天底ノ箱庭 新世界

Life up+α

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5章

3

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3.
柱のようなエレベーターで上の階層へとたどり着くとようやく白い防護服の腕から解放される。
「シャム・シーウィさん、よくご無事でした。親族の方からは「せめて遺体だけでも」とのことだったので生きてるとは思いませんでした」
小柄の少年はマスクとゴーグルを外して僕に深く頭を下げた。
彼は確か塔のセキュリティチームの偉い人だった…と思う。地上から来た犬なのだがその能力を認められ、若くして今の地位に収まった実力派だと聞いたことがある。
「ううん、ありがとね…探してくれて」
エリオが上にこれない可能性というものを、僕は全く考えてはいなかった。彼が落ちてきた経緯を聞けば少しは予想できたものを、楽しい夢ばかり見てしっかり考えられていなかった事が今更のように悔やまれた。
「…ねえ、彼は」
「僕にその判断は出来かねます。この最下層…ネイダに落ちる人間は皆ラプラスに処分された者達です。その決定を覆せるのはラプラスしかあり得ません」
彼の言葉は冷たかったが、正論だった。
それ以上の会話は無いまま、僕は彼等の車で塔へと帰ることになった。
塔へ戻るとまず最初に着替えと身体をよく洗うようにと言われた。エリオも言っていた通りネイダと呼ばれたあの場所は元は流行病によって遺棄された場所。ウイルスや病原菌を持ち込まないためにも大切なことだそうだ。
消毒に精密検査を丸一日かけて行い、家族と再会できたのは次の日の事だった。
久しぶりに会った母は随分と痩せてしまったように思えて、心配そうにしていた彼女にネイダでの話を沢山話す。流石に全てを話すのははばかられたが、エリオに助けられたこと彼との思い出なんかを話すと、彼女はホッと胸をなでおろして「彼にお礼が言いたかった」と少し残念そうに微笑んだ。
僕がいない間のシステム管理課はそれはもう酷い有様だったそうだ。顔なじみの仕事仲間みんな疲れた顔で出迎えてくれて、彼等の中の一人が僕を見て「なんか顔色良くなった?」なんて首をかしげたのはちょっと面白かったなんて思う。
家族や少ないながら友人らに一通り顔を出した後、僕は仕事場の端末からラプラスのサーバーへのアクセスする。
この地下世界の神とも称されるラプラスはこの塔にいるとはいえ、気軽に会いに行けるような相手では無い。個人的なメッセージを送ることも難しいだろう。
しかしバビロンが定めた一か月…それまでにエリオをネイダから救い出さなければ彼はバビロンにとらわれてしまう。そうすれば本当に二度と会うことは叶わない。
各部署などの責任者だけがアクセスを許されている、不具合や報告を行うためのラプラスのサーバーから彼にコンタクトが取れないかどうか試みた。
ラプラスがどのような人物か全くわからない。簡潔にまとめるべきか詳しく順を追って説明すべきか悩んだ末に、詳しい事情を書き連ねて送ることにした。
一般的にラプラスに報告などのメッセージを送っても、その返信が帰ってくることは無い。ラプラス側から要件や指示がある時のみ、その課に備え付けられたコンピューターにメールが届くことはあれど基本的にはすべてが一方通行だ。
ここから先はラプラスの判断に祈ることしかできなかった。
ラプラスにメッセージを送ってから二日がたったが、何らかの動きが見えることは無かった。バビロンから逃げ出してもうすぐ一週間が立とうとしている。刻々と期限が迫る中で、何も進展がないのは焦燥感ばかりを募らせた。もう一度ラプラスにメッセージを送ろうと考え始めたそのころ、僕の腕時計に差出人不明のメッセージが届いた。
メッセージウィンドウには「今見ました~、今夜最上階にてお話をお聞きしますよ(*^-^*)」と気の抜けた文面が表示されている。
最上階…というと間違いない、ラプラスの間だ。通常消すことができない差出人名が空白になっていることも、彼がラプラス本人である証と言って良いだろう。
まだ彼に「いいよ」と言われたわけではないものの、可能性が見えてきた事が本当に嬉しかった。
その夜早速ラプラスの間に行くためにエレベータに乗り、最上階のボタンをタップすると腕時計の認証を求められた。居住エリアや関係者以外の立ち入りを禁止された階層ではこういった認証を求められることがある。僕はもちろん普通であればラプラスに直接会えるような立場ではないから、少し緊張しながらセンサーに自分の腕時計をかざした。
ピッと小さな音を立ててすんなりと認証したエレベーターは静かな音を立てて上へとあがっていく。
最上階について扉が開かれると、塔の施設とはまるで雰囲気の違う、SF映画に出てくる宇宙船のようなメカメカしい短い廊下と重そうな鉄の扉が待っていた。
恐る恐るその扉をノックしてみると奥から「はぁーい」と気の抜けた少年のような高い声が返された。
「し、失礼します…」
びっくりするほど重たい扉を何とか肩で押し開けると、壁一面の大きなモニターを見つめる不思議な雰囲気の少年が首だけこちらに振り返って僕を見た。
「どーも、いつもサーバー管理お疲れ様です~」
「へっ、あ…はい?」
地下世界の神だの全知全能だの大層な呼ばれ方をする人物だからどんな怖い人が出てくるかと身構えていたのだが、僕より年下らしき笑顔の可愛らしい少年が出てきたちょっと僕は驚いている。
「いやーメールの件遅くなってすみませんでしたね!ボクとーってもめんどくさがりでついつい仕事関係のメールとか無視しちゃうんですよね~!あ、いつもなんで気にしないでくださいー」
マシンガンのように話す彼はオフィスチェアにちょこんと座ったまま椅子をまわして遊んでいる。
「おっと、そうそう!今日はネイダの件でお呼びしたんでした!どうぞおかけになってくださ~い」
ラプラスは指で古めかしいソファを指さして笑う。彼に言われるまま腰を下ろすとラプラスは大きなモニターに目を向けながらネイダの事や僕が居なくなってからの事を話してくれた。
エリオも軽く話してくれていた通り、ネイダはこのラプラスの塔がまだ塔でなかった500年前頃に最初に掘り広げられた街で、およそ100年ほど歴史があったそうだ。
しかし伝染病の拡大によって、感染者やその疑いのある人々とともに街ごと遺棄されることになった。
当時のラプラスの判断により街に通じる塔の出入口は固く閉ざされ、新たに作られたのが今の地下都市だ。遺棄された最古の町はネイダと名付けられ、現地下都市を開拓するに当たって出た瓦礫や土などを捨てる場所として利用されていたのが、400年の時とともに忘れ去られ今ではただのゴミ捨て場として認識されるようになったのだという。
「ボクに貴方の捜索願が来たのは一か月くらい前の事だったんですが、あそこは電波が届かないばかりにチップ反応も辿ることができず捜査が難航して時間がかかっちゃいましたね!」
自分の頭をコツンと叩いて舌を出す彼に悪びれた様子はないが、まあそもそも彼が悪いわけではないのだから仕方がない。
「それと、貴方を助けたエリオと言う男は3年前に大虐殺をしでかしたワンちゃんで、危険だと判断したので確かにボクがネイダに落とした記憶がありますねえ」
「エリオは虐待されていた少年を助けようとして必死だっただけで、彼は危険な人なんかじゃ無いです!」
僕の反論にラプラスは「うーん」と唸りながらくるりと椅子をまわして僕の方を向いた。
「まあ、貴方の話を聞く限りボクも彼が危険であるとは思っていませんけどねえ…実際に多くの人間を殺したことと、ボクが彼をネイダに落とすことを許可した事は曲げようのない事実です」
僕を見つめ目を細める彼は歳にそぐわぬ圧を持っているように感じる。
「彼は貴方が来るべくしてネイダに来たのでは無いことを見抜き、恩を売って上に連れ帰ってもらおうと企んでいただけかもしれませんよ?そもそも、こんな前例のないことを試みるボクの労力とか世間体とかありますし~…まあ一言で言うとめんどくせーなーって感じです」
「そんな…」
口は少し悪いが彼の言ってることは最もだろう。殺してしまった理由がどうであれ虐殺してしまった事に変わりはない。世間から見れば一個人のわがままで虐殺犯を無罪にしようと言っているようなもので、彼がネイダを脱したいがために僕をだましていたと思われるのも仕方がないことだった。
それでも僕は「はい、そうですよね」と言って諦めるわけにはいかなかった。エリオは僕を命がけで塔まで帰らせてくれた。自分がどんなに損をしたって僕を助けてくれた。
そんな彼との約束を簡単に投げ出すほど、彼との思い出を軽く思ってはいない。
「お願いします…!僕が帰ってこれたの、全部全部彼のおかげでなんです。彼が居なかったらきっと僕は直ぐに殺されてて…彼は僕を命がけで守ってくれたし、僕が一人で帰る際も連れて行ってって言わなかった…」
試すような瞳で僕を見つめるラプラスに深く深く頭を下げる。
「彼を助けたいんです…お願いします」
「そういわれましてもぉ~…」
オフィスチェアに溶けるように背もたれに身を預けて怠そうな声をあげる。
「彼はとても運動神経がいいし、あの無法地帯で護身術のひとつも知らない僕を抱えて生きていくだけの強さがあります!セキュリティ班などで相応しい働きができると僕は…」
「虐殺犯に最新の武装を施して塔の中を好きかって歩かせるなんてそんなリスキーな事思いつくなんて恐ろしいですよ」
幼くしてラプラスなんて超重役に立つ彼はおちょくるような口ぶりや身振りはするが僕よりも余程まともなことを言っているようえ思えた。
彼の興味を引くにはもっと別の利益を提案しなければ難しい。
「だいたい、ひっどいパンデミックを起こした街から人を連れてくること自体僕は乗り気じゃないんですよ。貴方はここの重要人物ですから救出するにあたっただけで、大したことの無い清掃員とかならきっとここまでしませんでしたもーん」
「パンデミック…でもそれはもう400年も昔の話じゃないんですか?」
確かにネイダの衛生環境はいいものとは言えないがエリオやバビロンの人間達を見ているととても感染症が流行っているという印象はなかった。
「あれはネイダの周辺汚染水や地下ガスが原因とされてますし貴方が着ていた衣類からもそれらの成分は検出されてます。幸い発症には至らなかったようですが、あんな環境じゃ3から5年の間にほとんどの人間は死ぬでしょう。地下で持て余すほどの危険人物をネイダに落とすのも、そういう処刑みたいなもんですよ」
「3から5年…?そんな短期間で無くなるならどうしてエリオやバビロンの彼らはあんなに元気そうに…ネイダの感染症は身体的影響は与えないのですか?」
ラプラスの話をまとめればあの環境では人は何年もは生きられないらしい。
しかしあの場所で3年暮らしているエリオやバビロンのシャルルさん達はみんな死に至るような病気を抱えているようには見えなかった。
「ネイダの感染症は発症すると発熱、嘔吐、頭痛から始まって1年ほどかけてゆっくり進行します。血管をつまらせたり逆に血管を溶かしたりすることによる内出血を繰り返し発症から1年前後で致死率は90%ほど。完治した症例はありません。どの道その彼ももう長くないですよ」
「ま、待ってください。僕はネイダでそのような症状に至った患者を1人も見かけてません!何かの間違いでは無いですか?エリオが長くないなんて…それに彼よりも長くネイダで暮らしてる人間も…」
僕が見たままを答えるとラプラスは驚いたように目を丸くしてとけていた体を起こして椅子の上に登り座り直す。
「感染者がいないと?それは妙ですね…あれは汚染物質が体内で致死量まで溜まることで引き起こすって言われてるんですよ。長く暮らせば暮らすだけ死ぬ可能性は高いはず…耐性を持った人間がそれだけ多くいたとも考えづらい」
ヘラヘラ笑ってみせたりダルそうにしていた様子から一変し、彼は急にモニターに向き直り何か膨大な量のデータを閲覧し始める。数字やアルファベットの羅列は恐らくこの地下にいた全ての人間と犬の整体コードだろう。
「そのエリオという彼の他に、名前など個人を特定出来る情報のある人はいないんです?なるべく若くない個体が望ましいですが」
「な、名前…」
そもそもネイダでエリオ以外に深く関わった人物といえばバビロンの関係者ぐらいなものだし、彼らの名前とか個人情報は全然記憶にない。
知っているとすればバビロンのボスが「シャルル」と名乗っていたことくらいなものだ。
「シャルルって名乗った人物なら…?20代後半位の男性で、顔つきはフランスとかその辺の…背がすごく高いんですけど、それじゃあわかりませんかね」
「それが偽名でなければ探せそうですね。その彼も感染症の症状は見受けられなかったと?」
彼の言葉に頷いて肯定するとラプラスはニヤリと笑ってモニターに向き直る。
「もし、ネイダの感染症への抗体や薬なんかがあるとしたら…それはどうにか手に入れて解析したいものですねえ~…そのシャルルという男がネイダで5年以上暮らしているなら、エリオって彼も是非調べてみたいもんです」
「ほ、本当にですか!?」
「えーでも勝手に喜ばないでくださいね?僕のやる気と興味が途中で尽きてしまったらぱたっと探すの辞めるんで。それにそのシャルルって男が5年以上発症してないとも限りませんし~」
彼はぶっきらぼうに答えるが、しかしエリオを塔に迎えるためにその腰を少しでもあげてくれたことが嬉しかった。
「ありがとうございます!」
「しっかし今までネイダ行きになった人物の中からその1人を見つけるのは…時間がかかりますねえ…まあ、進展があればお知らせしますね」
ラプラスは体をモニターに向けたままヒラヒラと手を振った。
「はい、分かりました」
ここまで来たなら僕に出来ることは、彼の興味が尽きぬように定期的にネイダの話を聞かせることだけだった。
シャルルさんがネイダに送られた日付の特定が済み、それが今から6年前であることがわかった。
ラプラスは研究対象としてエリオを塔に連行という形で彼の回収を行なうため動き始める。
彼を回収するにあたって、病原菌やウイルスが体から抜けきるまで管理する為の設備を作ったり、ラプラスの御触を周囲に提示する必要があった。
万が一にも塔の中で感染症が広がらないよう細心の注意が必要だ。
バビロンに定められた1ヶ月という期間、ギリギリの計画だったが、既にとんでもない量の無理を押し通している故、これ以上早めることは難しかった。
エリオを迎えに行く日、僕は無理言ってセキュリティ班による回収チームに同伴させてもらっていた。名目上はエリオが連行に応じなかった時に説得する為に…ということだがその心配はないだろう。
「全く…本当にラプラスの首を縦に振らせるとは、見かけによらず恐ろしい方だ」
セキュリティ班の若きリーダーの彼は呆れたように笑う。
「い、いえそんな…無理言ってすみません…?」
「いいえ、ラプラスの決定ならば僕は不満などありませんよ。再びあんな不潔で不快なゴミ貯めに派遣されたって全く不満などありません」
そう語る彼の顔は長い前髪で半分以上隠されているものの、不満がないと言うふうにはとても見えない怒りを含んだ声に聞こえた。噂によると超がつくほどの綺麗好き…平たく言えば潔癖症らしい彼には確かに気乗りしない任務であることだろう。
バビロンから定められた1ヶ月は昨日がタイムリミットだった。
彼が簡単にバビロンに捕まってしまうなんては思っていないが、既に彼の捜索が始まっているであろうその点がとても気がかりだった。
彼らと同じ白い防護服を着て1ヶ月ぶりのネイダに降り立つ。
あの日迎えに来た柱のようなエレベーターは、重力操作で身一つのまま僕を地面へとふわりと下ろす。周囲を見回すと、すでに遠くから喧騒が聞こえる。
エリオと来た時、ゴミ山はいつも人が少なくて比較的穏やかな場所だったのに、少し離れた場所には大勢の人間たちが何かを取り囲んでいる。
嫌な予感に胸がざわつくのを感じて僕はゴミの山をよたよたと彼らの方へ向かって歩き出す僕の手を、リーダーの少年が捕まえた。
「貴方は武装していないのですから僕らの前に立たないでください」
「でも、きっとあそこに…!」
僕の言葉をかき消すような叫び声と共に人間の壁が吹き飛び、その隙間から小柄な人影が内側から逃げるようにこちらへと走り込んできた。
たてがみのようなオレンジ色の赤毛の髪、浅黒い肌の男性は確かにエリオだった。
「エリオ!!」
少年の手を振り払って走り出す。
「シャム!?」
走ってくる彼が目を丸くして笑った。
覚束無い足取りながら全力で走ってくる彼を抱きしめるように飛びつくと一緒にゴミの山に倒れ込んだ。
「エリオ…エリオ良かった…間に合った!また会えた!!」
ボロボロの彼の胸元に胸を填めて力の限り抱きしめた。1ヶ月ぶりの彼の体は記憶にあったより逞しくなっていた気がする。
「シャム!凄い!本物だ!」
満面の笑みで彼が声を張り上げる。背後から迫る人間たちを気にしてか、彼は右手のバレルで僕を引っ張って再び走り出す。
「ここ危ないからシャムは向こうへ!」
「えっ…あ、ああうん!」
僕も彼に続いて走り出そうとするが、足がもつれる僕に引っ張られて彼も上手く走れず膝を着いてしまう。
「逃がすな!!約束の期間はもう過ぎたんだ!!」
エリオ後から追いついてきたシャルルは、1ヶ月前の彼からは考えられないほど怒った顔をして僕を睨みつける。
「こんなこと…ありえない、あってたまるか…!!」
僕に銃口を向ける彼にエリオが僕に覆い被さるように前に出て、一緒に身体を伏せる。
「シャム伏せて!」
「エリオ、ダメ!!」
彼が僕に覆いかぶさった鈍い銃声が複数回鳴り響いた。僕は慌てて飛び起きて撃たれてしまったであろう彼の体にしがみついた。
「エリオ!エリオ!!やだ死なないで!!」
抱きしめた彼の身体から力が抜ける。僕に寄りかかるように横にゆっくりとその身体がずり落ちていき、地面に赤い水溜まりが広がる。
彼の呼吸が乱れ、過呼吸のように浅くて短い呼吸を繰り返す。苦しそうに空気を吸いながら、それでも僕に心配かけさせまいとしているのか、掠れた声で笑った。
「ごめ…変なとこ…食らったかも…」
彼の右肩に命中した弾が、武装の一部を破損させてしまったようで、壊れた場所からどくどくと血が流れ出していた。
「あ…そんな…血が…やだ…エリオしっかり!大丈夫、大丈夫だから!!」
「最期に…めっちゃいい夢見れた…」
ズルズルと地面へと崩れていく彼を抱き直すが、力の抜けた彼の身体は見た目よりも重くて、思うように引き上げられない。
「次会えたら、今度こそ…お嫁さんに、なってね…」
更に力が抜けていく彼の身体が地面に沈むように僕の膝へと落ちた。浅い呼吸は続いているものの、開けたままの目が濁り、僕に注がれていた視線は虚空を見つめる。彼の身体が物凄い速さで冷えていき、エリオが死んでしまうんじゃないかという焦りが僕に嫌な汗をかかせる。
「エリオっ!!エリオっ!!!」
「気絶しただけですよ。生体反応は消えてません」
取り乱す僕に落ち着いた少年の声が被せられる。
少年は防護服のウエストポーチから白い球体をいくつか取りだしテキパキとエリオの腕に押し付けると、玉がバチンと潰れて中の液体が瞬時に固まって彼の血が漏れ出すのを止めた。
確かこれ…医療用の止血剤じゃなくて機械用の緊急用の溶接剤だったような…。
「そいつを…こっちによこせ!!!」
エリオを囲んだ僕らに鬼のような形相のシャルルが銃を放つ。
思わずぎゅっとエリオを抱き締め身を縮めたが、パキンという金属の割れるような高い音に顔を上げる。
目の前に展開されたプロテクトシールドは弾いて砕いた銃弾をパラパラと落とした。
「仕事の邪魔をしないでください」
「っ…このっ!!」
シャルルさんは僕達向かってやけくそに銃を乱射するが、全てシールドに弾かれて地面に落ちていく。
シャルルさんはカチカチと数回空撃ちしてから弾の無くなった銃をその場に捨てて歯をぎりぎりと噛み締めた。
「なんで…なんでだよ!!そいつは捨てられたのに…なんでお前は捨てない!なんで迎えに来た!!なんで!なんでなんでだ!!」
当たり散らすように拳をゴミ山に叩きつけて彼は悲鳴のような声で叫ぶ。
彼の傍でセキュリティ班の他の隊員に取り押さえられていたバビロンのメンバー達も困惑したような表情で彼を見ていた。
「俺は…俺は…うあああああ!!くそ!!!」
彼の叫びは怒り散らしているような、どこか泣き叫ぶような悲痛なものだった。
「…帰還しましょう。被検体の容態が悪くなる前に」
少年は苦しそうに呼吸を繰り返すエリオを覗き込んで自身のマスクを外して彼に取り付ける。
「えっ、マスク…」
「プロテクトシステムが大方の有害物質を弾いていますから、短時間なら問題ありません」
彼はそう言いながら取り付けられているメモリを酸素マスクにセットして立ち上がった。
「撤収、誰か彼を運んでください」
少年がそう声をかけると、ガタイのいい団員がエリオを抱き上げてエレベーターへと向かう。
彼に続いて僕もエレベーターに足を進めた瞬間、シャルルさんの小さな声が耳に飛び込んだ。
「…ライヒハート…?」
それは確かあの少年の名前だった。可愛らしい名前だと思ったからよく覚えている。
「…なぜ僕の名を?」
少年は訝しげな声で首を傾げるが。そのまま立ち上がった。
「ま、待てよ…俺だ…シャルルエリだ…お前の…」
「失礼ですが、僕は貴方を知らない」
そう言い放った少年は振り返ることも無くエレベーターへと姿を消した。
「…なんで…お前は…!」
シャルルさんは呆然とゴミ山に体を崩し倒れた。バビロンのメンバーが彼を取り囲むように駆け寄って行ったから彼はきっと大丈夫だろう。
「…エリオ…帰ろう。塔に」
苦しそうに呼吸を繰り返す彼の髪を優しく撫でて、僕らもエレベーターへ足を踏み入れ上の階層へと登った。 
半分目を開いたまま浅い呼吸を繰り返すエリオと一緒に塔に帰り、すぐに医療班に受け渡す。病原体やウィルスを持ち込んでいる危険性も考えて、彼は新しく作られた医療施設で隔離されることになった。
僕はガラスの向こうで治療を受ける彼の様子を見守る。
エリオは出血性ショックで少し危ないところではあったもののライヒハートさんの手早い応急処置により、大事には至らなかったそうだ。
損傷が激しく汚染の可能性がある彼の両腕は綺麗に取り外されて、新しく義手が作られることになった。
検査と消毒が完了して彼の病室への立ち入りが許されたのはここに帰ってから3日後のことだった。
治療が済んですっかり容態は安定したものの、疲労が溜まっていたようで、エリオはまだぐっすりと眠ったままだ。
「エリオ…塔に来たんだよ」
まだ両腕のない彼の額を優しく撫でて彼を呼んでみる。彼の検査が終わるまでの3日間もそうだったが、そばに居るのに触れられなかったり言葉が交わせないのは少し寂しかった。
「久しぶりに会うのにずーっと寝てるの?」
からかうように彼の頬をつまんで、ぷにぷにと揉んだり引っ張ったりしてみると、不意に彼の口元が緩んで笑ったような顔になった。
このままイタズラしていたら彼が起きてくれるような気がして僕は彼のディスプレイが着いていた脇腹に巻かれた包帯をつんつんと触ってみる。
「ん~…」
小さな声を出しながら、彼は寝返りを打とうとしたのか身をよじる。両腕がないので上手くできなかったらしく、寝返りは不発に終わり、彼の頭が枕からずり落ちた。
「ふふっ…面白い」
そんな彼が面白くて今度は反対の脇腹に指を這わす。傷口のない部分をこしょこしょとくすぐると彼が寝たまま口元で笑う。
「うっ…ひひっ…」
逃げようと身体をベッドの上でモジモジと動かし、彼は薄らと目を開けた。
「おはよ、エリオ」
まだ目の焦点が合わずぽやっとしてる彼の半開きの唇に触れるだけのキスをする。
ぼーっと僕と顔を見つめ、何度か瞬きをしたり、目を細めたりと彼は僕の顔に視線を注ぎ、眉をしかめた。
「………シャ、ム?」
長らく声を出していなかったせいか、彼の声は掠れていて凄く小さいが、この距離なら普通に聞き取れた。
「ふふっシャムだよ、起きた?」
彼の前髪をかき分けるように額を撫でる。彼はそれでも不思議そうに僕を見つめていた。
「あれ…俺、死んだんじゃ…?」
「生きてるよ、とっても健康」
きょとんとしている彼の顔を覗き込んで笑う。そんな僕に彼はじわじわと渋い笑顔を浮かべた。
「うわ…死ぬと思って、めっちゃ思わせぶりなこと言ったじゃん…恥ずかしい」
照れ隠しに自分の顔を隠そうと右肩を動かすが、右手がないことに気が付いて彼は目を丸くした。
「あれ!?両腕ともなくなった!?」
「ディスプレイも取られちゃったよ。汚染が酷いからって」
彼の脇の下に手を入れて上体を起こして上げながら僕は笑った。
「今新しい義手を作ってるから、出来上がるまでは僕にお世話させてね!」
「え~なんか照れるなそれ…」
困ったように笑う彼はそのまま僕に寄りかかるように上体を倒した。
「ああ~…本当にシャムだよね?俺、夢見てるとかじゃないよね?なんか凄く普通に目の前にいるから、違和感がすごい」
僕の首元に頭を擦り付けながら、彼が呟く。
「うん、僕もちょっぴり信じられない。でも叶ったよ」
腕がない彼の分まで僕が強くエリオの体を抱きしめた。
超特急の依頼とはいえ最新型の彼の両腕が出来るまでは2ヶ月くらいかかるとの事だった。エリオはすっかり元気になったものの、両腕が無いままでは1人で生活することが出来ないためそのまま入院を続けることになった。
仕事の終わったあとや休みの日には彼がすき好みそうなお菓子を買って、毎日お見舞いに行った。
「エリオ~来たよ!今日はチョコレートケーキ買ってきた!」
ケーキの箱を彼の前に置いてベッドの傍らにある椅子に座ると、箱からケーキをそっと取り出した。
目の前に置かれたチョコレートクリームでデコレーションされたそれを物珍しげに顔を寄せ、エリオはくんくんと匂いを嗅ぐ。鼻が近付きすぎてクリームが鼻の頭についてしまったが、彼は気付いていないようで僕の方を見て笑った。
「すげえ!これ10年くらいお目にかからなかったやつだ!食べたい!」
目覚めて1週間経つ彼は、最初こそ食事を誰かに手伝われるのが恥ずかしそうにしていたが、流石に慣れたらしく僕に食べさせて欲しそうに身体を揺すった。
「はいはい、待ってね」
彼の鼻についたクリームをペロリと舐めとると、彼は少し驚いたような顔をしたが、すぐにまた笑みを作る。
「鼻なの?口にキスは?」
「鼻にクリームついてたんだよ」
彼の口に軽くキスをして笑って、箱の中に入っていたプラスチックのフォークでケーキを彼の口元に持っていく。
エリオは素直に口を開け、僕のフォークをわくわくと待っている。
「はい、あーん」
期待している彼が可愛いなと思いながら僕は、彼の口元までちかづけたチョコレートケーキを自分の口に入れた。
「えー!!」
口を半開きにしたまま目を丸くするエリオを見て僕はケーキを咀嚼しながら僕は笑う。
「ふふっ、あんまり期待してたみたいだからつい」
「なんだよー!めっちゃ待ってたのにシャム意地悪じゃねー?」
むむっと彼は口を尖らせるが、本当に怒っているわけではないようで、目元は笑みを作っている。
「いつくれるんですか!」
「次はあげるから、ほらあーんして」
「ほんとにー?」
ニヤニヤと笑いながら素直に口を開けるエリオに、チョコレートケーキを1口食べさせる。
ようやく口に入ってきたケーキをもぐもぐと咀嚼しながら彼は目を輝かせる。
「んまー!」
「美味しいでしょ?この前雑誌で紹介されてたんだよ」
幸せそうなエリオは歳よりも幼く見えてとっても可愛い。
「病院での生活は慣れた?」
「んー?」
ケーキを咀嚼しながら彼は部屋に視線をなげる。
「慣れた…ような、慣れないような…。すごい平和すぎてたまに不安だし、退院の時に何を支払えばいいのかって考えるし、そもそも毎日電気水道使い放題に慣れない」
彼は僕に向き直ると、眉を寄せて笑いながら肩を竦めた。
「地上、地下、最下層って色んな場所を渡り歩いてきたけど、どこもしんどかったし、いつも追い出されちゃうからさ。ここもそうなるんじゃないかって、心配っちゃ心配かな」
彼のふわふわの髪の毛をくしゃくしゃと撫でながら僕は微笑む。
「入院費のことなら心配しないで。保険適応だったから!僕はずっとここしか知らなかったけどネイダ…最下層を経験して、やっぱりここが平和でいいとこって思ったよ。僕のお墨付きだから安心してて」
僕が自分の胸をトントンと叩いてみせるとエリオは安心したように笑った。
「まあ、シャムみたいな天使が育つ場所なんだろ?間違いはなさそうだけど、俺って乱暴者だし、原始的な暮らしが長いし、戦うしか脳ないけど大丈夫?なんならDV彼氏じゃない?」
「また天使だなんて、僕はそんな凄いものじゃないのに!それにエリオは優しいよ。乱暴者でもDV彼氏でもないから大丈夫」
彼の頭わしゃわしゃしてからぎゅっと抱きしめると、ネイダにいた頃とは違うエリオの匂いがした。
彼は頭を僕に撫でられながらゆっくりと頭を僕の胸に沈ませる。
「あ~天使じゃなくて女神だった…」
「女神でもないって!僕は男の子なんだから」
「シャムは神様って感じより女神なんだよなあ…」
ぐりぐりと頭を僕の胸に押し付けて甘える彼はちょっと動物みたいだ。そのまま僕に視線だけ向けて、彼は小さくため息をつく。
「暴力もないし、シャムが誰かに触られたりしなくて、痛くないし穏やかで平和だけど、両腕ないとシャムと触れ合うの不便で暇」
「うーん、義手出来るの来月末だからまだまだ暇かな~?僕に出来ることなら何でもするから、いつでも頼ってね」
彼をぽんぽんと軽く叩くと、叩いた僕の手に頭を擦り付けて、その指先を咥えるようにキスをする。
「なんでもしてくれるなら添い寝してくれてもいいんだよ?」
食べるように僕の指を食む。
「添い寝かぁ…ふふっ、本当に添い寝だけ?」
エリオの隣に腰だけおろし、彼の腰に手を回して目を細めた。
「えー、ちゃんと身体全部ベッドに入ってよ」
唯一動かせる足で横にスペースを作ろうと、彼は横にじりじりとお尻を滑らせるようにして避ける。
エリオが横に詰めたぶんだけ僕も体をずらして彼に寄り添うと、向かい合って横になっていた彼は満足そうに目を細めて身体を密着させるように身を預けてくる。
腕が使えないからか、彼の足が僕の足に絡んでくる。僕の頬や目尻にキスをして、鼻同士をくっつけた。
「ハグできないから、こっちのが触れ合うの楽で楽しい」
「触れ合うだけで我慢できなくならない?」
僕が顔をニヤニヤさせながら小さな声で囁くと、彼は首を傾げた。
「何でもってそういうのも含まってるんじゃないの?」
「…ふふっ、お見通しだった?」
彼の唇に舌先をペロリと這わせると、彼は口を押し付けたまま開いて、逆に僕の舌を絡め取りにくる。唾液を混ぜ合わせるように長いキスをして口を離すと、自分の体がとても熱くなっていることに気がついた。
「僕、エリオの事でバタバタしてたからこっち帰ってきてから全然なんだけど…」
「えっ!?そうなの?」
彼は目を丸くしてから、僕の耳元に口を寄せる。
「…自分で乳首いじってオナニーしたりしなかったの?」
「だからそうなんだって…みなまで言わないでよ!」
彼に改めて言われるとものすごく恥ずかしいのでやめて欲しい。エリオのおでこに軽くデコピンをして口を尖らせる。
「えっ、ごめん…俺、シャムがいなくなってから毎日ムラムラしてたけど、左手なくて1回も抜けなかったことをここに懺悔するから許して?」
「うーん…許す!」
「やったぜ」
2人で笑い合ってると、エリオが身体を起こして僕に跨る。緩いTシャツにカーディガンを羽織っていた僕の服を口で摘むと、ゆっくりと上に捲ってたくし上げる。
「期待していいの?」
「病院だからお互いお静かにね?」
喉を鳴らして笑いながら、彼は僕の肌に頬を擦り付ける。
「おっぱいなんか小さくなったね。やっぱあれイジられすぎだったんだな」
僕の胸をなぞるように彼の温かい舌が撫でる。暫くぶりだから見た目通り多少元に戻っただろうと思っていたが、むしろ我慢していたかのようにゾクゾクと伝わる快感はいつもよりも強く感じる気がした。
「ん…あっ…凄い…かも…」
「舐めただけだよ?」
小さく笑いながらエリオが僕の胸を口に含む。舌先で乳首の先を押し込んだり、上顎と舌で押しつぶす。久しぶりなのに、何も変わっていないその動きに僕の体は思ったよりもずっと早くその気になってしまった。
「あっ…声…でちゃう…んん…」
既に暑くなっている自分の性器をキュッと押さえ込んで何とか声を堪える。
「…俺、腕ないからもう片方寂しくない?自分で触ってもいいんだよ?」
不意に口を離したエリオがニヤニヤと目を細めて尋ねる。濡れた胸に彼の熱い息がかかり、それだけで体が小さく震えてしまう。
「恥ずかしいよ…」
「会って2日目で見せてくれたじゃん。あれ可愛くてめっちゃ好き」
そこまで言うと、彼はもう一度僕の胸に口をつける。舌先で遊ぶように転がして、優しく吸い上げた。
「あぅ…はあっ…」
彼からの刺激が気持ちよ過ぎて、刺激を貰えない反対側が我慢できなくなってしまう。
空いた片手を自分の胸に伸ばして指先でコロコロと転がすと、またゾクゾクとした刺激が気持ちよくて止められない。
「…可愛い、それ」
小さく彼が呟く。先程より強く胸をすわれ、唇で食んで引っ張られる。
僕に跨っていた彼の足が、僕の足の間に入り、僕の性器の根元をこするように太ももを押し付けてきた。
「あっ…エリオっ…」
これ以上はダメだと止めなきゃと思っているのに、体がもう少しだけと粘ってしまって辞められない。
指でいじり始めた乳首はいつの間に強く引っ張ってしまってるし、僕の意思ってどうもグズグズだ。
「気持ちいい?そろそろズボン脱いだら?」
こしょこしょと彼が耳元で囁く。耳を食み、唇で鎖骨をなぞってキスをすると、そこを赤くなるまで吸い上げる。
彼に愛されている証が刻まれたような嬉しさで、体がますます熱くなっていく。
「んはぁっ…でも…ここ病院…」
そう言いながら随分期待している僕の性器は既にピクピクと小さな反応を彼に返してしまう。
そのまま肌を滑らせて胸を咥える。執拗にすいあげられてはどんどん感度が上がってしまう。彼は僕の胸を舌先で弾いて、反応を楽しんでいるようだった。
「こんな半端にしてシャムは帰れそう?」
エリオが小声で笑う。
「うう~…帰れないよ…」
彼に挑発されるように僕はズボンのチャックを下におろしてしまった。
トランクスの前にエリオが顔を寄せる。隙間から鼻と口を差し込むと、舌と唇で僕のものを器用にとりだし、むき出しになった僕の性器をエリオが太ももで優しくスリスリと撫でた。
「じゃあ、帰れるまで静かに遊ぼうぜ」
僕の顔に彼は自分の顔をよせてくる。
「えり…ん…」
寄せられた唇を貪るように食んで夢中で舌を絡め、唇を離すと彼と僕を透明な糸がつないだ。
エリオは僕の性器に頬を擦り付けて、キスを降らせる。
「ピアス外さなかったんだ?もしかして気に入ってる?」
「ちっ…ちがっ…ちょっと忙しかったから…」
忙しかったのももちろん本当ではあるが…彼にこうして見られるとどうにもドキドキしてしまうこの熱をどこか気に入っている自分が居たのも否定しきれない。
彼は僕のを口に含むと、舌で絡めるように全体を舐め、根元から先端まで真っ直ぐに舌でなぞった。
「あっ…はぁっ…」
「ピアス気に入ってるなら今度俺が選んでくるから、バビロンのじゃなくてそっちつけて」
少し意地悪な笑みを浮かべてエリオは言うと、再びピアスのついたそれを口に含んで吸い上げる。ピアスのついた場所を重点的になめるそれは、ピアスの凹凸のせいで隙間が空いてジュルジュルと音がした。
「えりっ…音ッ…だめ…んっ」
声を殺したいのに彼がじゅるじゅると鳴らす度、吐息と一緒に意図としない声が漏れてしまう。
「前は痛かったのに、さすがに今は痛くないんだな」
彼が呟きながら喉の奥まで僕を迎えにいく。口の中と喉を使って激しくシゴかれるとびくびくと反応するのに果てるところまで行けない。
ぐりぐりと胸の先端を引っ張ったり押しつぶしてみても、どうにも刺激が足りないとお腹の奥がうずくような感覚が快感を邪魔してしまう。
「俺のは開けてくれないの?」
「ほん…っとに…我慢…できなくなっちゃう…」
「静かにすれば我慢しなくたって誰も怒んないよ」
僕の耳を食みながら囁く彼にお腹の奥が燃えるように熱くなる。
こんなところでこんなことしちゃだめだって思っているくせに僕の手が彼の物へと伸びてしまう。
彼のジャージを脱がして熱くて硬さをもった彼のものに手を触れた。
「すごい…熱く…なってる…」
「ずっとお預け食らってたからね」
そう言ってエリオが笑う。僕のズボンを下げようと、僕のズボンと下着をまとめて歯で摘んで下へクイクイと引っ張る。
それに対して僕はまるで誘っているかのように腰なんて上げてしまうし、なんならズボンのウエストに指をひっかけて、彼を手伝うようにそれを下に滑らせた。
「腕ないから、入れるの手伝って」
立ち膝で僕を見下ろしながらエリオが悪巧みするような笑みで言う。
「ん…エリオ…座って」
僕はベッドから起き上がり、入れ替わるように彼を寝かせる。そして僕がエリオに跨るように上に乗ると彼は僕の頬にキスをする。
「騎乗位してくれんの?腕ないのも悪くないね」
彼が笑って期待するように僕を見つめる。
「んも…からかってるの?」
そう言いつつもすっかり上がった僕の熱はもう止めようという気すら失っていた。エリオの唇を貪るように食みながらゆっくりと腰を落としていく。
「ん…はぁ…ぎゅって…なる…」
久しぶりに押し開かれた中は悦んでいるように、収縮を繰り返してやめない。
「はっ…すっご、きっつ…」
エリオが気持ちよさそうに目を細めて僕の首元にたくさん唇を落として吸う。
両腕のない彼の首にしっかりとしがみついて、僕はしたいままに腰を動かし始める。
締まりかけていた中を押し開けるように奥へ奥へと彼の物を押し込みたくて仕方がない。
「あっ…はっ…おく…きもちっ…えりおっ…」
「可愛い…そんな好き?」
エリオが目を細めて笑う。上で跳ねる僕の胸を不意に彼はまた口に含み、音を立てて吸う。
「ふぁっ…しょこといっしょ…らめ…よくなっちゃ…」
ダメだなんて言って喜んでいるのはこんなふわふわした自分の頭でもよくわかってる。なのにどうしてかヤダとかダメとか口走ってしまう。
「…ダメ?」
エリオが口を離してニヤニヤと笑う。
「何もせずに気持ちよさそうに腰振ってるとこ眺めてた方が興奮する?」
「えっ…そ、そんなつもりじゃ…」
赤と青の瞳でじっと僕を見る彼と目が合うと、心臓がバクバクと大きな音を立てた。僕が夢中になっている姿をエリオが眺めているなんて考えただけで、おかしくなりそうなくらい身体が熱くなっていく。
「気持ちよさそうなシャム見てるの、俺好きだよ。いっぱい動いて」
真っ直ぐこちらを見つめたまま、彼は催促するように首を傾げた。
「うう…見ないでよぉ…」
彼から少し目をそらしながら止めていた腰の動きを再開させる。先ほどよりゆっくりなのに先ほどとは比べ物にならないくらいの高揚感が僕を襲ってきた。
「う…はぁ…あっ」
動かすたびにぞくぞくと身体を抜ける快感と奥に突き上げるような圧迫感がたまらない。
少し腰を動かして気づけば夢中になり、我に返っては顔が熱くなる。
「シャムが動く度にすごい水音しててエロいね…」
腰を振る僕を高揚した顔でエリオがずっと見つめている。膝を立てて、彼はもっと奥に入りやすいように角度を変える。
「夢中で腰振ってるシャム、はしたなくて可愛い。中めっちゃ締まるし」
「ふぇっ…いっ…わない…でっ…」
角度を変えた彼の物は先ほどよりもスムーズに奥へ滑り込み刺激する。パンパンに勃起した前の物から透明な液体が染み出すのを感じながら、ずっと我慢していた僕の手が乳首をくりくりと触ってこねるともう興奮を押さえることが難しくなっていく。
「ああっ…はあっ…ううっ…」
中に入っているエリオのものがより硬さを持ってビクビクと脈動する。エリオは少し荒くなってきた息を整えながら、僕が自分でいじりまわす乳首を見つめていた。
「それ引っ張ってるシャムが可愛くて好き…引っ張りながら腰振ってほしい」
「はぁっ…あっ…なん…そんな…やあっ」
彼に真っ直ぐ見つめられると身体の深いところが熱くなって手が、腰が勝手に彼の要望に応えようとする。乳首をギュッとつまんで引っ張って腰を夢中で振ってしまう。
「あっ…やだ…みな…いっ…んっ」
「見てほしいんでしょ?」
赤と青の瞳が楽しそうに細くなる。
「いっぱい見てるから。イッてるとこ見せて」
「ひぅ…やっ…そん…言わな…」
彼の言葉に全身に電気が走ったようなびりびりとした強い快感が走った。触ってもいなかった前のものがびくびくと脈打ち、お腹の中の彼のものがはっきりと感じるほど中がぎゅっと締まる。
「あ”っ…いっ…くうっ…」
「中すご…っ、俺も出そ…」
エリオが辛そうに顔を歪めて短い呼吸を繰り返す。僕と彼の目が合って、自分の物がびくんと大きく跳ねたのを感じた。
「あ…はあっ…はっ…」
エリオの腹部に自分の精液が飛びちったのをぼんやりとした頭で見つめていた。それとほぼ同時にお腹の中に熱いものかそそがれ、中に入ったままの彼がビクビクと動いている。
エリオは少しぼんやりした顔で笑うと、そのまま後ろ向きに倒れてベッドに沈んだ。
「あ~…シャムの最後のビクビクってするやつに毎回搾り取られる~…」
「そ、そういうの…恥ずかしいから…黙っててよお…」
後ろに倒れたエリオに重なるように僕も前に倒れて彼の肌に自分の体をすり寄せて答える。
「とか言って、恥ずかしいの好きでしょ」
僕の顔を見て、エリオがニヤニヤと笑う。
多分彼は僕の気持ちなんてとっくに見透かしているらしくて、反論の言葉がなかなか思い浮かばない。
「そっ、それは…なんていうか…」
「その口ぶりじゃ、やっぱり好きなんだな~」
エリオがそう言った瞬間、トントンとノックの音がした。エリオが慌てたように僕の顔を見て、僕は反射的に、頭まですっぽりと布団をかぶって息をひそめる。
エリオは僕に被さるように上に乗った。
「テーブルの上にあるタブレットとって!」
小声でエリオが僕に言う。布団の中から手を伸ばし、タブレットを引き寄せて彼の目の前に滑りこませる。
「マーティスさん、お食事ですよ」
「はーい!」
慌ててエリオが返事をしながら、タブレットの前に両肩付いて僕を布団の中に隠す。ガラガラと病室が開く音がして、看護師さんらしき足音がした。
「…珍しい体勢ですね。何してたんですか?」
「あ、シャムから貰ったタブレットでネサフしてました!いやー、電子機器触るの久しぶりで楽しいですね!」
エリオがつらつらと嘘を並べている。腕がないのにタブレットでネットサーフィンって出来るのかな…。
「腕なくて出来ます…?」
「いや、電源入りっぱなしなやつなんで!鼻とか顎使えば!ほら!」
僕が思ったことと同じ質問をする看護師さんに、頭上でエリオが言い訳をしながら必死に首を動かしているのが分かる。
だめだ…笑っちゃだめだ…。彼のムリある言い訳に思わず笑ってしまいそうになるが何とか堪えようとする。声を殺そうと少し足を動かすと、繋がったままの彼の物が中でぐっと押し込む形になってしまって逆に声が漏れてしまった。
「んっ…」
「えっ?」
僕の声に看護師さんが聞き返す。密着しているエリオの身体が焦りでどんどん熱くなる。
「んっ…んんっ…!か、肩凝りが…」
頑張って声真似をしながら、彼が全力で誤魔化している。
どうしよう…エリオの熱にお腹の中が物寂しくなる感覚と、彼を困らせたくなる欲求の二つが同時に湧いて出てしまう。
彼の胸板に頬を寄せ、ぐりぐりと彼のを奥に押し付けるように腰を動かす。彼が慌てたように身体を震わせて、僕の身体を両足で力いっぱい挟んでガードする。
「うっ…ふっ…、いや、すいません!慣れない体勢なもんで…!」
「急に悩ましい声出すからびっくりしました。マーティスさんそんな声も出るんですね」
看護師さんは安心したような、楽しんでるような笑いのまざった声で言葉を紡ぐ。
「首つらないように気を付けて下さいね。お食事、お手伝いします?」
「あっ!いえ!そろそろシャム来るので彼にお願いします!」
「仲良しですね」
クスクスと看護師さんが笑う声がして、テーブルに何かが乗せられていく音がする。
「ではまた、夜に巡回に来ますね」
「いつもありがとうございます!お疲れ様です!」
エリオの威勢のいい挨拶のすぐ後に病室のドアが開き、看護師さんが出ていく音がした。
「ちょっと!シャム!」
笑いながらエリオが上体を起こした。
「ん…はぁ…えりお…」
僕を見下ろす彼の視線にまた体が熱くなってしまって、僕は彼に笑みを作った。
彼は僕の顔を見ると、困ったように眉を寄せて再び上に被さってきた。
「はあ~うちの天使、淫乱ちゃんで困る~」
ちゅっちゅと僕の顔にキスをすると、食事もほっぽり出して2回目が始まった。
すっかり楽しんでしまった僕たちは頭が冴えてくるとようやく食事の事を思い出したが、既に食器を下げる時間が迫っていたものだから慌ててエリオにかっこませたのはちょっぴり面白かった。エリオの一口があんなに大きかったなんて、ネイダにいたころは知らなかった。
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