天底ノ箱庭 新世界

Life up+α

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3章

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1.
新しく見つけてきた家は郊外にある小ぢんまりとした二階建ての家だ。引越しのため、朝早くに俺たちは家を出て、シャムを車の助手席に座らせた。
「あ、そうだ。昨日これ渡し忘れてたんだ」
俺は後部座席に置いた、昨日調達した物資のうち一つだけ混ざった兎のぬいぐるみを運転席から手を伸ばして引っ張り出す。
「…これ、シャム好きかなって…」
こんなゴミみたいな街でぬいぐるみなんか喜ぶやつなんかいない。価値は最底辺と言っても過言ではないそれを、ただシャムなら喜んでくれそうだと缶詰1個と交換してきてしまった。
シャムだって男の子だし、こんな街であんな目に遭ったら、もっと身を守るものとかを持たせた方が喜ぶかもしれないのに、うっかり手に入れて帰って来てしまったので、もうこれは渡さざる得ない。
そもそもこの街じゃ、女の子だって缶詰の方が喜ぶ。俺は何を考えてたんだろう。
「い、いらない…かな…」
彼に手渡しながら苦笑いする。黒い兎のぬいぐるみ。彼の髪色を彷彿させた、だなんてちょっと恥ずかしくて言えない。
「わあ!かわいい!」
シャムは渡された兎のぬいぐるみを抱き上げて嬉しそうな声をあげる。
「僕こういうの好きなんだ!ありがとう、とっても嬉しい!」
兎を膝に座らせるようにぎゅっと抱きしめて微笑んだ。その顔を見ているだけで胸が猛烈に痛くて動悸がするし、顔の筋肉がゆるゆるになって締りのない笑顔しか作れない。
「良かった。俺が出かけてる時とか、留守番のお供にいいかなって」
照れ隠しに俺は彼から目を逸らし、車のフロントガラスに目を向ける。
エンジンをかけ、車を発進させる。ゴトゴトと車体を揺らしながら目的地へと走らせた。
昨日は頭がおかしくなるかと思うくらい怒り散らした。いや、あれは怒らない方がおかしいだろう。
帰って来て、彼が裸で4人の男に囲まれているのを見て頭が真っ白になった。4人はズボンこそ履いていたものの、前は開けていて局部が出た状態で、その中心で身体中に白い液体を纏って泣いているシャムの姿はどっからどう見ても酷い陵辱を受けた後だった。
シャムは何も悪いことはしていなかった。ただ、この不条理な世界で他人を見捨てることが出来なくて、俺がそんな彼を見捨てられなかっただけ。俺が暴れたせいで新入り狩りのターゲットが逃げたのだから、彼らの業務を妨害したのは俺だって同じだ。
それに対価をせびるのも、彼を騙して飲ませた水を支払わせようとするのも全てこじつけだ。仕舞いには俺を誘惑する手立てに彼を使おうとして、断ったから対価を払えなんて、それはどう考えてもおかしな話だった。
それでも、彼が知らないところで俺を庇ってくれていたという事実が嬉しくもあって、やっぱり彼が好きなんだなと感じてしまう俺も大概愚かだ。シャムはこんなに辛い思いをしたのに。
車を走らせながら、彼とは他愛ない話をした。昨日の出来事に関しては、シャムが思い出したら可哀想だと思い、その話題には触れずに何事も無かったように接した。
正直、昨日の夜はシャムを取られた悔しさで、散々いたぶられた彼に身体を要求してしまったのは大分反省してる。彼があのことを本当はどう感じているのかはやっぱり分からないが、比較的元気になっているように見えたのは救いだった。
シャムの性器につけられていたピアスはバビロンが付ける商品タグのようなものだ。いわゆる性奴隷の証のようなもので、バビロンに支払いさえ行えば誰でも使っていいという表明になる。
あのピアスは外せない。特殊な道具が必要だ。もし彼から外すとすれば彼が塔に帰るか、俺がバビロンに加わるしかない。
塔に彼が帰れる望みは薄い。そして何より…絶対にここから出ることが出来ない俺は、彼が帰ることを心の底では賛同できずにいた。
車を走らせて30分、たどり着いた小さな一軒家の前に停めた。
「着いたよ、お疲れ様」
車から降りて、外から助手席のドアを開ける。左手でシャムの手を取ると、ゆっくりと車から降ろした。
「わー凄い!一軒家なんだね!」
彼は兎のぬいぐるみを抱き上げて車から飛び降りる。
楽しげな表情で家の周りをぐるりと見て回る彼を微笑ましく見守りながら、俺は後ろから黙ってついていった。
「ここらはバビロンの関係者も少ないから、多分安全だよ」
一通り小さな庭を見て回ったシャムの手を引いて家の中へと連れていく。安全とは言え、所詮はこの街だ。安全のハードルは限りなく低いので早く彼を家にしまいたい。
「…掃除はちょっと大変そう」
玄関に備え付けられたシューズボックスの上に積もった埃を指でなぞってシャムが苦笑いをする。
郊外で殆ど人が居ないからか、長い間放ったらかしになっていたようだ。
「そうだなあ、一緒に掃除がんばろ」
苦笑いしながら一緒に家の中へと上がる。動く車は珍しいので、放っておけばすぐ盗られてしまうのだが、兎にも角にもシャムの安全確保が先だ。
俺が車から荷物を運び出すのをシャムは頑張って手伝おうとしたが、か弱い彼には難しかったようなので電気系統の機器を見てもらうことにした。
この街の家はバッテリーさえ上手く繋げば短時間だが電気が使える。こんな治安なのでよく壊れていて、引越しの際には必ずやらなくてはならない儀式のようになっている。シャムが機械に詳しいのはありがたい話だった。
ダンボールを全て家の中に運び入れ、家の内鍵という内鍵を補強して回った。もう二度と誰も家に入れてなるものか。
車を置いていく前に二階にあるブレーカーをいじるシャムの隣まで行って、彼の顔を覗き込む。
「出掛けてくるけど、また合言葉とか合図を決めよう。前みたいなことにならないよう、俺たちでしかできないやつ」
ブレーカーから鼻の頭を埃で黒くさせた
顔を上げたシャムは、嬉しそうに頷いた。
「そうだね、僕達にしか出来ないことか…なんだろうなぁ」
うーんと悩む彼の鼻の頭を左手で拭う。相変わらずぽやぽやとした彼を見ていると浄化される。
「俺だってすぐ分かるのってなんだろ?声は曖昧かな?」
雨戸は締め切る予定なので顔は見られない。となると、声くらいしか思いつかない。
シャムはブレーカーの置かれている倉庫のような部屋をぐるりと見渡す。
どのくらい前の話かはわからないが、以前の住民が残していったのであろうガラクタや使用目的のわからない機械の山からシャムは何かを見つけたようで、パッと顔を明るくさせてガラクタの山を掘り返し始めた。
「これこれ!これが使えそう!」
そう言ってシャムが取り出したのはペンのような形をした小さなドリルらしきものだった。
「それ使ってどうすんの?」
彼は俺の右手を取って、人差し指にあたる1番大きな刃の側面をサラサラと撫でる。
「ここにエリオだって分かる印を掘って、それを扉の隙間から差し込めばすぐにわかるよ!」
「何それ賢い」
感心で目を丸くしたままシャムが俺の右手を触るのを見守る。
「この機械が動いてくれればいいんだけど…」
そう言ってシャムはペンのようなドリルから伸びるコードを手繰り寄せて動力部分らしい機械を操作する。
何をやっているのか俺にはさっぱりわからないが、彼がしばらくその機械と格闘するとランプが点灯して小さな機械音がなり始めた。
「ああよかった!まだ使えるみたい!」
ハンカチで俺の指の刃を丁寧に拭いてから彼は俺と俺の右手を交互に見やる。
「エリオ描きたい?」
「いや、俺あんま絵も字も上手くないからなあ」
俺が地上の学校に通っていたのは中学1年までで、それから勉学は習っていない。絵なんか描いたこともないから、そんな俺に綺麗な字も絵も書けない。
「それに、こう見えて右利きなんだ。左手で書くの大変だから、シャムにお願いしてもいい?」
苦笑いしながらシャムに言うと、彼は何故か嬉しそうに笑みを浮かべた。
「そ、そう?じゃあ僕が描いちゃうね」
ガラクタの上に俺を座らせて彼は俺の右手の人差し指と真剣な顔で向き合う。
小さな機械音を発するドリルの先端をゆっくりと近づけて、ガリガリと細く削っていくのが肩に響く振動で分かった。
シャムが何を書くのか気になって俺はじっと彼の作業を眺めていた。
少しずつ形になっていくそれは昔、まだ実の両親と暮らしていた時に読んでいた絵本に出てきたライオンの王様のように見えた。
空に向かって大きく吠える口から覗く牙と風になびく鬣が今にも動き出しそうだ。
「うおー、何これ!上手くね!?プロの方?」
まじまじと掘られたそれを見つめ、汚さないように気を付けながら優しく左手で撫でた。触覚のない指先ではよく分からないが、確かに掘られた凹凸があるのが肩に伝わる。
「え、全然!趣味…みたいな…?」
「すげー!ありがとう!!」
バッとシャムを両腕で抱きしめて頬擦りする。へへ…と照れたように笑う彼が今日も最高に可愛い。
「じゃあ…ノックを2回したら、ドアの隙間にこれを差し込むから、確認するまで絶対声出したりしないこと!物音立てずに居留守してくれ」
「わかった、絶対物音立てない、息もそーっとするね!」
ニコニコと笑う彼があんまり可愛いので、勢いに任せて彼の口に触れるだけのキスをする。
それにシャムは少し驚いたような顔をしたが、柔らかく微笑んで触れるだけのキスを返してくれた。
自分でしておきながら、返されると嬉しさとこそばゆさで顔が熱くなる。どんな顔をすればいいか分からず、変な笑みを浮かべたまま鼻の下を指で擦った。
「うん、じゃあ行ってくるね」
階段を降りて玄関に向かう。昨日の今日で彼を置いて家を出ることになんの不安もないわけもなく、車をさっさと近くの路地に隠してブルーシートで蓋をした。
家に歩いて帰る頃には昼過ぎで、シャムと決めた合図で中に入れてもらう。シャムはブレーカーの整備が終わったようで、ケーブルニットを抜いたワイシャツ姿で袖捲りしたシャムが床掃除をしていた。
「おかえりなさい!」
「ただいま。掃除までしててくれたんだ、ありがとう」
彼と一緒にダイニングへ入る。俺は運び込んだ食料をキッチン棚にしまうために、ダンボールを開ける。その近くでシャムは両手で雑巾を床に押し付け、そのまま走るように床をふいていたが、自分で拭いて濡らした床を踏んで自分で転んでしまった。
「シャム!」
キッチンの戸棚にしまっていた缶詰を投げるように置いて、顔から床に激突するように転んだシャムに駆け寄る。あんまり派手な転び方をしたので、彼の首が心配だ。彼の傍にしゃがみ、シャムの肩を持ち上げる。
「いててて…へへ、ケーブルニット脱いでてよかったぁ」
「良かったくないよぉ、首平気?回る?」
彼の頬を確かめるように撫で、首を確かめるように彼の顔を少し押して動かす。
「大丈夫だよ?エリオちょっと心配し過ぎ」
俺の焦り具合にシャムはくすくすと笑って、俺に見せるように首をぐるぐると回して見せてくれた。
「あー、良かった…。痛かったでしょ、休憩兼ねて飯にする?」
彼の肩を支えるように立たせると、シャムは「ごはんごはん!」と楽しげに着いてきた。
テーブルに彼を座らせて、まだしまいきれていない缶詰や瓶を並べる。その中からお互いに好きなものを選んで少しずつ食べた。
「ここが本当に安全か確かめたいから、今日から1週間くらい外行かないで一緒にいてたいんだけど、物資が減っちゃうんだ。それでも大丈夫?」
俺はずっと1人だったし、死ぬまでここにいるのは確定だから、周囲に比べるとかなりの量の食料を蓄えていた。ゴミから拾う時も、俺がリーサルウェポンだと言う理由だけで妨害がまるで入らないのもひとつの要因でもあるかもしれないが、とりあえずしばらく閉じこもってても大丈夫なくらいにはある。
「僕は全然大丈夫だよ!なんだか僕のためにごめんね?」
クジラ肉を興味ありげに口に運ぶと、イマイチと言いたげに少し微妙そうな顔を浮かべて彼は笑う。
「うんにゃ、たまの休日だと思ってさ。節約生活にはなっちゃうけど…シャムと家でデートできんじゃんね!」
家でデートなんて、こんな貧しくてなんの娯楽もない家で何をするつもりなんだ…自分で言いながらそんなことを冷静に考えてしまう。
いや、分かってる。ちょっとは期待してますとも。まだ悔しい気持ちが全部なくなったわけじゃないですし。童貞捨ててまだ4日しか経ってませんし。ちょっとはね。
「ほんと?嬉しいな!エリオと家でゆっくり過ごしたかったんだ。誰にも邪魔されないでね」
ふふっと照れたように笑うシャムに俺は笑顔のまま口を尖らせる。この期待が膨らんじゃうの、どう隠したらいいかわからん。シャムの一語一句でいちいち期待しちゃう俺が変なの?最近まで童貞だったから仕方ないの?
「えっ、うん…そうだな。2人きりで邪魔の入らないように…」
彼の言葉を復唱しながら口ごもる。ニヤニヤが止まらない俺は大分キモいと思う、我ながら。
どうしたらいいか分からず泳がせていた視線をシャムに戻すと、白いシャツから何か透けて見えているような…いやむしろ小さな突起2つ、彼の胸元にツンと立っている。もうそれは、皆まで言わなくても大体理解出来る。
じっとそれを思わずガン見して黙り込む。生唾を飲み込んでただ見つめる俺に、シャムは首を傾げた。
「どうかしたの?」
「え!?」
頭の中であの突起に口付けて布越しに透けるまでしゃぶりたいとか、いきなり摘んでひっぱったら何が起きるかとか、むしろボタンの隙間から指いれてこねたいとか、めくるめく妄想で頭がいっぱいになっていた俺の声がひっくり返る。
「え、いや…えーっと…」
シャツから分かるくらい乳首立ってるよとか、胸膨らんでて可愛いねとか、さすがに言ったら引かれるだろうが、一度気になると目で追い続けてしまう。
言葉を濁しながら目をそらすが、チラチラと彼の胸を見てしまう。
「…早いところ始めちゃいたい?」
彼は不思議そうに俺を見ていたが、クジラ缶を食べ終わると立ち上がりながら、まだ座っている俺を見下ろしていたずらっぽくわらった。
「えっ?何を?」
「さっき話したじゃん、実は僕も早く何とかしたいと思ってたんだ」
俺の目の前に彼が近づいてくる。
ツンとたったふたつのそれが目の前にきて、その上で彼の顔がにやりと微笑みを零した。
「何とかする…?」
乳首の話?いや、さすがに違うだろ…でも、2人きりで邪魔されずにしたいことってもうそれ俺の中では1つしか思い浮かばないんですがそれは…。
「え、じゃあ、お願いします…」
彼の胸を見つめながら半笑いで答える。
シャムは微笑んだまま俺の着ていたコートをスルスルとぬがしていく。そして俺のロングTシャツをめくって腕からそっと引き抜くと、それを持って埃を払ったソファーの方へと立ち去ってしまった。
「え?どこ行くの?」
「え?…ほら、ここのちぎったほつれを縫い治して綺麗にしようかなって!エリオがいてくれないと右手を通す穴のサイズもわからないし、今のうちに一気にやっちゃおう?」
そう言って彼は箱の中から針と糸を取り出して俺に見せた。
え、2人きりで邪魔されず…ああ、そうか確かにこの街での邪魔ってもう生命の危機に匹敵するから、邪魔入ったら困るわな。そりゃそうだ。
テーブルに倒れるように突っ伏すと、頭がテーブルにぶつかってゴンッと音を立てた。
「あれ、どうしたのエリオ?」
「いや…ちょっと疲れただけ…」
主に期待した俺の股間が。まあね、俺が悪いんですけどね。
それから服を直してくれているシャムの隣で荷解きや雑巾がけをして、夜にはなんとかダイニングは住める程度の綺麗さに戻った。晩御飯を食べた後にシャワーを浴びてから、頭にタオルをかけたまま新しいベッドにうつ伏せに倒れた。
新しいベッドは前のシングルサイズからワンサイズアップしたセミダブルだ。シャムとなら広々眠れる。
「あー、引越し疲れたー…」
「重い荷物とか全部任せちゃったもんね、お疲れ様」
背後から声をかけてきたシャムがタオルを手に取りながら俺のすぐ隣に座る。
わしゃわしゃと優しく拭いてくれているのがタオル越しに伝わってきた。
「シャムもお疲れー」
彼に撫でられるように髪を乾かされる時間はいつも至福だ。うっとりと目を細めたまま身を預ける。
「こうやって誰かと触れ合う機会、シャムに会うまでほとんどなかったから不思議だな」
ポロっと小さく呟くと、シャムは優しげな声色でどこか慰めるような様子で聞いてくる。
「地下はともかくだけど…エリオは地上から来たんだよね…?そんなに幼い頃に連れてこられちゃったの?」
「んー、俺の両親って5歳の時に事故で他界しちゃったんだ。優しい親で、大好きだったけど、死んじゃってはどうにもならないから、親戚の家に行くことに。そのオヤジが本当にクソみてぇなオヤジだったから、誰かに優しく触れてもらうなんて5歳までだったな」
彼に髪を拭かれながら、朧気になった古い記憶を遡る。
産みの親はちょっと古臭い頑固オヤジとおっとりとした母親だった。悪いことをすればゲンコツが降ったし、ワガママ言って大喧嘩したりもした。だけど、いつだって優しく抱きしめてくれて、俺が何かを成し遂げたら褒めてくれて、守ってくれた。人から守ってもらって、愛してもらえた、そんな貴重な時間で、俺にとって宝物のような思い出だ。
「親戚のオヤジはパチンコばっかりしてて、俺を引き取った時は妻と大喧嘩。何故かオヤジは裕福になるからと言い張ってたけど、結局離婚してオヤジと俺が2人きり。飯もまともに貰えないし、殴られるし、最悪だった。まあ、そんな生活も数年で終わるんだけどさ」
撫でられているうちに気持ちよくなって閉じていた目を開けると、彼は切なげに目を細めて俺の話の続きを待っているようだった。
「オヤジはある時、夜中に俺が病気だから病院に連れていくって薄暗いビルの一室に連れて行った。その時、俺はめちゃくちゃ元気だったけど、その部屋に来た白衣の男は手術が必要だって言って、その日のうちに麻酔を打たれて手術をした」
「…その時に?」
「いや、まだ地下には行かないんだけど、手術は俺の腎臓摘出だった。その腎臓を売ってオヤジは金にしたんだ」
そこまで話してから、俺はふふっと思い出し笑いをする。
「ところが、その医者はとんだヤブで俺は術後に酷い熱を出した。その時の俺は10歳。さすがに死なせたら世間が騒ぐから、オヤジは別の闇医者を頼る。その額なんと1000万。腎臓売った40万なんて大赤字だ」
これは俺の人生でも指折りの「ざまあみろ案件」だった。俺の腎臓なんか勝手に売ったから、クソオヤジは借金まみれ。熱が出て死ぬかと思ったが、今になってみればちょっと痛快だ。
「…でも今こうして生きてるってことは…お父さんがそれを?」
切なげに細めていた瞳を丸くさせて彼は首を傾げた。
「ま、一応は。死なせたら地上じゃ捕まるしね」
俺は起き上がって肩を竦める。そのまま彼に了承も取らずに膝に頭を乗せて横になった。
「まだ乾ききってないよ?」
「だってこっちの方が気持ちいいんだもん」
そう言ってシャムはふふっと困ったように笑うが、俺をおこすでもなく前髪を優しく撫でる。彼の膝に頬を擦り付けるように甘えると、なんだか凄く気分がいい。
「それで…それからどうなったの?」
「うん、まあ…そんなことがあって、オヤジは大激怒するんだよな。俺を引き取ったのは間違いだったとか、恩知らずとか、めちゃくちゃな言い様だったけど暴力はピタッと止んでさ。俺はてっきりオヤジが改心したもんだと思ってたんだけど、俺が13歳になった日に家に知らない男たちが3人も来てさ。オヤジに1300万を引き換えに俺を持ってくって話すんだ。抵抗したけど、さすがに大人にはかなわない」
後から知ったが、クソオヤジが俺を叩いたりするのをやめて最低限の飯を与えたのは、地下から13歳で運動神経の良い健康優良児が欲しいという飼い主に俺を売るための準備だったそうだ。大赤字になった時に依頼を受け、そのために俺を育てたのだろう。
「そんな…1300万で…」
彼は悲しそうな顔で俺を見る。今にも泣きだしてしまいそうな彼の頬を優しくなでた。
「こう見えて俺って意外とお高い男なんだぜ」
彼に暗い顔をさせたくなくて、ニッと笑って冗談を言う。実際、労働用で1000万超えなんてなかなかないと聞く。
「地下に来て、すぐに知らない男に労働用に買われた。ちゃんと飯が出て、寝床があって、毎日体術を学ばされる時間があったけど、地上より家はマシだったよ。友達いなくなって寂しかったけど、来てよかったって思うことにした」
「…いいお家に貰われたんだね」
少し安心したような口ぶりではあったが俺の腕を撫でながら呟いたシャムは、その後の展開をなんとなく覚悟しているようにも見えた。
「いいお家ではなかっただろうなあ…数ヶ月もしたら、ファイトクラブに連れて行かれた。殺し合いの賭場で、俺は選手…闘犬としての登録された。今まで学んだ体術と武器で初めて知らない人と殺し合いすることになったんだ。人を殺して、相手の脳みそが飛び散るのを見てげろげろ吐いた。快適な暮らしはその夜までだったよ」
今では平気な顔で腕を切り飛ばしたり、射殺できる致命的殺傷兵器(リーサルウェポン)になってしまったが、昔はちゃんと普通の人間をやっていた。
誰かを傷つけるのに慣れていくのは、いまでもやっぱり複雑だ。
「ファイトクラブの仕組みって、弱そうなほどベットが上がって飼い主の収入が増えるんだ。13歳の子供なんていかにも弱そうだろ?荒稼ぎしたけど、1年も毎日毎晩連戦を続けたらさすがに疲れる。注意力が欠けてたんだろうけど、武器を落とした時に相手の攻撃を両腕で塞いだら両腕とも失った。丸ノコのチェーンソーを武器にした頭のおかしい奴だった」
彼はため息をついて、笑顔のまま彼の膝の上で目を閉じた。
「俺のファンがリング外から殺すなってコールしてくれてさ。失血のショックで俺も気を失ったから、なんとか殺されずに生き延びた。そんな流れで、飼い主は俺に新しい武器を与えようと義手と武器を取り付けた。起きた時はたまげたよ」
次に目を開けると、彼は少し顔を青くさせて口元に手を当ててなんだか具合が悪そうにしている。
「えっ!ごめん!大丈夫!?」
バッと起き上がって彼の背中を摩る。考えてみれば、俺が初めて彼に会った時も他人の腕を切り落とした後に具合が悪くなっていた。俺の話を鮮明に頭に描いてしまったのかもしれない。
「トイレ行く…?」
「う、ううん大丈夫。ごめんね、続き聞いても良い…?」
まだ少し青ざめた顔で彼は困ったように笑って見せる。
「あんまり聞いてて楽しい話じゃないよ。また具合悪くするかも」
彼は箱入りの箱入りで、俺から聞けばまるで楽園のような場所でふわふわと育ってきた人だ。そんな彼には俺の生きてきた世界は汚すぎて、ここまで話しておきながら、言わなければ良かったかもしれないとすら思えてくる。
「大丈夫。エリオの話、聞きたいな」
彼の笑顔に俺は眉を寄せて笑う。
シャムの華奢で柔らかい指先を左手でそっと握り、右手首で彼の腰を控えめに抱き寄せた。
「…俺が15の時に、新しい犬を飼い主が買った。13歳の幼い少年だ。俺で稼げたことに味を閉めた飼い主が、もう1人同じような犬を作って稼ごうとしたんだろうな。少年は人を殺したくないと酷く嫌がって、飼い主から虐待を受けるようになった。見てられなかった」
虐待を受ける子供は、なんだか昔の自分に重なった。彼が放っておけなくて、俺は彼を弟のように可愛がった。
「彼がファイトクラブにデビューする日、3勝まで勝ち抜いたがすぐにボロボロになった。酷い怪我をした彼を、飼い主は死ぬまで戦わせたらいいと、棄権させなかった」
「そんな…酷すぎるよ…」
彼はまた潤んだ瞳で俺を見た。シャムは優しいからいつも他人の事でそうやって泣きそうになったり、自分の事のように喜んだりしてくれる。
俺は彼のそんな姿を見て、荒みきった気持ちが少しだけ人間に戻れたような気がする。だから、彼にはそのままでいて欲しいと心から願っている。
彼が泣いてしまわないように肩に頭を乗せて身を寄せた。
「彼の次に試合を控えてた俺は、戦いが見える柵の向こうで彼が追い詰められるのを間近で見ていた。彼が死ぬと思うと、どうにも怒りが込み上げて、俺は武器を使って柵を壊し、戦闘に乱入してしまったんだ。大勢から野次が飛んで、関係者が皆で俺を捕縛しに来た」
そこまで話し、俺は少し沈黙する。
俺がここに落とされた原因はここにある。これを話したら、彼に嫌われるのではないかと心配になった。
「…その時に、施設の人間を全員殺したんだ。追ってくる奴も、施設を管理していた奴も。ここが潰れれば、もう誰も望まない戦いを強いられることがないだろうって思って…馬鹿だよなあ、あそこにいるのが全員なわけないのに」
彼に嫌われたくなくて、少し語尾が小さくなる。それでも、俺は間違ったことはしてないと思っている。いや、思いたい。
だから、シャムに隠す必要はないはずだ。
「怪我をした少年を連れて逃げた。野良暮らしくらい、何とでもなると思ってた。だけど、大勢の人間が俺は危険だと追いかけてきて、少年が捕まって連れ去られてしまって…あの飼い主から引き離さないといけないと思って追いかけた先で俺も捕まることになる。少年だけは逃がしてくれと頼んだら、少年はもういないって言われた。俺をおびき出すのと引き換えに、新しい飼い主を紹介されて、今は幸せに暮らしてるって」
緊張で強ばる顔でなんとか笑顔を作ってシャムを視線だけで見上げる。
彼はとても優しい顔で俺を見ていた。沢山人を殺した右手に変わらず手を添えて、優しく擦る。
「そうだったんだ…エリオはその彼にとって神様みたいな人だったんだね」
シャムは「頑張ったね」と付け加えて俺の髪を撫でてくれた。
それが凄く嬉しくて、凄く安心した。甘えるように彼の首元に顔を埋め、頭を擦り付けると彼はそれに頬擦りで答える。
「…俺のリーサルウェポンって致命的殺傷兵器って意味でさ、たくさん人を殺して最下層に落とされた俺にはお似合いだって、ずっとその名前で呼ばれてるんだ。右腕もこんなんだしさ」
本当はリーサルウェポンって名前は嫌いだ。そんな名前で呼ばれて、ずっとこの街で生きて死んでいくなんて本当は凄く嫌だった。
「シャムは俺みたいな殺人兵器、怖くない?今の話聞いてて、ちょっと嫌になったんじゃない?」
「ううん、エリオがずっと優しい人で安心したよ」
彼は俺の右手に掘られたライオンの絵を撫でながら目を細めた。
「この手は殺人兵器なんかじゃなくて、何かを守るための手だもん。強くて優しいライオンの爪みたいな」
シャムは出会った頃と同じふわふわとした笑顔で俺を見つめる。その笑顔に自分の顔に熱という熱が集まって、怒りとは違う意味で髪が少し逆立つのが分かった。
彼をバッと両腕で抱きしめ、彼の頬に自分の頬を擦り合わせた。
「だめだー、女神すぎて浄化されそう…」
「ふふっ僕は男の子だよ?」
腕の中でシャムがくすくす笑う。彼のその可愛い笑い声を聞いているだけで俺は凄く幸せだ。
身体を少し離して、俺は彼の目を見つめる。心臓が酷い音を立ててる。まるで地震でも起きてるみたいだ。
「…シャム、あのさ…」
真剣な顔で彼の名前を呼び、左手と右手で傷つけないように彼の手を挟むように優しく握る。
シャムと出会ってもうすぐ1週間。そんな短い間でこんなことを言うのは、あまりに気が早い気もするが、どうしても言ってみたかった。
「ここにいる間だけでいいから、俺の恋人になって欲しい」
驚いたように丸くした目でじっと俺を見つめるシャムは、みるみる顔を赤くさせてあたふたと慌てたように視線を泳がせる。
「えっ…で、でも僕…そ、その…あんなこと…それに…体…だって…」
「関係ないよ。俺はシャムが好きだし、ずっと好きだから、シャムが俺のこと無理じゃなかったら考えて欲しい」
もしかしたら、昨日の出来事が俺を急かしていたのかもしれない。早く自分の恋人にしないと、誰かが彼を持って行ってしまうんじゃないかって、そんな身勝手な焦りと願望が根底にはあったんだろう。
「そ、その…答えは決まってる!…僕もエリオのこと…許されるなら…」
彼は真っ赤な顔で真っ直ぐに俺を見つめた。
「許すも何も俺がお願いしてるんだよ?こちらこそ恋人になって下さい!お願いします!」
彼に笑って勢いをつけて頭を下げ、手を差し出す。
差し出された手を優しくとって、シャムは照れたように柔らかい笑みを浮かべた。
「…こちらこそ」
なんとなく、許可が貰えるのではと期待はしていたが、彼の言葉に顔を上げる。彼の笑顔に心が浮ついて、腹の奥がムズムズするような嬉しさが込み上げる。
「やった!シャムが俺のこと好きだって!両想いだ!」
彼をもう一度力強く抱きしめると、彼の顔中にキスを降らす。元々キスは比較的許されていたが、恋人ならもうなんの気兼ねもない。
シャムはくすぐったそうに身をよじらせて、はにかんだ笑みで俺の口に唇を寄せてくる。それに合わせて自分の唇で押し返す。食べるみたいに彼の唇を食む。
「ふふっ…僕のこと食べるつもり?」
「ライオンは肉食動物だからね!」
笑っている彼の唇に笑いながらまたキスをする。唇の感触を思う存分楽しむと、舌を彼の唇の隙間に差し込んで中を味見する。
すると俺の舌に彼の舌がかまって欲しいと言わんばかりに、まとわりついてきて離れない。こんなに積極的なのは初めてな気がして、嬉しくて身体が熱くなる。
ずっと気になってた彼の胸をシャツの上から手で優しく揉みしだく。胸の先端を押し込んでこねると、小さく声を漏らして反応を見せる。
「…ここ、シャツの上から分かるくらいずっと立ってて気になってた」
キスの合間にニヤニヤと笑い、俺はそれを布越しに摘む。
「ん…そこはっ…だって…弱いっ…から」
「知ってるけど、俺の前以外はそんな格好禁止ね」
指で摘んで控えめにひっぱり、もう片方をシャツごと口に咥える。唾液を含ませて舌で彼の胸を捏ねて吸い上げる。
「ぁ…エリオっ…そんな…だめ…」
彼の言葉を聞きながら、聞いていないフリをしてシャツにわざと唾液を染み込ませていく。濡れて張り付いたそれごと彼の胸をしゃぶり、吸い上げた状態で引っ張る。
「ひぁ…ん…えりっ…ぉ…」
チュポと音を立てて口から離れたそれは、濡れて透けたシャツが張りついて、濃い桃色の先端をくっきりと浮かび上がらせた。
「こんなにいつも膨らんでるシャムのおっぱい可愛いよね、いくらでも吸ってられる」
シャツを着ている意味をなさないくらいに透けた布の上から、その桃色の突起を指で弾く。ぷるぷると揺れ動くその様がまたスケベで可愛い。
「ぁん…それ…だめぇ…」
ビクリと体を震わせ高揚した様子で息を荒くする彼は、どう見ても「だめ」には見えない。
彼の胸を左手と、右手のバレル部分で摘んで両胸を一緒に引っ張る。
「だって気持ちよさそうなんだもん。嫌い?」
痛くない程度にきゅうきゅうとひっぱり続けると、シャムは内腿をモジモジとさせながら気持ちよさそうに俺に身を委ねる。
「んん…きもちい…けど…はずかし…」
「膨らんじゃって、スケスケだからシャツの意味ないもんな」
ひっぱり続けていた両手を離すと、ビクンと背を反らせてもっと触ってと言いたげに潤んだ瞳をこちらに向ける。
「ごめ…さな…でも…それ好き…なの…」
控えめに強請るシャムが可愛くて、自分も下半身が辛くなってくる。
彼の胸をバレルでなぞったり弾いたりしながら、左手でシャムの手を掴んで、自分のズボンの前に押し当てる。
「じゃあ、俺はシャムの触るから、シャムはこっち」
「ん…ぁ…熱くなってる…」
ズボンの上からさすさすと撫でられるとゾワゾワするような快感が抜ける。
彼の胸をまたシャツごと咥えて舐め始めると、股間を撫でる手つきも段々といやらしくなっていく。
「っ、はあ…」
ゾワゾワとした快感に熱い息が漏れる。彼の濡れた胸をしゃぶりながら呼吸を整えた。
ふと、モゾモゾと股間を探られるような感覚がしたと思うと、彼の細い指がジーパンの前から侵入してきたことに気がつく。熱くなったそれに対して、彼の指は少しひんやりしていて肌触りが良かった。
そのまま彼の指が直接、裏筋を撫で始める。1番好きな場所を優しくなぞるそれは、刺激が弱くてもどかしい。
彼の指に押し付けるように腰を浮かす。
「ん…はっ…もっと触って…ほしい?」
「うん…触って」
彼の胸から口を離し、囁くように答える。
彼のシャツのボタンを開け、肘までシャツを下ろして脱がせると、びしょびしょになったその胸を直接口に含んだ。
「んっ…えりぉ…そこ…よわ…ぃ…!」
ビクビクと悶えながらよがる彼は、手に添えたままの俺の裏筋に少し強い刺激を運んだ。
「うっ、びっくりした…」
急に締められた刺激で腰が震えて出た変な声を誤魔化そうと、笑って無理やり言葉を続ける。
「ごめ…ね…ここ…エリオの…あてて…」
シャムは片手で俺の股間を撫でながら、もう片手で固くなった自身の乳首を撫でて俺を誘う。
「おっぱいを俺ので擦るの?」
「ん…エリオの好きなとこ…ここに当てて…」
吐息混じりに囁くシャムがとろんとしていて、とてもそそられる。そんなえっちなお誘いを断れるわけがなかった。
彼をゆっくりと後ろに押し倒し、彼の腹にまたがる。そのまま自分のを彼の胸の上に置いて、押し付けるようにして腰を押し込む。
彼の固くなった乳首が俺のを擦れる感覚は新しい。ぷにぷにとしていながら弾力のあるそれは擦れる度に痺れるような快感が走る。
「あっ、これ…いいかも…」
徐々に速度を上げて擦り、空いて寂しそうにしていたもう片方を左手で摘んで引っ張った。
「はっ…ぬるぬるでっ…熱…きもちっ…」
彼が俺のを胸に押し付けるように両手を添えると、胸の弾力に彼の指の擦れる感覚が加わって、頭がふわふわしてくる。
しかし…しかし、この体勢ならもう1つやりたいことが…。そんなことを考えつつも腰を止められない。左手で彼の胸を掴むように押し込み、腰を動かす。
「はっ、はっ、きもちい…っ、シャムの柔らかい…っ」
激しく動く度に裏筋にコリコリとしたシャムの乳首が擦れる。その感覚に溺れないように呼吸を整え、何とか射精を踏みとどまる。
「…ねえ、シャム…このまま口にも入れて…いい…?」
ゆっくり腰を揺らし、胸を擦りながら彼の頬を先でつついた。シャムの可愛い口に入れてみたいって思うのは、全くもって正常な思考だと思う。
「ん…いいよ…」
シャムは柔らかそうな唇を開きその隙間から誘うようにピンク色の舌先をペロリと出した。
彼の舌先に自分のものを押し当てるとそれは彼の体内とはまた違った温かさがあった。少しずつ中へと押し入れていくと、彼はそれを吸い上げて舌で裏筋を舐めてくれる。
シャムの可愛い顔の傍、彼の唇に自分の性器が入っているという図が、もはや冒涜的な気すらして背徳感が凄い。簡単に表現するなら興奮する。
「ああ…やば…」
自分の口からため息とも取れる溶けそうな声が出た。ゆっくり抜き差しするだけで、興奮が興奮を呼んでどんどん硬くなってしまう。
彼の柔らかい口内に夢中になっていると、急に彼は顔を逸らして俺のものを口から取り出した。
「エリオ…交代する?」
「えっ、いいの?」
交代ってなんだろ、騎乗位かな…なんて夢のようなシュチュエーションがめくるめく頭に浮かび上がる。
その場に座ると、シャムがどの体勢になるのか出方を伺う。
彼は頬にかかった髪を耳にかけながら、俺の足の間に横座りになると俺の性器に顔を寄せる。そのまま匂いを嗅ぐように鼻先で撫でてから先端にゆっくりと舌を這わし、柔らかい唇をぷにゅぷにゅと押し当てた。
「シャムめっちゃ可愛い…」
彼の頭を左手で優しくなで、頬を伝って彼の唇を親指で軽く押す。この柔らかそうな唇に本当の自分の手で触れないのが残念だ。
シャムはゆっくり俺の物を口の中へと沈めていく。
中でぬるぬると舌を絡められ裏筋をなぞるように舐められる。時々水音や空気を含んだ音を鳴らしながらの、ねっとり絡みつくようなフェラは気持ちよくて足が震えた。
「あ~…きもちい…っ、シャム、上手くね…?」
呼吸を整えながら一生懸命舐めてくれている彼の胸に手を伸ばす。立ったままのそれを両手で優しく摘んで、指の中でこりこりとこねる。
「んっ…ふっ…んむぅ…」
彼はそれがとても気持ちよくてとろけそうな顔をするのに、しゃぶりついたまま離そうとはせずに一生懸命舐め続けるのが最高にエロい。
「こんな、天使みたいなのに…音立てて俺の舐めてくれんの…乳首立たせたままなのヤバいね…?」
溶けかけた思考で彼の乳首を両方とも引っ張って離す。震えるそこをまた指で押し込んで、また引っ張る。これが楽しくてクセになりそうだ。
「えりお…それっ…ずるぃ…」
乳首をいじられると上手くしゃぶれないのが困るのか、シャムは眉を下げて笑う。
再び俺のものを口に頬張り、先の方をじゅるじゅると吸い上げる。下の方を細い手で握ってしごかれるといよいよ出そうで息が短くなっていく。
「はっ、はっ…やば…シャム…」
足がビクビク動いてしまい、俺は少し前屈みになる。でも、彼にも気持ちよくなって欲しいので、胸をいじる手を止めず、両胸を引っ張ったまま少しそのまま静止させる。めっちゃ胸を伸ばされたまま、赤い顔で頑張って舐めるシャムの姿が悩ましすぎてますます興奮するだけだった。
「ああっ、出る…無理むり…っ」
彼の頭を抱えるように前のめりになると、彼の口の中に我慢していたものを吐き出す。大量に出るそれを残さずちゅっちゅと唇で吸い上げると喉を小さく鳴らして飲み込んだ。
最近気付いたのだが、俺のは水っぽいけど大量に出るようで、彼に中出しするたびに申し訳なく思っていた。口になんか出したら最高に厄介だろうと思って、シャムにティッシュを渡す準備をしてたのに、あっさりと全部飲み込んでくれた彼に目を丸くしてしまう。
「…飲んじゃった?」
ティッシュ箱を片手に訪ねると、彼はハッと俺の顔を見てかああっと顔を赤くさせる。
「…ご、ごめん…飲んじゃった…」
「あんなに大量だったのに、しんどくなかった?」
思わず笑いながら彼を抱き寄せ、顔に何度もキスをする。
「飲んでもらうつもりじゃなかったから嬉しい誤算!ありがとう」
「えっ…へへ…それなら良かった」
俺の腕の中で彼は頬を赤く染めたまま微笑む。彼の暖かい頬に自分の頬を押し当てて、しばらくぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「…シャムも気持ちよくなりたいよね。どうしたい?」
抱きしめたまま、彼の尻に手を伸ばす。腰から指を侵入させ、パンツの下を撫でる。
昨日は痛くしていいと言われて、彼の前も好き放題しゃぶったが、たまに痛そうな声も出していたので心配だ。大体からして、服を脱ぐのにまだ抵抗があるなら無理強いも出来ない。
「…いい?エリオの…中にほしい…」
シャムもやっぱり男の子なので、いつも後ろより前の方が好きそうだと思っていたが、思わぬリクエストに、胸が右ストレートを食らったような動悸が走る。顔に物凄い熱が集まって、うっかり鼻
血が出るかと思ったが、鼻を抑えたらセーフだった。
「…だ、だめかな…?」
もじもじと内腿を擦り合わせながら恥ずかしそうに下を向く彼は、小さな声で呟く。
「だ、大歓迎だし!むしろ嬉しい!」
俺は慌てて答えると、さっさと上着とTシャツを脱ぎ捨てて、ズボンを下着と一緒に脱いでしまう。恥ずかしがり屋のシャムから全裸に剥くのはちょっと可哀想だ。可哀想なのも可愛いから見たい気もするが、今は違う。
「脱がせてもいい?」
彼の正面に座り、彼の太ももに手を置く。
「…うん」
彼は少し緊張したような顔をして俺に背を向ける。殆ど脱げかけだったシャツを床に捨てて、彼が自分でベルトと金具を外してくれたスキ二ーを下に引き下げるとシャムは少し腰を浮かせてくれた。
以下にも脱がして欲しそうなそれに手をかけてゆっくりと下に下げる。彼が痛くないように、出来るだけ横に広げて下ろすと、シャムは足を抜いてくれた。
何も言ってないのに彼は四つん這いでお尻を突き出して首をこちらに向ける。
「気持ちよく…して欲しいな」
こんなことしてくれると思わなかったので驚きと興奮で生唾を飲む。彼の尻に頬を寄せ、左手の指先でもどかしく入口のまわりをなぞった。
「シャムは舐められるのと、指入れられるのどっちが好き?」
恥ずかしがり屋の彼はあまり答えてくれなさそうな質問をダメ元で投げかける。穴にキスをして、指先を1本だけ中へと沈めた。
「ぅ…それは…」
「気持ちよくしたいから知りたいな」
想像通り顔を赤くして口ごもるシャムの中をゆっくりと探りながら、追撃を重ねてみる。
「ゆ…ゆび…」
もじもじと消えそうな声で彼は答えた。
「指の方が好きなんだ。ゆっくりと早いのどっちが好き?」
恥ずかしがり屋だから気を使ってたはずなのに、恥じらいながら答えてくれるのが可愛くてついつい色々聞いてしまう。
ニヤニヤと笑いながら彼の好きな場所を指で押し込んで引く。繰り返しながら指を増やし、激しくはせずにもどかしい速度を保って彼の返事を待つ。
「っ…あっ…は…はやいっの…」
もどかしくされるのは辛いようで、俺の指を急かすように腰を揺らして催促してくる。
「激しいやつの方が好きなんだ?ちょっと意外」
腰を揺らす姿がいじらしくて可愛いが、これがどんどん乱れていくのを考えると今から楽しみで興奮する。
彼の背中に胸をつけるように前かがみになり、そのまま指で彼の中を掻き回す。彼の好きな場所を先ほどよりも強く押し込んだり、指を少し広げて空気を入れる。ぐちゅぐちゅ音を立てて激しく責めながら、後ろから彼の胸をバレルでなぞった。
「はあっ…あぅ…やっあぁん…!」
激しいのが好きと言ったりやだと言ったりと矛盾が凄いが、どうにも嫌がってるように見えないのはいつものことだ。
シャムは段々と足が立たなくなって、少しずつ腰を落としていく。
「腰落としたら、上から入れたくなるんだけど、もう入れていいの?」
彼の甘い声を聞きながら夢中で彼の中をいじる。うつ伏せに寝転ぶシャムの上から叩きつけるように自分のを入れて腰を振るのは最高に気持ちいいし、彼も悦んでくれるから大好きだ。大好きだけど、腰を落とさないように耐える彼の姿も健気で可愛いのでいつまでも見てられる。
俺にはどっちも選べないので、シャムに選んでもらうことにした。
「ひぁ…あぅ…ほ…しい…えりお…ぉ…」
もうすっかり沈んでしまった彼が頬をシーツに押し当ててとろとろになりながら、甘ったるい声で鳴く。そんなお強請りされて我慢出来るわけもない。
彼の中から指を抜いて上に跨る。彼の入口に自分のを先だけ入れて、一気に1番奥まで突き上げる。最奥の狭い場所を押し空けるように力強く根元まで押し込んだ。
「ひぎっ…あ"…」
小さな悲鳴をあげて体を反らした彼の中が大きくうねり痙攣する。何度も経験したその動きは、それだけで彼が果ててしまったことがわかってしまう。
「激しくって言われたから激しくしようと思ったんだけど、大丈夫…?」
聞いたことのない彼の悲鳴に彼の顔を覗き込むと、ぼんやりとした瞳で俺を見つめながら熱い吐息混じりに首を横に振る。
「だ…いじょぶ…じゃな…もっと…して…」
「大丈夫じゃないのにもっとしていいの?」
思わず聞き返しながら笑ってしまうが、こんな気持ちよさそうな顔で言われたら盛り上がってしまって、俺が止まりそうにない。
「じゃあ…しんどかったら言ってね」
彼のとろけた顔に触れるだけのキスを何度か降らして、彼の中に入れたままのそれを動かす。
リクエストに答えて、ギリギリまで引き抜いて最奥まで突き上げる動きを肌を打ち付けて何度も繰り返す。彼が痛くないギリギリの強さで腰をぶつけると、肉がぶつかる音に混ざって空気が残った彼の中から時折ズブズブと下品な音が鳴る。
「あっ…や…もっ…音っ…なんでぇ…」
音が鳴るのがそんなに恥ずかしいのか彼はどうにか音を止めたいらしく、中が緩んだり狭まったりと動き出す。
それでもなかなか止まらないその音に、彼の耳の後ろが真っ赤になっていた。
「うっ…あん…は…だめっ…音…とまんな…」
こんな天使みたいな清い子が自分の下で乱れてる上に、下品な音がするのがすでにギャップ萌えで大興奮だが、音がとまらなくて狼狽えながら喘ぐシャムも最高すぎる。
敢えて音が出やすくなるように彼の中を抉るように腰の動きを変えて突き上げる。中にどんどん空気が入ってますます音の鳴る頻度が上がった。
「めっちゃ音すんね…?えっちな音する…」
彼の耳の後ろに顔を寄せて笑いながら、右手で彼の腰を抱き込んで、左手で彼の乳首を引っ張った。
「きゃ…んっ…ごめ…音ごめなしゃ…っ…我慢っ…できにゃ…っ」
言葉をかけると彼の中がビクビクと強くしまった。恥ずかしい思いをさせると彼の中がよく閉まっているようなきがする。
引っ張られた乳首は、そのままクリクリ指ですり潰すように転がすとコリコリとした感触が伝わってきそうなほど芯のあるような硬さがあった。
「はっ…んあ"…い"…コリコリぃっ…らめぇ…!」
「なんで?こんな、硬くなってて…すごく嬉しそうだよ?」
腰を休めずにそのまま硬い乳首を指で潰してこねる。
「なんか、いつかミルクでも出そうな硬さしてる…女の子みたいで可愛い…」
彼の首筋に唇を当てて、痕が残るくらい強く吸い上げる。腰を1番奥まで力いっぱい突き上げ、奥をグリグリと押し付けながら彼の胸を弄ると、中が嬉しそうに締め上げてくるのが最高に可愛い。
「ふぁ…う"…で…でな"いっ…もん"…」
シャムは必死な様子で首をぶんぶんと横に振る。しかし女の子みたいだと言われた彼の中が、嬉しそうに何度も締め付けるのは俺には隠せなかったらしい。
「でも、中…凄い締まる…女の子みたいって悪い気してない…?」
中があんまり締まるので、正直もういつ出てもおかしくないくらい気持ちいいのだが、シャムに話しかけ続けているせいで、なんとか思考が保たれている。荒い呼吸で我慢するより、効率的かもしれない。あと、シャムが可愛い。
「もっと乳首いじめたら、おっぱい膨らんで女の子になるかもよ」
コリコリの先を指先で弾く。それに合わせて中がぎゅっとしまって、シャムは女の子みたいな声を漏らす。
「っあ…んんっ…!おんにや…のこ…なんな…いもん…!」
「ミルク出ないからなんない?」
胸に当ててた手を彼の下半身へと持っていく。もう一度出してヌルヌルと滑りの良いそれを手で包み、ピアスが擦れないように根元から先端の少し手前までをしごく。
「こっちは出るんじゃない?」
前を扱きながらもう一度腰を動かし始める。徐々にスピードを上げて、再び音が鳴るまで腰を叩きつけると、手の中で彼のものが擦れて彼はいよいよ泣きそうな声へと変わる。
「そ、っち…でちゃう…すぐっ…女っ…の子…なる…のっ?」
「女の子に、なっちゃう…ね…!」
中がうねって話す余裕がなくなってくる。パンパンと音を立てて中を掻き乱すと、彼は何とかハッハッと短い呼吸だけで我慢しようとしていたが決壊したように前から精液が吹き出す。
「い"っや"あ"!!…お…にゃのこ…に"っ…なり"ゅぅっ!!!」
中が今までにないくらい強く脈打つように痙攣して、俺のものを搾り取りにかかる。
もう我慢する理由もないので、自分も快感に任せて彼の中へと射精する。
吹き出すシャムの前はドクドクと痙攣を繰り返しながらドロドロと漏らすように垂れ流した。
「っは…はっ…きもちい…」
「ぅ…じゅぶじゅぶ…ぎもぢ…」
シャムのものとは思えない頭の悪そうなうわ言が耳に飛び込む。俺の下で完全にのびている彼の顔を覗き込む。
嬉しそうな口元からはヨダレをたらし、焦点の合わない目元は涙でびしょびしょになっている。
「…女の子になっちゃったね?」
女の子になるわけがないのだが、ここまで幸せそうに溶けきったシャムを見てると嬉しくて笑いが零れる。
「胸っ…コリコリ…しゅき…いっぱい…おんにゃの子…してぇ…」
縋るように俺の左手を握る彼にまた自分の股間が元気になってしまう。
「じゃあ、ミルク出るまでおっぱい吸ってあげよっか」
もちろん出るわけがないが、こんな可愛いお強請りされたら永遠に出来る。可愛すぎた。
結局、シャムが気絶するように寝るまで楽しんだ。終わる頃には胸は最初より大きく腫れて本当に女の子みたいになってしまった。そのうちブラジャーでも用意してあげた方がいいかもしれない。
彼がピアスを気にしてか、バックを求めてきたことを考えて、可能な限り後ろから答えたが、眠ってる彼をそのままにするのはしのびなかった。下半身が隠れるように毛布で巻いて、その上から更に1枚を一緒に被り、シャムを抱きしめて眠った。
恋人同士でこんなに楽しいことが出来るなら、案外お家デートも悪くない。
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