継いじまったからなんだろ?はなから否定しないでもう少し要のこと知ってくれたらいいなあって」
そう言うと黄金くんは隣に座る僕の背を叩いて「お前もね」と柔らかく微笑んだ。
僕はそれに頷くと、花屋の目を見つめる。
「…僕も、君に何故そこまで恨まれてるのか、正直わからないよ。僕は君の恋人を奪ったりしてないし、君が君のお父さんの恨みを引き継いだ理由も分からないよ」
花屋は機嫌悪そうに僕の顔を見つめていたが、舌打ちをすると視線を逸らした。
「…俺だって好きでやってんじゃねえよ」
「あれか、とーちゃんめっちゃ怖い人とか…?なんか困ってるなら、俺相談くらいのるからな?」
どう見てもいい思いはしていないように見える花屋に黄金くんは僕にしたように優しげな笑顔で手を差し伸べた。
少しだけ妬けてしまうが、もし彼に理由があるなら興味があるのは僕も同じなので、僕は黙って彼らの話に耳を傾けた。
それに、僕はみんなに優しく出来る黄金くんが好きだ。
「うっせ」
花屋は軽く黄金くんの手を払うが、それでも口元に笑顔をたたえたまま彼を見つめる黄金くんに、観念したようにため息をついた。
「…この能面クソ野郎が生きてると、俺の人生始まらねえんだよ」
さり気なく呼び名にクソが追加されている。少し眉を寄せた僕の額に、花屋はデコピンを入れる。
小さい痛み。僕は自分の額をさすった。
「しかし、僕と君は本来何も関係ないはずだ。君は自分の父親とは血が繋がってないんだろう?」
「ああ、そうだよ。俺は養子だ。お前を殺して、お前一家を絶望に突き落とすためだけに引き取られた。だから、お前を殺せない俺に価値はない」
若干気まずそうに、かける言葉に悩んでいるらしい黄金くんを見た花屋は背もたれに寄りかかっ腕組みをする。
「同情されたいから話してんじゃねえぞ。ただの愚痴だ」
「おまたせしました」
不意に花屋の前に大盛りに牛カツが乗せられたお皿が店員の手で差し出される。話を興味深く聞いていた僕はちょっと驚いて身じろぎしたが、それは全員同じだったようで、僕ら3人の視線が店員に注がれる。
店員は朗らかに笑うと、続いて黄金くんの海鮮丼と僕のサバの味噌煮が目の前に並べられた。
最後に牛乳を花屋の前に置き、店員は会釈をして立ち去った。
「愚痴で全然いいよ。話してくれてありがとう 」
妙な沈黙が生まれたが、黄金くんが最初にそれを破る。
「じゃあ、要が死なないと怒られるん?」
「知るか、あのクソじじい。アイツがキレようが知ったこっちゃねえが、俺は言わばアイツの所有物だ。残念ながら俺にアイツをぶっ殺すだけの実力もないし、逃げ切るだけの財力もない」
花屋の言葉に黙って耳を傾けながら僕は小さく頷く。
よく分かるのだ。現役を退いたとは言え、まだまだ腕が立つ先代は、有名になるだけの実力を備えている。
花屋に薬を打たれて父を殺そうとした時、冷静さを欠いていたのは大きいだろうが、僕は父の足元にも及ばなかった。
恐らく、父は先代の花屋とも一戦を交えたこともあるだろう。それでも花屋が生きているのは、それだけの強さを彼が有している証明だ。
「引き取られた時から、宮間に負けるなって鍛えられてきたんだ。ずっとお前に比べられて悔しいから鍛錬詰んだが、お前は涼しい顔でいつだって俺より先へ行くんだ」
眉間と鼻の頭にしわを寄せて、彼は僕を睨む。
先を行っているつもりはないが、彼の目にはそう写っているとは思わなかった。
「外見も!実力も!評判も!家族も友人も!全部全部お前の方が恵まれてる!いけ好かねえなあ!?俺に永遠のナンバー2に甘んじろってか!?」
バンッと花屋が机を叩く。机に乗った食事が跳ねた。
「そんなことはないし、僕の友人は黄金くんしかいないよ」
誤解があるようなので訂正を入れとく。すると、彼は何かを思い出したように丸い目で黄金くんを見て、バツが悪そうに舌打ちをした。
「いちいちうっせーな…だから、俺はお前を殺すか、あのクソ親父がくたばるかしねえと解放されねえの。だから殺す」
正直、恨まれる身からすれば逆恨みにもほどがあるが、少しだけ彼の気持ちも分かる。
こうやって代を継がれる仕事は、やっぱり継ぐ身からすれば多かれ少なかれ負担だ。
僕と楓がどちらを肉屋をやるかとなった時に、楓は泣きながらやりたくないと言った。
だから、僕が継いだ。僕だって進んで始末屋を始めたわけではない。
そんな状態で他者との対比が続くのは、相当なストレスになるのは想像に易い。
「…ちなみに、柊くんはお父さんのことをどう思ってるんだい?」
僕は定食に添えられた箸を手に取って、それでサバの味噌煮をつつく。身をほぐして口に運ぶ僕を見て、花屋も思い出したように牛カツを食べ始めた。
「今話しただろ。くたばれって思ってんだよ」
「それなら、僕ら2人で終わりにしたらいい」
隣で海鮮丼に手を合わせていた黄金くんがこちらを振り返る。僕と花屋を交互に見て、顔を寄せて小声で彼は口を挟む。
僕の言う終わりが、先代の花屋の殺害を意味しているのを察したのだろう。
「まって、それって…でも、仮にも育てられたなら、そんなことして柊は後悔しねえ?」
花屋は牛カツをゆっくりと咀嚼しながら、何故か意外そうな顔で僕を見ていた。
「…後悔はしねえだろうけど、お前が協力するなんて何の魂胆があんだよ」
「別に。君は呪縛から解放されて、僕は君の逆恨みから解放される。利害の一致だと思うよ」
サバの味噌煮から視線を離さずに答える僕に、花屋は口の端を釣り上げる。
「クソ親父はつえーぞ」
「知っているよ。僕の父も君のお父さんの同期だ」
僕の答えに彼に鼻を鳴らす。
「…じゃあ、お前とは一時停戦してやる」
「ありがたいよ」
僕は彼を見ると、目を細めて笑う。
僕ら始末屋からしたら殺しの計画なんてものは慣れた光景だが、黄金くんからすれば物騒極まりない光景だろう。それでも僕らが一時停戦とはいえ協力しあう仲になったことが嬉しいようで、満足そうに海鮮丼を頬張っていた。
「そうと決まれば、2人で組んだ時の動きを練習しないとね。空いている時間に練習したい」
「それは同意だ。まとまらないと足の引っ張り合いになるからな」
僕の提案に、花屋は頷く。
「とりあえず、最初は互いの動きを知るために組手だ。それが終わったら時間を合わせて、組んだ状態で仕事をこなすのはどうだ」
「えっ、2人で組手すんの?ちょっと見たいな…邪魔かな?」
おずおずと声を発した黄金くんに、僕と花屋は彼に振り返る。
「見においでよ」
「来たきゃ来れば?」
再び花屋と僕の声が重なる。僕と花屋は目を合わせ、お互いに不愉快そうに眉をひそめた。
「まじで!?やった!!!差し入れつくってくな!」
まるでスポーツの試合か何かでも観戦しに行くようなテンションで嬉しそうにはしゃぐ彼を見ていると、不思議と悪い気分にはならないもので、それは花屋も同じなのか珍しく少し笑っていた。
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