1 / 13
1章
1
しおりを挟む
※リレー小説なので1節ごとに主人公と書き手が変わります。文体は寄せていますが、違和感がありましたらすみません!※
天底ノ箱庭 -新世界-
1.
空にある切れかけの無数の蛍光灯と、天井に開いた巨大な穴。その穴から差し込む僅かな光は、定期的に運ばれてくるゴミが投げ込まれる時に遮られて見えなくなる。
ここは地下の中でも最底辺。最初の最初に作られた街で、流行病をキッカケに遺棄されたらしい。
この世界は地下と地上で分断されている。いつからそんな文化になったのかは分からない。地上は法律で身の安全や人権を保証されているが、俺の住む地下にはそんなものは存在しない。法がなく、地下を支配するのはSと呼ばれる謎の人物で、マフィアの一種だと聞く。
地下はそんなSが作ったスーパーコンピューターのラプラスが管理しているが、俺のいるこの街は地下のさらに地下にある最下層で、ラプラスの管理も生き届かない。要らない人間、要らない物、なんでもかんでも無差別に投げ込まれるラプラスにさえ見捨てられたゴミ捨て場。地下の中でも最も汚い街だ。つまり、この街にあるのはどうしようもない物と人間だけ。俺も人間のゴミクズだ。
唯一使える左手で、俺はゴミの山を登る。右手はあるが、ないに等しい。俺の右手は銃剣だ。肩から全て無機物で作られている。本当は右利きなのに、おかげで左手も随分器用に使えるようになってしまった。
剣の先を山に刺し、もう片手で身体を支えて小さなゴミ山のテッペンまで登った。持ってきた傘をさして上を見上げる。今日も空気中に舞う汚い塵が、穴から差し込む光でキラキラと輝く。
ここにいれば、新しいゴミが来た時にいち早く見に行ける。俺の一日は、ここでぼんやりと空を眺めて食料を調達して過ごす。こんなクソみたいな街だから、食料はいくらあっても困らない。
いつもの時間、いつものように街が小さく震える。パラパラと頭上から小石や砂が落ち、傘を小さく叩いた。
今日は何が落ちてくるだろう。調達資源は主に賞味期限切れの缶詰だが、弁当やお菓子とかがあったらラッキーだ。食えるなら食材でもいい。一応、飯を作れる環境はある。
そんなことを考えていると、天井の大穴から差し込む光が消える。穴からバラバラとゴミが降る。ゴミが降ってくるにも順番があった。
最初に降ってくるのは小さなゴミだ。食べ物も大概ここに混ざっている。次が粗大ゴミ、有害ゴミ。有害ゴミが降る前に食べ物は回収しないと食えなくなるし、なんなら粗大ゴミに潰されて液状化するか粉末になるかの2択。つまり、すぐに拾わないとダメなのだ。
そんなことを考えていると、降ってくるゴミの中に一つだけ妙に大きな影が混ざって落ちた。大きさは大きなゴミ袋5つ分はある。粗大ゴミが混ざって入ってきたのだろうか。
大体のゴミが落ちてきたのを確認してから、俺は傘をさしたまま確認しに近付く。右手についた剣の切っ先で撫でるようにゴミをかき分けると、中から人間の手のようなものが出てきた。
「…なんだこれ」
その場にしゃがんで左手でゴミをさらにかき分ける。すると、中から出てきたのは人形みたいに整った顔をした青年が出て来た。
人形かと思って肌に手を触れさせるが、両手とも義手の俺では人の体温は分からない。仕方ないのでゴミに埋もれた彼の顔に耳を近づけると、彼の口からは微かに吐息が漏れる音が聞こえた。
人間だ。人形じゃない。
「おい、起きろ!死ぬぞ!」
彼の肩を左手で掴んで揺さぶる。そうだ、急がないとこの後に粗大ゴミが降ってくる。そしたらペシャンコだ。
大体からして、人間のゴミは有害ゴミの後でクレーン車で降ろされる檻に入っているはずだ。彼が人間だとしたら、明らかにタイミングがおかしかった。
「うーん…痛いよぉ…」
寝言のようなもにゃついた声でうなされているような青年は簡単には起きそうにない。
仕方がないので傘をその場に放棄して、彼の身体を両腕に引っ掛けて持ち上げる。そのままゴミの山から滑るように降りると、再び街が震える。
「うう…起きる…起きるよぉ…」
まるでまだ眠い朝に鳴った目覚まし時計に対するリアクションのように手を振りながら、彼はうっすらと目を開く。
振り返ると俺たちがいた場所に粗大ゴミが落ちていく。大きな音を立てて地面に叩きつけられるそれに俺の長年愛用してきた傘が潰される。粗大ゴミに埋もれて消えてしまった元相棒に、俺はため息で別れを告げた。
「あいたたた…腰ぶつけ…あれ…ここ…どこ?」
半分寝ぼけていた様子の彼は薄眼で辺りを見まわすと少しずつ目を丸くして、きょとんとした顔で俺を見る。
「ゴミ捨て場だよ」
吐き捨てるように言ってから、俺はゴミ山に向けていた視線を彼に向ける。
黒い髪に白いメッシュが入った髪の毛と、チャラチャラした髪型には似合わない少年のような可愛いらしい顔立ちだ。冷たすぎない優しい色合いの透き通った水色の瞳は、困ったように俺の目を真っ直ぐに見つめていた。
俺は彼をその場に降ろすと、彼はよろよろと覚束無い足でなんとかバランスを取ってその場に立ち上がる。
「…お前、どっから来たの?新入りなんだろうけど…なんでゴミに混ざって落ちてきたんだ?怪我は?」
片方の眉だけ吊り上げ、彼をジロジロと観察する。ファーのついた立派な白いジャケットに黒いスキニージーンズを履いているが、ゴミに紛れていたせいか既に少し汚くなっている。
「え、うーんと…今日はお休みだったからドーナツを庭園エリアで食べようと思って買ってから、食べる前に手を洗おうとしたんだ。でもねその時に脇に置いてたドーナツの箱に隣の人の肘が引っかかっちゃってダストシュートに入っちゃったから、慌てて廃棄コンテナまで取りに来たんだったような…?」
ドーナツ1つで廃棄コンテナまで必死に追いかけてくるような天然なんているか?思わず首を傾げたくなる内容だ。
難しい顔でここに来た経緯を思い出そうとしている彼の髪についた小さなゴミを掃ってやると、気の抜けた笑顔で「ありがとう」と言って俺をじっと見つめる。
水鏡のような透き通ったアイスブルーの瞳が弧を描く。白い肌が薄い桜色に染まり、潤いのある柔らかい唇の隙間から小さな白い前歯が覗いた。
それを見た瞬間に胸に感じたことのない痛みが走った。わけも分からず顔が熱くなる。彼の顔から目が離せずに、目を丸くして見つめる俺に彼は不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたの?あっ、もしかしてまだなんかゴミついてる?」
「あ、いや…何でも…ついてないよ」
謎の動悸に首を傾げながら、俺は目をそらす。何だろう今の…。
物珍しそうに俺の腕を見つめたり当たりをキョロキョロと見回して彼は首を傾げる。
「…それ最新の武装装備?武装研究チームっていつもやること面白いよね」
「ブソウケンキュウ?それはちょっと分かんねえけど…それより、ダストシュートから来たなら新入りじゃないよな。腕時計ある?」
彼の指す10階がどこの10階なのか知らないが、もしかしたら彼はこのゴミ捨て場に来るべき人間じゃないのかも、なんて思っただけだった。
「腕時計なら勿論ここに…」
そう言って彼が左腕を見せるが、そこに腕時計らしきものはない。
「あれ…あー!そっか僕、手を洗うときに外したのにドーナツの事で慌てて忘れてききちゃったんだ!」
彼は「思い出した!」と言いたげに手をたたいて朗らかに笑った。
「ああ、そうなんだ…」
腕時計はここに落ちてくる人間は必ずSの関係者に没収される。持っていれば本当に迷い込んだ人間説が濃厚になったのだが、そう都合よくいかないようだ。
彼はとびきり可愛いが、ゴミ捨て場にくる奴は、やっぱりみんなゴミクズかイカれた奴に決まってる。あんまり肩入れする前に離れよう。
「じゃあ、俺帰るわ。傘も死んだし。気をつけてな」
ヒラヒラと右手の剣を振って、俺は彼に背を向ける。
「え、行っちゃうの…!?ま、待っ…ああっ!」
不安そうな彼の声とガラガラとゴミが崩れた音に視線だけで振り返ると、彼はゴミ山に足を取られたのか尻もちをついてペタンと座りこんだまま泣きそうな顔で俯いていた。
あんなに可愛い顔でそう狼狽えられると、何故だか胸がギリギリ締めあげられるように痛くなって放っておけない。俺は下唇を噛み締めてから、深くため息を吐く。
こんな街で知らない人間になんの対価も求めずに施したら自滅すると良く分かっているのに、身体が言うことを聞いてくれず、つい傍に寄ってしまう。
「…道案内したら、何かお礼くれる?」
彼の前に戻り、しゃがんて顔を覗き込む。
「お礼…あっ、それならさっき買ったドーナツがあるよ!君、甘いものは好き?」
彼は嬉しそうな顔で大事そうに抱えていたひしゃげた紙箱を開ける。
寝てても離さなかったそれが、まさか食べ物だったとは。俺はその箱を覗き込む。中には形が崩れたドーナツが5つ。まだ甘い匂いを放つそれは、一体何年ぶりに見る物だろうか。
「あっ…ごめん…ぐちゃぐちゃだ…これじゃちょっとお礼にはできないね」
彼はひしゃげてしまった箱を丁寧に閉じると、ゴミに足を取られながら再びよろよろと立ち上がる。
「ごめんね、お礼って後払いでも大丈夫かな?…あとゴミ箱、どこかで見かけなかった?」
そう言って彼はドーナツの入った箱を小さく上下に振る。どうやら箱を捨てたいらしい。
大体からしてゴミ山の上でゴミ箱を探すなんてどういうことだ。その流れだけで、彼は俺とはまるで違う文化の人で、少なからずこの街にはいないような上品さを持ってることだけは良く伝わった。
「何言ってんだ、ドーナツなんかご馳走だよ!それで十分すぎる、引き受けるよ」
俺は彼から箱を受け取って笑う。話しながらもう口の中が唾液で溢れてくる。甘いものが食べられるなんて、この青年がどうあれラッキーだ。相棒の死も無駄ではなかった。
「えっ?でも、本当にぐちゃぐちゃだよ?それ…」
「いいよ、案内…ってか説明がほとんどになるけど平気?」
俺は彼に手招きすると、彼は天使のようなふわふわの笑顔を浮かべて着いてきた。
なんだこれ、本当に同じ人間なんだろうか。めちゃくちゃ可愛い。
「ありがとう!でも塔に着いたらちゃんとお礼させてね?」
「いいっていいって」
彼の後払いお礼なんかハナから期待していないし、晩飯がドーナツってだけでサイコーだ。塔に入れるかは別として、ルール説明くらいは出来るだろう。
ゴミ山を抜けて街へ出る。昔は一応街だっただけあって、一応は居住区もあるが1個上の階層に比べたら随分と寂れていて汚いだろう。青年は物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回している。
「よお、リーサルウェポン!今日はなんか収穫あったか?」
通りすがりに顔見知りの中年が俺に声を掛けてくる。この街で収穫があったなどと言ってはいけない。たかられるだけだ。
俺はドーナツの箱を男の視覚に隠し、青年が見えないように彼と男の間を割るように歩きながら適当に笑う。
「ないない。何もない。お互い頑張ろーぜ」
「なんだあ、シケてんなー」
今の手持ちは貴重なドーナツと史上最強に可愛い男の子を連れている。こんなシケてると真逆の状態は知られたくない。
隣の彼を背中で隠すように斜め歩きをしながら、足早に通り抜けようとする。
「こんにちは」
場違いにすら思えるふわふわとした声に俺は身体を硬直させる。
マジ?挨拶しちゃう?めちゃくちゃいい子だけど、ここじゃそれは良くない。嫌な汗が全身から吹き出した。
彼はあの天使のような笑みで男に目を向けている。男は驚いたように目を丸くして、俺の背中に隠れた彼を覗き込む。
何とかして隠しきろうと男の前をスライドするように付いていくが、背の低い俺では隠しきれない。
「ひゅー!めちゃくちゃ可愛い子つれてんじゃん!リーサルウェポンのおもちゃ?」
「おもちゃ?」
当然のように男の口から飛び出す下世話な話題に、彼は口元の笑みを絶やさないまま首をかしげる。
うわ、どうしたらいいんだこれ。でも少なくとも、俺のお手つきにすれば彼の無事は一時的に約束できる。
俺は首を斜めに振る。横にも縦にも見える微妙なサインに男は首を傾げたが、にやにやと笑って俺の肩を叩いた。
「まあそうだよな!お前くらい強いから手に入る戦利品だ。気が向いたら味見させてくれよな!」
中年の彼は苦笑いを浮かべて俺に手を振る。俺は曖昧に笑いながら深く安堵の息を吐く。彼の可愛さは本当に危険だ。
「その右手、早く油させよー」
「うっせハーゲ」
挨拶がわりの悪態をついて俺も彼に手を振った。
「軋むの?」
そう言って彼は俺の右手に手を触れて、関節部分を確かめるように動かす。ギシギシと錆びた自転車にも似た酷い音に、彼は困ったように眉をひそめた。
「本当だ、それに実戦用にしては少し作りが粗雑だし…武装も良いけどこれじゃあ普段過ごしにくいでしょ?良かったら医療用の義手を作ってくれるところ紹介するよ」
俺の右腕を優しく撫でながら青年が微笑んで尋ねる。
「まあ、お言葉に甘えたいのは山々なんだけどさ」
俺は肩を竦めてから、右腕の肘を彼に曲げて見せた。
曲げるのにどえらい力がいるようになって、確かに不便はしていたが、油なんてお高い物はなかなか手に入らない。
「新調できないからこうなってんだ。そうだなあ…どっから話そうかなあ」
彼の少し前を歩きながら俺は頬を掻く。彼が来た経緯はさておき、新入りなのは間違いない。報酬は約束されているわけだし、この街の文化を詳しく教える必要があるだろう。
「ここは、地下にあるさらに地下。最下層のごみ捨て場で、最古の街だ。ここは一部しかライフラインが生きていなくて、上の階層より原始的な暮らしをしている。だから、こんな武器を新調できるような施設はないんだ」
そもそも俺のこの右腕は昔の飼い主がよくいじって変形させたりしていたので、恐らくやろうと思えば形も変えられるし、何か良くなるかもしれないが、俺には過去の飼い主が何をしていたのか分からない。
彼は驚いたように目を丸くして首をかしげる。
「地下の地下…?そんなの聞いたこともないけどなあ…」
改めて周りをきょろきょろと見まわす彼は俺の話を信じていないというよりも、突飛もない話に困惑しているかのように見えた。
「地下の歴史にしても、大分古いらしいとか…?俺もあんま詳しくないんだ。悪いな」
きょとんとこちらを見つめる彼に俺は苦笑いする。
「何にせよ、地下より更に治安が悪くて窃盗も暴力も、性的な虐待も過激だ。お前みたいなその…可愛いくて身綺麗だと狙われやすいから、気を付けて欲しいかな…」
「可愛くて身綺麗…?」
彼は自分の汚れたジャケットを見る。
「可愛いかどうかは個人の主観に寄りそうだけど…でも、ありがとう。結構汚れてる気がするけどね」
へへっと少し照れたような笑みで白いジャケットについた土汚れをパンパンと叩いた。
「いや、うちの街じゃ十分綺麗な部類だよ。だから、あんまり目立たないようにしろよ」
なんだか呑気な彼の笑顔に釣られて笑ってしまう。こんなに気楽に話していいのだろうか、何か騙されているような気すらする。
塔の付近まで行くと、この街の中心部になる。ここら辺は塔の電力を上手く盗んでいるようで、薄暗い街の中で唯一ギラギラとしたネオン街だ。
こんな場所に来る人間はどいつも強かで汚い奴らばかりだ。金なんてあってないようなものだから、強い者が全て。故に女性はほぼ絶滅危惧種で、いようものなら奪い合って誰かが所有する性奴隷になる。だから、中心部なんて1番物騒な場所じゃほぼ男性しか存在しない。女日照りだから、可愛いらしい男も格好の的だ。彼みたいな中性的な容姿は人気があるだろう。もちろん、悪い意味でだ。
「お前は絶対危ないから、俺の傍離れんなよ」
青年に左手を差し出すと、迷いなく手を握って繋いできた。
「あれ?もしかしてこっちの手も…」
手袋の上から確かめるようににぎにぎと手を動かして、彼は大きな瞳でこちらを見つめる。
そういうことをされると、何故だか悪い気がしないし、ちょっと心が浮ついてしまう。
「そうだよ、どっちの腕もない。両方とも刃物にされなくて良かったよ」
もしかしたら、両腕とも武器にされていたかもしれない。勝手に武器を付けられた事は今でも根に持っているが、ここでは役立っているし、片手は普通に手だったことは感謝すべきなんだろう。
「されなくて?」
「そ。俺がやりたくて付けたんじゃないぜ。昔の飼い主が俺が昏睡してる間に勝手に付けた。拒絶反応が起きて高熱出しまくったけど、やっと馴染んだからラッキーっちゃラッキーかな」
俺は話しながら鼻で笑う。
「飼い主さん…?そっか、じゃあ君は野良犬なんだね。全然気づかなかった」
彼は自分の首元を指差してにっこり笑う。首輪の話をしているのだろう。
「うん、まあ…ちょっと違うけどそんな感じ。お前は人間だったの?」
「一応はそうだけど…でも、あんまり犬とか人間とかって気にしたことないかな。気軽に買い物できるのは有難いことだなって思うけどね」
逆に尋ねると、彼は困ったように頬を掻く。
犬の文化を知りながら地下で犬と口を聞く人間は少ない。差別を持たない、危機感がない、柔らかい物腰に上品な振る舞いとの4点セットだ。これは放っておいたらすぐ死にそう。話せば話すほど不安と同情をかき立てられる。
「優しいんだな…。でも、ここは人間だからって優遇されることもないし、基本的には金が使えないから物々交換が主流だ。覚えててくれ」
眉をよせて口元に笑みを作る。あまり人を信じないタチなのだが、どうにも嘘を吐いているようには思えなかった。汚い人間ばかりの世界を渡り歩いてきたから、ある意味では見る目は養われているはずと思いたい。
「そ、そうなんだ…でも腕時計無くしちゃったし、どっちにしろ塔に帰るまではお買い物できそうにないかなあ」
「塔かあ…多分、帰れないと思うよ」
彼の話の腰を折るようで申し訳ないが、いちばん肝心な部分なので改めて話す。
「ここは地下からいらないとラプラスが認定して運ばれてきた人間しかいない。だから、助けも来ないし、上に上がる方法もない。可哀想だけど、あまり帰る希望は持たない方がいいよ」
「えっ…けど…きっとラプラスは僕を連れ戻しにくる。僕本当は、塔の外に居ちゃいけないはずだし…」
少し不安そうに呟く彼は、俺の言葉にしょんぼりと肩を落としてしまった。
「いや、確かにお前の落ちてきた感じはちょっと変だったから、もしかしたら事故かもしれないけど…でも、ラプラスにも忘れられた街って言われてるんだ。救助が来るかは…ちょっとわからない」
あんまり悲しそうにされると胸が痛い。最初は虚言癖でもあるのかと思っていたが、割とこの様子はガチだ。だとしたら、本当に本当に彼は上の階層の箱入りなんだろう。
箱入りで優しく育てられて来たなら、いきなりこの街に来るのは気の毒だ。
「そんなあ…どうしよう…」
不安そうな彼の手を引いて通りを歩くと、傍の電柱に縛り上げられた男がうめき声を上げながら複数に犯されている。
なんなら縛り上げられた男は1人ではなく、公衆トイレのように何人も並んでいる。
「わ…う、噂には聞いていたけどやっぱり塔の外は無法地帯なんだね。ちょっと怖いや」
彼はつないだ俺の左手にもう片方の手も添えて、少し身を寄せて足を速める。俺もそれに合わせて速度を早めるが、急に青年が立ち止まって腕が引っ張られる。
振り返ると、青年が知らない男に肩を掴まれていた。身長190近くありそうな筋骨隆々の男に見下ろされ、オロオロと困ったような愛想笑いで男を見上げていた。
「珍しく女いんじゃんって思ったら男かよ…」
少しガッカリしたような声を出すが、男は青年の顎を掴んで顔をまじまじと覗き込む。
「でも可愛いな。俺が飼ってやろうか?公衆肉便器になるより、よっぽど幸せに死ねるぜ?」
そう言って彼は脇に並んだ犯されている男たちを指さす。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる男の表情は冗談に見えなかった。
「えっ…えと…すみません僕…犬じゃなくて…帰るところなのでその…」
肩を掴まれた手を、片手でやんわりと押し返しながら青年は男から離れたいようで後ずさる。男がそれを良しとするわけもなく、彼の肩をつかみ直して一層強く引き寄せる。
「犬?人間だから許されるとか思ってんのか?さては新入りだな、俺が優しくこの街のルールを教えてやってもいいぜ」
「ちょっと待てよ」
慌てて彼と男の間に入り込む。男の手を青年の肩から払い除け、背中に彼を隠すようにして後ろに下がり、俺は右手の刃を向ける。
「コイツは俺のだからあげない。早く帰ってくれ」
別に俺のものでも何でもないが、お手付きの方が話が早い。
こんな低身長だが、右腕が右腕なので俺は最下層ではそこそこ有名だったりする。大体の人間はこの腕を見れば逃げて戦わずに済むのだが、残念ながらこの男は俺を知らなかったようで、眉をしかめる。
「はあ?なんだこのチビ。腕が武器だからって調子乗んなよ」
俺の胸をどついて彼は拳を振り上げる。それを左手で受け止めると、相手の重たいパンチで後ろへと足が滑る。
俺の後ろで青年は手をあわあわと動かしていた。多分喧嘩を止めようとしているのだろうが、足がすくんでその場に棒立ち状態だ。
「目、閉じてて」
青年に声をかける。男の受け止めた拳を突き返し、俺は右腕にスイッチを入れた。
本当はもうポンコツだからあまり無理はさせたくないが、あんな大柄相手じゃ普通に挑むのはさすがに怖い。
全身の血が薄くなっていく感覚。起動する右腕に付属したモニターに光が点った。
「え、えっ…何…」
「いいから早く!」
少し空いた距離を詰めるように男が拳を振り上げて再び俺に突っ込んでくる。
稼働する右腕で男を迎え撃つ。軌道を読んで、拳ではなく肘と手の間を狙う。切っ先を滑らせるように男の腕にいれると、男の腕が分断され、血しぶきを飛ばしながら千切れたそれが地面にゴロゴロと転がった。耳を劈くような悲鳴を上げ、男はなくなった腕を抱えて地面をのたうち回る。
俺は右腕のスイッチを切り、再び青年の腕を引っぱるが彼は咄嗟に走り出すことができずに尻もちを着いた。
「はやく立って!」
彼の腕を引いて立つように催促するが、腰が抜けてしまったのかモタモタと膝を着いて立ち上がり際に自分の足につま先を引っ掛けて今度は前に倒れるように転んでしまった。
「うっ…痛…」
いきなり人間の腕が飛ぶとこなんか見たらこうなるのは分かっていたが、この騒ぎで人が集まると彼の容姿が割れて噂になるに決まってる。一刻も早く立ち去るべきだった。
「分かった、じゃあ掴まってくれ」
俺は彼の腕と膝の間に腕を入れて持ち上げると、縋るように首に腕を回してくる。
ふわっと抱き上げた彼から甘いお菓子みたいな匂いがした。こんな緊急事態なのに、思わず鼻で全力で吸ってしまう自分がいた。めっちゃいい匂いする、やべえ。
間近で見る彼のまつ毛がバサバサで、彼の通った鼻先が俺の頬をかすめる。彼は凄く具合が悪そうに青い顔で眉を八の字にしているのに、それすら可愛いと思ってしまう俺は罪深い。
彼を抱き上げたまま全力で彼が目指している塔へ向かう。彼にこの街を知ってもらうには、どの道見てもらう方が早いだろう。
誰にも彼の姿を目撃されずに、走り続けてなんとか塔のふもとへたどり着く。
「ついたぞ、ラプラスの塔だ」
そこは昔あった入口を鉄板で何重にも封鎖された、ただの巨大な筒状の物体だ。
ここのラプラスの塔は大昔に封鎖されている。流行病と共に、塔は入口を封鎖したのだ。
「具合悪い?大丈夫、立てるか?」
彼をそっと地面に優しく降ろす。
「うっ…ごめん…ちょっとダメ…」
今にも吐きそうな様子で彼はよろよろと傍の瓦礫に腰を下ろす。箱入りの彼にいきなり腕切断なんて刺激が強すぎたのだろう。
彼の隣にしゃがみ、俺は彼の背中をさする。具合が悪くなるのは俺も昔に経験したから分かる。
「あの…飲み物か…口を濯ぐもの…」
口元に手を当てながら遠慮がちに俺を見上げる彼の潤んだ目が最高に可愛くて、胸を銃で撃ち抜かれたみたいな痛みが走る。
「ああ…でも1人は凄く危ないと思うんだ。抱き上げていいなら、家まで連れて行くけど…それもキツい?」
「でも…君の胸元に…粗相はしたくないかな…」
具合が悪いだろうに冗談っぽく笑って彼は答える。それがもう逆に不憫だ。
「…分かった。絶対誰にも見つかったらダメだぞ。お前めちゃくちゃ可愛いから、絶対悪いことされるし、優しい言葉掛けられても絶対信じるなよ!」
立ち上がり、彼を見つめて力強く言う。本当にふわふわしているから、あっという間に殺されるか、性奴隷まっしぐらだ。こんな生き物、周囲が放っておくわけがない。
「わかった。ちゃんと隠れて待ってるよ」
彼はそう言って弱々しく笑うと、壁に手を付きながら立ち上がって瓦礫の陰へと身を潜めた。
俺はそれを確認して歩き出す。何度も振り返っては、彼がちゃんと隠れられているのを何度も確認した。
急いで家に向かって走る。誰かに無償で水をあげるために走るなんて日がまた来るとは思わなかった。
天底ノ箱庭 -新世界-
1.
空にある切れかけの無数の蛍光灯と、天井に開いた巨大な穴。その穴から差し込む僅かな光は、定期的に運ばれてくるゴミが投げ込まれる時に遮られて見えなくなる。
ここは地下の中でも最底辺。最初の最初に作られた街で、流行病をキッカケに遺棄されたらしい。
この世界は地下と地上で分断されている。いつからそんな文化になったのかは分からない。地上は法律で身の安全や人権を保証されているが、俺の住む地下にはそんなものは存在しない。法がなく、地下を支配するのはSと呼ばれる謎の人物で、マフィアの一種だと聞く。
地下はそんなSが作ったスーパーコンピューターのラプラスが管理しているが、俺のいるこの街は地下のさらに地下にある最下層で、ラプラスの管理も生き届かない。要らない人間、要らない物、なんでもかんでも無差別に投げ込まれるラプラスにさえ見捨てられたゴミ捨て場。地下の中でも最も汚い街だ。つまり、この街にあるのはどうしようもない物と人間だけ。俺も人間のゴミクズだ。
唯一使える左手で、俺はゴミの山を登る。右手はあるが、ないに等しい。俺の右手は銃剣だ。肩から全て無機物で作られている。本当は右利きなのに、おかげで左手も随分器用に使えるようになってしまった。
剣の先を山に刺し、もう片手で身体を支えて小さなゴミ山のテッペンまで登った。持ってきた傘をさして上を見上げる。今日も空気中に舞う汚い塵が、穴から差し込む光でキラキラと輝く。
ここにいれば、新しいゴミが来た時にいち早く見に行ける。俺の一日は、ここでぼんやりと空を眺めて食料を調達して過ごす。こんなクソみたいな街だから、食料はいくらあっても困らない。
いつもの時間、いつものように街が小さく震える。パラパラと頭上から小石や砂が落ち、傘を小さく叩いた。
今日は何が落ちてくるだろう。調達資源は主に賞味期限切れの缶詰だが、弁当やお菓子とかがあったらラッキーだ。食えるなら食材でもいい。一応、飯を作れる環境はある。
そんなことを考えていると、天井の大穴から差し込む光が消える。穴からバラバラとゴミが降る。ゴミが降ってくるにも順番があった。
最初に降ってくるのは小さなゴミだ。食べ物も大概ここに混ざっている。次が粗大ゴミ、有害ゴミ。有害ゴミが降る前に食べ物は回収しないと食えなくなるし、なんなら粗大ゴミに潰されて液状化するか粉末になるかの2択。つまり、すぐに拾わないとダメなのだ。
そんなことを考えていると、降ってくるゴミの中に一つだけ妙に大きな影が混ざって落ちた。大きさは大きなゴミ袋5つ分はある。粗大ゴミが混ざって入ってきたのだろうか。
大体のゴミが落ちてきたのを確認してから、俺は傘をさしたまま確認しに近付く。右手についた剣の切っ先で撫でるようにゴミをかき分けると、中から人間の手のようなものが出てきた。
「…なんだこれ」
その場にしゃがんで左手でゴミをさらにかき分ける。すると、中から出てきたのは人形みたいに整った顔をした青年が出て来た。
人形かと思って肌に手を触れさせるが、両手とも義手の俺では人の体温は分からない。仕方ないのでゴミに埋もれた彼の顔に耳を近づけると、彼の口からは微かに吐息が漏れる音が聞こえた。
人間だ。人形じゃない。
「おい、起きろ!死ぬぞ!」
彼の肩を左手で掴んで揺さぶる。そうだ、急がないとこの後に粗大ゴミが降ってくる。そしたらペシャンコだ。
大体からして、人間のゴミは有害ゴミの後でクレーン車で降ろされる檻に入っているはずだ。彼が人間だとしたら、明らかにタイミングがおかしかった。
「うーん…痛いよぉ…」
寝言のようなもにゃついた声でうなされているような青年は簡単には起きそうにない。
仕方がないので傘をその場に放棄して、彼の身体を両腕に引っ掛けて持ち上げる。そのままゴミの山から滑るように降りると、再び街が震える。
「うう…起きる…起きるよぉ…」
まるでまだ眠い朝に鳴った目覚まし時計に対するリアクションのように手を振りながら、彼はうっすらと目を開く。
振り返ると俺たちがいた場所に粗大ゴミが落ちていく。大きな音を立てて地面に叩きつけられるそれに俺の長年愛用してきた傘が潰される。粗大ゴミに埋もれて消えてしまった元相棒に、俺はため息で別れを告げた。
「あいたたた…腰ぶつけ…あれ…ここ…どこ?」
半分寝ぼけていた様子の彼は薄眼で辺りを見まわすと少しずつ目を丸くして、きょとんとした顔で俺を見る。
「ゴミ捨て場だよ」
吐き捨てるように言ってから、俺はゴミ山に向けていた視線を彼に向ける。
黒い髪に白いメッシュが入った髪の毛と、チャラチャラした髪型には似合わない少年のような可愛いらしい顔立ちだ。冷たすぎない優しい色合いの透き通った水色の瞳は、困ったように俺の目を真っ直ぐに見つめていた。
俺は彼をその場に降ろすと、彼はよろよろと覚束無い足でなんとかバランスを取ってその場に立ち上がる。
「…お前、どっから来たの?新入りなんだろうけど…なんでゴミに混ざって落ちてきたんだ?怪我は?」
片方の眉だけ吊り上げ、彼をジロジロと観察する。ファーのついた立派な白いジャケットに黒いスキニージーンズを履いているが、ゴミに紛れていたせいか既に少し汚くなっている。
「え、うーんと…今日はお休みだったからドーナツを庭園エリアで食べようと思って買ってから、食べる前に手を洗おうとしたんだ。でもねその時に脇に置いてたドーナツの箱に隣の人の肘が引っかかっちゃってダストシュートに入っちゃったから、慌てて廃棄コンテナまで取りに来たんだったような…?」
ドーナツ1つで廃棄コンテナまで必死に追いかけてくるような天然なんているか?思わず首を傾げたくなる内容だ。
難しい顔でここに来た経緯を思い出そうとしている彼の髪についた小さなゴミを掃ってやると、気の抜けた笑顔で「ありがとう」と言って俺をじっと見つめる。
水鏡のような透き通ったアイスブルーの瞳が弧を描く。白い肌が薄い桜色に染まり、潤いのある柔らかい唇の隙間から小さな白い前歯が覗いた。
それを見た瞬間に胸に感じたことのない痛みが走った。わけも分からず顔が熱くなる。彼の顔から目が離せずに、目を丸くして見つめる俺に彼は不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたの?あっ、もしかしてまだなんかゴミついてる?」
「あ、いや…何でも…ついてないよ」
謎の動悸に首を傾げながら、俺は目をそらす。何だろう今の…。
物珍しそうに俺の腕を見つめたり当たりをキョロキョロと見回して彼は首を傾げる。
「…それ最新の武装装備?武装研究チームっていつもやること面白いよね」
「ブソウケンキュウ?それはちょっと分かんねえけど…それより、ダストシュートから来たなら新入りじゃないよな。腕時計ある?」
彼の指す10階がどこの10階なのか知らないが、もしかしたら彼はこのゴミ捨て場に来るべき人間じゃないのかも、なんて思っただけだった。
「腕時計なら勿論ここに…」
そう言って彼が左腕を見せるが、そこに腕時計らしきものはない。
「あれ…あー!そっか僕、手を洗うときに外したのにドーナツの事で慌てて忘れてききちゃったんだ!」
彼は「思い出した!」と言いたげに手をたたいて朗らかに笑った。
「ああ、そうなんだ…」
腕時計はここに落ちてくる人間は必ずSの関係者に没収される。持っていれば本当に迷い込んだ人間説が濃厚になったのだが、そう都合よくいかないようだ。
彼はとびきり可愛いが、ゴミ捨て場にくる奴は、やっぱりみんなゴミクズかイカれた奴に決まってる。あんまり肩入れする前に離れよう。
「じゃあ、俺帰るわ。傘も死んだし。気をつけてな」
ヒラヒラと右手の剣を振って、俺は彼に背を向ける。
「え、行っちゃうの…!?ま、待っ…ああっ!」
不安そうな彼の声とガラガラとゴミが崩れた音に視線だけで振り返ると、彼はゴミ山に足を取られたのか尻もちをついてペタンと座りこんだまま泣きそうな顔で俯いていた。
あんなに可愛い顔でそう狼狽えられると、何故だか胸がギリギリ締めあげられるように痛くなって放っておけない。俺は下唇を噛み締めてから、深くため息を吐く。
こんな街で知らない人間になんの対価も求めずに施したら自滅すると良く分かっているのに、身体が言うことを聞いてくれず、つい傍に寄ってしまう。
「…道案内したら、何かお礼くれる?」
彼の前に戻り、しゃがんて顔を覗き込む。
「お礼…あっ、それならさっき買ったドーナツがあるよ!君、甘いものは好き?」
彼は嬉しそうな顔で大事そうに抱えていたひしゃげた紙箱を開ける。
寝てても離さなかったそれが、まさか食べ物だったとは。俺はその箱を覗き込む。中には形が崩れたドーナツが5つ。まだ甘い匂いを放つそれは、一体何年ぶりに見る物だろうか。
「あっ…ごめん…ぐちゃぐちゃだ…これじゃちょっとお礼にはできないね」
彼はひしゃげてしまった箱を丁寧に閉じると、ゴミに足を取られながら再びよろよろと立ち上がる。
「ごめんね、お礼って後払いでも大丈夫かな?…あとゴミ箱、どこかで見かけなかった?」
そう言って彼はドーナツの入った箱を小さく上下に振る。どうやら箱を捨てたいらしい。
大体からしてゴミ山の上でゴミ箱を探すなんてどういうことだ。その流れだけで、彼は俺とはまるで違う文化の人で、少なからずこの街にはいないような上品さを持ってることだけは良く伝わった。
「何言ってんだ、ドーナツなんかご馳走だよ!それで十分すぎる、引き受けるよ」
俺は彼から箱を受け取って笑う。話しながらもう口の中が唾液で溢れてくる。甘いものが食べられるなんて、この青年がどうあれラッキーだ。相棒の死も無駄ではなかった。
「えっ?でも、本当にぐちゃぐちゃだよ?それ…」
「いいよ、案内…ってか説明がほとんどになるけど平気?」
俺は彼に手招きすると、彼は天使のようなふわふわの笑顔を浮かべて着いてきた。
なんだこれ、本当に同じ人間なんだろうか。めちゃくちゃ可愛い。
「ありがとう!でも塔に着いたらちゃんとお礼させてね?」
「いいっていいって」
彼の後払いお礼なんかハナから期待していないし、晩飯がドーナツってだけでサイコーだ。塔に入れるかは別として、ルール説明くらいは出来るだろう。
ゴミ山を抜けて街へ出る。昔は一応街だっただけあって、一応は居住区もあるが1個上の階層に比べたら随分と寂れていて汚いだろう。青年は物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回している。
「よお、リーサルウェポン!今日はなんか収穫あったか?」
通りすがりに顔見知りの中年が俺に声を掛けてくる。この街で収穫があったなどと言ってはいけない。たかられるだけだ。
俺はドーナツの箱を男の視覚に隠し、青年が見えないように彼と男の間を割るように歩きながら適当に笑う。
「ないない。何もない。お互い頑張ろーぜ」
「なんだあ、シケてんなー」
今の手持ちは貴重なドーナツと史上最強に可愛い男の子を連れている。こんなシケてると真逆の状態は知られたくない。
隣の彼を背中で隠すように斜め歩きをしながら、足早に通り抜けようとする。
「こんにちは」
場違いにすら思えるふわふわとした声に俺は身体を硬直させる。
マジ?挨拶しちゃう?めちゃくちゃいい子だけど、ここじゃそれは良くない。嫌な汗が全身から吹き出した。
彼はあの天使のような笑みで男に目を向けている。男は驚いたように目を丸くして、俺の背中に隠れた彼を覗き込む。
何とかして隠しきろうと男の前をスライドするように付いていくが、背の低い俺では隠しきれない。
「ひゅー!めちゃくちゃ可愛い子つれてんじゃん!リーサルウェポンのおもちゃ?」
「おもちゃ?」
当然のように男の口から飛び出す下世話な話題に、彼は口元の笑みを絶やさないまま首をかしげる。
うわ、どうしたらいいんだこれ。でも少なくとも、俺のお手つきにすれば彼の無事は一時的に約束できる。
俺は首を斜めに振る。横にも縦にも見える微妙なサインに男は首を傾げたが、にやにやと笑って俺の肩を叩いた。
「まあそうだよな!お前くらい強いから手に入る戦利品だ。気が向いたら味見させてくれよな!」
中年の彼は苦笑いを浮かべて俺に手を振る。俺は曖昧に笑いながら深く安堵の息を吐く。彼の可愛さは本当に危険だ。
「その右手、早く油させよー」
「うっせハーゲ」
挨拶がわりの悪態をついて俺も彼に手を振った。
「軋むの?」
そう言って彼は俺の右手に手を触れて、関節部分を確かめるように動かす。ギシギシと錆びた自転車にも似た酷い音に、彼は困ったように眉をひそめた。
「本当だ、それに実戦用にしては少し作りが粗雑だし…武装も良いけどこれじゃあ普段過ごしにくいでしょ?良かったら医療用の義手を作ってくれるところ紹介するよ」
俺の右腕を優しく撫でながら青年が微笑んで尋ねる。
「まあ、お言葉に甘えたいのは山々なんだけどさ」
俺は肩を竦めてから、右腕の肘を彼に曲げて見せた。
曲げるのにどえらい力がいるようになって、確かに不便はしていたが、油なんてお高い物はなかなか手に入らない。
「新調できないからこうなってんだ。そうだなあ…どっから話そうかなあ」
彼の少し前を歩きながら俺は頬を掻く。彼が来た経緯はさておき、新入りなのは間違いない。報酬は約束されているわけだし、この街の文化を詳しく教える必要があるだろう。
「ここは、地下にあるさらに地下。最下層のごみ捨て場で、最古の街だ。ここは一部しかライフラインが生きていなくて、上の階層より原始的な暮らしをしている。だから、こんな武器を新調できるような施設はないんだ」
そもそも俺のこの右腕は昔の飼い主がよくいじって変形させたりしていたので、恐らくやろうと思えば形も変えられるし、何か良くなるかもしれないが、俺には過去の飼い主が何をしていたのか分からない。
彼は驚いたように目を丸くして首をかしげる。
「地下の地下…?そんなの聞いたこともないけどなあ…」
改めて周りをきょろきょろと見まわす彼は俺の話を信じていないというよりも、突飛もない話に困惑しているかのように見えた。
「地下の歴史にしても、大分古いらしいとか…?俺もあんま詳しくないんだ。悪いな」
きょとんとこちらを見つめる彼に俺は苦笑いする。
「何にせよ、地下より更に治安が悪くて窃盗も暴力も、性的な虐待も過激だ。お前みたいなその…可愛いくて身綺麗だと狙われやすいから、気を付けて欲しいかな…」
「可愛くて身綺麗…?」
彼は自分の汚れたジャケットを見る。
「可愛いかどうかは個人の主観に寄りそうだけど…でも、ありがとう。結構汚れてる気がするけどね」
へへっと少し照れたような笑みで白いジャケットについた土汚れをパンパンと叩いた。
「いや、うちの街じゃ十分綺麗な部類だよ。だから、あんまり目立たないようにしろよ」
なんだか呑気な彼の笑顔に釣られて笑ってしまう。こんなに気楽に話していいのだろうか、何か騙されているような気すらする。
塔の付近まで行くと、この街の中心部になる。ここら辺は塔の電力を上手く盗んでいるようで、薄暗い街の中で唯一ギラギラとしたネオン街だ。
こんな場所に来る人間はどいつも強かで汚い奴らばかりだ。金なんてあってないようなものだから、強い者が全て。故に女性はほぼ絶滅危惧種で、いようものなら奪い合って誰かが所有する性奴隷になる。だから、中心部なんて1番物騒な場所じゃほぼ男性しか存在しない。女日照りだから、可愛いらしい男も格好の的だ。彼みたいな中性的な容姿は人気があるだろう。もちろん、悪い意味でだ。
「お前は絶対危ないから、俺の傍離れんなよ」
青年に左手を差し出すと、迷いなく手を握って繋いできた。
「あれ?もしかしてこっちの手も…」
手袋の上から確かめるようににぎにぎと手を動かして、彼は大きな瞳でこちらを見つめる。
そういうことをされると、何故だか悪い気がしないし、ちょっと心が浮ついてしまう。
「そうだよ、どっちの腕もない。両方とも刃物にされなくて良かったよ」
もしかしたら、両腕とも武器にされていたかもしれない。勝手に武器を付けられた事は今でも根に持っているが、ここでは役立っているし、片手は普通に手だったことは感謝すべきなんだろう。
「されなくて?」
「そ。俺がやりたくて付けたんじゃないぜ。昔の飼い主が俺が昏睡してる間に勝手に付けた。拒絶反応が起きて高熱出しまくったけど、やっと馴染んだからラッキーっちゃラッキーかな」
俺は話しながら鼻で笑う。
「飼い主さん…?そっか、じゃあ君は野良犬なんだね。全然気づかなかった」
彼は自分の首元を指差してにっこり笑う。首輪の話をしているのだろう。
「うん、まあ…ちょっと違うけどそんな感じ。お前は人間だったの?」
「一応はそうだけど…でも、あんまり犬とか人間とかって気にしたことないかな。気軽に買い物できるのは有難いことだなって思うけどね」
逆に尋ねると、彼は困ったように頬を掻く。
犬の文化を知りながら地下で犬と口を聞く人間は少ない。差別を持たない、危機感がない、柔らかい物腰に上品な振る舞いとの4点セットだ。これは放っておいたらすぐ死にそう。話せば話すほど不安と同情をかき立てられる。
「優しいんだな…。でも、ここは人間だからって優遇されることもないし、基本的には金が使えないから物々交換が主流だ。覚えててくれ」
眉をよせて口元に笑みを作る。あまり人を信じないタチなのだが、どうにも嘘を吐いているようには思えなかった。汚い人間ばかりの世界を渡り歩いてきたから、ある意味では見る目は養われているはずと思いたい。
「そ、そうなんだ…でも腕時計無くしちゃったし、どっちにしろ塔に帰るまではお買い物できそうにないかなあ」
「塔かあ…多分、帰れないと思うよ」
彼の話の腰を折るようで申し訳ないが、いちばん肝心な部分なので改めて話す。
「ここは地下からいらないとラプラスが認定して運ばれてきた人間しかいない。だから、助けも来ないし、上に上がる方法もない。可哀想だけど、あまり帰る希望は持たない方がいいよ」
「えっ…けど…きっとラプラスは僕を連れ戻しにくる。僕本当は、塔の外に居ちゃいけないはずだし…」
少し不安そうに呟く彼は、俺の言葉にしょんぼりと肩を落としてしまった。
「いや、確かにお前の落ちてきた感じはちょっと変だったから、もしかしたら事故かもしれないけど…でも、ラプラスにも忘れられた街って言われてるんだ。救助が来るかは…ちょっとわからない」
あんまり悲しそうにされると胸が痛い。最初は虚言癖でもあるのかと思っていたが、割とこの様子はガチだ。だとしたら、本当に本当に彼は上の階層の箱入りなんだろう。
箱入りで優しく育てられて来たなら、いきなりこの街に来るのは気の毒だ。
「そんなあ…どうしよう…」
不安そうな彼の手を引いて通りを歩くと、傍の電柱に縛り上げられた男がうめき声を上げながら複数に犯されている。
なんなら縛り上げられた男は1人ではなく、公衆トイレのように何人も並んでいる。
「わ…う、噂には聞いていたけどやっぱり塔の外は無法地帯なんだね。ちょっと怖いや」
彼はつないだ俺の左手にもう片方の手も添えて、少し身を寄せて足を速める。俺もそれに合わせて速度を早めるが、急に青年が立ち止まって腕が引っ張られる。
振り返ると、青年が知らない男に肩を掴まれていた。身長190近くありそうな筋骨隆々の男に見下ろされ、オロオロと困ったような愛想笑いで男を見上げていた。
「珍しく女いんじゃんって思ったら男かよ…」
少しガッカリしたような声を出すが、男は青年の顎を掴んで顔をまじまじと覗き込む。
「でも可愛いな。俺が飼ってやろうか?公衆肉便器になるより、よっぽど幸せに死ねるぜ?」
そう言って彼は脇に並んだ犯されている男たちを指さす。ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべる男の表情は冗談に見えなかった。
「えっ…えと…すみません僕…犬じゃなくて…帰るところなのでその…」
肩を掴まれた手を、片手でやんわりと押し返しながら青年は男から離れたいようで後ずさる。男がそれを良しとするわけもなく、彼の肩をつかみ直して一層強く引き寄せる。
「犬?人間だから許されるとか思ってんのか?さては新入りだな、俺が優しくこの街のルールを教えてやってもいいぜ」
「ちょっと待てよ」
慌てて彼と男の間に入り込む。男の手を青年の肩から払い除け、背中に彼を隠すようにして後ろに下がり、俺は右手の刃を向ける。
「コイツは俺のだからあげない。早く帰ってくれ」
別に俺のものでも何でもないが、お手付きの方が話が早い。
こんな低身長だが、右腕が右腕なので俺は最下層ではそこそこ有名だったりする。大体の人間はこの腕を見れば逃げて戦わずに済むのだが、残念ながらこの男は俺を知らなかったようで、眉をしかめる。
「はあ?なんだこのチビ。腕が武器だからって調子乗んなよ」
俺の胸をどついて彼は拳を振り上げる。それを左手で受け止めると、相手の重たいパンチで後ろへと足が滑る。
俺の後ろで青年は手をあわあわと動かしていた。多分喧嘩を止めようとしているのだろうが、足がすくんでその場に棒立ち状態だ。
「目、閉じてて」
青年に声をかける。男の受け止めた拳を突き返し、俺は右腕にスイッチを入れた。
本当はもうポンコツだからあまり無理はさせたくないが、あんな大柄相手じゃ普通に挑むのはさすがに怖い。
全身の血が薄くなっていく感覚。起動する右腕に付属したモニターに光が点った。
「え、えっ…何…」
「いいから早く!」
少し空いた距離を詰めるように男が拳を振り上げて再び俺に突っ込んでくる。
稼働する右腕で男を迎え撃つ。軌道を読んで、拳ではなく肘と手の間を狙う。切っ先を滑らせるように男の腕にいれると、男の腕が分断され、血しぶきを飛ばしながら千切れたそれが地面にゴロゴロと転がった。耳を劈くような悲鳴を上げ、男はなくなった腕を抱えて地面をのたうち回る。
俺は右腕のスイッチを切り、再び青年の腕を引っぱるが彼は咄嗟に走り出すことができずに尻もちを着いた。
「はやく立って!」
彼の腕を引いて立つように催促するが、腰が抜けてしまったのかモタモタと膝を着いて立ち上がり際に自分の足につま先を引っ掛けて今度は前に倒れるように転んでしまった。
「うっ…痛…」
いきなり人間の腕が飛ぶとこなんか見たらこうなるのは分かっていたが、この騒ぎで人が集まると彼の容姿が割れて噂になるに決まってる。一刻も早く立ち去るべきだった。
「分かった、じゃあ掴まってくれ」
俺は彼の腕と膝の間に腕を入れて持ち上げると、縋るように首に腕を回してくる。
ふわっと抱き上げた彼から甘いお菓子みたいな匂いがした。こんな緊急事態なのに、思わず鼻で全力で吸ってしまう自分がいた。めっちゃいい匂いする、やべえ。
間近で見る彼のまつ毛がバサバサで、彼の通った鼻先が俺の頬をかすめる。彼は凄く具合が悪そうに青い顔で眉を八の字にしているのに、それすら可愛いと思ってしまう俺は罪深い。
彼を抱き上げたまま全力で彼が目指している塔へ向かう。彼にこの街を知ってもらうには、どの道見てもらう方が早いだろう。
誰にも彼の姿を目撃されずに、走り続けてなんとか塔のふもとへたどり着く。
「ついたぞ、ラプラスの塔だ」
そこは昔あった入口を鉄板で何重にも封鎖された、ただの巨大な筒状の物体だ。
ここのラプラスの塔は大昔に封鎖されている。流行病と共に、塔は入口を封鎖したのだ。
「具合悪い?大丈夫、立てるか?」
彼をそっと地面に優しく降ろす。
「うっ…ごめん…ちょっとダメ…」
今にも吐きそうな様子で彼はよろよろと傍の瓦礫に腰を下ろす。箱入りの彼にいきなり腕切断なんて刺激が強すぎたのだろう。
彼の隣にしゃがみ、俺は彼の背中をさする。具合が悪くなるのは俺も昔に経験したから分かる。
「あの…飲み物か…口を濯ぐもの…」
口元に手を当てながら遠慮がちに俺を見上げる彼の潤んだ目が最高に可愛くて、胸を銃で撃ち抜かれたみたいな痛みが走る。
「ああ…でも1人は凄く危ないと思うんだ。抱き上げていいなら、家まで連れて行くけど…それもキツい?」
「でも…君の胸元に…粗相はしたくないかな…」
具合が悪いだろうに冗談っぽく笑って彼は答える。それがもう逆に不憫だ。
「…分かった。絶対誰にも見つかったらダメだぞ。お前めちゃくちゃ可愛いから、絶対悪いことされるし、優しい言葉掛けられても絶対信じるなよ!」
立ち上がり、彼を見つめて力強く言う。本当にふわふわしているから、あっという間に殺されるか、性奴隷まっしぐらだ。こんな生き物、周囲が放っておくわけがない。
「わかった。ちゃんと隠れて待ってるよ」
彼はそう言って弱々しく笑うと、壁に手を付きながら立ち上がって瓦礫の陰へと身を潜めた。
俺はそれを確認して歩き出す。何度も振り返っては、彼がちゃんと隠れられているのを何度も確認した。
急いで家に向かって走る。誰かに無償で水をあげるために走るなんて日がまた来るとは思わなかった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説

Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる